テンプレ勇者にあこがれて

昼神誠

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結社崩壊編Ⅰ

カペラ⑭

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「リゲル様♡ 僕、僕……もう……」

 リゲルが拙の両頬に優しく触れ次の瞬間……。

 チュッ

 ???
 一体、リゲルは何をしているのでしょう。
 拙の唇に自身の唇を重ね……これは接吻?
 何故?
 彼女が先程まで紅茶を飲んでいたからでしょうか?
 タンニンの渋みが拙に伝わってきます。

「ん……んん……カペラ様ぁ……」

 リゲルとの距離が有り得ないほど近い。 
 拙は凄く恥ずかしくなってきました。
 しかし、それと同時に……。

 ドクン!

 拙の聖剣が徐々に大きくなってきているのが伝わります。
 鞘である拙の身体から聖剣に血液を集められていく……。
 有り得ないほどの血液が聖剣に集中し物凄く熱くなっている。
 つまり、それはリゲルを屠れという合図なのでしょう。
 制裁戦争が無慈悲であることは知っています。
 この近距離……リゲルを仕留め損なうなんてことは有り得ないでしょう。
 ですが、それだけは断じて出来ません。
 リゲルは3匹の子豚ごっこをしているだけ。
 この接吻にも今はあるはずです。
 拙は考えに考えました。
 それはもう意識を失うほど考え……。

 チュンチュン
 チュンチュチュン

 目が覚めたら朝になっていました。
 なんということでしょう。
 また、拙もリゲルも素っ裸です。
 客観的に見るとまさに豚のよう。
 ……なるほど、拙も3匹の子豚の中の1匹の役ということですか。
 3匹の子豚はとても仲が良い。
 昨晩の接吻もリゲルなりの愛情表現なのでしょう。

「ん……んん……」

 気持ちよく眠っているリゲルの顔を見つめると以前より愛おしく思えてきます。
 どうしてなのかな?
 拙はみんなが大好きなのに……そうしなけれいけないのに。
 今はこのまま寝かせておきましょう。
 拙は食堂に向かいました。
 昨晩、中断した今後の計画についてまだ話は済んでいないためです。
 朝食を作る当番の隊員が3人。
 他は早朝の訓練に牧場で走り込みをしていました。

「ブヒィブヒィってね」

「きゃはは、ナニソレ?」

 ブヒィ?
 3匹の子豚ごっこが流行っているのでしょうか?

「カペラ―――」

 ベガが窓の外から声をかけます。
 昨晩は一緒に寝てあげなかったことを怒っているのかと思いましたが……。

「ほら、朝の訓練! サボっちゃ駄目! わちと一緒に森へ来なさい!」

 滅茶苦茶、怒っていました。
 これは相当な目に遭わされそうです。
 拙は水場で顔を洗った後、牧場へ出ます。
 
「待ってくれ!」

 リゲルも起きたようでベガに声をかけます。

「僕も……一緒に行く!」

「良いよ―――。2人でカペラを相手に打ち込みしよ」

 なんということでしょう。
 拙はひたすら殴られる役のようです。
 ベガの怪力は岩をも簡単に粉々にします。
 拙の陰陽術「癒」で自身を治療し続けるしか拙に耐える術はありません。

「カペラ様♡」

 リゲルは拙の腕に掴み離しません。
 ベガもそれを見てか、もう片腕に掴みます。
 
「2人共、歩き辛いでありんす」

「リゲルが離れたら?」

 ベガはいつもの事ですがリゲルが拙の腕に抱き着いて歩く理由は3匹の子豚ごっこをしているためです。
 これも仲の良い3姉妹を演じているに過ぎません。
 そう言えば……もう1匹の子豚と狼の役は一体、誰なのでしょう?

「ふふっ、ベガは昔からカペラにくっついているよね。まさか、君もブヒブヒ言わせられたのかい?」

 ああ、なるほど。
 リゲルは3匹目の子豚役にベガを採用したいようです。
 拙はリゲルの話に乗ることにしました。

「そう言えば、ベガちゃんは昔から豚さん役でいつも大泣きしていたでありんすね」

「大鳴き!? ふっ……ぼ、僕だって昨晩、5連戦も……シていっぱい鳴いたんだからね!」

 ???
 リゲルは赤面しながら言葉を放ちました。
 5連戦……おそらく、深夜に訓練でもしていたのでしょう。
 道中、見かけた小動物の死骸……あれは弓で射られた傷が付いていました。
 リゲルの狙撃は的確ですが彼女はあまり夜目が効きません。
 自身の弱点を鍛えるのは星々の庭園として当然のことです。
 リゲルは戦力になるどころか参謀としての頭脳もある。
 もし、制裁戦争で彼女が聖剣を奪いに来た時、拙はリゲルを退けることが出来るのでしょうか?

「2人ともさっきから何を言ってるの? ま、良いや。森に着いたよ」

 森の中でもっとも太い大杉。
 隊員達の訓練の痕でしょうか大きな傷跡がたくさん付いています。

「じゃ、カペラそこに立って」

 拙はベガの言われるがままに大杉に背を当て立ちます。
 そして、ベガはどこからか持ち出した縄で拙を大木に縛り付けました。

「わち、昨日は1人で寝たかっただけだもん。だから……だから……リゲルが居なくたって!」

 うわぁ、昨晩一緒に寝なかったことを相当根に持っているようです。
 拙はサンドバッグとしてボコボコにされるのでしょう。
 なんて理不尽な!
 これも拙が最弱ムーブをしているから?
 
「カペラ様♡ ベガもわからせてあげて」

 ドクン!

 リゲルが拙の耳元で静かに話しかけます。
 すると、なんていうことでしょう。
 リゲルの息が拙の耳に当たって……聖剣が反応してしまいました。
 
「カペラ様、ベガは貴方のことをペット程度にしか見ていない。だから、貴方が上であると思わせる必要がある。貴方の男を示せば彼女も完全にメス堕ちするはずだよ。僕みたいに彼女もわからせてやってあげて」

 リゲルは何を言っているのでしょう。
 拙の男を示す?
 拙は女です。
 男であるならば星々の庭園に居られないことは誰もが知っていることです。
 それにお義母様は言いました。
 拙が立派な男の娘だと……。
 男の娘、それは男装をすることで男らしく振る舞うことができる娘。
 拙はカカシマヤで任務に付いている時はずっと男として振る舞うことが出来ました。
 拙は男の娘!
 決して男などではありません!
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