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本編
第五話 玉子酒もどうですか
じゃあ、先生がそれから二週間、いたるところで私の目の前に現れて、梅園のことを喋りまくったのかと言えばそうでもなくて、相変わらず診療所は、風邪ひきさんの子供達やお年寄りがたくさんやって来るので、とても忙しいらしく、そんな暇は無いようだった。帰りも遅いようで、食事は前にも言っていたように、店屋物か、診療所から帰って来る途中にある居酒屋さんで、食べているみたい。お医者様にしては、健康的な食生活とは言えないのではないかと思う。
「そう言えば、甘党だって言ってたっけ」
結花ちゃんが、ケーキを作れば泣いて喜ぶと言っていたのを思い出して、差し入れようかと思い立つ。
「食事のバランスからしたら、あまりお勧めは出来ないけれど、まあ良いよね」
梅酒のガラス瓶の中から梅の実を取り出して、細かく刻むと、用意したケーキの種に放り込む。混ぜながら、あまりの梅梅しい香りに、入れすぎたかなと思いつつ、あれだけ梅が体に良いって薀蓄を並べたんだもの、きっと喜んで食べてるに違いないと、ちょっとだけ意地悪な気分になりながら、そのままケーキを焼いた。
粗熱が取れて、一切れずつ切っていたとこころで、お隣のドアの開く音がした。どうやら御帰還のご様子だ。
「……」
だけど、ドアの開け閉めの音の合間に、派手なクシャミが何度か聞こえたのは、気のせいじゃないと思う。もしかして、風邪をもらってしまったとか? 診察の時はマスクをしているとは言え、うつる時はうつるし、お隣さんのよしみで、ケーキを届けがてら様子を見てみよう。そう決めると、紙ナプキンを敷き詰めたタッパーにケーキを詰め込んで、お隣さんの部屋を訪問することにした。
インターホンを鳴らすと、ドアの向こうで再び派手なクシャミが聞こえ、マスクをした先生が顔を出した。
「こんばんは、先生。すごいクシャミですね、大丈夫ですか?」
「うん、今のところはね。何か用? その前に、寒いから中に入ったら?」
玄関に入れてもらうと、ドアを閉めてからタッパーを差し出す。
「梅の実を入れたパウンドケーキなんですけどね、甘い物が好きだって言ってたから、どうかなって。だけど今の先生に必要なのは、どちらかと言うと玉子酒かも」
鼻をグズグズさせている先生を見上げながら言った。
「あいにくと、うちには日本酒が無いから、玉子酒は無理だなあ……」
「卵はあるんですか?」
「何個かはまだ残っていると思うよ。今朝も朝飯に、卵かけご飯を食べて出たから」
「先生の食生活って……」
お医者さんすべてが、健康に気を遣った食事をしているわけではないらしい。
「日本酒が無いなら……あ、うちにケーキ用に買ったラム酒があるから、それで玉子酒作りましょうか。伝統的な玉子酒じゃなくて、エッグノッグになっちゃうけど」
「わざわざ作ってもらうなんて、申し訳ないよ」
「なに言ってるんですか、次のお休みには梅園に行くんでしょ? 風邪をひいたままだと、梅を見損ねちゃいますよ。先生が出掛けられなくなって、梅園をホームページを見るだけで満足するって言うなら、別にかまいませんけど」
せっかく勧めてくれた土井さんが、ガッカリするじゃないですかと言うと、それもそうだねとうなづいた。
「天森さんに案内も頼んだことだしね」
「そうですよ。案内を頼んできたのは、先生なんですからね。じゃあ、ラム酒持ってきますから、待っててください」
部屋に取りに戻ってから、こっちで作って持って行ったほうが良いのかしら?と考える。だけど卵はあるって言っていたし、ミルクパンは無くても、お鍋ぐらいはあるわよねと思い直す。他の材料は大丈夫かな? シナモンなんて、絶対にないよね?
