53 / 80
第四部 体験航海
第五十三話 体験航海 3
しおりを挟む
「出港用意」
「出港用意~!」
マイクを手に艦長が宣言すると同時に、ラッパの音が鳴り響く。岸壁のボラードとつながっている舫をといたみむろは、タグボートにひかれ、ゆっくりと離岸した。岸からある程度はなれると、今度はタグボートとみむろをつないだ舫をといていく。
「車を車庫から出すのとは、全然違うでしょ」
「けっこう大がかりなんですね。たまに動画を見ますけど、ここまで大がかりだとは、思いませんでした」
社会人の男性見学者と俺は、艦橋のハシの窓から、外を見おろしていた。
「エンジンをかけて、ササッと岸を離れるってわけには、いかないんですねー」
「バスやトラック以上に大きいですからね、護衛艦」
「波多野海士長さんは、こういう時、いつもは何をしてるんですか?」
「ひたすら監視です」
そう言いながら、手で双眼鏡をつくり目にあてる。
「ここだと、あまり監視が必要ないような気がしますけど。漁船もいないし、ここにいるのって、自衛隊の船ばかりですよね?」
「そうでもないんですよ。近くには民間のボートが停泊する場所がありますし、湾内の周遊船もいますからね。ほら、あそこ」
そう言って、遠くを横切っていくトレジャーボートを指でさす。こちらが完全に岸を離れていないので、結構なスピードで走り抜けていった。あれでもこちらの様子を見て、それなりに気をつかってくれているのだ。
「今日は平日で近くにいませんけど、水上バイクも近くを通るので、しっかり見張っておかないといけないんですよ」
「進入禁止じゃないんだ……」
「そのへんが難しいところでして」
「両舷最微速から微速」
「両舷最微速から微速~!」
「ここで勝手にアクセルも踏めないんですね」
「そうなんです。それなりに手順があるんです。ま、これを面倒くさいと思うか、大切な手順だと思うかで、その人の適性が出るんですけどね」
「ここで面倒くさいと思ったら、どうなるんですか?」
俺の言葉に、その人が首をかしげる。
「そうですねー……少なくとも護衛艦と潜水艦乗りには向かないかも」
「そうなんですか?」
「もちろん将来的に、こういうことが必要なくなるかもしれませんけどね。ですが今のところ、この手の手順はほぼ万国共通なんですよ。その手順が今も残っているってことは、それなりの理由があるってことです」
「なるほどー。肝に銘じておきます!」
「お願いします」
「あ、申し訳ないですが、そこのモニター画面は写さないでください」
藤原三佐の声がした。チラッと視線を向けると、見学者の一人がカメラを出している。そのカメラのレンズが向けられていたのは、レーダーのモニターだった。
「あそこはダメなんですか?」
「ええ。この護衛艦の性能がわかってしまいますからね。ご本人にその気がなくても、万が一その写真が外部にもれると、困ることもあるんですよ」
「なるほど」
あくまでも本人は悪くないということを強調する。ただ、艦長と三佐が目配せをしたのが気になった。
―― あー……これは見学範囲がせまくなったかも……なにが削られるんだろうな…… ――
体験航海では、一般公開では見られないところも見学できる、というの一つの目玉でもあった。それもあって、そこを楽しみに応募してくる人もいるぐらいだ。だが今の二人のやりとりを見る限り、その見学に変更が入ったと思われる。
―― 今回の見学コース、けっこう特別メニューだったんだけどなあ、もったいない…… ――
「新しい護衛艦だと、そういうのが他よりたくさんありそうですね」
「そうですね。我々でも立ち入れない場所はありますから」
「そうなんですか?」
「ええ。部署が違うと、同じ乗員でも入ったらダメな場所ってあるんですよ」
「へー……乗員になったらどこでもフリーパスだと思ってました」
「自分も最初はそう思ってました」
視界のすみで、三佐が同行していた地本の隊員を手招きで呼び、艦橋の脇にある見張り台へと出た。そして何やら話し込んでいる。三佐の顔つきからして、良くないことを話しているのは間違いない。地本の人も神妙な顔をしている。
―― なにを話しているんだろうな……副長の顔が不穏すぎる…… ――
いくら人材確保と広報活動の一環だとしても、護衛艦での決定権は艦長にある。そして、その艦長の意向を伝えるのが、副長の重要な役割の一つだった。
