姉上、それは悪役令嬢まっしぐらですぞ! ~悪役ルートは拙者が全力回避いたす~

ゴンザレスゴルゴンゾーラ

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【第2章】氷の貴公子は猫背だった

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……違う。
何かが、決定的に違う。

私の推し――氷の貴公子・レオナルド公子は、
中庭の隅のベンチで猫背で、前髪で顔が隠れて、
そして――

『風属性はつらいよ3~やっとパーティに入れました(涙)~』



を読んでいた。

私、しばらく立ち尽くしてた。心の中でローディングが止まらなかった。

「レオ様が……ラノベ読んでる……」



いや、読書が好きなのは知ってた。原作でもよく図書館にいたし。
でも、ラノベって……え、しかもこれ、シリーズ続いてるやつじゃない!?
「第3巻」って書いてある。ってことは――

「続き……待ってるの……?」



情報が多すぎる。脳が処理を拒否してる。

レオ様、あの麗しき推しが、
風魔法で苦しむ“ぼっち主人公”に共感してる可能性が出てきた。

※ちなみにこの世界に魔法はない。
レオ様、なんで“風魔法”の話を真顔で読んでるの!?!?!?!?

もうね。理性が崩れかけた。
でもそのとき、ふと風が吹いた。

すっ……と前髪がめくれて、顔が見えた。

「……っ……!!」



やっぱり、レオ様はレオ様だった。

完璧な横顔。睫毛長い。肌きれい。顎のラインまで神。
目元はキリッとしてて、しかも本気で内容に集中してるから真剣な表情してるの。

やばい。尊すぎる。

……って、これがラノベ読んでる顔ってマジ?
風魔法の発動条件について真面目に読んでる顔って、こんなにかっこいいの?

頭が混乱してた。推しが崩壊してるはずなのに、心は逆に高鳴ってる。

「……複雑……でも、もっと知りたい……」



そんな自分が嫌だった。けど止められなかった。

その日から、私は観察を始めた。

食堂、図書館、校庭、廊下。偶然を装いながら、レオ様の行動パターンを記録。
読んでいる本のタイトル、食事の内容、歩き方、咳払いの回数までチェック済み。

ええ、これはストーキングではない。研究である。対象が尊すぎるだけ。

でも数日後。

中庭でレオ様がまた『風属性はつらいよ4~恋愛フラグはいつも吹き飛ばされます~』を読んでいたそのとき。

背後から――冷たいけどやけに高い声がした。

「クラレンス嬢、最近よくお見かけしますわね?」



ビクッと振り向いた先にいたのは――

金髪ツインテール、満面の笑み。マリエッタ・ルシアン嬢。

いや、待って?なんでここに?
ていうか、なんで笑ってるのに目が笑ってないの?

「レオ様って、ちょっと警戒心が強いんですの。
誰かにじーっと見られると、“魔族に狙われてる”って思う癖があって……ふふっ。
クラレンス嬢も、気をつけた方がいいですわよ?」



「……魔族!?」



突っ込むべきところが多すぎて思考が爆発した。
え、何?レオ様、“魔族の気配”感じてたの?それ私の視線のこと!?

違うよレオ様……私はただ……その……
あなたが何読んでるか知りたかっただけで……

って、これ完全に不審者じゃん私。

そしてマリエッタは、ニッコリ笑ってその場を去った。

その後ろ姿を見送りながら、私はただ、ベンチでラノベを読み続けるレオ様の後ろ姿を見つめた。

……何これ。新手の沼?


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