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「あの家は、

グスファース家は、妹の存在を秘匿している!

監禁しているんだっ」


パーティ会場の真ん中で叫ぶ、高貴そうな男性。格好は高級でも、言ってる事も立ち姿、主張もめちゃくちゃだ。
招待客も、遠巻きに男を危険視しながら見ている。囁き声で結構な爵位持ちの次男らしい。

(あそこまで行くと、アレの信者だ。)


お兄様は今いない。対応しなければならないのは、私か。
早く警備が連れて行って欲しいけど、また変な噂になる前にハッキリしておこう。

「私がナラライア・グスファースです。当家で女は私だけです。妹などいません。何か勘違いされているのではないのですか?」

「嘘を言うなっ!彼女がいるだろう?私を待って、来てくれると言っていたっなぜ手紙が返って来ないんだ!」

もう挙動がおかしい。近づいたら危険がありそうだけど、相手の虚言だと強調したい。

「妄想のお相手ですか?」
「そんなわけない彼女は、私に微笑んで…」


男は声をあげて泣き出した。酒にも酔ってもいるようだ。駆けつけた警護に連れて行かれパーティの音楽が流れている。結局、暴力を振るってくる事はなかったけど、怖くなかったと言えば嘘になる。

(またか。

アレに酔いしれて、自分を見失って…破滅する。)

知り合いの貴族に心配され、元気付けられても気持ちは堕ちていった。耳は噂話を拾っている。

“あの男は酔っていた”
“虚言だろう”と話が伝わっていく。

噂の方は、また消えていくだろう。今までのように静かにしていれば良い。


もう大丈夫。妹なんていない。これが事実。真実、私には…。
ナラライア・グスファースに、妹はいない。

そう思えば、深く息が吸えた。過去など必要ない。今と未来があれば良い。
貴族として。


「ナラライア、大丈夫だったかい?」
「お兄様。問題ありませんわ。」

強気で。弱みは見せるものではない、上手く使うものだ。ここは貴族のいる場所なのだから。


「破滅なんて、簡単に側で転がるのね。」
男の破滅を迎える最期に、幾度目かの破滅を迎えた男に、気持ちを向ける事はない。

疲れた事もあり、挨拶もそこそこお兄様と共に帰ることにした。

「そういえば、いつかの弟を迎える件。」
「良さそうな子がいました?」


「ああ。ちょっと歳が離れているが、そのくらいのが気が合うだろう。」
「弟を迎えるのに、前向きですのね。」

「ああ。僕の右腕になってくれるかもしれない、利口な子なんだよ。」

「まあ!会うのが楽しみですわ。」


家族は減り、増えるらしい。
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