35 / 80
2章
崇める者
しおりを挟む「はぁ、はぁ、はぁ」
薄暗い裏路地を、鞄を抱えた一人の少女が駆け抜ける。
その後を、男性の兵士が追う。
走る速度は目に見えて差があり、少女が兵士に追い付かれるのは時間の問題だ。
「はぁ、はぁ・・・あっ!?」
追って来る兵士を確認しようと、少女が振り向いた瞬間、足元の段差を見落としてしまい、躓いて転倒してしまった。
抱えていた鞄が少女に押し潰され、中に入っていたのであろう果物の液体が飛び散る。
「手間かけさせるな、盗人のガキが」
転倒した少女へ、手錠を握った兵士兵が近付く。
「うっ、ぐっぅ・・・!!!」
痛む身体を動かして少女は起き上がるが、最早逃げ切れる状況ではない。
「ほら、大人しく両手を出せ」
兵士がそう言った瞬間、少女の手のひらから強い光が放たれ、周囲は白一色に包まれた。
それは攻撃魔法ではなく、単なる目くらましの魔法だ。
だが隙を作るには十分な程に強力な光である。
少女は兵士が怯んだ一瞬の隙に立ち上がった。
しかし。
「うぐぁっ!?!?」
その瞬間、少女の背中を兵士が蹴り飛ばす。
少女の小さな体が突き飛ばされ、再び地面に転がる。
「悪いが、女子供相手だろうと油断する気はないんで」
兵士の身体を、薄い膜の様な結界が覆っていた。
兵士は一瞬で結界を展開し、魔法の光を冴えぎったのだ。
「ぐぅ、はぁ、はぁ、嫌だ、捕まりたくない。もうあんな生活は・・・!」
少女は呟きながら、震える手で懐から小刀を抜く。
「おぉ、怖。それで俺を殺すつもりか? 今ならまだ、ただの盗人としての罪で済むが、もし人を殺したら、どうなるだろうな?」
兵士が腰に掛けた杖を抜くと、杖の先端は熱された鉄の様に、オレンジ色へと染まる。
杖の先端からは、僅かに煙が漏れ出している。
「大人しくしてろよ、犯罪者が」
そして、片手で杖を構えた兵士が、倒れた少女へ近付く。
「ーーーっ!」
やられる。そう感じた少女は思わず目を背ける。
頭では最後まで抵抗しようとしているのに、身体は命令を聞かない。
この現実を見たくないと、目を閉じて蹲る事しか出来ない。
「た、助けて・・・!」
少女は、祈る様にそう呟く。
「だれか・・・誰か・・・助けて!」
何度も。
「だれかぁ・・・!!!」
何度も。
「・・・あれ?」
それは、ほんの数秒間の事。
少女にとっては永遠とも思える時間だったが、しかしいつまで経っても、杖が振り下ろされる事も、熱した先端を突き立てられる事も無かった。
疑問に感じた少女が、恐る恐る顔を上げると、そこには。
「・・・え?」
少女は、自分の目を疑った。
「どういう、事?」
少女の目に映るのは、血で染まった地面と、兵士だったものが地面に転がっている光景だった。
そして、その真横にはローブ姿の青年の姿がある。
ローブから覗く彼の腕は、到底人の物とは思えない、異形の姿をしている。
「熱した鉄杖で子供を脅すなんて、酷い奴もいたものだ」
青年は、鋭い眼でうずくまっている少女を視る。
「あ、あの。貴方は誰ですか?」
少女が恐る恐る問いかけるが、しかし青年が返事を返す事はない。
青年は少女を気に掛ける事なく、兵士の死体を掴み上げると、裏路地の奥へと去っていく。
「ま、待ってください! 貴方は・・・」
そんな恐ろしい殺人鬼である青年を、少女は呼び止めて、そして問いかける。
「貴方は、救世主様ですか?」
0
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる