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【第13章】卒業パーティーにはパートナーが必要
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ルシアン家に迎え入れられた“従順なしもべ”、優秀な諜報部員ルルナは、さっそくその能力を存分に発揮していた。
表向きは「遠縁の親戚」という建前で、マリエッタやシリルに付き添い社交界にも顔を出し、マダムのサロンから父・宰相主催の紳士の会まで、あらゆる場で器用に立ち回っている。給仕のように控えめに振る舞いながらも、腹に一物ある貴族から情報を引き出す手腕は、一部の高官からも「猫かぶりの天才」と噂されるほどだった。
視察団として王都を訪れていた面々は、ほどなくして日常へと戻っていった。
女性不信リハビリで視察に同行したはずのシリルは、結局恋愛には一ミリも目覚めず、ただただ「恋愛観の無」が明確になっただけの徒労に終わった。
「ルシアン家のお家存続の危機は、依然として危機のままだな」とユリウスが零せば、
「マリエッタが子供を二人以上産んで、兄の養子にするしかないわね」
と、セレナがまるで他人事のように言って場を和ませた。
やがて季節は秋を迎え、三年生たちは卒業の足音を聞く。
学園では卒業パーティーの準備が始まり、貴族の子女たちはパートナーとおそろいの装いで出席するのが恒例だった。卒業とともに婚姻を結ぶカップルも多く、このパーティーは“最後の学生交流”であると同時に、“社交界の始まり”でもある。
ユリウスは、セレナのために一式のドレスとアクセサリーを仕立てた。王家御用達の宝石細工師が手がけたそれは、白銀に瑠璃の輝きをちりばめた見事な逸品だった。
セレナはほんのりと頬を染め、「ありがとう、嬉しいわ」と控えめに笑った。
それを見たユリウスは、一瞬で脳内に満開の花畑を咲かせた。
一方レオはというと、
「これぞ拙者とマリエッタ殿の正装でござる!!」
と高らかに宣言し、公爵家の財力をフル投入して、オーダーメイドのコスチュームを作り上げていた。
その衣装はまさかの――
「異世界大戦記・第10巻、マジェスティ・ピンクルート最終戦の舞装束でござる!!!」
「す、すごい衣装ね……でも、本当にこれでいいの?マリエッタ」
と呆れるセレナに、マリエッタはうっとりした笑みを浮かべて応える。
「世界で一つだけの、愛が込められたドレスって最高ですわ♡ レオ様、ありがとう、大好きぴょん☆」
(……それでいいならいいんだけど)と、セレナは半ばあきらめ気味に呟いた。
ユリウスがふと思い出したように言う。
「カイルも、マーガレット嬢にアクセサリーを贈ったらしいな」
それを受けて、ふと現れたのは――シリルだった。
「……あのカイルが婚約者に贈り物をするなんて、人間は成長するものなんですね」
思わぬ登場に、皆がどよめく。
(おい、誰か聞けよ)(いやお前が)(いやそっちだろ)
とアイコンタクトで揉めた末、ユリウスが咳払いをひとつ。
「シリル、君は卒業式の主役でもあるし、当然パーティーにも出席するだろう? その……パートナーがまだ決まっていないなら――」
言いかけたそのとき、シリルはあっさりと、
「パートナーは、婚約者と出席しますよ」
と、事も無げに言った。
「誰っっっ!?!?!?」
全員の声がハモる。
「……え? 誰って。アナスタシア・ベルナール嬢ですが」
アナスタシア・ベルナール。建国以来の忠臣ベルナール家の一人娘にして、冷静で気高く、将来有望と名高い才媛である。
「な、なななななんでお兄様!!!」
と、マリエッタが驚愕の声を上げる。
「……ルルナが“良い政略相手”を見つけてきてくれてね。紳士の集いで伯爵と話してる間に、うまく話が進んだらしいんだ。地盤の安定にもなるし、我が家には好都合だよ」
キラーン、とメガネが光った。
「──よく調教された犬のようだ」
その言葉に誰も反論できなかった。
ルルナは、ルシアン家にとって最強の一手だったのだ。
