5 / 33
伍 源とお春とカマクラ氏
しおりを挟む
伍 源とお春とカマクラ氏
すべてを失ったハルは本土の稚内市で「お春」と呼ばれ、実年齢不詳ながら源と同じ歳という設定で養護施設から学校へ通った。施設でも学校でも、孤児になったいきさつを聞かれたが、ヘヴン島じゃなくて礼文島、オシリ島は利尻島でしょ、と言われ、その先に話を進めることができなかった。隣りに立つ源も黙ってうつむくだけで、異空の島の存在を証明する言葉を持たない。
そんな二人が唯一心を開いたのが同級生のカマクラ氏だ。稚内でもっとも大きな網元の家に育ったカマクラ氏は富裕層らしい寛容な心で源とお春に接してくれた。ヘヴン島の存在も知っていたし、それどころか、先祖はオシリ島出身だという。
「何いうてんねん。あんな険しい島に人が住めるわけあらへんがな」とお春がテレビのバラエティ番組から吸収した関西弁で突っ込むが、確かにオシリ島の細かい地形やヘヴン島との位置関係など詳しかった。
源は学校が終わった後、カマクラ氏の家の漁を手伝い、お春は源の仕事が終わるのを待って一緒に帰った。源を待つ間はカマクラ氏と二人でいろんな話をした。
「春はヘヴンの王女やから、源と結婚したら源はヘヴン島の王様や。カマクラはんは、うちらにようしてくれるから一番の家来にしたるで」
「何を言ってますねん。私だってオロシア帝国オシリ王家の末裔です。両国の再興のための貴女と私の結婚なら賛成ですが、家来なんてまっぴら御免ですわ」
お春に好意を持っていたカマクラ氏だったが、愛想の良さと親の経済力あっての寛容さだけでは源に勝てないことは分かっていた。自分の親でさえ、漁師として見込みのある源を好んでいるのだ。カマクラ氏は、自分には男として女性の気を惹くホルモン的な魅力が欠けている、と思っている。だから、中学卒業と同時に、あえて自衛隊に入隊した。
一方のお春は子どもの頃からの願い通り、十八歳になったとき、漁師として一本立ちしたばかりの源ジィと結婚した。達筆だったお春は大漁旗や祭りの幟、お店の看板などの文字書きを請け負って源ジィとの生活を支えた。お春の達筆ぶりは稚内から北海道、日本中はおろか、シナやオロシアにも知れ渡り、ヘヴン島に移住した今でもカマクラ氏を通して時々依頼がくるほどだ。
結婚してしばらくすると子どもが産まれ、そのときフクロウが鳴いたので「ホウ」と名付けた。やがてホウがシヅカという嫁を貰い、孫が産まれたときウグイスの声が「ホケチョ」と聞こえたからそのまま孫の名にしたという。還暦を過ぎた源とお春が故郷のヘヴン島に移住したことを知ったホウ一家はすぐに合流して、二世帯での豊かな暮らしが始まった。しかし、ホケチョがオッカナイ高校へ入学した年にホウとシヅカが、そしてつい昨日、ホケチョがオシリ島へ行ってしまった。今ヘヴン島に住む人間は、源少年とヘヴン・ハル・アケボノ王女の七十年後の姿、すなわち源ジィとお春ばあさんの二人だけだ。
すべてを失ったハルは本土の稚内市で「お春」と呼ばれ、実年齢不詳ながら源と同じ歳という設定で養護施設から学校へ通った。施設でも学校でも、孤児になったいきさつを聞かれたが、ヘヴン島じゃなくて礼文島、オシリ島は利尻島でしょ、と言われ、その先に話を進めることができなかった。隣りに立つ源も黙ってうつむくだけで、異空の島の存在を証明する言葉を持たない。
そんな二人が唯一心を開いたのが同級生のカマクラ氏だ。稚内でもっとも大きな網元の家に育ったカマクラ氏は富裕層らしい寛容な心で源とお春に接してくれた。ヘヴン島の存在も知っていたし、それどころか、先祖はオシリ島出身だという。
「何いうてんねん。あんな険しい島に人が住めるわけあらへんがな」とお春がテレビのバラエティ番組から吸収した関西弁で突っ込むが、確かにオシリ島の細かい地形やヘヴン島との位置関係など詳しかった。
源は学校が終わった後、カマクラ氏の家の漁を手伝い、お春は源の仕事が終わるのを待って一緒に帰った。源を待つ間はカマクラ氏と二人でいろんな話をした。
「春はヘヴンの王女やから、源と結婚したら源はヘヴン島の王様や。カマクラはんは、うちらにようしてくれるから一番の家来にしたるで」
「何を言ってますねん。私だってオロシア帝国オシリ王家の末裔です。両国の再興のための貴女と私の結婚なら賛成ですが、家来なんてまっぴら御免ですわ」
お春に好意を持っていたカマクラ氏だったが、愛想の良さと親の経済力あっての寛容さだけでは源に勝てないことは分かっていた。自分の親でさえ、漁師として見込みのある源を好んでいるのだ。カマクラ氏は、自分には男として女性の気を惹くホルモン的な魅力が欠けている、と思っている。だから、中学卒業と同時に、あえて自衛隊に入隊した。
一方のお春は子どもの頃からの願い通り、十八歳になったとき、漁師として一本立ちしたばかりの源ジィと結婚した。達筆だったお春は大漁旗や祭りの幟、お店の看板などの文字書きを請け負って源ジィとの生活を支えた。お春の達筆ぶりは稚内から北海道、日本中はおろか、シナやオロシアにも知れ渡り、ヘヴン島に移住した今でもカマクラ氏を通して時々依頼がくるほどだ。
結婚してしばらくすると子どもが産まれ、そのときフクロウが鳴いたので「ホウ」と名付けた。やがてホウがシヅカという嫁を貰い、孫が産まれたときウグイスの声が「ホケチョ」と聞こえたからそのまま孫の名にしたという。還暦を過ぎた源とお春が故郷のヘヴン島に移住したことを知ったホウ一家はすぐに合流して、二世帯での豊かな暮らしが始まった。しかし、ホケチョがオッカナイ高校へ入学した年にホウとシヅカが、そしてつい昨日、ホケチョがオシリ島へ行ってしまった。今ヘヴン島に住む人間は、源少年とヘヴン・ハル・アケボノ王女の七十年後の姿、すなわち源ジィとお春ばあさんの二人だけだ。
1
あなたにおすすめの小説
古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~
しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、
魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、
さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。
目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。
幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。
十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。
その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる