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本編
第十三話 音無三曹、色々と考えてみる
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「まさか本当に森永二尉と音無が付き合っていたなんて」
「別に隠していたわけでもないんだけどね……」
ここしばらく私が頻繁に外出許可をとるものだから、何かあると怪しんだ江崎さんに問い詰められ、とうとう白状してしまった。そして噂が噂でなかったと呆れた顔をされている。
「もしかしてあの懲罰デートがきっかけ?」
「うん、あの時から」
「……ってことはあの筋肉痛でフラフラしていたのって、行軍じゃなくて森永二尉とのエッチのせいなのか。それと今も何となく動きがぎこちないのもそのせいか」
いやはや凄いねと感心しているけど、笑いごとじゃないから!
「いやいや。あれはエッチじゃない、間違いなく行軍と同種だと思う。もう無駄に元気すぎて笑えない」
私の真面目な顔を見て、江崎さんはケラケラと笑い出した。あのね、本当に笑いごとじゃないんだ。とにかく体力をつけなければいけないと痛感しているんだよ、わりと本気で。
「二尉ってそんなに凄いの? えーっとその、まさか絶倫とか?」
「絶倫かどうかはさておき、体力大事としか言いようがない」
「おやまあ」
「本当に、おやまあなんだよ」
でもこれって、普通の男女のお付き合いと何か違わない?って気がするのは私だけ?
「なんか悔しいんだよね。こっちはくたくたなのに、二尉ってば全然平気な顔してるしさあ。どう思う? セックスって、男の方がエネルギーを使ってそうな気がするんだけど」
「うーん、どうなのかなあ」
「とにかく一度ぐらいは、二尉に参りましたと言わせたい気分」
「音無、それってどうなの……」
呆れた声で言われてしまったけど、これが私の偽らざる気持ちだ。とにかく一度ぐらいは、二尉のことをギャフンと言わせたい。
「とにかく今の私の目標は、二尉に負けないぐらいの持久力をつけること!」
私の決意表明に、江崎さんはさらに呆れた顔をした。
「もしかして私、盛大に惚気を聞かされてる?」
「これは惚気じゃありません。私と二尉の真剣勝負の話です」
「あー、間違いなく惚気だわ、ごちそうさま。でもさ、今のうちに勝敗を決して、二尉の心をしっかり捕まえておくっていうのは賛成かな」
うんうんとうなづきながら、納得している江崎さん。
「どういうこと?」
「だって二尉は幹部。ってことは、数年おきにあっちこっちに異動していくわけでしょ? ここにいるのだって、あと二年か長くて三年。その後はまた別の駐屯地に行くわけで、音無とは離れ離れじゃない。今のうちに、しっかりお互いのつながりを作っておかなくちゃ。それが体力勝負だろうが何だろうが大事なことよね」
幹部自衛官は一つの場所に留まることなく、数年おきに異動していく。これは普通のサラリーマンでも言えることだけど、上に立つ者は様々な分野でエキスパートでなくてはならない。だから全国の駐屯地や中央に配属されて経験を積み、さらに幹部過程を得て上へと昇任していくのだ。
「確かに」
本人は幕僚なんて興味ないなんて言っていたけど、本当のところはどうなんだろう。
+++++
そんな江崎さんの言葉を思い出して、何となく複雑な気分になってしまった。数年後、二尉が新しい任務地に行くことになった時、私達の関係ってどうなっちゃうのかな?
