神様と友達な彼と最強くん

深園 彩月

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第一部・第三章:これが日常とか拷問だろ!

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「なっ!?この速さについて来ただと!?」

 驚愕の色を見せる涙狐。

 遅いと言ってもそこそこ出来る涙狐なのだろう。だから、余計に焦りが見える。

 その言葉を最期に、涙狐の命は儚く散った。


―――――――――――――――


「これだけあれば充分だろ」

 息絶えた涙狐の身体から血液を採取する。

 涙狐の血液は調合したらかなり効果のある薬になる。そのため、できるだけ多くの血を採取することが義務付けられている。

 だから涙狐の討伐、後に血液採取の依頼が来た時は極力傷をつけず、血を垂れ流して質を悪くしないようにする必要がある。

 そしてその依頼に適した術を使える者が依頼をこなすことで、より良い質の血液を多く採取できるんだ。

 その適した術を使える者というのに俺も含まれる。

「……何度使っても良い気はしないな、この術は…」

 自分でも分かるほど悲しみが含まれた苦々しい顔で言い放つ。

 俺がさっき放った酷黒刃という術は、簡単に言えば感覚を麻痺させる術だ。

 感覚を麻痺させ、死に至らしめる残酷な術。

 瞳が合わさったときに術を放つことで最初に視力を奪い、力を使えないようにする。

 その瞬間に浮遊していた2枚の呪符が涙狐の身体を斬り刻む。

 だが、見た目は斬撃の跡はどこにもない。

 跡はなくても、涙狐本人には鋭い痛みが走っている。

 呪符が斬り刻む部位には跡がないけど、まるで本当に斬られたかのような痛みが残る。そのせいで痛覚が異常に麻痺し、本来より酷い痛みが残るらしい。

 変わったことに、斬られたところは痛むだけでなく本当に斬られている。

 心臓を斬り刻めば息の根を止めれるし、いつもそこを狙う。

 ……血は出てないのに斬られる。

 斬られたのに痛みしかない。

 なのに、本当に斬られている。

 それがわからずに死んでいく涙狐達。

 己の死を理解できずに朽ちていくなんて、残酷だ。

「悪いな。これが俺の仕事なんだ」

 採取し終わった涙狐の血液が入ったビンを数個カバンの中に入れて次の依頼を受けようと移動する際、そう言った。

 別れ際はいつもこうだ。

 相手は妖怪。害悪の象徴だ。だから俺が顔を歪める意味はない。

 ……だけど……。

 今の俺の顔は歪んでいる。

 ただ、その表情が悲しみなのか哀れみなのか、はたまた違う感情なのかは自分でも分からなかった。

 ……いつまでもこんなところで道草くってる暇はないんだし、気持ちを切り替えて次の依頼をしなきゃな。

 俺は涙狐討伐の依頼書をカバンの中に突っ込むと2枚目の依頼書に目を通した。これもまたあまり使いたくない術を使わなきゃ達成できない依頼だったが、腕時計を見たらけっこう時間が経過していたから早めに終わらせなくては。

 どの依頼も今いるS地区のものだからすぐに終わるだろうけど、帰る時間のことも考えたら少し急いで依頼を遂行しないと門限に間に合わない可能性もある。

 罰則くらうのは御免だ。

 という訳で急ぎ足で依頼書に書かれている妖怪を探す。

 涙狐の遺体を土中に埋めるのを忘れずに。


 その後もトラブル等はなく、順調に依頼を達成していったことで無事時間通りに学園に帰ることができると思い、通常は分かりにくい学園への道を歩いている道中、何か強い気を感じた。

「……なんだ?」

 今出たばっかりのS地区から、感じたことのない強い妖気を感じた。

 さっきまではなかった妖気だ。

 明らかに突然現れた異様なものに好奇心からか、警戒しながらも俺の足は自然とさっきまでいた場所に向かっていた。

 なんなんだ?この妖気は……

 今まで相対した妖怪のそれとは明らかに違う。

 空気が軋む幻聴が耳に入るほど禍々しい妖気。

 好奇心も確かにあるが、禍々しい妖気を放つ異形の者は陰陽師として見過ごす訳にいかない。

 物音を立てずに足早に向かう。

 やがて感じる妖気が近くにあることを確信した。

 ちらりと伺える人影から放たれる妖気が俺が感じていた禍々しいそれと一致したからだ。

 人影を黙視した瞬間、隠れるように身体を屈める。

 人影はこちらに気づいていないはずだ。

 相手がどんなやつかが分からない以上、こちらから手出しはできない。だからこのまま相手がどんな行動に出るか見張る体勢だ。

 殺気をかなり抑えて人影を凝視する。

 何故学園の近くのこの森にいきなり現れたのか。

 どうやって降り立ったのか。

 何者なのか。

 妖怪なんだからまともに話ができるかどうか怪しいものだが、できれば知りたい。

 この森の妖怪はどれだけ討伐しても一向に減っていかないから不思議だ。

 今朝のようなよくある地震のせいで妖怪のいる世界から降り立ってる、という説もあるが、実のところはどうなのか。

 等と考えていたら、人影は振り向く素振りを見せ、ゆっくりこちらに近付いてきた。

 まさか……人が、俺がいるってバレたのか?

 気配は押し殺していた。それに加え、ギリギリ目を凝らせば見えるか否かという距離があった。

 バレる確率は低い。……なのに。

 その間にも人影は真っ直ぐ俺に向かって歩いている。

 木に隠れて人影のいる方に顔を向けると徐々に人影の容姿が見えてきた。

 どこか冷酷さを思わせる深い青色の短髪。

 何も映していないかのような切れ長の漆黒の瞳。

 透き通るような不自然なまでに白い肌。

 きらびやかな黒い着物を纏う、凛とした佇まいの独りの男が、そこにいた。

「……誰だ」

 刺すような冷たい声が森の中を駆ける。

 妖怪ごときに感情を揺さぶられることなんてなかったのに、声を聞いた途端ひどく動揺した。

 まるであの妖怪に見つかったら躊躇いもなく殺される、そんな恐怖があったからだ。

「…………出てこないなら、出てこさせるまでだ」

 妖気から殺気へと変貌した刹那。

 辺り一面の草木という緑が眩い閃光で吹っ飛んだ。

「……っぐ………!!!」

 俺の身体もいとも簡単に吹き飛ばされ、暫しの間気絶してしまった。


――――――――――――――――――


「うっ………」

 少しの間気絶していたが、ようやく目を覚ました。……だが、全身に迸る焼けるような痛みは一体……?

「あら、気がついたかしら?」

 視界が霞みボーっとする中かけられた優しくて、でもどこか冷たさや寂しさを感じる女の声が上から振ってきた。

「主人がごめんなさいねぇ。きちんと叱っておくから、悪く思わないでね」

 どうやら仰向けに寝かされて看病されていたらしい。女の太ももが俺の枕になっていたようだ。

 主人……?まさか、あのときの妖怪か?

「さっきの、光は……」

「主人の術は強力だから、きっと君の身体もダメージがあったのね。周りの草木だけを消すつもりだったみたいだけど……巻き込んでごめんね」

 周りの草木を、消す?

 痛みを気にせず身体を起こす。

「なんだ、これ……」

 目の前の光景に呆然としてしまった。

「やっぱり、昔と変わらず自然は脆いわねぇ」

 語尾を伸ばして可愛く言うがそれに似合わない台詞が女の口から出た。

 …………そこに広がっていたのは、焼け焦げて真っ黒に染まった自然だった。

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