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第1章
第2話:解放への絶望的な条件
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「……死地だと? どういうことだ?」
海人は眉をひそめ、正面の瑞穂をじっと見た。その目は薄く疲弊しているが、どこかでわずかに揺れていた。
「“夢幻島”にあなたを送り込みます。期間は――三ヶ月」
瑞穂の声は冷静だったが、言葉に込められた意味はあまりに過酷だった。
「三ヶ月、生き延びれば、あなたは一族に“力ある者”として認められ、正式に自由を与えられます」
「……なるほど。それで“死地”ってわけか。処刑と何が違う?」
海人は乾いた笑みを浮かべたが、その裏にある虚無感は隠せなかった。
夢幻島――焔木一族が代々管理してきた“封印の島”。
凶悪な魔獣たちが巣食うその島は、強力な結界によって外界と隔てられているが、時折その結界が破れ、魔獣が流れ出す。
そのたびに一族の者たちは島に渡り、命を懸けて魔獣を討ち果たしてきた。だが、剣も術もロクに使えない今の自分が――そこで三ヶ月も生き延びる?
不可能だ。三日すら怪しい。
「そんなに俺を殺したいのかよ……クソどもが」
海人が低くつぶやくと、瑞穂は俯いて言った。
「……申し訳ありません。他の案も提案しましたが、却下されました。一族には、あなたを疎む者があまりに多いのです」
「そりゃそうだろうよ。当主の娘ってだけの“小娘”に、決定権があるわけねぇしな」
「アンタねぇ!? いい加減その口の利き方やめたら!?」
刹那が声を荒げて踏み出そうとするのを、瑞穂が手で制した。
だがその刹那の怒りを遮るように、海人がボソリとつぶやいた。
「……いいよ。行くよ、夢幻島に」
「……え?」
「え、えっ!? あんた本気!?」
「……死に場所としては悪くない」
そう語る海人の目に、もう光はなかった。
諦めに染まったその表情に、瑞穂は思わず言葉を詰まらせる。
(……あの目。感情が死んでいる……)
「もちろん、強制ではありません。このままここで生活しても構わないのです。私が責任を持って――」
「余計なことだ」
海人はピシャリと遮った。
「飼われる生活なんざ、もうウンザリだ。……帰れ。島に行く日が決まったら教えてくれ」
そう言って背を向ける海人。その背中はどこか、呆れるほど静かだった。
瑞穂はわずかにためらいを見せたが、やがて静かに頷いた。
「……わかりました。当主には私から伝えておきます。準備が整い次第、知らせます」
「ああ」
瑞穂は静かにその場を後にし、刹那も慌てて後を追った。
部屋には、再び静寂が戻った。
「……ふぅ。やっと静かになったか」
海人は天井を見つめたまま、長いため息をついた。
あの二人と会うのは、六年ぶりだった。
さすがに年月のせいか、二人とも“女”の顔になっていた。
美人だと言われても否定はできないだろう。だが――だからといって、好きにはなれない。
「なんで今さら来たんだか……使いで嫌々来ただけだろ。師匠たちに頼んでりゃ済んだ話だろうに」
自嘲気味に笑いながら、夢幻島のことを思い返す。
(まさか、最後が“島流し”とはな……)
瑞穂は「力に枷がある」だとか言っていたが――そんな都合のいい話があるものか。剣だけは続けてきたが、それでどうにかなる相手じゃない。
術が使えない時点で、魔獣相手には話にならない。
(……考えても仕方ねぇか)
そう結論づけると、ゆっくりと立ち上がった。
「……準備だけはしておくか。持ってくもんなんて、ほとんどねぇけどな」
その頃――社を後にした瑞穂と刹那は、木々の間を歩いていた。
「……瑞穂、本当にいいの? あいつ……間違いなく死ぬよ」
「……仕方ありません。彼自身が“行く”と決めたのですから」
「でも、それって――」
「もう……いいのよ」
刹那は驚いた。
あの冷静な瑞穂が、感情をにじませていたから。
「海人の目……あの眼差しには、もう光がなかった。あの六年間が、想像以上に彼を蝕んでいたのかもしれない……。もっと早く会いに行けていれば……」
「それは……瑞穂のせいじゃない。誰もあんたの声を聞かなかったんだ」
「……でも、動かなかった私の責任もあります。行動だけではダメだった。“想い”は伝えなければ……あれほど嫌われてしまうとは、思いませんでした」
刹那は何も言えなくなった。
「……私の方でも、できる限りの準備をしておきます。術が使えない彼のために、術符を大量に用意します」
「わかった。私も協力するよ」
二人の足音が闇に溶けていく。
その遥か先、魔獣が蠢く夢幻島に向かって、物語は確かに動き始めていた。
海人は眉をひそめ、正面の瑞穂をじっと見た。その目は薄く疲弊しているが、どこかでわずかに揺れていた。
「“夢幻島”にあなたを送り込みます。期間は――三ヶ月」
瑞穂の声は冷静だったが、言葉に込められた意味はあまりに過酷だった。
「三ヶ月、生き延びれば、あなたは一族に“力ある者”として認められ、正式に自由を与えられます」
「……なるほど。それで“死地”ってわけか。処刑と何が違う?」
海人は乾いた笑みを浮かべたが、その裏にある虚無感は隠せなかった。
夢幻島――焔木一族が代々管理してきた“封印の島”。
凶悪な魔獣たちが巣食うその島は、強力な結界によって外界と隔てられているが、時折その結界が破れ、魔獣が流れ出す。
そのたびに一族の者たちは島に渡り、命を懸けて魔獣を討ち果たしてきた。だが、剣も術もロクに使えない今の自分が――そこで三ヶ月も生き延びる?
