52 / 62
時の一族と実
用無しの龍
しおりを挟む
《赤蛇、種族は違っても…我々は家族だ。》
《赤蛇──貴方は、赤龍という、この世界を護る龍の一匹なのよ》
《お前は、蛇の一族に幸運をもたらす存在だ…》
《赤蛇》
《嗚呼……赤蛇、貴方を愛してるわ》
俺を育てたのは、蛇の一族という──蛇と人間の血を引く者達だった。蛇人とも呼ばれている。
父親と母親代わりの蛇人は、何も知らずに生まれた俺を愛してくれていた。
全てが輝いていて────温かく、優しい世界。
人間から忌み嫌われる事もあったが、そんなのはどうでも良いと思った。
《赤蛇!》
《約束だよ、赤蛇───ウチが、15歳になったら結婚してな?》
くだらない事を言う雌の蛇人も居たっけか
でも……───
《見てしまったの?……じゃあ───貴方はこれでお終いね───》
《死ね────お前はもう、用無しだ》
血塗れの短剣を突き付けられた。
《一族の仇……ッ!!!死ねッ!!!!五龍ッ!!!!》
ザシュッ!!!……───────
。
悪い夢なら覚めてくれと、願って目を瞑った。
あの雌から、血が出てんだよ……────
冷たくなった身体は多分……もう─────
『蛇の一族が……───まだこんな事を続ける気か』
『龍仙女……ッ!!!貴様あぁぁぁぁぁぁッ!!!!!お前を……お前を殺してやるッ!!!!!』
短剣を振り回す母親は龍仙女よって一瞬で消されてしまった。
父親も続くように……─────
『…大丈夫か、赤龍。…済まねぇな、おめェを助けるのにちと時間がかかりすぎてしまった……』
龍仙女の腕からは血が垂れていた。
俺を庇ったから─────
『なん……で─────殺したんだよ』
自分を庇った事に対して、感謝の気持ちや罪悪感など持てない。全てが憎い───────
今目の前に居るこの龍仙女が
『……こやつらは───己の感情のまま、罪のない動物…人間を無造作に殺した。何百年前もそうだ───今回はおめェを虜囚して、ワシとおめェを殺める気だったのじゃろ。自分達が生きやすい世界にする為にな……────ワシは世界を護る為なら、手段を選ばねぇ…』
『だからって……ッ!結局お前も同じ事をやってんじゃねぇかッ!!!』
『……赤龍───感情に流されるな。お前はこの世界を護る五龍。そんなくだらねぇ事で一々騒いでたらきりがねぇ』
そんなのは勝手に決められた事だ。
俺は知らねぇ─────俺は、それが正しいとは思わねぇ
『死ねッ!!!!龍仙女ッ!!』
その時の俺には、龍仙女を喰い殺す事しか頭になかった。
復讐の為に利用されていたとしても
あの時の愛が本物だったと……
信じたかったんだ─────
信じねぇと……、俺は一体なんなんだ?
世界を護る赤龍なんて作られただけだ。
本当の俺は……そんなに強くない。
『俺は……ッ!!!世界を護りたくなんかねぇよッ!!!……こんな気持ちになるくらいなら、皆死んじまえッ!!!!』
。
。
「──────ッ!!……」
夢────?
「あ、起きた」
「俺………」
"嫌な夢を見た……。"と、寝ぼけ眼に映るのは、静かに弾ける焚火だ。
辺りを見渡すと、呑気に眠りこける龍共が目に入り、不快な気分になった赤龍。
小枝を焚火の中に放り投げ、何故か安堵の笑みを浮かべる神美に対して、更に不快と……ほんの少しの罪悪感が芽生えていた。
「……アンタ、ずっと起きてたのか?……」
「さっき起きたばかりだよ。…あ、赤龍の分ね、ちゃんと取っておいたよ」
「はい、桃!」と、両手で手渡された。
「……アンタ、馬鹿か?。」
「馬鹿って言った方が馬鹿ですぅ~!!」
「へーへー、そうですかー」
桃を齧ろうとすると、背後から「ミャウ……」と鳴き声が聞こえた。あの白い九尾が丸まって眠っていたのだ。
(コイツが……此処まで運んでくれたのか?)
