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第一部 新しいニンゲンがやってきた!
第十三話 カメラ越しでも臭うもの?
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天童さんはあいさつもそこそこに、モニター映像を順番に確認し始めた。
「なにしてるんですか?」
次々と画面を切り替えていくのが気になって声をかける。
「設置されているカメラがどんな感じでその場所を映しているのか、確認してるんですよ」
「どれがどの場所かわかります?」
「先週回った時に一関さんが教えてくれたので、それなりに」
そう言って、いつも持ち歩いている手帳をひろげてこちらに見せた。そこにはパーク内の場所が箇条書きされている。それを見て、天童さんが手帳を手に回っていたことを思い出す。その途中で防犯カメラの位置を説明したことがあって、その位置を書き込んでいたらしい。
「刑事さんてメモ魔なんですか?」
「そういうことじゃないと思うんですが、書いておかないと忘れることもありますからね。特に事件の聞き込み時の捜査情報は、こぼれ落ちたら大変なことになるので」
「意外とアナログなんですね」
そういうのはドラマの演出でやっているんだと思っていた。実際の刑事さんもしているのかと驚く。
「実のところこれが一番確実なんですよ。一関さんだって大切なことはメモにするでしょう?」
「最近はスマホのアプリに頼りっぱなしですけどね。ちょっと見直したほうが良いのかな」
「自分で書いほうがしっかり頭に入りますよ。まあそれは俺の個人的な感想ですし、デジタル技術の便利さを否定するつもりはないんですが」
チェックしていた天童さんの手が止まった。そして画面をじっと見つめている。なにか気になるところでもあるのかと、同じ映像を呼び出してみる。学生さんらしき女性の集団が楽しそうに歩いていた。
「なにか気になることでも?」
「今日は平日なのに、学校とか仕事とかどうしているのかな、とか」
「月曜日が定休の仕事もありますし、大学生さんなら休講の可能性もありますからね」
「そうですね。とまあ冗談はさておき、舘林さん、よろしいですか?」
画面を見ながら呼びかける。
「どしたー?」
「アトラクションエリアのD-4ポイントを映すカメラに、不審な挙動をしている男が二名うつっています。現在はゴミ箱横のベンチに座った状態」
「了解した。すぐに向かう」
私は自分の前の画面をのぞき込む。たしかにゴミ箱横のベンチに男の人が二人座っている。お友達同士なのか、時々話をしているように見えた。だけどそれだけで、どのへんが不審なのかさっぱりわからない。隣の天童さんの席に椅子ごとずりずりと移動した。
「あの、どのへんが不審なんですか?」
「二人ともスマホを手にしていますよね」
画面を指でさす。
「でも、今時はそんなの珍しくないですよ? 今の時代、誰でもどこでもスマホですから」
「それはそうなんですが、さっき女性グループが前を通りすぎた時、ちょっと動きが不自然だったので」
そう言われてピンとくるものがあった。
「それって、もしかして盗撮の可能性ってことですか?」
「確定じゃありませんが、その可能性が大ということですね」
そこに矢島さんからの連絡が入ってきた。
「今ちょうど俺達の前を、同じ方向に向けて歩いているグループがいる。申し訳ないがお嬢さん達には囮になってもらって、そこで視認できたら二人を抑える」
「お願いします」
中津山部長が後ろから画面をのぞき込んでくる。そして壁の別のモニターに目を向けた。そこには女性グループと、その後ろを歩く舘林さんと矢島さんの映像もある。
「あ、他の人は通常のモニターチェックを続けるように。今回の件は後でレポートを回すから」
部長はオペレーターさん達に声をかけた。そして横に椅子を引っぱってきて座ると、ため息をつく。
「まったく、この手の軽犯罪はなかなか殲滅できないな」
「それどころか、スマホのカメラ性能が上がったせいで増えてます」
「アプリもありますしね」
「文明の利器ってのは諸刃の剣だな」
「その文明の利器を犯罪に利用する人間が大馬鹿なんですよ。その点は間違いないです」
部長の言葉に私が断言すると、二人が小さく笑う。
「容疑者を確保した後の流れはどうなっているんですか?」
「天童さん、口調が警察官に戻ってますよ」
