異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

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3章

黒霧

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 いくらセンリ達が強い兵士だろうと、ユークリウッドにトドメを刺す事は出来ない。 

 このままずっと戦い続ければ、疲労が溜まり、集中力は途切れ、いつか痛い一撃を貰う事になるだろう。

 長期戦は、こちらが不利だ。


(僕がやらなきゃ、僕が戦わなきゃ、あいつは倒せない・・・)

 ユークリウッドの特異な身体に唯一通用したのは、コハクが持つ"魔創"の力だけである。

 死が近付く感覚を振り払い、コハクはユークリウッドへと接近した。

 コハクの接近にに気付いたユークリウッドが、肩の腕を振るいコハクを叩き潰そうとするが、それをセンリが斬り裂いた。

 ボロボロになっていた肩の腕は砕け、ついに切り落とされる。
 

「グxxxォxォgggzxxxx!!!」
 
 だが、そこで終わらない。

 ユークリウッドは再生し掛かっている最中の異形の左腕をコハクへ向け、黒い霧を噴出した。
 
「ぐあぁぁぁ、くそ!!!」

 コハクは結界と盾で霧の攻撃を防ぐが、結界は砕けていき、身体が押し返される。

 しかし突然、コハクに襲いかっている黒い霧の噴出する力が弱まった。
 
 何事かと思ったコハクだが、すぐにその理由がわかった。

 霧の噴出が弱まったのではない。

 コハクの周囲を、強力な結界が保護しているのだ。

「これは、フローラさんの魔法か・・・!」

 フローラの結界で護られたコハクは、黒い霧を押し返し始めた。
 
 ユークリウッドは右腕、そして肩の腕の再生を始めるが、
センリの振るう嵐の様な剣撃が、再生し掛けていた腕を、そして身体を切り裂き、ユークリウッドの身体が霧状に散っていく。


 そしてコハクは、無防備となった霧状のユークリウッドへ手を伸ばし"インヴェイジョン"で魔力を吸い上げる

「gggxグ、ぐっ、うっ!?」

 ユークリウッドの魔物の様な奇声に、人間らしい声が混ざる。
 

 その時。

「ユーくん?」

 また、コハクの耳に少女の声が響いた。


「うっ・・・君は、なんなんだ・・・!?」

 今度ははっきりと、コハクは少女の声を聞いた。


「あなたは、生きて」

「君は・・・」

 今にも消えそうな少女の声だが、それを聞いていると、何故か気持ちが落ち着くのを感じた。



「コハク! 避けろ!!!」

 センリの呼びかけで、コハクは我に返った。

 ユークリウッドの身体から伸びた、蛇の様な触手がコハクの目の前に迫っていたのだ。 
 
「ぁ、ァァ、アリア・・・!!! 」

 ユークリウッドが呟く。

 怨念を込めた形相で、コハクを捕えようと触手を伸ばす。


 しかし、ユークリウッドの頭部をセンリの剣が切り裂く。

 その斬り痕から、ワンテンポ遅れて虹色の魔力が放出し、ユークリウッドの頭部を吹き飛ばす。


「ガkkkxxx!!!」

「うっ!?」

 その瞬間、コハクへ伸びていた触手が散って霧が噴出し、コハクを突き飛ばす。

 それと同時に、ユークリウッドの身体から大量の霧が噴出して周囲を包みこむ。

「くそ、なんだ、霧が!?」


 霧はセンリとコハクの周りだけでなく、フローラや式利の周りまで広り、
辺り一面、灯りの届かない洞窟の中の様に、暗闇に包まれた。


「み、みんな!? くそ、視界が・・・」

 コハクが起き上がると、辺りは数センチ先すら見えない程であった。
 

「はぁ、はぁ、くっ、あれは・・・!」

 式利が、皆よりも早く霧の中から脱出する。

 すると、身体の殆ど霧に変化させたまま逃走するユークリウッドの姿が目に映った。

 ユークリウッドは、そのまま奥の民家へと逃げ込んでいく。

「奴を見つけました! 民家の集合地帯へ逃走しています!」

 式利がデバイスで皆に通信を取る。


 視界の取れないコハクは、使い魔を生成してそれを上空へと放ち、上から視界を確認する。

「式利さんの姿が見えました。僕も今、向かいます!」

 使い魔の視界を頼りに、霧の中を進むコハク。


 その時、遠くで「いてっ!」とセンリの声が聞こえた。
  
「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫。ちょっと壁にぶつかっただけだ。先に式利のとこへ向かってくれ」

「わかりました」

 デバイスでのやり取りをを終えると、コハクは式利の向かった方向へと駆けだした。
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