「どうした? 心ここのあらずな感じだぞ?」
私の体に唇を這わせていた二尉の動きがピタリと止まった。そして顔を上げて私のことを見下ろす。
「あ、すみません。ちょっと考えごとしてました」
そう返事をするとますます変な顔をする。
「なんですか」
「いや、変にしおらしい音無というのも怖いものがあるなと」
「ちょっと。それってどういう意味ですか? 私だってね、年頃の女なんですから、それなりに色々と考えることだってあるんですよ……たまにですけど」
「そのたまな時が今なのは、何故なんだ?」
ちょっとタイミングが悪かったのは否定できない。だけど江崎さんとそんな話をしてから、ずっと頭の中に残っていたことなのだ。
「まあ色々あるんですよ、こっちにも」
「今回は外泊許可まで取ったんだ。時間はある、ゆっくり聞いてやるから話してみろ」
「今ですか?」
「ああ、今だ」
そう言って二尉は、私の上から隣へと体をずらして体を起こす。そして枕を背もたれにしながらこっちを見下ろした。
「そんな改まって聞く体勢に入られちゃうと話しにくいですよ……それに中断しちゃって大丈夫なんですか?」
シーツの下にある二尉の下半身あたりを指でさす。
「問題なのは俺のそこじゃなくて、音無が上の空で俺に抱かれていることだ。ちゃんと話をしたら抱いてやるから、今はその頭の中で考えていることを話せ」
「なんですか、その恩着せがましく“抱いてやる”って。別に私は、抱いてくださいってお願いしているわけじゃないんですけど」
「話せ」
「だから命令口調はやめて下さいよね」
「二度も同じことを言わせるなよ、音無三曹」
「……」
また階級までつけてきたよ、この人。
「いつもそんな風に言われていたら私、二尉に隠しごともできないじゃないですか」
「隠したいことなのか?」
「そう言う訳じゃありませんけどね」
「だったら話せ、今すぐ、ここで、正直に洗いざらい」
あーあー退路まで塞がれてしまった。
溜め息をつきながら天井を見上げて、いつもの派手派手シャンデリアがないことに改めて気がついた。そうだ、今回から趣向を変えて、ちょっと離れた場所にあるビジネスホテルを利用しようって話になったんだっけ。
「えっとですねえ……そこに至った話に関しては省略しますけど、二尉は幹部自衛官なわけですよ、そうですよね?」
「ああ」
「それで、その幹部様っていうのは二尉に限らず、何年かごとにあっちこっちに転勤していくわけですよ。で、来年か再来年か分かりませんけど、二尉も何処かに行くわけじゃないですか。ここまではあってますよね?」
私の問い掛けにうなづく。
「そうだな。幹部自衛官は退官するまで、そんな生活が続く」
「で、北から南まで色々な場所に、陸自の駐屯地やら何やらっていうのはあるわけで、次が何処になるかは分からない。もしかしたら北の端っこかもしれないし、南の端っこかもしれない。それこそ人事次第ってやつです」
「ある程度はこっちの希望も提出するから、そこまで極端な話にはならないと思うが、たしかに何処に飛ばされるかは、その時になってみないと分からないな」
「ですよね。でも私はそれについていくことはできません。そうなったら、私達ってどうなっちゃうのかなって」
「私達?」
「私と二尉のことですよ、決まってるじゃないですか。あ、そこでニタニタすんな!」
嬉しそうな顔をしたのがムカついて、思わずお腹の辺りを拳骨で殴ったらウッと一瞬だけ苦し気な顔をした。
「音無、最近、腕力が上がってるだろ?」
「そりゃあ鍛えてますからね」
誰かさんのせいでと付け加えたら、イヤそうな顔をされた。そんな顔するなら、もうちょっと加減してくれるとかすれば良いのに、そこは綺麗に無視されているらしい。
「まったく。本気で何とか兵曹になるつもりか?」
「目標は高い方が良いと思うので。それで? どうなんですか?」
「なにが?って、待て、分かった、ちゃんと答えるから!」
頭の下にあった枕を引っ張り出すと、思いっ切り相手を叩きのめそうと枕を振り上げたところで押さえ込まれてしまった。
「こっちが真面目に答えたというのにまったく!!」
「そんなことで上の空だったのか?」
「そんなことで?!」
思わず声が引っ繰り返ってしまう。そんなことでと言いましたか、貴方?! 私、それなりに真剣に考えていたんですけどね!!
