姉上、それは悪役令嬢まっしぐらですぞ！ ～悪役ルートは拙者が全力回避いたす～

【第12章】平穏という名の軍隊生活

ラフィネ修道院での修羅場から数日が過ぎた。
学園にはいつもの日常が戻り、春めいた陽光が校庭を照らしていた。

そんな中——

「おはよう、カイル。今日は風が気持ちいいわね」
マーガレット・クラレンス嬢は、上品な令嬢の微笑みを浮かべて声をかけた。

「ハッ、はいっ！まことに清々しい朝であります！」
返答するカイル・バークレイの姿勢はピンと伸び、まるで軍の隊長に敬礼する兵士のようであった。

彼はマーガレットの斜め後方、常に半歩うしろをキープする位置を死守している。まさに警護、いや、服従のスタイルである。


呼ばれれば即座に現れ、指示があれば全力で遂行。
カイル・バークレイは婚約者マーガレット嬢に“全力で従う”生活を送っていた。
そして意外にも、彼にはその生き方が性に合っているようだった。


「カイル。わたくしの教科書、机に並べておいて」
「ハッ！ただいま配置いたしますッ！」
「今日のわたくしの気分に合った香りの紅茶が飲みたいわ」
「了解ッ！ただちに茶葉選定任務へッ！」

駆け出すカイル。走る姿に一切の無駄なし。
気がつけば、背筋ピン！無言で背後に控える姿は、まるで近衛兵。

カイルの内心はこうであった。
（ここは……学園じゃない。軍隊だ。否、戦場だ……！）

しかし、嫌ではない。
むしろ、「俺……今、役に立ってる……ッ！」という謎の充足感がカイルの心を満たしていた。

──その様子を木陰から観察していたのは、セレナとレオ。

「……ねえ、レオ。あの２人、うまくいってるのよね……？」
「ふむ……そう見える、でござるな……」

レオは熱く語り出した。

「姉上……あれはもう、恋愛というより“忠誠に殉ずる従者ルート”でござる！
古典乙女ゲーム『薔薇の軍靴と茨の檻ローズ・ブーツ・イン・チェインズ』の、伝説の裏ルートを彷彿とさせるでござる！」

「伝説の裏ルート……？」
「そう、ヒロインが鬼軍曹で、騎士が従者になるやつでござる！
あのルートは好感度マックスなのに、エンディングで“隊長ッ！俺、一生ついて行きますッ！”で終わるやつでござる！」

セレナは吹き出しそうになった。

「で、でも……なんだかんだ幸せそうよね。見ていて安心するわ」
「うむ……地獄のようなスパルタの中にも愛はある、そう感じるでござるよ……」

レオは遠くを見つめた。
そこには、メレンゲ菓子を胸に掲げ、軍靴の女神に忠誠を捧げる男の姿。

「恋とは……奥が深いでござるな……」


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