天童さんの口調が変わったので指摘する。
「すみません。で、どうなんでしょう」
「本部に連行して警察に通報、そして引き渡すことになる。そこからは警察にお任せだな」
「なるほど」
「個人的にはきついお灸をすえてほしいものだがね。そうだろ、一関さん」
「当然ですよ。特大のお灸をすえてもらわないと!」
ベンチの二人が映っている画面に女性グループがやってきた。私も二人の手元に目を凝らす。グループが前を通り過ぎる直前、カメラを持つ手が不自然に下に下げられた。
「あ、わかりました!」
「こっちも視認した。二人を確保する。誰かお嬢さんグループに事情を話して事務所に来てもらって。あと所轄の警察署さんにも連絡よろしく」
「了解だ。お嬢さんグループには近くの清掃班に対処してもらおう。警察へは俺が連絡をするよ。お手柄だ、天童君」
部長は天童さんの肩をポンポンとたたくと席を立った。
「それにしても天童さん、よく気づきましたね。私、教えてもらってから手元をじっと見てましたけど、うっかり見過ごすところでした」
「まあ経験ですね、これも」
「経験。警察官としてのですか?」
私の質問にうなづく。
「そんなところです。怪しい人物に対する嗅覚と言いますか。あと手元に関しては慣れだと思います。犯人の足取りを追う時、現場周辺の防犯カメラの映像をチェックするんですよ。それを見ることが多かったので」
「はー……モニター越しでも臭うものなんですか」
一体どんな臭いなんだろう? ちょっと興味がわく。まさか本当にモニターから臭っていたり?
「本当に臭っているわけじゃないですよ?」
私の考えを察したのか、天童さんが笑いながら言った。
「それはわかってます! だけど気になります。私にはさっぱり理解できない感覚なので」
「そんなことないと思いますけどね。たとえば、あの店は感じ良さそうとか感じ悪そうとか、そういうのってありませんか? それと似たような感じですよ」
「なるほど。それならなんとなく理解できます。ピンとくる直感みたいな?」
「そんな感じですね」
二人を連行する舘林さんと矢島さんを見ながらうなづく。
「この仕事を長く続けていけば、そのうち一関さんにも備わるんじゃないかな、この手の嗅覚は」
「だったら日々精進しないといけませんね」
「スキル獲得に向けてがんぱりましょう」
天童さんはニッコリとほほ笑んだ。お。今のはなかなか良い笑顔だと思いますよ、天童さん?
「天童さんが目指すのは脱パーントゥですからね。どっちが早いか競争しましょう!」
「脱パーントゥは永遠に無理な気が」
「そんなことありませんよ。とにかく日々精進でがんばりましょー」
私がそう言うと困った顔をしながらうなづくいた。
そして私達がモニター監視の業務を続ける間に、部長から通報を受けた警察署から警察官がやってきて、舘林さんと矢島さんに連行された男性二人は警察署に連行されることとなった。知らない間に囮になっていた女性グループは警察に連絡先を提出し、そのままパーク内に滞在することになったそうだ。
「その場でカメラの中身を確認したら良いのに」
「警備スタッフには強制できる権限はないですからね。その手のことができるのは警察官だけです。その警察でも現時点では相手の同意が必要ですから」
「警察官もいろいろと面倒なんですね」
「警察官は職務の性格上、強い権限を与えられていますからね。一関さんには矛盾して聞こえるかもしれませんが、強い権限を持っているからこそ様々な制約に縛られているんですよ」
いまいちピンとこなくて首をかしげてしまった。
「とにかく、なにをするにもいろいろと面倒な手続きが必要ってことであってますか?」
「そんなところですね」
「私が被害者だったら、気づいた時点で相手からカメラ取り上げて、さくっと池ポチャにしちゃうのにな~」
「一関さん、それ器物損壊なんですが?」
「え、被害者なのに罪に問われちゃうんですか?」
納得いかないとブツブツ呟きながら、床をけって椅子ごと自分にあてがわれた机に移動する。
「少しぐらい目をつぶるとかしてくれないんですか、おまわりさんって」
「さあどうでしょう」
「ドラマではそういうのあるのに」
ブツブツとつぶやきながら、私もモニター監視の仕事に戻った。
とまあこんな感じで、天童さんの試用期間は無事に終わり、警備部への正式採用が決まった。採用が決まったと同時に、天童さんに対する久保田さんと矢島さんの接近禁止命令は解除されるはずだったんだけど、天童さんの脱パーントゥがほど遠いので、いましばらく接近禁止命令は継続されるとのことだ。