「だってそうだろ。前に言っていたじゃないか、音無が俺は野に放ったら危険だって言うから、ならば音無が責任をもって俺のこと一生監視するしかないだろって」
「あの、それって二尉が私にもらってくださいと言っていることになるんですが?」
「そうなるな」
「つまり、アレってことですか? 私が二尉とアレな感じになると」
そう言うと、二尉は変な笑い声を漏らした。
「久し振りに出たな、音無のアレアレ攻撃。いてっ」
そんな訳で私は再度、二尉の腹筋を攻撃する羽目になる。
「まったく手に負えなくなってきたな。俺以外にそんな態度であれこれするなよ?」
「心配無用です。温厚な私がブチ切れる相手は二尉しかいませんから。それで?」
「まったく。それにだ、付き合わないかと言った時に二択は無いと言っただろ? いまさら俺が、音無を手放すとでも?」
たしかにそんなことを言っていたっけ。
「つまり、配偶者同士の転属先については、それなりに配慮されることになる。俺と音無がそうなれば、恐らく音無が希望さえ出せば、一緒について来られることになるだろう。まあ、部隊が海外に派遣されるということのなると話は別なんだろうが。だから離れたくないと言うなら、そうするのが一番だ。どうだ?」
つまりはそれって結婚して夫婦になるってことだよね? そうすれば、絶対とまでは言えないけれど、二尉が転勤になっても、一緒について行って同じ駐屯地で働くことが可能になるってことだ。
「でも、私達、初めて会ってからまだ一年未満ですよね? そんな話いくらなんでも早すぎじゃ?」
「うちの両親は会って一ヶ月で結婚したぞ?」
「だからそれは二尉も言っていたように超レアケースですよ。うちの両親は、少なくとも二年間は普通に付き合ってましたよ」
それでも父親は毎日のように、母親がバイトしていた蕎麦屋に通いつめていたらしいけど。
「音無は俺のところに来るのがイヤか?」
「イヤとかそういう問題じゃなくて。まだ早いんじゃないですかってことです」
「しかし、俺が転属になった時はどうしようかって考えていたんだよな? まだしばらく先のことだと言うのに」
「まあそりゃあ……」
そりゃあ、二尉が異動するのは早くても一年か二年は先のことではあるけれど。
「しかし、どうしてそんな話になったかも聞いた方が良いような気がしてきたな」
「え……」
「なんだ、聞かれたらまずいことでも?」
「そうじゃありませんよ。幹部は転勤族だから、二尉の心をしっかりつかんでおいた方が良いんじゃないかって、言われただけですよ」
うん、体力勝負がどうのこうのは省略したけど嘘はついてない。二尉は私の顔をジッと探るように見つめていたけど、誤魔化していないと判断したらしく、微かに口元に笑みを浮かべた。
「その辺は心配ないと思うがな。胃袋もしっかりつかまれていることだし」
「駐屯地でつくる食事が、私の料理の腕のすべてとは思わないでくださいよね」
「いつかちゃんとした手料理を食べさせてくれ。それまではこっちを食べて満足しておくから」
そう言って二尉は私に覆いかぶさってきた。そして頬から首筋にかけて指を走らせると、私のことをじっと見つめたままキスをする。二尉はたまに暴れん坊になったりするけど、その時ですらキスだけは優しいのだ。そしてそれが私の体を蕩けさせる。だけど……。
「今晩は寝かさないからな」
ほらきた、油断大敵。
「お言葉ですが、私は寝たいですよ」
「寝ている間に好き放題されても良いっていうなら、寝てもかまわないぞ」
「それ、なんて犯罪臭……」
「どうとでも」
そう言いながら私の足の間に手を滑り込ませると、太腿の内側に指を這わせた。何度も二尉に抱かれた私の体は次に何がくるのか覚えているから、それを期待して体が勝手に熱くなる。
