獅子王の運命の番は、捨てられた猫獣人の私でした

天音ねる(旧:えんとっぷ)

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獅子王の決意3

「そんな彼女の前に、俺が、この国の王として現れたら、どうなると思う?」
「……」
「彼女は、怯えるだろう。俺が持つ権力という名の力に、身をすくませるだろう。そして、俺の求婚を、王の命令だと勘違いするかもしれん」
レオンハルトの声は、静かだったが、その奥には、抑えきれない、激情が渦巻いていた。
「彼女は、夫の地位のために、捨てられた女だ。そんな彼女を、今度は、俺が、王妃という地位で、縛り付けていいはずがない。それは、彼女の心を、二度殺すことと同じだ」

バルドゥスは、言葉を失っていた。
主君の、あまりにも、深い思慮と、そして、番となる女性への、どこまでも誠実な愛情に、ただ、胸を打たれていた。
彼は、今まで、レオンハルトを、偉大で、誰よりも強い王だと思っていた。
しかし、今、目の前にいるのは、ただ、愛する一人の女性の心を、何よりも大切に思う、一人の、不器用な男の姿だった。

「俺が望むのは、王妃という空っぽの器ではない」
レオンハルトは、きっぱりと言い切った。
「俺が望むのは、ミミという一人の女性の心だ。彼女が、その凍てついた心を、自らの力で溶かし、そして、俺を、レオンハルトというただの一人の男として、見てくれることだ。彼女が、俺の隣にいることを、誰に強制されるでもなく、彼女自身の意思で望んでくれることだ」

彼は、忠実な老臣へと、振り返った。
その黄金の瞳には、いかなる者にも覆すことのできない、絶対的な、王の決意が宿っていた。

「だから、俺は、待つ」
「……陛下…」
「彼女が、自ら俺を望むまで、このまま見守る。一人の、客として。彼女が安心して、その優しい笑顔を取り戻せるように。彼女の傷が、完全に癒えるその時まで」

それは、あまりにも、忍耐強く、そして、あまりにも、優しい、決意だった。
バルドゥスは、こみ上げてくる涙を必死で堪えた。
そして、再び、深く、深く、その場に膝をついた。
「…陛下の、お心のままに…。このバルドゥス、どこまでも、お供いたします」
「ああ。頼む」

バルドゥスが静かに執務室を退出していく。
再び、一人になったレオンハルトは、大きく息を吐いた。
そして、まるで、自分自身に、言い聞かせるかのように、小さく呟いた。

「…まあ、待つのは、あまり得意ではないのだがな」
その口元に、自嘲するような獰猛な笑みが浮かぶ。
彼は、ゆっくりと、窓枠に手をついた。
その瞬間、彼の穏やかだったはずの黄金の瞳に、がらりと、別の光が宿った。
それは、獲物を定めし、百獣の王の光。
決して、何人にも、獲物を譲らないという、燃えるような、熱い、独占欲の光だった。

優しく、見守る。
言葉では、そう言った。
しかし、彼の魂は別のことを叫んでいる。
一刻も早く、彼女をこの腕の中に、閉じ込めたい。
誰の目にも触れさせず、誰の声も聞こえない、安全な場所で、ただ、ひたすらに、甘やかし、愛し尽くしたい。
彼女を傷つけた、愚かな男も、彼女を拒絶した、愚かな家族も、この世の全てから、消し去ってしまいたい。

その黒く、獰猛な衝動を、彼は、王としての強靭な理性で、必死に、押さえつけているのだ。

「…ミミ」
彼は、再び、愛しい番の名を、つぶやいた。
その声は、夜の闇に溶けるには、あまりにも熱く、そして、どこまでも深く、響き渡った。
獅子王の決意は、固まった。
その静かな、しかし、絶対的な意志が、王都の夜の闇を支配していた。
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