【長編・完結】この冒険者、何者？〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

オマケが続く

帰ってきた

「あら、騎士さま。帰ってきたんだねえ」

市場の女達は、久しぶりに見たクリスという男を見る。
冒険者がこの町より馬車で半日かかる街での依頼を好むのは知っている。

どうも、クラン同士の鍔迫り合いが激しいと聞くが依頼に事欠かないとは街の規模のが違う。
そう言う冒険者を客に、日常品や食料を売る。

実感として知っているし、あの穏やかな男も冒険者だ。指名依頼を出したから、確かだった。

「またあの爺さんのところに泊まるのかしら？」
「ああ、商人で引退したといってる。」

住居区画にある老夫婦の家。顔見知りばかりのそこに、知らない顔は目立つ。
まあ、信用のおけないものを泊めないだろうと思うが。

「あそこの爺さまは、目利きが逸品と有名な商人だったんだよ。」
「奥さんの方も、しっかりしたヒトだし」


市場の皆も、すでにクリスと馴染んでいて顔を見た日には良いことがあるとまで言わしめていた。
縁起物扱いだろうか？


クリスの側に侍べるフウは喜び、リンは害が無ければ興味を無くす。
カザンだけが、主人の扱いがアレで良いのかと悶々と考えていた。


そんな町に、クリスは出て行った時と同じ御者と共に馬車で帰ってきた。
買い物もした。お土産もよし。


またこの町で、のんびりした生活を送る。それは冒険者らしくないはずだが、クリスに合っていた。

「しばらく、のんびりしたいな」

賑やかで物が溢れた街の暮らしも楽しかったが、今はもうこの町の暮らしを心が欲しいている。


老夫婦に帰還した挨拶をし、また3人での生活に戻った。

その日常に蛇の眼の男が加わったのだが、クリスにはどこ吹く風だった。
それくらいの刺激なら、楽しめる。


何者か分からないものの、クリスという男は冒険者と名乗ってこの町で穏やに微笑んでいた。