カケス男とウグイス女

しっかり村

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シッカリ山へ

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シッカリ山へ
ホウホケチョ
「?」
ホウホケチョ
「おいおいカケス男や。こんなときに下手糞な鳴き真似は止せって!」
「ワイとちゃうって・・・・・」
ケチチョケチチョケチチョチチョ
「ああ、ごめんなさい。話がすっかり長くなってしまいまして・・・・・」
「そうしてシッカリ山と国見山に分かれたってわけやねんな」
「そうなんです。以来、わたしはこの樹の洞が棲み家となりました」

ホウホケチョ
「そのウグイス女さん・・・ですか?」
ホケチョが訊ねた。
はるか見渡すと、シッカリ山の崖の、あの斜立した柏の樹の上に巨きな鳥が留まっている。
「シマフクロウ?」
「エエ、概ねシマフクロウさんなのですが、顔だけが何だかニンゲンみたいなのですよ。ホラ、遠いので見えますかどうか、シルエットがニンゲンの女性なのです。だからウグイス女さんと呼ばせて頂いてます」
「もっと近くで見んとわからへんがな」
ホウホケチョケチョケチョケチチョチチョチチョ
巨きな鳥は、催促するような不器用な谷渡りを繰り返すと、しばらくホバリングして厚い雲の中へと入っていった。
「嗚呼、行ってしまったのう」
「ワイらも急ぎましょ」
「ええ」
「わたしが先頭を行きましょう」
「えぇっ? キタキツネ先生も行ってくださるんですか! しかも先頭で」
「もちろんですとも。この辺りはわたしのテリトリーですから。今の時期は残雪でわかりにくいので道案内しましょう」
「おぉっ!それは心強いです。よろしくお願いします」
身の軽いキタキツネ先生は四本の足で滑るように残雪をかき分けて進む。その踏み跡をベンケェが大きな足で踏み固め、ホケチョがしっかりとトレースしていく。そしてカケス男が周囲に気を配りながらしんがりを務める。
太陽はすでに真上よりかなりシッカリ山の方へ近づいている。あの厚い雲の中へ隠れるのも時間の問題だ。シッカリの滝を目指して真っ直ぐ歩く一行に、短い日照時間を奪い合う笹薮は高く、その下の残雪はかなり深い。しかし、一行の踏み跡は道となり、はるかに望んだ昨夜からの風景を着実に近づけている。
「この辺がいちばん深い谷なのです。あの時の溶岩流でずい分と削られました」
キタキツネ先生が記憶の続きを話し始めた。
「再び目覚めたとき、噴火は収まっていました。わたしは喉が渇いて仕方なかったので、おぼろな意識のままおそるおそる流れ落ちる滝壺へと近づきました。指を付けて舐めてみると、丁度よい温さと酸味でした。おそらくはシッカリ山の頂上のあの湖を起源とする流れなのでしょう。魚の骨を溶かすほどだった水は、流れ流れて浄化と希釈を繰り返し身体に摂りこむにほどよい味わいになっていたのです。そして何より驚いたのは、滝壺の水面に真っ白いふさふさの毛に覆われたキタキツネが映っていたことでした。辺りを見回したけれどわたしの他に誰も居ません。それが変わり果てた自分の姿だと認識させるのに、さほどの時間は掛かりませんでした。これもまた旧い命を糧とした新しい命なのだと……納得するより他に選択肢がなかったからです。生温い滝壺から大きく飛沫が上がり、崖を潤おしました。そして崖のあちこちに緑が芽生えていきます。その中でもっとも雄々しく育ったのが、あの柏の樹です。飛沫は更に上昇し、幽かな噴煙と雲を集め、互いに協力して常時シッカリ山の頂上を覆い隠すようになりました。わたしは四足歩行のキタキツネとして、垂直に切り立つ崖を見上げたとき、翼を失った自らの役割を悟りました。終の棲家を此処と定め、漂う流木を拾い集めては厳かに彫り、刻み、このオシリ島の自然と一体となった自らの生命と向き合おうと。そうして過ごしていた或る日のこと、散在する大小の溶岩の中を歩いているとき、何やら蠢く大きな黒い塊に躓いてしまいました。
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