―― 副長が注意したのは一回だけのはずだけど、違ったのかな…… ――
相手は民間人。一度の注意で、ここまでの動きがあるとは思えない。俺達がなにか見落としていたんだろうか? 三佐と話をしていた隊員が艦内に戻ってきた。そして何故か、俺のところにやってくる。
「波多野さん、それから機関の河内さん、副長がお呼びです」
「あ、はい!」
まさかの呼び出しにギョッとなった。俺達、なにかやらかしたか? 隣にいた見学者に断りをいれて、艦橋の外に向かう。
「うおっ?!」
「どうした?」
「なんでもない。自分で自分の足を踏んだ」
「器用だなあ……」
「うるさい」
河内には見えていないようだが、それまで艦橋の窓辺にいた三匹の猫神候補生達が、俺の頭の上に飛び乗ってきたのだ。猫大佐は、満員御礼状態の艦橋を嫌ってか、いつもの艦長席にはいなかった。今日は単装砲の上に居座っていて、見学者達がここから出ていくまでは、こっちには戻ってこないだろう。
『僕達も副長さんのお話ききまーす!』
『きっと艦長命令ー!』
『重要な伝達ー!』
「波多野、河内、まいりました!」
「そんなに緊張するな。お前達への叱責ではないから」
俺達の顔つきを見て察したのか、三佐が笑った。チラッと俺の頭の上に視線を向けたような気がしたが、そこは気のせいだと思っておく。
「なにかあったのでしょうか?」
「ん? ああ、そうだな。さっき俺が注意した見学者、顔は覚えたか?」
「はい」
やはりあの人のことなのかと身がまえる。
「なにかしたんですか?」
「ここに入ってから、ずっとカメラを手にしているから要注意だ。撮られたら困るところは、それとなくブロックしていたが、さすがにな」
「なるほど。見学中の行動を、それとなくマークしろということですね?」
つまり、あれこれあった上での注意だったのだ。まったく気がつかなかった。
「そういうことだ。それと見学ルートの変更だ。機関に関しては予定通りに見学させる。今回は戦闘指揮所も予定に入れていたんだが、そこは取りやめだ。撮影NGを条件に見てもらおうと考えていたが、今回のグループは問題ありと判断した」
「艦長とは、事前に決めていたんですか?」
「まあそんなところだ。で、見学時間に余裕ができるので、沖に哨戒ヘリを呼んで、それの離着艦を見てもらうことになる」
「用意周到ですね」
「まあ、ここでの体験航海が初めてじゃないからな、艦長も俺も」
つまり問題ありな行動をする人は、それなりに存在するということなんだろう。
「写真、今のところ大丈夫なのでしょうか?」
「俺が見ている限りは、だが。この場で撮ったものをすべてチェックさせろとは、言えないからな」
「相手が民間人だと難しいですね」
「まったくな。デジカメに不具合でも起きて、撮ったデータが全部消えてくれたら良いんだが」
三佐は、マニアが聞いたら泣いて気絶しそうなことを、さらりと言った。そしてその言葉に反応したのは、まさかの三匹の候補生達だった。
『僕たち、きっと消せますー!』
『まっくろかまっしろにしちゃえますー!』
『おまかせくださーい!』
その声に三佐がニヤッと笑った。
「鬼だ……」
「なにがだ、波多野」
「いえ、なんでもありません!」
「とにかくそういうことだ。元の場所に戻れ。ああ、波多野、比良と宗田に、ここに来るように伝えてくれ」
「了解しました」
艦橋内に戻ると、反対側に立っている比良のもとへと向かう。
「比良、宗田、副長が呼んでる」
そう伝えると、二人は俺達と同じような顔をした。
「特に叱責とかじゃないから心配ないし」
「そうなんですか? じゃあ行ってきます。ちょっと失礼します」
比良達は見学している人達にそう言って、三佐が待つ場所へと急ぎ足で向かう。三匹の候補生達は、艦橋内に戻ると同時に、カメラを持った見学者のもとへと走っていった。そしてコンソールパネルの上に並び、その人に向かってニャーニャーと鳴いている。もちろんその姿は、俺と特定の人にしか見えていないようだが。
『撮影厳禁ー!』
『みむろの写真だけ消しまーす! 削除用意ー!』
『削除用意ー!』
―― おいおい、もうここで消するかよ! せめて下艦するまで待てよ! 消えているのを気づいたら大騒ぎするぞ、その手の人は! ――
俺の声が聞こえたのか、三匹がこっちを見る。
『了解しましたー!』
『しましたー!』
『下艦と同時に消しますー!』
―― えええ……俺の声が聞こえたのかよ…… ――