そんなわけでしばらくは、天童さんは私と組むことになった。
「なにしてるんですか?」
次々と画面を切り替えていくのが気になって声をかける。
「設置されているカメラがどんな感じでその場所を映しているのか、確認してるんですよ」
「どれがどの場所かわかります?」
「先週回った時に一関さんが教えてくれたので、それなりに」
そう言って、いつも持ち歩いている手帳をひろげてこちらに見せた。そこにはパーク内の場所が箇条書きされている。それを見て、天童さんが手帳を手に回っていたことを思い出す。その途中で防犯カメラの位置を説明したことがあって、その位置を書き込んでいたらしい。
「刑事さんてメモ魔なんですか?」
「そういうことじゃないと思うんですが、書いておかないと忘れることもありますからね。特に事件の聞き込み時の捜査情報は、こぼれ落ちたら大変なことになるので」
「意外とアナログなんですね」
そういうのはドラマの演出でやっているんだと思っていた。実際の刑事さんもしているのかと驚く。
「実のところこれが一番確実なんですよ。一関さんだって大切なことはメモにするでしょう?」
「最近はスマホのアプリに頼りっぱなしですけどね。ちょっと見直したほうが良いのかな」
「自分で書いほうがしっかり頭に入りますよ。まあそれは俺の個人的な感想ですし、デジタル技術の便利さを否定するつもりはないんですが」
チェックしていた天童さんの手が止まった。そして画面をじっと見つめている。なにか気になるところでもあるのかと、同じ映像を呼び出してみる。学生さんらしき女性の集団が楽しそうに歩いていた。
「なにか気になることでも?」
「今日は平日なのに、学校とか仕事とかどうしているのかな、とか」
「月曜日が定休の仕事もありますし、大学生さんなら休講の可能性もありますからね」
「そうですね。とまあ冗談はさておき、舘林さん、よろしいですか?」
画面を見ながら呼びかける。
「どしたー?」
「アトラクションエリアのD-4ポイントを映すカメラに、不審な挙動をしている男が二名うつっています。現在はゴミ箱横のベンチに座った状態」
「了解した。すぐに向かう」
私は自分の前の画面をのぞき込む。たしかにゴミ箱横のベンチに男の人が二人座っている。お友達同士なのか、時々話をしているように見えた。だけどそれだけで、どのへんが不審なのかさっぱりわからない。隣の天童さんの席に椅子ごとずりずりと移動した。
「あの、どのへんが不審なんですか?」
「二人ともスマホを手にしていますよね」
画面を指でさす。
「でも、今時はそんなの珍しくないですよ? 今の時代、誰でもどこでもスマホですから」
「それはそうなんですが、さっき女性グループが前を通りすぎた時、ちょっと動きが不自然だったので」
そう言われてピンとくるものがあった。
「それって、もしかして盗撮の可能性ってことですか?」
「確定じゃありませんが、その可能性が大ということですね」
そこに矢島さんからの連絡が入ってきた。
「今ちょうど俺達の前を、同じ方向に向けて歩いているグループがいる。申し訳ないがお嬢さん達には囮になってもらって、そこで視認できたら二人を抑える」
「お願いします」
中津山部長が後ろから画面をのぞき込んでくる。そして壁の別のモニターに目を向けた。そこには女性グループと、その後ろを歩く舘林さんと矢島さんの映像もある。
「あ、他の人は通常のモニターチェックを続けるように。今回の件は後でレポートを回すから」
部長はオペレーターさん達に声をかけた。そして横に椅子を引っぱってきて座ると、ため息をつく。
「まったく、この手の軽犯罪はなかなか殲滅できないな」
「それどころか、スマホのカメラ性能が上がったせいで増えてます」
「アプリもありますしね」
「文明の利器ってのは諸刃の剣だな」
「その文明の利器を犯罪に利用する人間が大馬鹿なんですよ。その点は間違いないです」
部長の言葉に私が断言すると、二人が小さく笑う。
「容疑者を確保した後の流れはどうなっているんですか?」
「天童さん、口調が警察官に戻ってますよ」
天童さんの口調が変わったので指摘する。
「すみません。で、どうなんでしょう」
「本部に連行して警察に通報、そして引き渡すことになる。そこからは警察にお任せだな」
「なるほど」