そして期待していた通り、指が体の中にするりと入り込んできた。抱かれ始めてからしばらくは、こんな風に触れられることにも抵抗を感じていたのに、今では中を探られて抜き差しをされると、気持ち良くて何も考えられなくなってしまうのだから私の体も勝手なものだ。
気持ちとは裏腹に、指の動きに合わせて腰が揺れてしまうのはどうしようもなくても、漏れそうになる声だけは意地でもこらえた。そんな私のことを眺めながら、二尉殿は御満悦なんだからまったくもって腹立たしい。
「音無のことを他の男に渡すわけがないだろ? 音無はこんなことを他の男にもさせるつもりか?」
「……とんでもないですよ、こんな暴れん坊は、二尉だけでたくさんです、あっ、やっ、そこはダメですって!」
私の中には、自分でもびっくりしてしまうぐらい気持ちよくなってしまう場所があって、そこはとっくに二尉にしっかりと把握されてしまっていた。そこを探るように弄られて、こらえていた声が思わず漏れてしまう。
「酷い言い草だな」
「酷いのはどっちですか! だからそこはやめてと言って……っ! ダメだって言ってるのにっ」
そんなこと言ってもやめてくれるような二尉ではないわけで、あっという間に我を忘れてしまうような快感の渦に巻き込まれてしまう。
そして、いかされてぐったりしている私の中から指が引き抜かれると、足の間に二尉の逞しい体が入り込んできて、まだ震えている場所に熱い塊が押し当てられた。だけどいつもと違ってすぐには入ってこようとしない。
「?」
いつもなら、こっちが落ち着くまで待ってくれることなんてしないのになんで?って顔で二尉のことを見上げれば、ニヤニヤと笑っていた。
「なんですか」
「暴れん坊はおイヤなようなので? ここでやめておくべきかと迷っている」
「ふざけんな」
二尉の体が離れていかないように腕を背中に回した。
「なんだ、やっぱり気に入ってるんじゃないか」
「だからイヤいとは言ってないでしょ! ……っん」
そして私の中は熱い熱で満たされる。奥まで入り込むと、二尉は満足げな溜め息をついて私の頬を撫でた。この瞬間だけは無茶な暴れん坊も、鳴りを潜めるのだ。だけど油断大敵なのには変わらない。
「念のためにもう一度言っておくが、寝かさないと言ったのは本気だからな?」
ほらね?
「私も寝たいと言ったのは本気なんですけどね!!」
とは言ったものの、私の希望はどう考えても通りそうにない……。
+++
「俺が異動するまで二年。それまでに覚悟を決めておけ」
それからしばらくして疲れ果てて意識が途切れる寸前、そんな二尉の言葉を聞いたような気がした。
なにやらとっ捕まって逃げられない感が半端ないんだけど、その時の私の頭にあったのは、二尉とこのまま続けていくつもりなら、必要なのは覚悟よりも体力だってことだった。
「別に隠していたわけでもないんだけどね……」
ここしばらく私が頻繁に外出許可をとるものだから、何かあると怪しんだ江崎さんに問い詰められ、とうとう白状してしまった。そして噂が噂でなかったと呆れた顔をされている。
「もしかしてあの懲罰デートがきっかけ?」
「うん、あの時から」
「……ってことはあの筋肉痛でフラフラしていたのって、行軍じゃなくて森永二尉とのエッチのせいなのか。それと今も何となく動きがぎこちないのもそのせいか」
いやはや凄いねと感心しているけど、笑いごとじゃないから!
「いやいや。あれはエッチじゃない、間違いなく行軍と同種だと思う。もう無駄に元気すぎて笑えない」
私の真面目な顔を見て、江崎さんはケラケラと笑い出した。あのね、本当に笑いごとじゃないんだ。とにかく体力をつけなければいけないと痛感しているんだよ、わりと本気で。
「二尉ってそんなに凄いの? えーっとその、まさか絶倫とか?」
「絶倫かどうかはさておき、体力大事としか言いようがない」
「おやまあ」
「本当に、おやまあなんだよ」
でもこれって、普通の男女のお付き合いと何か違わない?って気がするのは私だけ?