無意識に頭を撫でると、九尾は幸せそうな表情を浮かべる。
「その子ね、ずっと赤龍の傍を離れようとしなかったんだよ。動物は優しい人に寄り付くって、おばあちゃんが良く言ってたな~」
腹が立つ─────
その笑顔が、その生命が、その希望に満ちた眼差しが、全てが龍仙女に護られて……
人間なんぞ面倒臭い生き物として生まれ変わったのは……此奴を生かす為─────
ふざけるな……
何も躊躇いもなく、俺の家族は殺せても────
こんな子供一人は何で殺せなかったんだ?
世界を脅かす美豚だろ?────
「なあ──俺が、楽にしてやろうか?」
「え?……」
「もう此処で終わらせようぜ────」
神美の頬に触れる赤龍は、気付かれぬように鎖鎌で仕留めようとしていた。
「……ありがとう───赤龍」
「!……」
「あたし、まだ死にたくない────」
「…散々死にてぇって喚いてたのにか?───」
「勝手だけど、今は…希望を見つけたから───生きなきゃって……思う。人間って最低で…勝手でしょ?……赤龍に嫌われても仕方がないって思ってる。でも…あたしは、呪いを解きたいの。」
「…………」
分かっていた────
この娘だって、生まれる前から決められた運命を纏って、散々振り回され……
いつだって死と隣り合わせで生きてきた、平凡で哀れな人間。
「あたし、普通の人間になって、痩せて…可愛くなりたいんだぁ~っ」
「くだらねぇ」
「自分で言うのもアレですけど、あたし──痩せたら超絶可愛いからっ!!」
「そういう事は、てめぇでは言わねぇよ」
「惚れても知らないぞ~っ?」
「本当に仕留めるぞ…ガキ」
「赤龍は……優しいからできないよ。だって、あたしを連れ攫った時──あたしの重さに耐えきれなくて転んじゃった時さ…、怪我させないように庇ってくれたよね?」
「勘違いするな───………よろけたんだ」
「あはは、重かったって言って良いよ。…そんな優しい所が、素敵だよ。赤龍にしかない、優しさ……───。だからこの狐ちゃんも、赤龍に凄く懐いてるんだと思う。」
いつか裏切るかもしれない────
いつか殺そうとするかもしれない───
でも……
(やっぱり……此奴は馬鹿だ。でも、一番馬鹿なのは……俺か─────)
信用したいと思う自分に、腹が立って仕方がない。
《赤蛇──貴方は、赤龍という、この世界を護る龍の一匹なのよ》
《お前は、蛇の一族に幸運をもたらす存在だ…》
《赤蛇》
《嗚呼……赤蛇、貴方を愛してるわ》
俺を育てたのは、蛇の一族という──蛇と人間の血を引く者達だった。蛇人とも呼ばれている。
父親と母親代わりの蛇人は、何も知らずに生まれた俺を愛してくれていた。
全てが輝いていて────温かく、優しい世界。
人間から忌み嫌われる事もあったが、そんなのはどうでも良いと思った。
《赤蛇!》
《約束だよ、赤蛇───ウチが、15歳になったら結婚してな?》
くだらない事を言う雌の蛇人も居たっけか
でも……───
《見てしまったの?……じゃあ───貴方はこれでお終いね───》
《死ね────お前はもう、用無しだ》
血塗れの短剣を突き付けられた。
《一族の仇……ッ!!!死ねッ!!!!五龍ッ!!!!》
ザシュッ!!!……───────
。
悪い夢なら覚めてくれと、願って目を瞑った。
あの雌から、血が出てんだよ……────
冷たくなった身体は多分……もう─────
『蛇の一族が……───まだこんな事を続ける気か』
『龍仙女……ッ!!!貴様あぁぁぁぁぁぁッ!!!!!お前を……お前を殺してやるッ!!!!!』
短剣を振り回す母親は龍仙女よって一瞬で消されてしまった。
父親も続くように……─────
『…大丈夫か、赤龍。…済まねぇな、おめェを助けるのにちと時間がかかりすぎてしまった……』
龍仙女の腕からは血が垂れていた。
俺を庇ったから─────
『なん……で─────殺したんだよ』
自分を庇った事に対して、感謝の気持ちや罪悪感など持てない。全てが憎い───────
今目の前に居るこの龍仙女が
『……こやつらは───己の感情のまま、罪のない動物…人間を無造作に殺した。何百年前もそうだ───今回はおめェを虜囚して、ワシとおめェを殺める気だったのじゃろ。自分達が生きやすい世界にする為にな……────ワシは世界を護る為なら、手段を選ばねぇ…』
『だからって……ッ!結局お前も同じ事をやってんじゃねぇかッ!!!』
『……赤龍───感情に流されるな。お前はこの世界を護る五龍。そんなくだらねぇ事で一々騒いでたらきりがねぇ』
そんなのは勝手に決められた事だ。
俺は知らねぇ─────俺は、それが正しいとは思わねぇ
『死ねッ!!!!龍仙女ッ!!』
その時の俺には、龍仙女を喰い殺す事しか頭になかった。
復讐の為に利用されていたとしても
あの時の愛が本物だったと……
信じたかったんだ─────
信じねぇと……、俺は一体なんなんだ?