シリルの視線に甘さはない。だがそこに、信頼と利用価値と、確かな満足がある。
──こうして、卒業の季節が訪れた。
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表向きは「遠縁の親戚」という建前で、マリエッタやシリルに付き添い社交界にも顔を出し、マダムのサロンから父・宰相主催の紳士の会まで、あらゆる場で器用に立ち回っている。給仕のように控えめに振る舞いながらも、腹に一物ある貴族から情報を引き出す手腕は、一部の高官からも「猫かぶりの天才」と噂されるほどだった。
視察団として王都を訪れていた面々は、ほどなくして日常へと戻っていった。
女性不信リハビリで視察に同行したはずのシリルは、結局恋愛には一ミリも目覚めず、ただただ「恋愛観の無」が明確になっただけの徒労に終わった。
「ルシアン家のお家存続の危機は、依然として危機のままだな」とユリウスが零せば、
「マリエッタが子供を二人以上産んで、兄の養子にするしかないわね」
と、セレナがまるで他人事のように言って場を和ませた。
やがて季節は秋を迎え、三年生たちは卒業の足音を聞く。
学園では卒業パーティーの準備が始まり、貴族の子女たちはパートナーとおそろいの装いで出席するのが恒例だった。卒業とともに婚姻を結ぶカップルも多く、このパーティーは“最後の学生交流”であると同時に、“社交界の始まり”でもある。
ユリウスは、セレナのために一式のドレスとアクセサリーを仕立てた。王家御用達の宝石細工師が手がけたそれは、白銀に瑠璃の輝きをちりばめた見事な逸品だった。
セレナはほんのりと頬を染め、「ありがとう、嬉しいわ」と控えめに笑った。
それを見たユリウスは、一瞬で脳内に満開の花畑を咲かせた。
一方レオはというと、
「これぞ拙者とマリエッタ殿の正装でござる!!」
と高らかに宣言し、公爵家の財力をフル投入して、オーダーメイドのコスチュームを作り上げていた。
その衣装はまさかの――
「異世界大戦記・第10巻、マジェスティ・ピンクルート最終戦の舞装束でござる!!!」
「す、すごい衣装ね……でも、本当にこれでいいの?マリエッタ」
と呆れるセレナに、マリエッタはうっとりした笑みを浮かべて応える。
「世界で一つだけの、愛が込められたドレスって最高ですわ♡ レオ様、ありがとう、大好きぴょん☆」
(……それでいいならいいんだけど)と、セレナは半ばあきらめ気味に呟いた。
ユリウスがふと思い出したように言う。
「カイルも、マーガレット嬢にアクセサリーを贈ったらしいな」
それを受けて、ふと現れたのは――シリルだった。
「……あのカイルが婚約者に贈り物をするなんて、人間は成長するものなんですね」
思わぬ登場に、皆がどよめく。
(おい、誰か聞けよ)(いやお前が)(いやそっちだろ)
とアイコンタクトで揉めた末、ユリウスが咳払いをひとつ。
「シリル、君は卒業式の主役でもあるし、当然パーティーにも出席するだろう? その……パートナーがまだ決まっていないなら――」
言いかけたそのとき、シリルはあっさりと、
「パートナーは、婚約者と出席しますよ」
と、事も無げに言った。
「誰っっっ!?!?!?」
全員の声がハモる。
「……え? 誰って。アナスタシア・ベルナール嬢ですが」
アナスタシア・ベルナール。建国以来の忠臣ベルナール家の一人娘にして、冷静で気高く、将来有望と名高い才媛である。
「な、なななななんでお兄様!!!」
と、マリエッタが驚愕の声を上げる。
「……ルルナが“良い政略相手”を見つけてきてくれてね。紳士の集いで伯爵と話してる間に、うまく話が進んだらしいんだ。地盤の安定にもなるし、我が家には好都合だよ」
キラーン、とメガネが光った。
「──よく調教された犬のようだ」
その言葉に誰も反論できなかった。
ルルナは、ルシアン家にとって最強の一手だったのだ。
シリルの視線に甘さはない。だがそこに、信頼と利用価値と、確かな満足がある。
──こうして、卒業の季節が訪れた。
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