「なんか悔しいんだよね。こっちはくたくたなのに、二尉ってば全然平気な顔してるしさあ。どう思う? セックスって、男の方がエネルギーを使ってそうな気がするんだけど」
「うーん、どうなのかなあ」
「とにかく一度ぐらいは、二尉に参りましたと言わせたい気分」
「音無、それってどうなの……」
呆れた声で言われてしまったけど、これが私の偽らざる気持ちだ。とにかく一度ぐらいは、二尉のことをギャフンと言わせたい。
「とにかく今の私の目標は、二尉に負けないぐらいの持久力をつけること!」
私の決意表明に、江崎さんはさらに呆れた顔をした。
「もしかして私、盛大に惚気を聞かされてる?」
「これは惚気じゃありません。私と二尉の真剣勝負の話です」
「あー、間違いなく惚気だわ、ごちそうさま。でもさ、今のうちに勝敗を決して、二尉の心をしっかり捕まえておくっていうのは賛成かな」
うんうんとうなづきながら、納得している江崎さん。
「どういうこと?」
「だって二尉は幹部。ってことは、数年おきにあっちこっちに異動していくわけでしょ? ここにいるのだって、あと二年か長くて三年。その後はまた別の駐屯地に行くわけで、音無とは離れ離れじゃない。今のうちに、しっかりお互いのつながりを作っておかなくちゃ。それが体力勝負だろうが何だろうが大事なことよね」
幹部自衛官は一つの場所に留まることなく、数年おきに異動していく。これは普通のサラリーマンでも言えることだけど、上に立つ者は様々な分野でエキスパートでなくてはならない。だから全国の駐屯地や中央に配属されて経験を積み、さらに幹部過程を得て上へと昇任していくのだ。
「確かに」
本人は幕僚なんて興味ないなんて言っていたけど、本当のところはどうなんだろう。
+++++
そんな江崎さんの言葉を思い出して、何となく複雑な気分になってしまった。数年後、二尉が新しい任務地に行くことになった時、私達の関係ってどうなっちゃうのかな?
「どうした? 心ここのあらずな感じだぞ?」
私の体に唇を這わせていた二尉の動きがピタリと止まった。そして顔を上げて私のことを見下ろす。
「あ、すみません。ちょっと考えごとしてました」
そう返事をするとますます変な顔をする。
「なんですか」
「いや、変にしおらしい音無というのも怖いものがあるなと」
「ちょっと。それってどういう意味ですか? 私だってね、年頃の女なんですから、それなりに色々と考えることだってあるんですよ……たまにですけど」
「そのたまな時が今なのは、何故なんだ?」
ちょっとタイミングが悪かったのは否定できない。だけど江崎さんとそんな話をしてから、ずっと頭の中に残っていたことなのだ。
「まあ色々あるんですよ、こっちにも」
「今回は外泊許可まで取ったんだ。時間はある、ゆっくり聞いてやるから話してみろ」
「今ですか?」
「ああ、今だ」
そう言って二尉は、私の上から隣へと体をずらして体を起こす。そして枕を背もたれにしながらこっちを見下ろした。
「そんな改まって聞く体勢に入られちゃうと話しにくいですよ……それに中断しちゃって大丈夫なんですか?」
シーツの下にある二尉の下半身あたりを指でさす。
「問題なのは俺のそこじゃなくて、音無が上の空で俺に抱かれていることだ。ちゃんと話をしたら抱いてやるから、今はその頭の中で考えていることを話せ」
「なんですか、その恩着せがましく“抱いてやる”って。別に私は、抱いてくださいってお願いしているわけじゃないんですけど」
「話せ」
「だから命令口調はやめて下さいよね」
「二度も同じことを言わせるなよ、音無三曹」
「……」
また階級までつけてきたよ、この人。
「いつもそんな風に言われていたら私、二尉に隠しごともできないじゃないですか」
「隠したいことなのか?」
「そう言う訳じゃありませんけどね」
「だったら話せ、今すぐ、ここで、正直に洗いざらい」
あーあー退路まで塞がれてしまった。
溜め息をつきながら天井を見上げて、いつもの派手派手シャンデリアがないことに改めて気がついた。そうだ、今回から趣向を変えて、ちょっと離れた場所にあるビジネスホテルを利用しようって話になったんだっけ。
「えっとですねえ……そこに至った話に関しては省略しますけど、二尉は幹部自衛官なわけですよ、そうですよね?」
「ああ」