世界を護る赤龍なんて作られただけだ。
本当の俺は……そんなに強くない。
『俺は……ッ!!!世界を護りたくなんかねぇよッ!!!……こんな気持ちになるくらいなら、皆死んじまえッ!!!!』
。
。
「──────ッ!!……」
夢────?
「あ、起きた」
「俺………」
"嫌な夢を見た……。"と、寝ぼけ眼に映るのは、静かに弾ける焚火だ。
辺りを見渡すと、呑気に眠りこける龍共が目に入り、不快な気分になった赤龍。
小枝を焚火の中に放り投げ、何故か安堵の笑みを浮かべる神美に対して、更に不快と……ほんの少しの罪悪感が芽生えていた。
「……アンタ、ずっと起きてたのか?……」
「さっき起きたばかりだよ。…あ、赤龍の分ね、ちゃんと取っておいたよ」
「はい、桃!」と、両手で手渡された。
「……アンタ、馬鹿か?。」
「馬鹿って言った方が馬鹿ですぅ~!!」
「へーへー、そうですかー」
桃を齧ろうとすると、背後から「ミャウ……」と鳴き声が聞こえた。あの白い九尾が丸まって眠っていたのだ。
(コイツが……此処まで運んでくれたのか?)
無意識に頭を撫でると、九尾は幸せそうな表情を浮かべる。
「その子ね、ずっと赤龍の傍を離れようとしなかったんだよ。動物は優しい人に寄り付くって、おばあちゃんが良く言ってたな~」
腹が立つ─────
その笑顔が、その生命が、その希望に満ちた眼差しが、全てが龍仙女に護られて……
人間なんぞ面倒臭い生き物として生まれ変わったのは……此奴を生かす為─────
ふざけるな……
何も躊躇いもなく、俺の家族は殺せても────
こんな子供一人は何で殺せなかったんだ?
世界を脅かす美豚だろ?────
「なあ──俺が、楽にしてやろうか?」
「え?……」
「もう此処で終わらせようぜ────」
神美の頬に触れる赤龍は、気付かれぬように鎖鎌で仕留めようとしていた。
「……ありがとう───赤龍」
「!……」
「あたし、まだ死にたくない────」
「…散々死にてぇって喚いてたのにか?───」
「勝手だけど、今は…希望を見つけたから───生きなきゃって……思う。人間って最低で…勝手でしょ?……赤龍に嫌われても仕方がないって思ってる。でも…あたしは、呪いを解きたいの。」
「…………」
分かっていた────
この娘だって、生まれる前から決められた運命を纏って、散々振り回され……
いつだって死と隣り合わせで生きてきた、平凡で哀れな人間。
「あたし、普通の人間になって、痩せて…可愛くなりたいんだぁ~っ」
「くだらねぇ」
「自分で言うのもアレですけど、あたし──痩せたら超絶可愛いからっ!!」
「そういう事は、てめぇでは言わねぇよ」
「惚れても知らないぞ~っ?」
「本当に仕留めるぞ…ガキ」
「赤龍は……優しいからできないよ。だって、あたしを連れ攫った時──あたしの重さに耐えきれなくて転んじゃった時さ…、怪我させないように庇ってくれたよね?」
「勘違いするな───………よろけたんだ」
「あはは、重かったって言って良いよ。…そんな優しい所が、素敵だよ。赤龍にしかない、優しさ……───。だからこの狐ちゃんも、赤龍に凄く懐いてるんだと思う。」
いつか裏切るかもしれない────
いつか殺そうとするかもしれない───
でも……
(やっぱり……此奴は馬鹿だ。でも、一番馬鹿なのは……俺か─────)
信用したいと思う自分に、腹が立って仕方がない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる