爛漫ろまんす!

平野ポタージュ

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時の一族と実

用無しの龍

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赤蛇チージャ、種族は違っても…我々は家族だ。》

赤蛇チージャ──貴方は、赤龍ホンロンという、この世界を護る龍の一匹なのよ》

《お前は、蛇の一族に幸運をもたらす存在だ…》

赤蛇チージャ

《嗚呼……赤蛇チージャ、貴方を愛してるわ》

俺を育てたのは、ジャの一族という──蛇と人間の血を引く者達だった。蛇人じゃにんとも呼ばれている。
父親と母親代わりの蛇人じゃにんは、何も知らずに生まれた俺を愛してくれていた。
全てが輝いていて────温かく、優しい世界。
人間から忌み嫌われる事もあったが、そんなのはどうでも良いと思った。

赤蛇チージャ!》

《約束だよ、赤蛇チージャ───ウチが、15歳になったら結婚してな?》

くだらない事を言う雌の蛇人も居たっけか

でも……───

《見てしまったの?……じゃあ───貴方はこれでお終いね───》

《死ね────お前はもう、用無しだ》

血塗れの短剣を突き付けられた。

《一族の仇……ッ!!!死ねッ!!!!五龍ウーロンッ!!!!》


ザシュッ!!!……───────



悪い夢なら覚めてくれと、願って目を瞑った。
あの雌から、血が出てんだよ……────
冷たくなった身体は多分……もう─────

じゃの一族が……───まだこんな事を続ける気か』

龍仙女ロンシィェンニュ……ッ!!!貴様あぁぁぁぁぁぁッ!!!!!お前を……お前を殺してやるッ!!!!!』

短剣を振り回す母親は龍仙女ロンシィェンニュよって一瞬で消されてしまった。
父親も続くように……─────

『…大丈夫か、赤龍ホンロン。…済まねぇな、おめェを助けるのにちと時間がかかりすぎてしまった……』

龍仙女ロンシィェンニュの腕からは血が垂れていた。

俺を庇ったから─────

『なん……で─────殺したんだよ』

自分を庇った事に対して、感謝の気持ちや罪悪感など持てない。全てが憎い───────
今目の前に居るこの龍仙女ロンシィェンニュ

『……こやつらは───己の感情のまま、罪のない動物…人間を無造作に殺した。何百年前もそうだ───今回はおめェを虜囚りょしゅうして、ワシとおめェを殺める気だったのじゃろ。自分達が生きやすい世界にする為にな……────ワシは世界を護る為なら、手段を選ばねぇ…』

『だからって……ッ!結局お前も同じ事をやってんじゃねぇかッ!!!』

『……赤龍ホンロン───感情に流されるな。お前はこの世界を護る五龍ウーロン。そんなくだらねぇ事で一々騒いでたらきりがねぇ』

そんなのは勝手に決められた事だ。
俺は知らねぇ─────俺は、それが正しいとは思わねぇ

『死ねッ!!!!龍仙女ロンシィェンニュッ!!』

その時の俺には、龍仙女ロンシィェンニュを喰い殺す事しか頭になかった。

復讐の為に利用されていたとしても
あの時の愛が本物だったと……

信じたかったんだ─────

信じねぇと……、俺は一体なんなんだ?

世界を護る赤龍ホンロンなんて作られただけだ。

本当の俺は……そんなに強くない。

『俺は……ッ!!!世界を護りたくなんかねぇよッ!!!……こんな気持ちになるくらいなら、皆死んじまえッ!!!!』




「──────ッ!!……」

夢────?

「あ、起きた」

「俺………」

"嫌な夢を見た……。"と、寝ぼけまなこに映るのは、静かに弾ける焚火だ。
辺りを見渡すと、呑気に眠りこける龍共が目に入り、不快な気分になった赤龍ホンロン
小枝を焚火の中に放り投げ、何故か安堵の笑みを浮かべる神美かみに対して、更に不快と……ほんの少しの罪悪感が芽生えていた。

「……アンタ、ずっと起きてたのか?……」

「さっき起きたばかりだよ。…あ、赤龍ホンロンの分ね、ちゃんと取っておいたよ」

「はい、桃!」と、両手で手渡された。

「……アンタ、馬鹿か?。」

「馬鹿って言った方が馬鹿ですぅ~!!」

「へーへー、そうですかー」

桃を齧ろうとすると、背後から「ミャウ……」と鳴き声が聞こえた。あの白い九尾が丸まって眠っていたのだ。

(コイツが……此処まで運んでくれたのか?)

無意識に頭を撫でると、九尾は幸せそうな表情を浮かべる。

「その子ね、ずっと赤龍ホンロンの傍を離れようとしなかったんだよ。動物は優しい人に寄り付くって、おばあちゃんが良く言ってたな~」

腹が立つ─────
その笑顔が、その生命が、その希望に満ちた眼差しが、全てが龍仙女ロンシィェンニュに護られて……
人間なんぞ面倒臭い生き物として生まれ変わったのは……此奴を生かす為─────
ふざけるな……
何も躊躇いもなく、俺の家族は殺せても────
こんな子供ガキ一人は何で殺せなかったんだ?
世界を脅かす美豚ビトンだろ?────

「なあ──俺が、楽にしてやろうか?」

「え?……」

「もう此処で終わらせようぜ────」

神美かみの頬に触れる赤龍ホンロンは、気付かれぬように鎖鎌で仕留めようとしていた。

「……ありがとう───赤龍ホンロン

「!……」

「あたし、まだ死にたくない────」

「…散々死にてぇって喚いてたのにか?───」

「勝手だけど、今は…希望を見つけたから───生きなきゃって……思う。人間って最低で…勝手でしょ?……赤龍ホンロンに嫌われても仕方がないって思ってる。でも…あたしは、呪いを解きたいの。」

「…………」

分かっていた────
この娘だって、生まれる前から決められた運命のろいを纏って、散々振り回され……
いつだって死と隣り合わせで生きてきた、平凡で哀れな人間。

「あたし、普通の人間になって、痩せて…可愛くなりたいんだぁ~っ」

「くだらねぇ」

「自分で言うのもアレですけど、あたし──痩せたら超絶可愛いからっ!!」

「そういう事は、てめぇでは言わねぇよ」

「惚れても知らないぞ~っ?」

「本当に仕留めるぞ…ガキ」

赤龍ホンロンは……優しいからできないよ。だって、あたしを連れ攫った時──あたしの重さに耐えきれなくて転んじゃった時さ…、怪我させないように庇ってくれたよね?」

「勘違いするな───………よろけたんだ」

「あはは、重かったって言って良いよ。…そんな優しい所が、素敵だよ。赤龍ホンロンにしかない、優しさ……───。だからこの狐ちゃんも、赤龍ホンロンに凄く懐いてるんだと思う。」

いつか裏切るかもしれない────
いつか殺そうとするかもしれない───

でも……

(やっぱり……此奴は馬鹿だ。でも、一番馬鹿なのは……俺か─────)

信用したいと思う自分に、腹が立って仕方がない。
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