焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!

雷覇

文字の大きさ
2 / 42
第1章

第2話:解放への絶望的な条件

しおりを挟む
「……死地だと? どういうことだ?」

海人は眉をひそめ、正面の瑞穂をじっと見た。その目は薄く疲弊しているが、どこかでわずかに揺れていた。

「“夢幻島”にあなたを送り込みます。期間は――三ヶ月」

瑞穂の声は冷静だったが、言葉に込められた意味はあまりに過酷だった。

「三ヶ月、生き延びれば、あなたは一族に“力ある者”として認められ、正式に自由を与えられます」

「……なるほど。それで“死地”ってわけか。処刑と何が違う?」

海人は乾いた笑みを浮かべたが、その裏にある虚無感は隠せなかった。

夢幻島――焔木一族が代々管理してきた“封印の島”。

凶悪な魔獣たちが巣食うその島は、強力な結界によって外界と隔てられているが、時折その結界が破れ、魔獣が流れ出す。

そのたびに一族の者たちは島に渡り、命を懸けて魔獣を討ち果たしてきた。だが、剣も術もロクに使えない今の自分が――そこで三ヶ月も生き延びる?
不可能だ。三日すら怪しい。

「そんなに俺を殺したいのかよ……クソどもが」

海人が低くつぶやくと、瑞穂は俯いて言った。

「……申し訳ありません。他の案も提案しましたが、却下されました。一族には、あなたを疎む者があまりに多いのです」

「そりゃそうだろうよ。当主の娘ってだけの“小娘”に、決定権があるわけねぇしな」

「アンタねぇ!? いい加減その口の利き方やめたら!?」

刹那が声を荒げて踏み出そうとするのを、瑞穂が手で制した。
だがその刹那の怒りを遮るように、海人がボソリとつぶやいた。

「……いいよ。行くよ、夢幻島に」

「……え?」

「え、えっ!? あんた本気!?」

「……死に場所としては悪くない」

そう語る海人の目に、もう光はなかった。
諦めに染まったその表情に、瑞穂は思わず言葉を詰まらせる。

(……あの目。感情が死んでいる……)

「もちろん、強制ではありません。このままここで生活しても構わないのです。私が責任を持って――」

「余計なことだ」

海人はピシャリと遮った。

「飼われる生活なんざ、もうウンザリだ。……帰れ。島に行く日が決まったら教えてくれ」

そう言って背を向ける海人。その背中はどこか、呆れるほど静かだった。
瑞穂はわずかにためらいを見せたが、やがて静かに頷いた。

「……わかりました。当主には私から伝えておきます。準備が整い次第、知らせます」

「ああ」

瑞穂は静かにその場を後にし、刹那も慌てて後を追った。
部屋には、再び静寂が戻った。

「……ふぅ。やっと静かになったか」

海人は天井を見つめたまま、長いため息をついた。
あの二人と会うのは、六年ぶりだった。

さすがに年月のせいか、二人とも“女”の顔になっていた。
美人だと言われても否定はできないだろう。だが――だからといって、好きにはなれない。

「なんで今さら来たんだか……使いで嫌々来ただけだろ。師匠たちに頼んでりゃ済んだ話だろうに」

自嘲気味に笑いながら、夢幻島のことを思い返す。

(まさか、最後が“島流し”とはな……)

瑞穂は「力に枷がある」だとか言っていたが――そんな都合のいい話があるものか。剣だけは続けてきたが、それでどうにかなる相手じゃない。
術が使えない時点で、魔獣相手には話にならない。

(……考えても仕方ねぇか)

そう結論づけると、ゆっくりと立ち上がった。

「……準備だけはしておくか。持ってくもんなんて、ほとんどねぇけどな」

その頃――社を後にした瑞穂と刹那は、木々の間を歩いていた。

「……瑞穂、本当にいいの? あいつ……間違いなく死ぬよ」

「……仕方ありません。彼自身が“行く”と決めたのですから」

「でも、それって――」

「もう……いいのよ」

刹那は驚いた。
あの冷静な瑞穂が、感情をにじませていたから。

「海人の目……あの眼差しには、もう光がなかった。あの六年間が、想像以上に彼を蝕んでいたのかもしれない……。もっと早く会いに行けていれば……」

「それは……瑞穂のせいじゃない。誰もあんたの声を聞かなかったんだ」

「……でも、動かなかった私の責任もあります。行動だけではダメだった。“想い”は伝えなければ……あれほど嫌われてしまうとは、思いませんでした」

刹那は何も言えなくなった。

「……私の方でも、できる限りの準備をしておきます。術が使えない彼のために、術符を大量に用意します」

「わかった。私も協力するよ」

二人の足音が闇に溶けていく。
その遥か先、魔獣が蠢く夢幻島に向かって、物語は確かに動き始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...