『波多野さんの命令でーす!』
『命令、了解しましたー!』
『お昼寝しちゃったらごめんなさーい!』
そしてとんでもないことを言っている。やはりそこは子猫だということなんだろうか。
―― 寝るなよ! 俺達だって昼寝しないんだから! ――
『僕たち候補生なので!』
『候補生なので!』
『候補生なので!』
―― ええええ…… ――
彼らの教官である大佐に目を向けた。
―― おーい! 大佐の教え子、任務中に昼寝するとか言ってるぞー?! なんとか言ってやってくれよ! ――
俺の声が聞こえたのか聞こえないのか、大佐は単装砲の上で大きなあくびを一つする。考えてみれば猫大佐だって猫だ。猫は「寝る子」から「ねこ」となったと言われるぐらい、よく寝る生き物らしい。そこは神様になっても同じなんだろう。
―― いやいや、そうじゃなくて! そこは寝てる場合じゃないし!! ――
大佐は後ろ足でアゴの下をかきむしる。
―― 相波大尉の苦労がわかってきた気がする……わかりたくなかったけど ――
俺が心の中でぼやく中、みむろは基地のある奥まった湾を抜け、外洋に面した湾へと進んだ。
「では皆さん、これより艦内のご案内をします。さきほどと同じように、一列になってついてきてください。階段はさっきのぼった時にわかったと思いますが、ほぼ垂直です。できるだけ両側の手すりをしっかり持って、あわてずにおりてくださいね」
三佐が、その場にいる見学者達の移動をうながした。
「では艦長、すみませんが……」
艦長とのすれ違いざま、三佐が小声でささやく。
「ああ、わかっている」
航空基地への連絡だろう。艦長と副長の連携はしっかりととれているらしい。もちろん二人だけではなく、航海長や機関長、補給長ともだろう。
―― さすが幹部。こういう時の急なプラン変更でも、チームワークは抜群なんだな…… ――
俺はあらためて、幹部スゲーという気持ちになった。
「出港用意~!」
マイクを手に艦長が宣言すると同時に、ラッパの音が鳴り響く。岸壁のボラードとつながっている舫をといたみむろは、タグボートにひかれ、ゆっくりと離岸した。岸からある程度はなれると、今度はタグボートとみむろをつないだ舫をといていく。
「車を車庫から出すのとは、全然違うでしょ」
「けっこう大がかりなんですね。たまに動画を見ますけど、ここまで大がかりだとは、思いませんでした」
社会人の男性見学者と俺は、艦橋のハシの窓から、外を見おろしていた。
「エンジンをかけて、ササッと岸を離れるってわけには、いかないんですねー」
「バスやトラック以上に大きいですからね、護衛艦」
「波多野海士長さんは、こういう時、いつもは何をしてるんですか?」
「ひたすら監視です」
そう言いながら、手で双眼鏡をつくり目にあてる。
「ここだと、あまり監視が必要ないような気がしますけど。漁船もいないし、ここにいるのって、自衛隊の船ばかりですよね?」
「そうでもないんですよ。近くには民間のボートが停泊する場所がありますし、湾内の周遊船もいますからね。ほら、あそこ」
そう言って、遠くを横切っていくトレジャーボートを指でさす。こちらが完全に岸を離れていないので、結構なスピードで走り抜けていった。あれでもこちらの様子を見て、それなりに気をつかってくれているのだ。
「今日は平日で近くにいませんけど、水上バイクも近くを通るので、しっかり見張っておかないといけないんですよ」
「進入禁止じゃないんだ……」
「そのへんが難しいところでして」
「両舷最微速から微速」
「両舷最微速から微速~!」
「ここで勝手にアクセルも踏めないんですね」
「そうなんです。それなりに手順があるんです。ま、これを面倒くさいと思うか、大切な手順だと思うかで、その人の適性が出るんですけどね」
「ここで面倒くさいと思ったら、どうなるんですか?」
俺の言葉に、その人が首をかしげる。
「そうですねー……少なくとも護衛艦と潜水艦乗りには向かないかも」
「そうなんですか?」
「もちろん将来的に、こういうことが必要なくなるかもしれませんけどね。ですが今のところ、この手の手順はほぼ万国共通なんですよ。その手順が今も残っているってことは、それなりの理由があるってことです」
「なるほどー。肝に銘じておきます!」
「お願いします」
「あ、申し訳ないですが、そこのモニター画面は写さないでください」
