恋と愛とで抱きしめて

鏡野ゆう

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番外小話 5 【貴方の腕に囚われて】

音無三曹 in 病院 side - 奈緒

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渉君がレンジャー課程を受けること決めて信吾さんにあれこれ相談していた頃の奈緒のお話。


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 ここしばらく信吾さんがあゆむが頻繁に連絡を取り合っている。この前の渉の休暇日にもこっそりと帰ってきた渉と二人で会ってきたみたいだった。そりゃあ男同士で話をすることもあるだろうし現役自衛官と自衛官OBとして二人っきりで話し合いたいこともあるんだろうけど、なんだか仲間外れにされたみたいでちょっと寂しい。

 これって子離れできてないってことなんだろうか? 次の院内診療日にでも入院患者のお婆ちゃん達に聞いてみよう。

「そんなこと言ったら私とママだって同じようなことしていたじゃない。何もパパと渉君に限ったことじゃないと思うわよ?」

 そう私に指摘したのは友里ゆり。友里は卒業して私と同じ病院で研修を始めた時から、家を出て病院の近くにアパートを借りて一人暮らしを始めていた。今日は久しぶりの休みで、信吾さんが渉とデートするんだってと私がぼやいたらじゃあ私がママの話し相手になってあげるとわざわざこっちに戻ってきてくれたのだ。

 そっちこそ久し振りのお休みに東出君をほったらかしておいて良いの?って聞いたら彼は今日も救命救急でお仕事中なんだそうだ。ほんと、救命救急って今も昔も大変よね。

「そう?」
「そうだって。私が大学で勉強している時は色々と相談していたでしょ? きっとあの時はパパ、俺には分からん世界の話だってこの辺にシワを作りながら聞いてたと思うわよ?」

 そう言いながら友里は眉毛の間を指で指すとシワを寄せて、信吾さんが難しい顔をしている時の表情を真似してみせた。その顔に思わず笑ってしまう。

「ちょっと何でそこで笑うのーー!!」
「だって、渉君が不機嫌そうな顔をしている時の顔とそっくりなんだもの。やっぱり双子よね」
「もー……こっちはママが仲間外れにされて落ち込んでいるんじゃないかって心配になって来てあげたっていうのに!」

 プウッと膨れるところは小さい頃の表情とまったく変わらない。大きくなってもやっぱり私達の可愛い娘よね。

「ごめんごめん。でもね、私、実のところ友里がお医者さんになるとは思ってなかった」
「そうなの?」
「うん。渉が医者、友里が自衛官を目指しているんだと思ってたのよ」

 二人とも早くから大学に行くことは決めていてそれに向けて勉強を頑張っていた。でも二人の性格と普段から話している様子を見て渉が医学部、友里が防衛大学を目指すんだとばかり思ってたのだ。

 だから高校生になって担任の先生と進学の話をした時は本当にびっくりした。まさか渉が防衛大学で友里が医学部を目指しているなんて。

「あー、そう言えば初めて医学部に行きたいって言った時にママ、防衛医科大なのって言ってたもんね」
「だってそれまで友里の方が信吾さんのお仕事に興味津々って感じだったでしょ?」
「まあ確かにね、パパ達の仕事には興味があった。でも話を聞いたり見たりしているうちに私は頭を使う方が向いてるって思うようになったの。で、パパ達みたいな人が怪我をした時に治療で役立つことが出来たら良いなって」

 つまりは医者を目指したのも信吾さんの影響があるってことなのね、納得。

「こういうことってもっと早くに話し合うべきだったわよね」

 今更のように友里がどうしてその道を進もうと思ったのかを聞かせてもらうなんて、親としては失格かもと溜め息をついてしまった。

「そんなことないよ。あの時はあの時でちゃんと二人には話を聞いてもらってたし、自分で決めた道なんだから後悔しないようにって言われて頑張ろうって思ったから。何もかもその時に話さなきゃいけないって決まりはないでしょ? 我が家には我が家のやり方があるんだもの。それこそ臨機応変ってやつ?」
「なんだか何もかもがパパの影響大って感じよね。私の遺伝子は何処に行っちゃったんだろ……」