「それで、その幹部様っていうのは二尉に限らず、何年かごとにあっちこっちに転勤していくわけですよ。で、来年か再来年か分かりませんけど、二尉も何処かに行くわけじゃないですか。ここまではあってますよね?」
私の問い掛けにうなづく。
「そうだな。幹部自衛官は退官するまで、そんな生活が続く」
「で、北から南まで色々な場所に、陸自の駐屯地やら何やらっていうのはあるわけで、次が何処になるかは分からない。もしかしたら北の端っこかもしれないし、南の端っこかもしれない。それこそ人事次第ってやつです」
「ある程度はこっちの希望も提出するから、そこまで極端な話にはならないと思うが、たしかに何処に飛ばされるかは、その時になってみないと分からないな」
「ですよね。でも私はそれについていくことはできません。そうなったら、私達ってどうなっちゃうのかなって」
「私達?」
「私と二尉のことですよ、決まってるじゃないですか。あ、そこでニタニタすんな!」
嬉しそうな顔をしたのがムカついて、思わずお腹の辺りを拳骨で殴ったらウッと一瞬だけ苦し気な顔をした。
「音無、最近、腕力が上がってるだろ?」
「そりゃあ鍛えてますからね」
誰かさんのせいでと付け加えたら、イヤそうな顔をされた。そんな顔するなら、もうちょっと加減してくれるとかすれば良いのに、そこは綺麗に無視されているらしい。
「まったく。本気で何とか兵曹になるつもりか?」
「目標は高い方が良いと思うので。それで? どうなんですか?」
「なにが?って、待て、分かった、ちゃんと答えるから!」
頭の下にあった枕を引っ張り出すと、思いっ切り相手を叩きのめそうと枕を振り上げたところで押さえ込まれてしまった。
「こっちが真面目に答えたというのにまったく!!」
「そんなことで上の空だったのか?」
「そんなことで?!」
思わず声が引っ繰り返ってしまう。そんなことでと言いましたか、貴方?! 私、それなりに真剣に考えていたんですけどね!!
「だってそうだろ。前に言っていたじゃないか、音無が俺は野に放ったら危険だって言うから、ならば音無が責任をもって俺のこと一生監視するしかないだろって」
「あの、それって二尉が私にもらってくださいと言っていることになるんですが?」
「そうなるな」
「つまり、アレってことですか? 私が二尉とアレな感じになると」
そう言うと、二尉は変な笑い声を漏らした。
「久し振りに出たな、音無のアレアレ攻撃。いてっ」
そんな訳で私は再度、二尉の腹筋を攻撃する羽目になる。
「まったく手に負えなくなってきたな。俺以外にそんな態度であれこれするなよ?」
「心配無用です。温厚な私がブチ切れる相手は二尉しかいませんから。それで?」
「まったく。それにだ、付き合わないかと言った時に二択は無いと言っただろ? いまさら俺が、音無を手放すとでも?」
たしかにそんなことを言っていたっけ。
「つまり、配偶者同士の転属先については、それなりに配慮されることになる。俺と音無がそうなれば、恐らく音無が希望さえ出せば、一緒について来られることになるだろう。まあ、部隊が海外に派遣されるということのなると話は別なんだろうが。だから離れたくないと言うなら、そうするのが一番だ。どうだ?」
つまりはそれって結婚して夫婦になるってことだよね? そうすれば、絶対とまでは言えないけれど、二尉が転勤になっても、一緒について行って同じ駐屯地で働くことが可能になるってことだ。
「でも、私達、初めて会ってからまだ一年未満ですよね? そんな話いくらなんでも早すぎじゃ?」
「うちの両親は会って一ヶ月で結婚したぞ?」
「だからそれは二尉も言っていたように超レアケースですよ。うちの両親は、少なくとも二年間は普通に付き合ってましたよ」
それでも父親は毎日のように、母親がバイトしていた蕎麦屋に通いつめていたらしいけど。
「音無は俺のところに来るのがイヤか?」
「イヤとかそういう問題じゃなくて。まだ早いんじゃないですかってことです」
「しかし、俺が転属になった時はどうしようかって考えていたんだよな? まだしばらく先のことだと言うのに」
「まあそりゃあ……」
そりゃあ、二尉が異動するのは早くても一年か二年は先のことではあるけれど。
「しかし、どうしてそんな話になったかも聞いた方が良いような気がしてきたな」
「え……」