藤原三佐の声がした。チラッと視線を向けると、見学者の一人がカメラを出している。そのカメラのレンズが向けられていたのは、レーダーのモニターだった。
「あそこはダメなんですか?」
「ええ。この護衛艦の性能がわかってしまいますからね。ご本人にその気がなくても、万が一その写真が外部にもれると、困ることもあるんですよ」
「なるほど」
あくまでも本人は悪くないということを強調する。ただ、艦長と三佐が目配せをしたのが気になった。
―― あー……これは見学範囲がせまくなったかも……なにが削られるんだろうな…… ――
体験航海では、一般公開では見られないところも見学できる、というの一つの目玉でもあった。それもあって、そこを楽しみに応募してくる人もいるぐらいだ。だが今の二人のやりとりを見る限り、その見学に変更が入ったと思われる。
―― 今回の見学コース、けっこう特別メニューだったんだけどなあ、もったいない…… ――
「新しい護衛艦だと、そういうのが他よりたくさんありそうですね」
「そうですね。我々でも立ち入れない場所はありますから」
「そうなんですか?」
「ええ。部署が違うと、同じ乗員でも入ったらダメな場所ってあるんですよ」
「へー……乗員になったらどこでもフリーパスだと思ってました」
「自分も最初はそう思ってました」
視界のすみで、三佐が同行していた地本の隊員を手招きで呼び、艦橋の脇にある見張り台へと出た。そして何やら話し込んでいる。三佐の顔つきからして、良くないことを話しているのは間違いない。地本の人も神妙な顔をしている。
―― なにを話しているんだろうな……副長の顔が不穏すぎる…… ――
いくら人材確保と広報活動の一環だとしても、護衛艦での決定権は艦長にある。そして、その艦長の意向を伝えるのが、副長の重要な役割の一つだった。
―― 副長が注意したのは一回だけのはずだけど、違ったのかな…… ――
相手は民間人。一度の注意で、ここまでの動きがあるとは思えない。俺達がなにか見落としていたんだろうか? 三佐と話をしていた隊員が艦内に戻ってきた。そして何故か、俺のところにやってくる。
「波多野さん、それから機関の河内さん、副長がお呼びです」
「あ、はい!」
まさかの呼び出しにギョッとなった。俺達、なにかやらかしたか? 隣にいた見学者に断りをいれて、艦橋の外に向かう。
「うおっ?!」
「どうした?」
「なんでもない。自分で自分の足を踏んだ」
「器用だなあ……」
「うるさい」
河内には見えていないようだが、それまで艦橋の窓辺にいた三匹の猫神候補生達が、俺の頭の上に飛び乗ってきたのだ。猫大佐は、満員御礼状態の艦橋を嫌ってか、いつもの艦長席にはいなかった。今日は単装砲の上に居座っていて、見学者達がここから出ていくまでは、こっちには戻ってこないだろう。
『僕達も副長さんのお話ききまーす!』
『きっと艦長命令ー!』
『重要な伝達ー!』
「波多野、河内、まいりました!」
「そんなに緊張するな。お前達への叱責ではないから」
俺達の顔つきを見て察したのか、三佐が笑った。チラッと俺の頭の上に視線を向けたような気がしたが、そこは気のせいだと思っておく。
「なにかあったのでしょうか?」
「ん? ああ、そうだな。さっき俺が注意した見学者、顔は覚えたか?」
「はい」
やはりあの人のことなのかと身がまえる。
「なにかしたんですか?」
「ここに入ってから、ずっとカメラを手にしているから要注意だ。撮られたら困るところは、それとなくブロックしていたが、さすがにな」
「なるほど。見学中の行動を、それとなくマークしろということですね?」
つまり、あれこれあった上での注意だったのだ。まったく気がつかなかった。
「そういうことだ。それと見学ルートの変更だ。機関に関しては予定通りに見学させる。今回は戦闘指揮所も予定に入れていたんだが、そこは取りやめだ。撮影NGを条件に見てもらおうと考えていたが、今回のグループは問題ありと判断した」
「艦長とは、事前に決めていたんですか?」
「まあそんなところだ。で、見学時間に余裕ができるので、沖に哨戒ヘリを呼んで、それの離着艦を見てもらうことになる」
「用意周到ですね」
「まあ、ここでの体験航海が初めてじゃないからな、艦長も俺も」
つまり問題ありな行動をする人は、それなりに存在するということなんだろう。
「写真、今のところ大丈夫なのでしょうか?」
