子狐のウエディング

Sigune.

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第2章

第10話

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 トイレから出ようとドアを開けると、目の前に見慣れた顔がぬっと現れた。


 「……!」
デイドリームは腰を抜かした。

「どうした?急に」

「こっちのセリフだよ!」
デイドリームはレオに対してツッコミを入れた。

 「急に走りだしたからさ、どうした?って思って」
レオが聞くと「トイレだけど?」と誤魔化した。それにはレオも気づいた様子で、

「他には?困ってる事あったら言っても良いから」
(急に優しいな、コイツ)とか思いながら、デイドリームは「大丈夫、困りごとなんかないよ」と答えた。

 デイドリームがトイレの個室から出ると、レオがこう言った。

「お前、汗かいてんじゃん」

「え?」
デイドリームは汗をかいていた事がばれてしまった。

 さっき念入りに拭いたつもりだったが、まだ残っていたみたいだ。


 レオが聞いた。 

「本当に何かない?困ってる事」

「実は……」

 デイドリームは言葉に詰まりながら本当のことを話した。周りからの視線を意識するようになった事とか、トラウマで能力を使えない事とかを話した。

 すると、レオの口から予想外のひと言が飛び出した。
「ごめん!俺が悪かった!」

「は?」
トイレの外まで聞こえるような大声での謝罪に対し、目を見張り思わず言ってしまった。

 「マジでごめん。あのいたずらが原因で、能力使えなくなったんだよな」

「まあ、それはそうだけど」

「ごめんな」

「うん。全然大丈夫」

デイドリームは強がってしまった。大丈夫なはずないのに。

 そして、お茶を濁そうと、「もう試験戻ろう」と促したが聞いてくれなかった。

「あと……」
デイドリームは(まだあるのかよ)と内心、思いながら聞いた。

 するとまた、レオが平常心を失いそうな予想外のひと言を発した。

「実は、周りにデイドリームの能力の事、ばら撒いたの俺なんだ!」

デイドリームは二度目の「は?」を繰り出した。

「ここに、職場体験で来た時とか……ウェザーズモールに遊びに来た時とかに調子乗ってばら撒いてしまったんだ」

 (どこまで自分を追い詰めるんだろうか)と、デイドリームが思った矢先、レオが自分から窮地に立つようなひと言を発した。ウェザーズモールとはウェザーヒーロー達が休憩時や退勤時に通うことで有名なショッピングモールだ。

 そして間髪も入れずに発した言葉が会話に終止符を打った

 「あとSNSとかでもばら撒いてた」

「は?」


 デイドリームの三度目の「は?」が炸裂した。

 デイドリームは流石に腹が立った。そんな事をしたのに、レオは自分と気安く話していたのか……



 デイドリームは最悪の長話を切るように、トイレから出てさっきの会議室に向かった。青空が少し、くすんで見えた。

 一方、レオはトイレの中で頽《くずお》れていた。そのまま、しばらく呆然としていた。
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