恋もバイトも24時間営業?

鏡野ゆう

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本編 1

第二十二話 ちょっと山まで竹取りに

 ツーリングに行った後、山南やまなみさんの敬語が少しずつ減っているような気がする。些細なことではあったけど、『自分』が『俺』になったり、ちょっとした拍子に敬語が抜けたり。ただし、本人が自覚を持って努力しているかどうかは謎。

 とは言えこの調子だと、完全に敬語がなくなるのは、まだまだ先のことになりそうな気配。

慶子けいこさん、年末年始のシフト、本当にあれで大丈夫なんですか?」

 お客さんが途切れた時間を利用して、店内のクリスマス用のポップと、お正月用のポップを作りながら、慶子さんに声をかけた。昨日もらったシフト表。私の年内最終のバイトは二十七日の夕方。そして年明け最初のバイトは五日の昼からだった。

「今のところ大丈夫よ。最初に話したと思うけど、大晦日おおみそか前日から三が日までは、ちょっとだけ時給を上げてるの。それもあって、お年玉を稼ぎたい学生さんが入ってくれ.ることが多いのよ」
「ああ、なるほど。このお店限定の、お年玉時給でしたっけ」
「そうそう」

 ここのお店のバイト人員は、前に働いていたお店に比べると、かなり少ない。そんな少ない人数なのに、いくらお正月休み中だからと言って、ここまでお休みをもらって良いのだろうかと、心配になったのだ。

「でもオーナーさんって、本当に大変ですね」
「お年玉時給が定着したおかげで、この時期はそれほどでもないのよ。今の若い子達は、大晦日おおみそか初詣はつもうでより、クリスマスのほうが大事なイベントみたいなのよね」
「なるほどー。それはわかります」

 少しだけ、お一人様な自分が気の毒に思える瞬間だった。

「もしかしてあやさん、入りたかった?」
「いえ。慶子さんが困ってないなら問題ないです。入る人がいなかったら、入れるようにしておこうかなって思っただけで。実家は同じ区内ですし、帰省とかあまり関係ないですから」

 一般のコンビニと違って、二十四時間営業ではないこのお店も、年中無休なところは変わらない。世間がお正月休みになっても、自衛隊さんにお休みがないのと同じだ。 

「今のところ大丈夫よ、ありがとう。普段も、あやさんが来てくれたおかげで、随分と楽させてもらえるようになったし。本当に感謝してるの」
「いえいえ、それほどでも」

 最近では、就職先をここにしてしまっても良いのでは?と思ってしまう自分が怖い。

「ああ、そうそう。週明けに、ここの門松かどまつを作るんですって。あやさん、ここの門松を見るのは初めてね」
門松かどまつですか。ずいぶん早いですね」

 カレンダーはまだ十二月中旬。今はクリスマス一色の商店街やショッピングモールも、クリスマスをすぎれば、あっという間に、お正月仕様のディスプレイに入れ替わる。だけど、門松かどまつを用意するには少し早い気がした。

「なぜかわからないけど、毎年、今ごろの時期に作るのよ。なかなか立派な門松かどまつだから、できあがったら見てあげてね」
「はい」

 うなづきながら、不測の事態が起きても大丈夫なのように、早めに作るのかなと勝手に想像する。

―― どんな門松かどまつなんだろう ――

 来週が楽しみだ。そしてその日、なぜか軍手やマスクを買いに来る隊員さんが多かった。

「なんで軍手やマスク……大掃除ってまだですよね?」
「週末、門松かどまつ用の竹を調達しに竹林に行くからかしらね」
「え、門松かどまつを作るって、そこからなんですか?」
自衛隊うちは自己完結集団だから」
「それにしても竹からとは……え、ってことは縄も? 南天やハボタンはどうするんですか?」

 まさか、それも駐屯地の中のどこかで栽培されているとか?! ありえないと思いつつ、ここは器用な隊員さん達の集団なのだから、南天やハボタンぐらい栽培してそう……と思わないでもなかった。

「ハボタンや南天なんかはさすがに購入するわよ。でも竹だけはいつも自分達で調達してるの。今年の門松かどまつの竹、いまいちだって話だったから、来年用には立派な竹が見つかると良いんだけど」
「はー……」

 もうひたすら感心するしかない。

「自衛隊の人達って、なんでも作れるんですね、すごいです」
「ま、必要に迫られた結果でもあるのよね」
「あー……予算」
「そういうこと」

 自衛隊、特に隊員さん達の身近な生活関係の予算は、とても厳しい状態にあるらしい。最近は、前にここに来た大臣さんの頑張りのおかげで、色々なことにきちんとした予算がつくようになったけど、それでもお財布事情は厳しいままなんだとか。

門松かどまつぐらい、植木屋さんで頼めば良いのに」
「これも、連帯をはかるための訓練の一環なのよ」
「なるほど~」

 ここですることって、無駄なことは一つもないんだなと、感心する。

「でも、このへんの自衛隊さんの敷地内に、竹林なんてありましたっけ?」

 少なくとも私が知る限り、ここの駐屯地に竹ははえていない。

「うちの山に伐採しに行くの」
「うちの山……」
「ええ、うちの山」
「うちの山って……慶子さんち、地主さんなんですか?!」
「そんなんじゃないのよ」

 驚く私に、慶子さんは笑いながら手をふった。

「大昔からなぜか我が家の山なのよ。都内ではあるんだけど、ちょっと遠いから頻繁ひんぱんに手入れができなくてね。このあたりの陸自さんが、毎年、竹を大量に伐採してくれるから、とても助かってるわ」
「ここの駐屯地だけじゃないんだ……」
「そうなの」

 慶子さんは、なんでもないことのように話しているけど、これって何気に凄いことでは?