不可能だ。三日すら怪しい。
「そんなに俺を殺したいのかよ……クソどもが」
海人が低くつぶやくと、瑞穂は俯いて言った。
「……申し訳ありません。他の案も提案しましたが、却下されました。一族には、あなたを疎む者があまりに多いのです」
「そりゃそうだろうよ。当主の娘ってだけの“小娘”に、決定権があるわけねぇしな」
「アンタねぇ!? いい加減その口の利き方やめたら!?」
刹那が声を荒げて踏み出そうとするのを、瑞穂が手で制した。
だがその刹那の怒りを遮るように、海人がボソリとつぶやいた。
「……いいよ。行くよ、夢幻島に」
「……え?」
「え、えっ!? あんた本気!?」
「……死に場所としては悪くない」
そう語る海人の目に、もう光はなかった。
諦めに染まったその表情に、瑞穂は思わず言葉を詰まらせる。
(……あの目。感情が死んでいる……)
「もちろん、強制ではありません。このままここで生活しても構わないのです。私が責任を持って――」
「余計なことだ」
海人はピシャリと遮った。
「飼われる生活なんざ、もうウンザリだ。……帰れ。島に行く日が決まったら教えてくれ」
そう言って背を向ける海人。その背中はどこか、呆れるほど静かだった。
瑞穂はわずかにためらいを見せたが、やがて静かに頷いた。
「……わかりました。当主には私から伝えておきます。準備が整い次第、知らせます」
「ああ」
瑞穂は静かにその場を後にし、刹那も慌てて後を追った。
部屋には、再び静寂が戻った。
「……ふぅ。やっと静かになったか」
海人は天井を見つめたまま、長いため息をついた。
あの二人と会うのは、六年ぶりだった。
さすがに年月のせいか、二人とも“女”の顔になっていた。
美人だと言われても否定はできないだろう。だが――だからといって、好きにはなれない。
「なんで今さら来たんだか……使いで嫌々来ただけだろ。師匠たちに頼んでりゃ済んだ話だろうに」
自嘲気味に笑いながら、夢幻島のことを思い返す。
(まさか、最後が“島流し”とはな……)
瑞穂は「力に枷がある」だとか言っていたが――そんな都合のいい話があるものか。剣だけは続けてきたが、それでどうにかなる相手じゃない。
術が使えない時点で、魔獣相手には話にならない。
(……考えても仕方ねぇか)
そう結論づけると、ゆっくりと立ち上がった。
「……準備だけはしておくか。持ってくもんなんて、ほとんどねぇけどな」
その頃――社を後にした瑞穂と刹那は、木々の間を歩いていた。
「……瑞穂、本当にいいの? あいつ……間違いなく死ぬよ」
「……仕方ありません。彼自身が“行く”と決めたのですから」
「でも、それって――」
「もう……いいのよ」
刹那は驚いた。
あの冷静な瑞穂が、感情をにじませていたから。
「海人の目……あの眼差しには、もう光がなかった。あの六年間が、想像以上に彼を蝕んでいたのかもしれない……。もっと早く会いに行けていれば……」
「それは……瑞穂のせいじゃない。誰もあんたの声を聞かなかったんだ」
「……でも、動かなかった私の責任もあります。行動だけではダメだった。“想い”は伝えなければ……あれほど嫌われてしまうとは、思いませんでした」
刹那は何も言えなくなった。
「……私の方でも、できる限りの準備をしておきます。術が使えない彼のために、術符を大量に用意します」
「わかった。私も協力するよ」
二人の足音が闇に溶けていく。
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