シャウトの仕方ない日常

鏡野ゆう

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本編 4

第四十九話 築城へGO

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「みっくんや、そろそろ電車が来る時間やで。ジュース、はよう選びやー?」
「はーい!」

 改札口前の自動販売機でジュースを選んでいたチビスケが、ペットボトルを抱えて走ってきた。

「欲しいモン、あったか?」
「うん! これはパパの!」

 チビスケが俺にペットボトルを差し出す。なにやら妙なイラストのペットボトルやけど、なんやそれ。

「それ、なに?」
「スイカジュース!」
「なんでパパ、スイカジュースなんや……パパ、麦茶でええって言わんかった?」
「むぎちゃ、なかった!」
「そうなんかいな……」

 チビスケからペットボトルを受け取った俺の顔を見て、青井あおい葛城かつらぎが笑う。

「どんな味なんだろうね、それ」
「いやあ、知りたない気がするわー……」
「飲んだ後、感想をメールで送ってくれ。で、これ。移動中のどこかで食べてくれ」

 青井から渡されたのは風呂敷に包まれたもの。この膨らみ方からして、どう考えてもおにぎりにしか思えない。

「これは?」
「みっくんリクエストの、ブルーインパルスおにぎりのお弁当。さすがに真っ青とはいかなかったけどね。予備機も含めて7個。ちゃんと番号がついてるから」
「おおきにやで、班長。奥さんにお礼、言うといてな」
「で、僕からはデザートです」

 葛城から渡されたのは小さな紙袋だった。

「葛城もかいな」
「桃ゼリーです。妻が皆さんにって。食べ終わったら全部すてられるように、使いすてプラカップとスプーンになってますから」
「こっちもおおきにやで。奥さんによろしゅうな。しかしこりゃ、大阪までなんも買わんでええんちゃう?」
「かもですねー」

 今日は松島まつしまつ日。平日なのに、なぜか勤務時間中のはずの青井と葛城が、駅前まで俺達を見送りに来ていた。制服を着ているところから、二人が休みでないことはたしかだ。
 
「もらっておいてなんやけど、わざわざ見送りにこんでも良かったのに。今日も訓練あるんやろ?」

 特に葛城は、たった一人しかいない六番機ライダーだ。葛城がここにいるということは、朝一番の飛行訓練は、六番機抜きで行われることになる。

後藤田ごとうだとのデュアルソロの訓練、せなあかんのちゃうん?」
「隊長から許可はもらってますし、午後からは飛びますからご心配なく」
「せやったらええんやけどな」
「飛びたくないわりに、そういうことは気にするんだな、影山かげやま

 青井が笑った。

「せやかて班長。うちの隊長、可能な限り毎日六機で飛びたそうやん?」

 今日も晴天の訓練日和。隊長のことだから、一分でも早く離陸したくてうずうずしているに違いない。

「今日は特別だよ。ああ、それで思い出した。沖田からも伝言。築城ついきでは杉田すぎた隊長の言いつけに従って、四の五の言わずに飛べってさ」
「飛びたないねんけどなあ……」

 とはいえ、異動先は築城の飛行隊。どう考えても、飛ばないという選択肢はなさそうだ。

「さて、そろそろ電車の時間やな。ホームで嫁ちゃんがイライラしてるやろうから、そろそろ行くわ」
「気をつけて。ああ、それともう一つ。改札を通ったら、後ろを振り返って上を見てくれ」
「なんでなん?」
「いいから。これは最後の班長命令だからな」

 まさかの班長命令発言に笑ってしまう。ほんま、かなわんで。

「わかったわかった。ほな、またどこかでな。オール君とは、次の築城航空祭で会えるんかいな」
「だと良いですね。パンサーの前座で飛ぶのを楽しみにしています」

 チビスケの手をとり、改札口を通った。そして言われた通り、振り返って上を見る。そこには横断幕がはられていた。

《影さん、三年間ありがとう! 築城でもがんばって飛んでね!》

「こりゃまた、びっくりや」
「パパぼーず!!」

 文字の両端には影坊主のイラストが描かれていた。誰が描いたかなんて、聞くまでもないよな? 指を向けると、青井がニヤッと笑う。

「まーったく、総括班長ってそんなヒマな仕事やないやろ?」
「ライダーのお世話は俺の仕事のうちだからね。じゃあ気をつけて!」
「おおきになー! これ、ちゃんと後で回収しいやー?」

 駅舎の壁にはられた横断幕をさした。

「わかってるよ」
「道中お気をつけて」
「葛城もありがとさーん! 皆によろしゅうなー」

 チビスケの手を引きながらホームに向かう。ホームのベンチには、一足先に来ていた嫁ちゃんが座っていた。

「嫁ちゃーん、おまっとさん。班長と葛城君から、お弁当とデザートもろうたで」
「そうなの? だったら先にホームに入らずに、お礼を言えば良かったー」
「まあまあ。二人とも、嫁ちゃんがチビ姫を抱っこして大変なのわかってるし。俺からちゃんとお礼は言っといた」

 そう言いながら、おにぎり弁当と桃ゼリー、そしてスイカジュースを荷物の一番上に入れる。

「そう?」
「どうしてもお礼を言わな気がすまへんのやったら、大阪についてから班長とオール君にメールしたらええやん?」

 俺の言葉に、嫁ちゃんは「そうだね」とうなづいた。

「チビ姫は寝とるんか?」
「このまましばらく寝てくれると良いんだけどねー」
「みっくんや、ジュースはリュックの中に入れておこうか。出すんは電車の中でな」
「はーい」

 チビスケが背負っているリュックにペットボトルを入れていると、電車到着のアナウンスが流れた。

「おお、ええタイミングやな」

 待っていると、見慣れた車両がホームに入ってくる。

「さあ、ほな出発やで? まずは大阪のジージ、バーバのところまでレッツゴーや」
「れっつごー!!」

 チビスケが嬉しそうに声をあげた。
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