「なんだ、聞かれたらまずいことでも?」
「そうじゃありませんよ。幹部は転勤族だから、二尉の心をしっかりつかんでおいた方が良いんじゃないかって、言われただけですよ」
うん、体力勝負がどうのこうのは省略したけど嘘はついてない。二尉は私の顔をジッと探るように見つめていたけど、誤魔化していないと判断したらしく、微かに口元に笑みを浮かべた。
「その辺は心配ないと思うがな。胃袋もしっかりつかまれていることだし」
「駐屯地でつくる食事が、私の料理の腕のすべてとは思わないでくださいよね」
「いつかちゃんとした手料理を食べさせてくれ。それまではこっちを食べて満足しておくから」
そう言って二尉は私に覆いかぶさってきた。そして頬から首筋にかけて指を走らせると、私のことをじっと見つめたままキスをする。二尉はたまに暴れん坊になったりするけど、その時ですらキスだけは優しいのだ。そしてそれが私の体を蕩けさせる。だけど……。
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ほらきた、油断大敵。
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「どうとでも」
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そして期待していた通り、指が体の中にするりと入り込んできた。抱かれ始めてからしばらくは、こんな風に触れられることにも抵抗を感じていたのに、今では中を探られて抜き差しをされると、気持ち良くて何も考えられなくなってしまうのだから私の体も勝手なものだ。
気持ちとは裏腹に、指の動きに合わせて腰が揺れてしまうのはどうしようもなくても、漏れそうになる声だけは意地でもこらえた。そんな私のことを眺めながら、二尉殿は御満悦なんだからまったくもって腹立たしい。
「音無のことを他の男に渡すわけがないだろ? 音無はこんなことを他の男にもさせるつもりか?」
「……とんでもないですよ、こんな暴れん坊は、二尉だけでたくさんです、あっ、やっ、そこはダメですって!」
私の中には、自分でもびっくりしてしまうぐらい気持ちよくなってしまう場所があって、そこはとっくに二尉にしっかりと把握されてしまっていた。そこを探るように弄られて、こらえていた声が思わず漏れてしまう。
「酷い言い草だな」
「酷いのはどっちですか! だからそこはやめてと言って……っ! ダメだって言ってるのにっ」
そんなこと言ってもやめてくれるような二尉ではないわけで、あっという間に我を忘れてしまうような快感の渦に巻き込まれてしまう。
そして、いかされてぐったりしている私の中から指が引き抜かれると、足の間に二尉の逞しい体が入り込んできて、まだ震えている場所に熱い塊が押し当てられた。だけどいつもと違ってすぐには入ってこようとしない。
「?」
いつもなら、こっちが落ち着くまで待ってくれることなんてしないのになんで?って顔で二尉のことを見上げれば、ニヤニヤと笑っていた。
「なんですか」
「暴れん坊はおイヤなようなので? ここでやめておくべきかと迷っている」
「ふざけんな」
二尉の体が離れていかないように腕を背中に回した。
「なんだ、やっぱり気に入ってるんじゃないか」
「だからイヤいとは言ってないでしょ! ……っん」
そして私の中は熱い熱で満たされる。奥まで入り込むと、二尉は満足げな溜め息をついて私の頬を撫でた。この瞬間だけは無茶な暴れん坊も、鳴りを潜めるのだ。だけど油断大敵なのには変わらない。
「念のためにもう一度言っておくが、寝かさないと言ったのは本気だからな?」
ほらね?
「私も寝たいと言ったのは本気なんですけどね!!」
とは言ったものの、私の希望はどう考えても通りそうにない……。
+++
「俺が異動するまで二年。それまでに覚悟を決めておけ」
それからしばらくして疲れ果てて意識が途切れる寸前、そんな二尉の言葉を聞いたような気がした。
なにやらとっ捕まって逃げられない感が半端ないんだけど、その時の私の頭にあったのは、二尉とこのまま続けていくつもりなら、必要なのは覚悟よりも体力だってことだった。
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