 本当に信吾さんの存在が子供達にとって物凄く大きいってことを改めて思い知らされる。

「私が医者になろうって思ったのは間違いなくママの影響でもあるんだけどな。それにママの不定愁訴外来も自衛隊に役に立ってるじゃない。聞いてるよ? 外来の患者さんに自衛官の奥さん達が来ていること」

 不定愁訴外来で大事なことはとにかく患者さんの話を聞いてあげること。もちろんアドバイスを求められればするけれど最初のうちはあくまでも聞き役に徹することが第一だった。だってやってくる人達はとにかく自分の悩みを聞いてほしいって気持ちがいっぱいなんだもの。

 私に話してスッキリした気分になれればそれに越したことはないし、深刻な原因が他にある場合は更に専門分野の先生と一緒になって考えていくことになる。場合によってはこちらの神経もかなり磨り減ることもあるけれどやりがいのある仕事だった。

 そして何故か最近の外来にやってくる患者さんに自衛官の奥さんって人が増えていた。どうやら私が自衛官の妻だってことが奥様ネットワークを通して広まったみたいで、旦那さんの任務について不安を抱えた人達がやってくる。とは言え私も自衛隊の任務についてそれほど詳しいわけじゃないから、あくまで自分が経験したことを元にしてお話をさせてもらうことしか出来ないんだけれど。

「何処からそんな話が漏れてるの?」
「内部情報の共有ってやつだから心配しないで。誰かに話すことはないから」
「だったら良いんだけれど。とにかく患者さんの個人情報に関しての取り扱いには十分に気をつけてね」

 確か今も特別室に政治家先生が極秘入院しているはずで秘書や同じ政党の議員さん、そして御家族が人目を避けるようにして通っていたっけ。幸いなことにマスコミにはまだ入院先のここのことは漏れていないようだけどとにかく個人情報の取り扱いは要注意だ。

「分かってるって。それより私はわたるの将来の目標も気になるなあ」

 そう言いながら友里はドアが閉まっている子供部屋の方に視線を向けた。

 今日は平日だから航はまだ学校だ。友里は帰ってきてから姉権限でこっそりと部屋を覗いたみたいで、以前は渉と航が二人で使っていた部屋が数年でものの見事に航に乗っ取られたことに感嘆の声をあげていた。

「まだ何も定まってないみたい。本人もなりたいものは色々あるけれど迷っているって感じね。とにかく今は自分の進路よりも部活のトランペットに夢中みたい」
「陸海空どれかの音楽隊に入ったりして」

 友里がニヤニヤしながらそう言った。それは有り得ないと言い切れないところが困ったところなのよね。

「そうなっても驚かないかなあ……」

 だって信吾さんのお友達の葛城さんのところなんて息子さん二人ともお父さんと同じ戦闘機のパイロットになっちゃったし、佐伯さんのところも前妻さんとの間に生まれた息子さんが護衛艦乗りになったって話だったし。渉のこともあるから航も蛙の子は蛙になる可能性は大いにありってやつだと思う。

「信吾さんの遺伝子、本当に強すぎ」

 って言うか、信吾さんに限らず自衛官全ての人達の遺伝子が強すぎるってやつかしら?

「ってことは皆そろってママのことが大好きってやつだから寂しく思うことないんじゃないの? まあパパの場合はママのことが好きすぎて見ていると暑苦しいことこの上ないけど」
「パパ、暑苦しくないわよ」

 お出掛けしてもなかなか手をつないでくれないし、お互いに年を重ねて昔よりかなりラブラブ具合は薄まってしまったと思うんだけど。

「そう思ってるのはママだけ。本当にここはラブラブすぎて困る。思春期の航が変な影響を受けないか心配」
「それって私達に失礼じゃ?」
「そんなことないです」

 そうかなあ……。

「渉にも友里にも大事な相手ができたことだし、私はかなり大切な人ランキングでは下の方にいっちゃったと思うんだけとな」
「パパの好きな人ランキングの一位にいるんだからそれで十分でしょ? それ以上の愛情を受けたらママ、絶対窒息しちゃうからね?」
「そうかなあ……」

 そう呟くと友里が複雑な表情をした。

「あー……やっぱり航のことが心配になってきた……」

 それってやっぱり失礼じゃ?


 そして気が済むまで「女の子同士の話」をして友里は帰っていった。渉が怪我をしてたら心を込めて治療をしてあげるから是非ともうちの病院に連れてきてねと言い残して。
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