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【第1章】『遅刻ヒロインには近づくな!これは初期イベントだ』
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ごく最近、私のもとに一つの知らせが届いた。
王太子ユリウス・フォン・ヴァレンシュタイン殿下との婚約が正式に決まったという、
恐れ多くも栄誉ある知らせだった。
美しい金髪に澄んだ碧眼、王子然とした気品と立ち姿。
お会いしたのは数度きりだが、礼儀正しく、理想の王子様のような方だった。
けれど──。
「姉上、それはマズい!断罪フラグが三段重ねで襲ってくる予感しかしないでござるぞ!」
婚約の話を聞いたレオが、何やら奇怪な言葉を叫びながら部屋を転げ回った。
「で、ござるって……気持ち悪い」
私が即座に突っ込むと、彼は前髪の下からぎょろりとした目で私を見上げる。
「断罪ルートですよ姉上!婚約者ポジ、上位貴族ポジ、美形ポジ……全部悪役フラグの典型!この学園という舞台に乗った時点で、我らはすでに死地に足を踏み入れているのでござるよ!」
「句読点くらい打ちなさい」
「デュフフ、読点を入れるなど軟弱なる者の所業……!」
……このように、弟はたびたび意味不明な言動を繰り返す。
けれど、これまで何度か――ほんの些細な出来事が、まるで“誰かが作った筋書き”のように運ばれたことがあったのも事実で、
私は最近、彼の“オタク妄言”に少しだけ耳を傾けるようになっていた。
そして、いよいよ私たち双子が王立貴族学園へ入学する当日を迎えた。
盛大な式典、並ぶ名門の子息たち、その中で私は胸を張って式に臨もうとしていたのだが――。
---
「ま、間に合った~~っ!!」
式典会場の大扉が勢いよく開き、明るい声が高らかに響き渡った。
ピンク色のふわふわした髪をハーフアップにまとめた、小柄な少女。
平民出身だと一目で分かる控えめな制服に、焼きたてのパンを両手に抱えたその姿は、
その場のすべての視線を一身に集めた。
私は思わず声を出しそうになった。「あなた、入学式に遅れるなんて非常識にも──」
その瞬間、背後から袖をぐいっと引かれる。
「姉上ストップですそれは罠です罠なんですよ初期フラグ構築イベントそのものですからっ!」
「……レオ、ちょっと声が大きいわ」
「むしろ小さく叫んでおります!我が魂の警鐘ッ!」
私が言葉を飲み込んでいる間に、少女は壇上の王太子の前に立ち、頭を下げて「ごめんなさい、迷っちゃって~」と笑った。 教師のひとりが彼女を軽く叱り、それに対して王太子は、
「まだ入学したばかりだ。あまり厳しく咎める必要はないでしょう」と微笑みながら庇った。
レオがそっと囁く。「姉上、もし今の場面で注意していたら……殿下の好感度が、-15くらい下がっておりましたぞ」
私は、そっとため息をついた。
王太子ユリウス・フォン・ヴァレンシュタイン殿下との婚約が正式に決まったという、
恐れ多くも栄誉ある知らせだった。
美しい金髪に澄んだ碧眼、王子然とした気品と立ち姿。
お会いしたのは数度きりだが、礼儀正しく、理想の王子様のような方だった。
けれど──。
「姉上、それはマズい!断罪フラグが三段重ねで襲ってくる予感しかしないでござるぞ!」
婚約の話を聞いたレオが、何やら奇怪な言葉を叫びながら部屋を転げ回った。
「で、ござるって……気持ち悪い」
私が即座に突っ込むと、彼は前髪の下からぎょろりとした目で私を見上げる。
「断罪ルートですよ姉上!婚約者ポジ、上位貴族ポジ、美形ポジ……全部悪役フラグの典型!この学園という舞台に乗った時点で、我らはすでに死地に足を踏み入れているのでござるよ!」
「句読点くらい打ちなさい」
「デュフフ、読点を入れるなど軟弱なる者の所業……!」
……このように、弟はたびたび意味不明な言動を繰り返す。
けれど、これまで何度か――ほんの些細な出来事が、まるで“誰かが作った筋書き”のように運ばれたことがあったのも事実で、
私は最近、彼の“オタク妄言”に少しだけ耳を傾けるようになっていた。
そして、いよいよ私たち双子が王立貴族学園へ入学する当日を迎えた。
盛大な式典、並ぶ名門の子息たち、その中で私は胸を張って式に臨もうとしていたのだが――。
---
「ま、間に合った~~っ!!」
式典会場の大扉が勢いよく開き、明るい声が高らかに響き渡った。
ピンク色のふわふわした髪をハーフアップにまとめた、小柄な少女。
平民出身だと一目で分かる控えめな制服に、焼きたてのパンを両手に抱えたその姿は、
その場のすべての視線を一身に集めた。
私は思わず声を出しそうになった。「あなた、入学式に遅れるなんて非常識にも──」
その瞬間、背後から袖をぐいっと引かれる。
「姉上ストップですそれは罠です罠なんですよ初期フラグ構築イベントそのものですからっ!」
「……レオ、ちょっと声が大きいわ」
「むしろ小さく叫んでおります!我が魂の警鐘ッ!」
私が言葉を飲み込んでいる間に、少女は壇上の王太子の前に立ち、頭を下げて「ごめんなさい、迷っちゃって~」と笑った。 教師のひとりが彼女を軽く叱り、それに対して王太子は、
「まだ入学したばかりだ。あまり厳しく咎める必要はないでしょう」と微笑みながら庇った。
レオがそっと囁く。「姉上、もし今の場面で注意していたら……殿下の好感度が、-15くらい下がっておりましたぞ」
私は、そっとため息をついた。
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