「俺が見ている限りは、だが。この場で撮ったものをすべてチェックさせろとは、言えないからな」
「相手が民間人だと難しいですね」
「まったくな。デジカメに不具合でも起きて、撮ったデータが全部消えてくれたら良いんだが」
三佐は、マニアが聞いたら泣いて気絶しそうなことを、さらりと言った。そしてその言葉に反応したのは、まさかの三匹の候補生達だった。
『僕たち、きっと消せますー!』
『まっくろかまっしろにしちゃえますー!』
『おまかせくださーい!』
その声に三佐がニヤッと笑った。
「鬼だ……」
「なにがだ、波多野」
「いえ、なんでもありません!」
「とにかくそういうことだ。元の場所に戻れ。ああ、波多野、比良と宗田に、ここに来るように伝えてくれ」
「了解しました」
艦橋内に戻ると、反対側に立っている比良のもとへと向かう。
「比良、宗田、副長が呼んでる」
そう伝えると、二人は俺達と同じような顔をした。
「特に叱責とかじゃないから心配ないし」
「そうなんですか? じゃあ行ってきます。ちょっと失礼します」
比良達は見学している人達にそう言って、三佐が待つ場所へと急ぎ足で向かう。三匹の候補生達は、艦橋内に戻ると同時に、カメラを持った見学者のもとへと走っていった。そしてコンソールパネルの上に並び、その人に向かってニャーニャーと鳴いている。もちろんその姿は、俺と特定の人にしか見えていないようだが。
『撮影厳禁ー!』
『みむろの写真だけ消しまーす! 削除用意ー!』
『削除用意ー!』
―― おいおい、もうここで消するかよ! せめて下艦するまで待てよ! 消えているのを気づいたら大騒ぎするぞ、その手の人は! ――
俺の声が聞こえたのか、三匹がこっちを見る。
『了解しましたー!』
『しましたー!』
『下艦と同時に消しますー!』
―― えええ……俺の声が聞こえたのかよ…… ――
『波多野さんの命令でーす!』
『命令、了解しましたー!』
『お昼寝しちゃったらごめんなさーい!』
そしてとんでもないことを言っている。やはりそこは子猫だということなんだろうか。
―― 寝るなよ! 俺達だって昼寝しないんだから! ――
『僕たち候補生なので!』
『候補生なので!』
『候補生なので!』
―― ええええ…… ――
彼らの教官である大佐に目を向けた。
―― おーい! 大佐の教え子、任務中に昼寝するとか言ってるぞー?! なんとか言ってやってくれよ! ――
俺の声が聞こえたのか聞こえないのか、大佐は単装砲の上で大きなあくびを一つする。考えてみれば猫大佐だって猫だ。猫は「寝る子」から「ねこ」となったと言われるぐらい、よく寝る生き物らしい。そこは神様になっても同じなんだろう。
―― いやいや、そうじゃなくて! そこは寝てる場合じゃないし!! ――
大佐は後ろ足でアゴの下をかきむしる。
―― 相波大尉の苦労がわかってきた気がする……わかりたくなかったけど ――
俺が心の中でぼやく中、みむろは基地のある奥まった湾を抜け、外洋に面した湾へと進んだ。
「では皆さん、これより艦内のご案内をします。さきほどと同じように、一列になってついてきてください。階段はさっきのぼった時にわかったと思いますが、ほぼ垂直です。できるだけ両側の手すりをしっかり持って、あわてずにおりてくださいね」
三佐が、その場にいる見学者達の移動をうながした。
「では艦長、すみませんが……」
艦長とのすれ違いざま、三佐が小声でささやく。
「ああ、わかっている」
航空基地への連絡だろう。艦長と副長の連携はしっかりととれているらしい。もちろん二人だけではなく、航海長や機関長、補給長ともだろう。
―― さすが幹部。こういう時の急なプラン変更でも、チームワークは抜群なんだな…… ――
俺はあらためて、幹部スゲーという気持ちになった。
13
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
神様達の転職事情~八百万ハローワーク
鏡野ゆう
キャラ文芸
とある町にある公共職業安定所、通称ハローワーク。その建物の横に隣接している古い町家。実はここもハローワークの建物でした。ただし、そこにやってくるのは「人」ではなく「神様」達なのです。
※カクヨムでも公開中※
※第4回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる