祖母がざまぁされたヒロインだったので、孫の私はひっそりと暮らしたい

ナカナカ田

文字の大きさ
14 / 20

14 sideメルキュール

しおりを挟む
「サチュルヌ嬢に近づくな」

以前サチュルヌが雷を落とした場所で、メルキュールとマルスはノーヴァと向き合っていた。

男女別で分かれる授業のあと、メルキュールがノーヴァに声をかけ、この場所に連れて来たのだ。

本来なら、こんなことはしたくなかった。

まっとうな方法で、正々堂々と勝負し、この男ノーヴァに勝ちたかった。

しかし、最近学院でひそやかにささやかれている噂を耳にしてしまい、時間をかけることが出来なくなってしまった。

(一刻も早く、この男ノーヴァアース家の娘ルナ退しりぞけなければならない!)

ーー殿下と、サチュルヌ嬢のためにーー

「重ねて言う。サチュルヌ嬢に、近づくな」

2人がかりでエトワール子爵令息ノーヴァに詰めよる。

自分はともかく、体格のいいマルスはかなりの圧だろうに、エトワール子爵令息ノーヴァ飄々ひょうひょうとしていた。

チラリとこちらに視線を向け、

「発言をしても?」

と悪びれもなく言ってくる。

こちらが目線で頷けば、

「それは、俺やアンタが決めることじゃない」

飄々ひょうひょうとした態度とは裏腹に、ひどく真摯しんしな目をしてヤツは言った。

「なっ、なんだと⁉︎」

「誰と付き合うかは、本人たちが決めるべきで、外野がとやかく言うことではない。と申し上げたのですよ」

打って変わってこちらを小バカにしたような慇懃いんぎんな態度である。

「貴様、何様のつもりだ⁉︎」

1つ年下であるマルスは、入学式での一件を知らない。そのため、ヤツノーヴァの無礼な態度に驚いていた。今にもヤツに食ってかかりそうな勢いである。

自分も似たようなものであったが。

明らかに怒りをにじませた我々の様子に気づかないわけもないのに、相変わらずヤツは涼しい顔をしている。

「いい魔法士になれると思うよ。彼女」

「…っ!!!なにを…」

心臓をわしづかみにされたような衝撃だった。
なぜ知っているのかは分からない。けれど、ヤツは知っているのだ。

「強くて優しい、いい魔法士になると思う。訓練は必要だろうけど」

静かな、しかし、強い光を宿した目でヤツがこちらを見ている。

「な、なにを…」

「あの魔力量だ。まともに訓練できてないんだろう?そもそもあの魔力を受けていなせる魔法士なんて、いないんじゃないか?」

こんなヤツの言うことを真剣に聞いてはいけない。だが、ヤツの指摘はまごうことなき事実だった。

ーー私より、殿下よりはるかに高い魔力を持つサチュルヌ嬢。

この国に、彼女を指導・訓練することのできる魔法士はいないのだ。

サチュルヌ嬢には伝えていないが、殿下やサチュルヌ嬢の兄ヴェルソー様、そして私。各々の両親までも巻き込んで、我々は密かにサチュルヌ嬢を導くことのできる魔法士を探していた。

しかし、王と王妃、公爵夫妻と宰相夫妻の人脈を持ってしても、国内に彼女サチュルヌを任せられる魔法士は見つけられなかったのだ。

頭の中に警戒信号がともる。


ーーーキケンキケンキケンーーー


ーーーコノオトコハ、キケンーーー


ーーコイツらノーヴァとルナをサチュルヌ嬢に近づけてはならないーー


(ーー絶対に!!ーー)


「どこで何を知ったかは知らないが、口で言って聞かぬのなら、力ずくで退かせるまで」

そう言うと、空中に魔法陣を展開させる。威嚇いかくの意味も込めて。隣では、マルスが剣を抜いている。訓練用のものではあるが。

「マジか」

それを見てそれほど焦った様子もなく、ヤツは頭をポリポリかいていた。

その姿にカッとなる。

(なんだ!その態度は!!)

瞬間、2つ展開させた魔法陣のうちの1つがあかく輝き、ノーヴァの足元で火球が弾けた。

ノーヴァの足元の地面は鋭くえぐれている。

「次は本気で当てる」

本気の怒気を目に込めて、ヤツを睨んだ。


ーーにもかかわらず。


「あー…マジかぁ。そうくるわけねー。どうしたもんかなー」

苦笑いしながらこちらを見ている。

「ふざけているのか⁉︎次は、本気で当てると言っている!」

「いや、それは分かってるんだけど。どうしたもんかなぁと思いまして」

バカにしているとしか思えないほどのほほんした態度で、ヤツは本当に困ったような顔をしていた。

「警告はした。貴様は、どうせやれはしないとタカをくくっているかもしれないが、多少のケガは自業自得!」

言うと同時に、2つの魔法陣が黄色と紅に輝き、電流をまとった火球がノーヴァに迫る。


そのとき、


「なにやってんのよ!!!」


という声とともに、小柄な人影がノーヴァとメルキュールの間に立ちふさがった。

「っ!ルナ!」

という声と同時に、ドゴォン!!というすさまじい音がした。

しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

婚約者の姉に薬品をかけられた聖女は婚約破棄されました。戻る訳ないでしょー。

十条沙良
恋愛
いくら謝っても無理です。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

処理中です...