爛漫ろまんす!

平野ポタージュ

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痩身・後宮篇

血吸い

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シャランッ……
錫杖は、喉元にほんの少し掠めた。

「おおおお落ち着いて!!田舎のお母さんが悲しむよ!?。誰かーー!!カツ丼持ってきてぇーー!!」

しかし、顔色一つ変えずの隻眼の僧侶。
瞳には気だるさと希望が入り交じっているが、最早気味が悪いとさえ思ってしまう。
僧侶の後ろで、少し苛立ちを見せながら僵尸きようしは急かし始めた。

「さあ、黒龍ヘイロン……───殺せ」

(駄目だ……このままじゃ、殺される───)

「ッ……!いっ…てぇ…………ッ」

「!…ヤマモモさ…じゃなかった………赤龍ホンロンさん大丈夫?!」

「?……赤龍ホンロン───」

「耳許でギャーギャー騒ぐな……───って……なんだ?この気色悪い連中は」

「かくかくしかじかで……なんか襲われそうなんです!!涙」

「面倒くせぇな……───血が足りねぇって時に……」

「貧血なんですか…!?」

「説明するのも面倒くせぇ……」

全てが鬱陶しいと言わんばかりの赤龍ホンロンは溜息を漏らす。
すると隻眼の僧侶が、神美かみ赤龍ホンロンの間に割って入り、赤龍ホンロンの肩に腕を回したのだ。

「やーやー!!赤龍ホンロンじゃないかぁ~!!久しぶりだねぇ~、元気っ?」

「な……なんだお前はッ!……───…誰だ?」

「んもぅ~酷いなぁ~!。かつては一緒に世界を護っていた仲じゃないかぁ~!。あ!ついでに、君のかしらを老いぼれ爺さんに変えたのはオレだよっ」

(世界を護っていた……?)

「そうか……───どっかで見たつらだと思ったら……、……」

「思い出してくれたっ?───相変わらず、ツンツンボーイだねっ」

回された腕を振り払い、僧侶に対して今にも"喰い殺してしまいそう"な眼差しを向けて、赤龍ホンロンは舌打ちをする。
そんな赤龍ホンロンにでも、僧侶は飄々とした様子だった。

「…テメェを仲間だと思った事は一度もねぇ……。つまらねぇ事を抜かしてんじゃねぇよ」

「ひぃ~どぉ~いぃ~泣 黒龍ヘイロン泣いちゃうぞ!」

(な、なんなんだろこの人……。悪い人じゃ…ない?)

「……黒龍ヘイロン…貴様、我の命に逆らう気か?」

完全に存在を忘れかけていたが、痺れを切らした僵尸きようしが僧侶に殺意を向ける。僧侶は錫杖を軽く鳴らし、口角を上げた。

シャラン……

「とんでもないですよ~、……つもりはないんでね」

「貴様!!謀ったな!!?」

「心外だなぁ~。でも、美豚ビトンちゃんを捜してるのは本当だったぜ?。見つけてくれて、サンキュ~笑」

「ッ……美豚ビトン諸共纏めて始末しろッ!!!!!」

「平和じゃないねぇ~。……ま、その方が面白いけどっ」

僧侶は、錫杖を地面に突き付け軽い読経を上げた。───すると、身体が墨色へと変色していき───…そして、黒い龍へと姿を変えた。

「黒……龍!?」

「チッ……───そういう事かよ……」

その姿を目の当たりにした神美かみは唖然とし、赤龍ホンロンは再び赤龍になろうと試みるが、先程の大量出血で目眩が生じ、立つのもやっとの状態だった。

「ッ……クソ!……血が……」

「……血って、傷口から出たやつでも大丈夫なの!?」

「あ…?」
不快そうに赤龍ホンロンは"だったらなんだ"とぶっきらぼうに吐き捨て、神美かみを睨み付ける。
しかし、神美かみはそれに臆せず
噛みごたえのありそうな、自身の白くて艶のある腕を赤龍ホンロンに差し出した。

「何の、真似だ…」

「あたしの血をあげる!……だから、あの黒龍を助けてください!…っ」

「……なんで俺が……──それに、なんでアンタが、彼奴をそこまで気にかけるんだ?」

「……だって、あのお坊さんは片目に傷を負ってるし……──それに、お坊さんも…貴方も五龍ウーロンなんでしょ!?」

「……」

ドオオォォンッ!!!!!

「!!…ッ」

大量の僵尸きようし達を木に打ち付ける黒龍──────
然し、倒しても倒してもその屍から新たな僵尸きようしが生まれ、際限のない状態だった。

「あちゃ~、こりゃあ面倒臭い奴らだね──倒しても倒してもキリがない」

「当たり前だ……。本体が存在している限り、我等は永遠に生き続けるのだ」

僵尸きようしの一体が黒龍に1枚の御札を投げ付ける。
その御札から禍々しい気と鎖が放たれ、一瞬で黒龍を縛り付け、身体の自由を奪った。

「ありゃ……しくった」

「お坊さん!!」

地面に落下した黒龍───
砂煙が舞い、神美かみが急いで黒龍に駆け寄ろうとした瞬間だった

ガシッ─────と、肩を掴まれ、そのままグイッと引き寄せられた

「……首筋貸せ───」

カ…ップッ!────

「痛ッ!!────」

首筋に激痛が走る。

「……アンタの血───戴いたぜ」

唇が血に濡れた赤龍ホンロンは、先程とは打って変わって生き生きとした表情で、身体から赤い光を放った。

「赤…龍」

赤い光は上空に昇り、赤龍が現れたのだ。
赤龍はそのまま僵尸きようし達に向かって口から火を噴射した。

「なんだこの炎は……、クソ!!身体が言う事を効かない!」

僵尸きようし達は炎に包まれ、メラメラと燃えていく。黒龍が攻撃した時は、無限ループの如く生き返っていたというのに……。
ただ単に赤龍ホンロンが強いだけでは無い気がした。

《グア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!!》

そのまま僵尸きようしは灰となり、風と共に上空に消え去ってしまった。
それと同時に、黒龍を縛っていた鎖が解かれる。

「ホ…赤龍ホンロンがオレを助けた!?───と、言うよりかは……、キミのおかげだよねっ」

黒龍から僧侶の姿に戻る否や、懐から手拭いを取り出した僧侶は神美かみの首筋にそっとあてた。

「でも、キミが…出血多量で死んでしまうよ?」

「あ……ありがとう…ございます」

なんだか……良い意味でも悪い意味でも掴めない人な気がする。
この人は美豚ビトンの事を知っていた……───いや、五龍ウーロンだから当たり前かもしれないけど……
でも、さっきは本当に……

(あたしを…殺す気だった?)

「余所見してんじゃねぇよ───」

今さっき、僵尸きようしから助ける為に放たれた炎は────今度は僧侶に目掛けて噴射された
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