「個人的にはきついお灸をすえてほしいものだがね。そうだろ、一関さん」
「当然ですよ。特大のお灸をすえてもらわないと!」
ベンチの二人が映っている画面に女性グループがやってきた。私も二人の手元に目を凝らす。グループが前を通り過ぎる直前、カメラを持つ手が不自然に下に下げられた。
「あ、わかりました!」
「こっちも視認した。二人を確保する。誰かお嬢さんグループに事情を話して事務所に来てもらって。あと所轄の警察署さんにも連絡よろしく」
「了解だ。お嬢さんグループには近くの清掃班に対処してもらおう。警察へは俺が連絡をするよ。お手柄だ、天童君」
部長は天童さんの肩をポンポンとたたくと席を立った。
「それにしても天童さん、よく気づきましたね。私、教えてもらってから手元をじっと見てましたけど、うっかり見過ごすところでした」
「まあ経験ですね、これも」
「経験。警察官としてのですか?」
私の質問にうなづく。
「そんなところです。怪しい人物に対する嗅覚と言いますか。あと手元に関しては慣れだと思います。犯人の足取りを追う時、現場周辺の防犯カメラの映像をチェックするんですよ。それを見ることが多かったので」
「はー……モニター越しでも臭うものなんですか」
一体どんな臭いなんだろう? ちょっと興味がわく。まさか本当にモニターから臭っていたり?
「本当に臭っているわけじゃないですよ?」
私の考えを察したのか、天童さんが笑いながら言った。
「それはわかってます! だけど気になります。私にはさっぱり理解できない感覚なので」
「そんなことないと思いますけどね。たとえば、あの店は感じ良さそうとか感じ悪そうとか、そういうのってありませんか? それと似たような感じですよ」
「なるほど。それならなんとなく理解できます。ピンとくる直感みたいな?」
「そんな感じですね」
二人を連行する舘林さんと矢島さんを見ながらうなづく。
「この仕事を長く続けていけば、そのうち一関さんにも備わるんじゃないかな、この手の嗅覚は」
「だったら日々精進しないといけませんね」
「スキル獲得に向けてがんぱりましょう」
天童さんはニッコリとほほ笑んだ。お。今のはなかなか良い笑顔だと思いますよ、天童さん?
「天童さんが目指すのは脱パーントゥですからね。どっちが早いか競争しましょう!」
「脱パーントゥは永遠に無理な気が」
「そんなことありませんよ。とにかく日々精進でがんばりましょー」
私がそう言うと困った顔をしながらうなづくいた。
そして私達がモニター監視の業務を続ける間に、部長から通報を受けた警察署から警察官がやってきて、舘林さんと矢島さんに連行された男性二人は警察署に連行されることとなった。知らない間に囮になっていた女性グループは警察に連絡先を提出し、そのままパーク内に滞在することになったそうだ。
「その場でカメラの中身を確認したら良いのに」
「警備スタッフには強制できる権限はないですからね。その手のことができるのは警察官だけです。その警察でも現時点では相手の同意が必要ですから」
「警察官もいろいろと面倒なんですね」
「警察官は職務の性格上、強い権限を与えられていますからね。一関さんには矛盾して聞こえるかもしれませんが、強い権限を持っているからこそ様々な制約に縛られているんですよ」
いまいちピンとこなくて首をかしげてしまった。
「とにかく、なにをするにもいろいろと面倒な手続きが必要ってことであってますか?」
「そんなところですね」
「私が被害者だったら、気づいた時点で相手からカメラ取り上げて、さくっと池ポチャにしちゃうのにな~」
「一関さん、それ器物損壊なんですが?」
「え、被害者なのに罪に問われちゃうんですか?」
納得いかないとブツブツ呟きながら、床をけって椅子ごと自分にあてがわれた机に移動する。
「少しぐらい目をつぶるとかしてくれないんですか、おまわりさんって」
「さあどうでしょう」
「ドラマではそういうのあるのに」
ブツブツとつぶやきながら、私もモニター監視の仕事に戻った。
とまあこんな感じで、天童さんの試用期間は無事に終わり、警備部への正式採用が決まった。採用が決まったと同時に、天童さんに対する久保田さんと矢島さんの接近禁止命令は解除されるはずだったんだけど、天童さんの脱パーントゥがほど遠いので、いましばらく接近禁止命令は継続されるとのことだ。
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