カケス男とウグイス女

しっかり村

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(終章)新緑とミサゴの夕焼け

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新緑とミサゴの夕焼け

新緑の兆しと真っ赤なミサゴのコントラストが夕陽を浴びる。柏の樹も二本になったことで心強いだろう。将来ホケチョの家族が二世帯で暮らすとき、どんな家になっているか楽しみだ。ホケチョとウグイス女のコンビなら、麓で暮らす者たちが遊びにきたときもにこやかにもてなしてくれるに違いない。

ベンケェとカケス男は、麓で待つキタキツネ先生とヒグマ親父、そして隣のヘブン島で息子一家の消息を案じている老夫婦に思いを馳せた。




「ホウホウ」

「何や、突然?」

「どうぞどうぞ上がってお茶でも呑んでいって下さいと言ってます」

「なんやホケチョ、お前言うとる意味わかるんやな。さすが母子やな」

「お言葉に甘えるとするかい、カケス男や」

「そうでんな」

ベンケェとカケス男が夕陽の中をミサゴへ向かう。ホケチョは、樹上のミサゴへのアプローチとして自らの長い胴体を二人に差し出した。

「お前を踏んで進めというわけか」

「ええ、いろいろ使い道のある胴体で気に入ってます」

「ほな、遠慮のう」

ホケチョのウロコをまとった20メートルの胴体は、らせん状になだらかなスロープを描き二人をミサゴの玄関へと導いた。中ではウグイス女が淹れたての柏茶を用意して待っていた。

「ホウホウ」

「柏茶です。どうぞと言ってます」

「かたじけない。抗酸化作用があって不老長寿にイイってぇ奴じゃな、すでに結構長生きしとるんじゃが、良いと聞けば何でも試したくなるもんじゃ。のうカケス男や」

カケス男は大きな窓のあるいちばん前の席に気をとられている。

「相変わらず落ち着きのない奴だ。ホレ、ちっとこれ呑んでみい」

カケス男は、座席の前のごちゃごちゃした機器を興味深そうに眺めながら、ベンケェの手渡した柏茶をふた口ほど呑んだ。

「何やら懐かしい味がしまんなあ、ベンケェはん」

そう言って一気に呑みほすとカップをベンケェに返し、座席の前のスイッチやボタンをいじりだした。

「これ、ヒトん家のもん、勝手にいじるんじゃないで」

と、ベンケェがたしなめた矢先……。

ドルルンッ!ブォンブォン!パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・・・・・

突如大きな音がしたかと思うと、ミサゴのあちこちから煙が出て、左右の羽根のようなものがパラパラと回り始めた。

「ホウホウ!」

「何じゃ何じゃ!」

「爆風か? 山が怒ったか?」

ウグイス女は機内を飛び回り外へ、ベンケェはホケチョと共にミサゴを離れて辺りを見回した。

山は怒っていない。爆風も爆音もミサゴからだ。左右のプロペラが見えなくなるほどのスピードで回り、下に向かって煙を吐いている。カケス男はいちばん前の席にいて冷静だ。

「これ、カケス男や!危ないて。早よ出んか!」

ベンケェの怒声を聞いたのはカケス男だったかミサゴだったか……ほどなく振動と爆音が収まった。シッカリ山の頂上台地は静寂を取り戻し、何事もなかったかのようにカケス男が降りてきた。

カケス男が三日月池の畔に足を着け、ベンケェたちの所へ踏み出すと、ミサゴを支えていた二股の柏がミシミシと音を立て始めた。振動で絶妙のバランスが崩れたのか、やがてメキメキと裂けて木肌が露わになる。しかし、折れそうな枝は、隣りの斜立した柏にがっしりと支えられた。ホケチョの新しい故郷になるであろうウグイス女の住居は、二本の柏によって強固な基礎が築かれた。




「ほなベンケーはん、帰りまひょか!」

「え?泊まっていかれないんですか」

「久しぶりの再会やろ! 水入らずで過ごしたほうがエエて。ワイ等はお邪魔虫や。それにキタキツネ先生とヒグマ親父も下で待っとるさかい」

「そうじゃ」

「じゃあ、僕が滝の下まで送り届けましょう」

「ホケチョ君、気ぃ遣わんでもエエてエエて。大の男二人が二十歳の若者に送って貰うゆうのも何だか気恥ずかしいもんや。お前さんはこれからが大変なんや。しっかりやりぃや!」

「そうじゃ、オヌシはこの美しい花園を母親としっかり護らんといかんのじゃ!ワシ等は麓を護る。このシッカリ山が、オシリ島がいつまでも美しい生命の繋がれる島であるように。ワシ等はこのザイルを使って降りる。また用のあるときはこのザイルを使って登ってこれるように、ミサゴにしっかり結わえておく。じゃっから、今日はここでサラバじゃ」

「ほな!」

「お二人とも、道中お気をつけて!」

「ホウホウ」

「何や?さっきからホーホーだけで、鳴き声変わったんやな。これじゃウグイス女やなくて、ただのフクロウ女やがな」

「ホケチョが見つかったからじゃろう」

「ナルホドね!ところで行方不明の親父さんの名前何やったっけ?」

「ホウとかいったな」

「ほな親父さん見つかったら鳴かんようなりますやろか?」

「そうかも知れんのう。一体どこに居るんやら」

「意外と近くに居ったりするんやなあ、こうゆう時って・・・・」

振り返ると、幽かなオレンジ色の輝きが、いつまでも手を振り続けるホケチョとウグイス女を包み込んでいる。ミサゴは先ほどの爆音の余韻か、天にも昇りそうなほど紅い。ホケチョの竜のザイルは、ミサゴからのベンケェとカケス男の踏み跡を寸分たがわずトレースしている。アカエゾマツの林に入る前に二人はもう一度振り返った。

「ほんじゃあな!」  

(了)

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