焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!

雷覇

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第1章

第31話:今後の進路

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 焚き火の炎がパチパチと音を立てる。
 戦の名残も、張り詰めた氣も、今はどこか遠くの出来事のようだった。

 「いやはや、住居ってやつは奥が深いですね。
  人間の精神衛生は環境で決まると言っても過言ではないですね」

 ゼロが真顔でそう語る。

 「マスター。いっそ風呂でも掘りますか?」

 「掘るって、どこに……まあ、泉でも湧けば考えるか」

 「この地形と気候なら、裏の渓流から水引けば小風呂くらいは造れるぞ」

 桐生は竹を細工しながら、まるで別荘地のDIY職人のような口ぶりだ。

 「なんだかんだ、居心地いいんだよな、ここ」

 そのとき。

 「――あのさあ」

 冷たい声が焚き火を裂いた。
 振り返ると、瑞穂と刹那がじと目で三人を見つめていた。

 「健太たちを無力化した直後に、よくもまあそんなのんきでいられますね」

 瑞穂が冷ややかに言い、刹那は腕を組んで苛立ちを隠そうともしない。

 「……アンタたち、本当に危機感ってもんがないの?」

 海人は肩をすくめ、あっさり言い返した。

 「まだいたのか。……で、用件は?」

 「用件じゃなくて、警告と忠告だったでしょーが!」

 刹那が怒鳴るが、海人はまるで聞き流すように手を振る。

 「そういうのは瑞穂に任せとけ。お前は怒鳴ると口が悪くなるぞ」

 「うるさいわよ!」

 呆れたように瑞穂が溜め息をつく。

 「……本当に、あなたって人は……」

 すると海人は軽く笑って言った。

 「ま、説教したいならまた来ればいい。
  でもそのときは依頼も一緒にな。俺たち便利屋だから」

 ゼロも機械的に補足する。

 「依頼内容は三件まで同時受注可能。
  焔木家からのご依頼も、特別割増料金で承ります」

 桐生が口の端を吊り上げた。

 「女の子が訪ねてくる分には、いつでも歓迎だぞ? なぁ、海人」

 「……できれば、もっとしおらしくて、大人しい子がいいんだけどな」

 「…………」

その一言に空気がぴたりと静止した。

「……は?」

刹那が低く呟き、瑞穂の目がすうっと細くなる。

「私達のこと言ってんの?」

「いや、名指しはしてないだろ。俺はただの願望を言っただけで――」

「今、完全に刺さったわよ!?」

刹那がぐいっと前に出てくる。
目尻が吊り上がり、今にも殴りかかりそうな勢いだ。

「こっちはわざわざ山道登ってきて、忠告してやったのに。
なんなの!? しおらしい女がよかった? ふざけんなっ!」

「お、おい、落ち着けって」

「うるさい馬鹿!!」

一方、瑞穂は静かに頭に手を添え、深くため息をついた。

「……あなたは昔からそう。
 人を遠ざけたいときほど、わざとそういうことを言うのですよね」

その言葉に、海人が一瞬止まる。
刹那が勢いを止め、瑞穂の横顔をちらりと見る。
海人は、あくまで冗談めかした調子を崩さずに答えた。

「……冗談に決まってんだろ。
俺はほらツンツンしたのが一番苦手なんだよ。たとえば刹那とかさ」

「完全に名指しじゃないの!!」

再び刹那が吠えた。
その声が、山にこだまのように反響する。
 
話が終わり、火が少しだけ小さくなった頃。

沈黙を破ったのは、刹那だった。

「ねえ、海人……」

「ん?」

「アンタさ、もう焔木家には戻らないって言ってるけど……
じゃあ、その先ってどうするつもりなの?」

海人は横目で刹那を見やる。

「力はある。やることもある。
 でも……あんた、まだ十六でしょ?」

焚き火の炎が、ふわりとゆらめいた。
刹那の声が、風の音に混じって静かに届く。

「――学校、行かないの?」

海人はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと目を閉じ、少しだけ笑った。

「……懐かしいな、その言葉。
学校って響き、もうずいぶん聞いてなかった気がする」

「そりゃそうでしょ。六年も閉じ込められてたんだから」

「そういう意味でもあるけど……俺が普通の生活に戻れると思ってるのか?」

刹那は答えなかった。
だがその横顔には、迷いとも言えない何かが浮かんでいた。

海人は、それを見て、少しだけ言葉を継いだ。

「通っても、浮くだけだ。
いまさら教室でノート取って、弁当食べて、制服着て……
そんな生活、俺には――似合わない」

「……そうかもね」

刹那はぽつりと返す。

「でもさ。たまには、似合わないことしてみてもいいんじゃない?」

刹那の一方的な勧誘に呆れたような笑みを浮かべながら
瑞穂がそっと口を開いた。

 「海人。私からも……お願いがあります」

海人は火を見つめたまま、静かに彼女へ視線を移した。

「……なんだ、今度はお前まで学校に通えって言い出すのか?」

「はい。そうです」

瑞穂の声は驚くほど静かだったが、決して軽くはなかった。
ひとつひとつの言葉に、真剣な思いが込められていた。

「あなたは……長い時間を、理不尽なかたちで奪われました。
 それでも、力を得て、立ち上がって、こうして今を生きている。
 だからこそ、力だけで生きてほしくないんです」

 瑞穂はまっすぐ、海人の目を見て続けた。

 「普通の生活――たとえば高校での時間は、
 あなたにとって無駄だと感じるかもしれません。
 でも……きっと、それは癒しにもなります」

 海人は目を伏せ、火の明かりに手をかざす。

 「……癒し、ね。俺にそれが必要だと?」

 「はい。……必要です」

 即答だった。

 「それに、もし学費のことで迷っているのなら……。
 ご両親――いえ、焔木家の名を使えば費用の支援くらいは確実に受けられます」

 「……それはつまり、焔木の庇護下に戻れってことか?」

 海人の声音が、少しだけ尖った。
 けれど瑞穂は、わずかに首を振る。

 「いえ。あくまで利用です。 私が責任を持って手配します」

 しばらくして――
 海人はゆっくりと呟く。

 「……あの六年間、俺は普通を全部捨てたつもりだった」

 「それでも……まだ、選んでいいのか?」

 瑞穂は微笑んだ。その笑みは、いつもの冷静さに、わずかな温かさを加えたものだった。

 「はい。むしろ、これからが選び直す時期です。あなたがどんな生き方をしても、私は――あなたが生きている限り、それを肯定します」

「……少し考えさせてくれ。すぐには答えが出ない」
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