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2章
南第4地区 02
しおりを挟むヴァーリア国には多くの異界人が住んでいるが、その全員が別の世界から転移してきたという訳ではない。
異界人が生んだ子供もまた、異界人として扱われているからだ。
雪妃は小さい頃にヴァーリア国へ転移してしまったが、そういった例は稀であり、幼い異界人は大抵がヴァーリア国で生まれた子達である。
裏路地の監視をする使い魔を通して、コハクは一人の少年を発見した。
小学校高学年か中学生程の少年である。
コハクはすぐに、その少年が異界人で、なおかつ反乱者なのだと察した。
異界人とヴァーリア人は、顔つきである程度判断が出来る。
特に日本人は、顔の判断が付き易い。
そして、コハクが少年を反乱者だと判断した理由は。
「なんだよアレ、どこぞの蜘蛛男みたいに・・・!?」
その少年が、昆虫の様に建物の壁をよじ登っているからである。
壁には手で掴めるような箇所は少なく、とても簡単に登れるとは思えない。
もしそれが可能だとすれば、それは魔法である。
怪しいと思い、コハクが少年を監視していると。
少年は空いている窓を見つけると中へと侵入した。
どう見ても怪しい。
コハクは少年のいる位置を地図で確認して、直ぐに現場へと向かい走り出した。
***
その少年は、屋上から裏路地を見下ろしていた。
何やら物が詰め込まれたカバンを背負っており、そして彼の手には、通信用の魔術器であるマジック・デバイスが握られている。
デバイスは携帯電話を元に作られた魔術器であるが、しかし元の世界の様に、一般の人々にはあまり流通している物ではない。
ましてや、まだ軍にも入れない様な年齢の子供が持っているはずがないのだ。
つまり、彼はただの異界人の子供という訳ではない。
その少年がいる屋上へ、コハクは辿り着いた。
少年は直ぐにコハクの気配を察するが、特に逃げる気配はない。
「あの、こんにちは」
コハクは、あくまでも優しく少年に声をかける。
騙す様で申し訳ないと思いながらも、しかし乱暴に捕まえに行きたくはないのがコハクの心情であった。
しかし。
「っ!?」
少年がカバンから何か取り出した瞬間、小さな魔法の弾がシャワーの様にコハクへ降り注ぐ。
コハクは結界を展開して魔法弾を弾き飛ばすが、その隙に少年は屋上から飛び降りて逃走する。
「魔術器!? しかも、威力は低いけど攻撃用の武器じゃないか!!!」
コハクは少年を追って、屋上から裏路地を見下ろす。
少年は素早く壁を伝い、既に隣の建物へ向かっていた。
「全く・・・!」
コハクはデバイスを取り出すと、式利に繋いだ。
「もしもし、式利さんですか!? 攻撃用の魔術器を所有している少年を見つけたのですが、はい!」
コハクは連絡を取りながら、近くで待機させていた使い魔を操作して、逃げる少年の行く先を予測し、先回りさせる。
そして少年が通過するタイミングを見計らい、使い魔を起爆した。
「うっ!?」
閃光と爆風に驚く少年。しかしそれらに殺傷する程の力はない。
代わりに、魔法の蔦が伸び、少年を捕えて壁に貼り付ける。
「ちょっと、そこのキミ!!! 乱暴するつもりはないから、そこでじっとーーー」
コハクが少年へ呼びかけるも、少年はまた懐から魔術器を取り出し、その魔術器で蔦を切断する。
蔦の拘束を解いた少年は、上手く壁を伝いながら下へ降り、再び逃走を図る。
「くそっ!? あの少年、一体どれだけ魔術器を持ってるんだよ!?」
コハクはデバイスを仕舞うと、魔法で鎖を生成して屋上の床に固定して、それを伝って下に降りる。
そして上手く着地すると、直ぐに近くに待機させていた残りの使い魔も呼び寄せた。
呼び寄せられた使い魔達は先程と同じく、逃げる少年の後を追い、そして少年の逃げ道を塞ぐように炸裂し、発現した魔法の蔦が、少年の逃げ道を塞ぐ。
少年は魔術器で蔦を切断しようとするが、コハクはそれを読んで、もう一本の蔦を操り少年の腕を絡め取る。
その時。
少年を捕えていた魔法の蔦が切断される。
そして、深くローブを羽織った何者かが、少年を庇う様に現れた。
「なにっ!?」
身体は少年よりも少し大きい程度で小柄で、ローブに隠れて顔は見えないが、しかし少年よりは年上の人物だろう。
コハクは更に使い魔を起爆して蔦を生成し、二人まとめて捕えようとするが、しかし。
それは、ローブを羽織った人物の持つ盾によって遮られてしまった。
(あの少年の仲間か・・・!?)
ローブを羽織った人物が盾で蔦を防いでいる隙に、少年は逃走し、裏路地から姿を消した。
「・・・!?」
そして、現れたのは盾持ちだけではない。
同じ様にローブのフードで顔を隠した反乱者が、コハクの後ろ側の通路から現れる。
その数は3人。 前方の盾持ちを合わせれば4人であり、丁度コハクを挟み撃ちする形である。
(ちょっと、マズイか)
目に見える相手の武器は盾のみだが、先程の少年の様に、何か魔術器を隠し持っているに違いないだろう。
相手に殺意があるのかは不明だが、装備の整っている兵士いえど、4人を相手に挟み撃ちを受けている状況では、下手に手を出すのは得策とは言えない。
反乱者達も直ぐには動かず、コハクの出方を伺っている様子だ。
一度撤退するべきか。それとも、剣を抜き戦闘するべきか。
コハクが選択を悩んでいる、その時。
「っ!?」
上から魔法の鎖が伸び、3人の反乱者へ襲いかかる。
「う、上だ!!!」
魔法の鎖は瞬く間に2人の反乱者を絡めとると、そのまま上へとつり上げていく。
「まずは、お二人。ここでじっとしててください」
現れたのは、コハクの連絡を受けていた式利である。
式利の放つ魔法の鎖は、捕えた反乱者達にがっちりと巻き付き、文字通り手も足も出せないだろう。
「さて、残りは二人です。コハクさんは、そちらの盾持ちを追って下さい」
「はい! 了解しました」
盾持ちの反乱者は、盾を背負い裏路地から逃走しようと走り出した。
しかし、路地の入口へと待ち伏せさせたコハクの使い魔が起爆する。
「うぅっ!?」
軽い爆風が盾持ちを怯ませ、そして魔法の蔦が片腕、片足を束縛する。
盾持ちの反乱者は直ぐに空いた右腕で盾を構えるが、傍で使い魔が起爆し、残る片腕を絡め取る。
その衝撃で盾は地面に落下し、顔を隠していたフードも剥がれる。
「まず一人は、なんとか・・・っ!?」
今度こそ確実に確保する為にと、接近するコハクだったが、
相手の顔を見て、思わず足が止まる。
「え、な、なんで?」
見間違いかと思い、コハクは束縛された"少女"に近付く。
だが近付く程、それが見間違いではない事がはっきりと分かってしまう。
「雪妃さんが、なんで、ここに?」
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