「あとは、たまに時代劇のロケに貸したりしてるわね」

 しかも、何気に貴重な場所に。

「優先順位はもちろん身内の門松かどまつの竹なのよ。ああ、そうだ。あやさん、一緒に行く? 立ち合いで主人が行くわよ?」
「え、良いんですか?」
「お休みに予定がないなら、だけど」
「行きたいです!」

 もちろん私の目的は伐採のお手伝いではなく、ツーリングで会いそこねた慶子さんの旦那さんだ。そんなわけで、週末の予定は『山に竹取りに』と決まった。


+++++


「え、旦那さんだけでなく、お子さん達も自衛官さんなんですか?!」

 目の前に立っているのが、慶子さんの旦那さん。山南さんや師団長さん、司令さんのように、いかつくて強面な人を想像していたら、ぜんぜん違った。小柄で優しそうなおじ様だ。慶子さん曰く、退官してから外見も中身もかなり丸くなったんだとか。

「私が現職の時はいろいろと苦労をしたから、絶対にならないと思っていたんだがね。気がついたら三人とも自衛官になっていたよ」

 まいったねと笑っている。

「お父さんの背中をみて育ったんですね」
「どうなんだろうねえ」

 ちなみに、長男さんは仰木おうぎさんがいた空挺団に、次男さんは水陸機動団というところに、そして二人のお姉さんにあたる娘さんは、自衛隊病院のお医者さんをしているそうだ。

 山の登り口の空き地で待っていると、軽トラや車が集まってきた。私服姿だけど全員が自衛官さんだ。その中には山南さんや尾形おがたさん達の姿もある。

「制服じゃないのに、まったく民間人に見えないのは何故なんだ」

 集まってきた面々を見ながら、仰木さんが笑った。

「お久しぶりです! 今年もお世話になります!」

 全員が仰木さんの前で敬礼をする。

「みんな元気そうでなによりだ。では今年の注意事項をいくつか。西側の斜面は、梅雨の長雨と台風で地盤が緩んでいる。今年はあの近辺には立ち入らないように」

 不思議なもので、仰木さんの話を聞いている全員の顔や姿勢が、お仕事中のものになっていた。

「それといつものように、頂上近くにある空き地周辺の竹林は、できるだけ手をつけないでほしいと、どこぞの撮影所から言われているが、あそこの竹が一番育ちが良い。今年の竹はあそこで決まりだな」

 仰木さんを含めた、その場にいた全員がニヤリと笑う。

―― 今の言葉は、聞かなかったことにしよう ――

「うちの嫁からは、好きにするようにと言われている。駐屯地正面に飾る門松の竹だ。立派な竹を、各自、伐採するように。以上だ」
「了解しました!」

 その場にいた全員が敬礼をして声をあげ、山に入っていく。山南さんが、私の前で立ち止まった。あらためて仰木さんに敬礼をすると、私を見下ろす。

御厨みくりやさん、ここでなにしてるんですか」
「皆さんの門松かどまつ作りを見学しようと思って。まさか竹の伐採から始めるとは、思いませんでした!」
「山にも入るつもり?」
「もちろん!」

 私の返事を聞いて「マジか」と言いたげな顔をした。

「俺がちゃんとエスコートをするから心配するな。それとも、山南がエスコートするか?」

 仰木さんが口をはさむ。

「山南さんには、竹確保のお仕事があるじゃないですか。私のことは、お気になさらず」
「と、御厨さんは言ってるぞ?」
「規模が小さいからといっても山なので。くれぐれも気をつけて」
「了解です!」

 みんながしたように敬礼をした。山南さんは敬礼をする私を見下ろして、途方にくれた顔をしている。そして仰木さんに目を向けた。

「仰木さん、よろしく頼みます。我が駐屯地の、大事なバイトさんなので」
「わかっている。駐屯地だけでなく、大事なうちの嫁の店のバイトさんだからな」

 山南さんの後について、私達も山に入った。

「そんなに危ない場所なんですか?」

 山南さんの背中を見ながら、仰木さんにたずねる。

「いや、そんなことはないけどね。山南からしたら、御厨さんは守るべき人に含まれるから、きっと過保護になってしまうんだろうね」

 そういって笑った。その声が聞こえたのか、前を歩いている山南さんの頭が、否定するように横にふられたように見えた。

 そして数時間後、皆さんの頑張りのかいがあって、それぞれの軽トラに立派な竹が山積みになった。後から差し入れを持ってきた慶子さんと、その場で簡単なお茶会をして、全員が駐屯地に帰る準備を始める。

「今年の竹、すごい立派ね」
「竹はのびるのが早いからな」

 立派な竹に、慶子さん達も満足げだ。

「そうだ、あやさん。来年は家族会のタケノコ掘りに招待してあげるわ。なかなか見つけるのが大変なんだけど」
「タケノコ掘りまでできるとは、慶子さんちの山、すごいですね」

 私がそう言うと、仰木さんが笑った。

「喜んでばかりはいられないぞ、御厨さん。嫁は一人でもタケノコ探索の目がほしいだけだからな。当日は休んでいるヒマがなくて、皆してクタクタだ」
「え、そうなんですか?」
「嫁の主催するタケノコ掘りは、レンジャー課程より厳しいと評判なんだぞー?」

 笑っている様子からして仰木さん流の冗談なんだろうけど、その話を聞いていた周囲の隊員さんが、なんとも言えない表情をしたのは何故だろう。
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