「……牛乳とお砂糖も持っていこう」
レジ袋にシナモンパウダーと牛乳、そしてお砂糖が入った瓶を入れると、先生の部屋に戻る。ドアを開けたところで、再び盛大なクシャミが聞こえた。やっぱり玉子酒を飲んで、温かくして早く寝たほうが良いような気がしてきた。
先生の部屋は角部屋ということもあってか、私の部屋よりも広くて、ベランダに面している窓がたくさんあって、日当たりが良さそうな間取りだった。ロフトはうちと同じような広さであるみたい。少し興味があって、つま先立ちをして上を見ようとしたら、先生が前に立ちはだかった。
「天森さんが来るから、慌てて散らかっていたものを放り上げたところなんだから、覗かないでくれる?」
随分と片づいているから感心していたら、見えないところに無理やり片づけたらしい。だけどそれも謙遜な可能性もあるわけで、何を放り上げたのか物凄く気になる。この前の本屋さんで買ったような、分厚い本ばかりという可能性もあるわけだし。
「見るなと言われると、余計見たくなるのが人の心理というもので……」
「じゃあ今すぐ、天森さんちのロフトも、俺に覗かせてくれる?」
その言葉に、枕元に散らばった恋愛もののコミックと小説が脳裏に浮かんだ。
「イヤです」
「だったら、見ないで欲しい俺の気持も分かるよね」
「まさかとは思いますけど」
「高校生みたいに、エロい雑誌を隠しているわけじゃないから、その点は心配しないでください」
「はい……」
ざんねーんと呟きながら、キッチンを借りることにする。幸いなことにミルクパンがある。なんでも、結花ちゃんが持って行けと、引っ越しの際に、段ボール箱にねじ込んだものなんだとか。さすが女の子だ、結花ちゃんありがとう。さっそくミルクパンに卵と砂糖を入れて丁寧にかき混ぜ、トロトロになってきたところに、牛乳を注ぎ込んで、ゆっくりと温めていく。
「そのままでも美味しそうだね」
甘党の先生らしい言葉だ。ラム酒を入れておいたマグカップに、温まったものをおたまでそっと注いだ。
「甘さはお好みなんですけど、どうですか?」
そう言って、スプーンに少しだけ入れて差し出した。先生はそれを口に含んで、うーんと考える。
「お酒の風味を、もう少し増やして欲しいかなあ」
そう言いながら、ラム酒を注いでいく。甘いのも良いよねと、さらにお砂糖まで追加投入。
「ちょっと先生、それ入れすぎじゃ……」
いくらお好みでと言っても、好きにさせておいたら別物が出来上がってしまいそうなので、慌ててお砂糖とラム酒を遠ざけた。だけど時すでに遅しで、エッグノッグが出来上がるはずが、玉子風味のラム酒になってしまった。しかも量が倍増で、マグカップから溢れそう……。
「そうだ。梅酒もそうだけど、玉子酒の効能も、ちゃんと科学的な説明が出来るんだよ、知ってた?」
「だからと言って、こんなにお酒を増やして、良いわけがないじゃないですか。絶対に二日酔いになっちゃう」
「明日は夜間診療の当番だから、二日酔いになっても大丈夫だよ」
ニコニコしながらマグカップを手にすると、一口飲んで美味しいよとニッコリと笑った。本当に? 普段、私が作るのとは、比べ物にならないぐらいお酒とお砂糖が入ったものだけど。試しにスプーンですくって味見をしてみる。……わお、もうほとんど、甘いだけのお酒になってるよ。
「……先生、玉子がどこかに行っちゃってますよ、これ」
「大丈夫、ちゃんと色は玉子色だから」
そういう問題じゃないと思う。
「天森さんも、ここで飲んでいきなよ。俺一人じゃ飲みきれないし」
「それって、お酒をダバダバ入れた先生のせいじゃないですか」
平日にお酒は飲まないと決めている私に、なんてことを言うんですかと軽く睨んだけど、先生は怯むことなくニコニコしている。
「ほら、一人で飲むより二人で飲んだほうが楽しいし。それに、天森さんが差し入れてくれたケーキも、一緒に食べたいし」
「こんな時間から食べたら、太っちゃいます」
「じゃあ、俺が食べるのを見てるだけでも」
「それは拷問です酷すぎる」
私の言葉にアハハと笑った先生だったけど、そこで立て続けに派手なくしゃみをした。
「もう、本当に大丈夫ですか? お酒より、お薬飲んだほう良いんじゃ?」
「せっかくのエッグノッグだから、これを飲んで大人しく寝ることにするよ。一緒にケーキも食べたいけど、それはまたの機会にしようか。万が一、俺を介して天森さんが風邪をひいたりしたら、それこそ大変だし」
「本当に大丈夫ですか? お薬、市販のだったら持ってますよ?」
「大丈夫。自分の体調がどんな状態かは分ってるから。だけど、心配してくれてありがとう」
ちゃんと温かくして寝てくださいねと言いながら、牛乳とお砂糖そしてシナモンをレジ袋に入れると、玄関へと向かった。後ろからついてきた先生は、少しだけ首をかしげて、私のことを見下ろしている。
「なにか?」
「うん。風邪、うつす可能性があるから、本当はやめておいたほうが良いのは、分かってるんだけどさ」
そう言いながら先生は、私の腕をとって自分のほうへと引き寄せた。
「お休みのキス、してもらっても良いかな?」
「え、また?」
声がひっくり返ってしまった。
「俺、昔から体調が悪いと、嫌な夢を見て飛び起きちゃうんだ。こないだ天森さんにキスしてもらったら、いい夢どころか熟睡できたからさ、嫌な夢を見ないようにおまじない」
「えー……」
「病人になりかけている俺のこと、可哀想だと思うならお願いします」
「……先生、もう酔っぱらっちゃったんですか?」
「かもね」
ニッコリと微笑んで、期待していますという感じで見詰めてくる。他意は無い?と尋ねたいけど、キスしてくれだなんて、他意ありまくりに決まっている。
「この前と同じ、お休みのキスですよね」
「うん」
もうすでにキスされちゃってるんだから、2回も3回も同じだよと、頭の隅でもう一人私がささやいた。
「もし風邪がうつったら、責任とってくださいね?」
「任せてください、こう見えても俺、医者だから」
「じゃあ……」
つま先立ちして、先生の唇に自分の唇をくっつけるとすぐに離れた。
「それで終わり?」
「だってこの前と同じような感じですよ、わ……っ」
先生は私のことを抱き寄せると、もう一度キスしてきた。しかも今度は、それまでのような唇をくっつけるだけの軽いものではなく、思いっきりディープ!!
……もしかして、エッグノッグになにか変なものでも入ってた?
「そう言えば、甘党だって言ってたっけ」
結花ちゃんが、ケーキを作れば泣いて喜ぶと言っていたのを思い出して、差し入れようかと思い立つ。
「食事のバランスからしたら、あまりお勧めは出来ないけれど、まあ良いよね」
梅酒のガラス瓶の中から梅の実を取り出して、細かく刻むと、用意したケーキの種に放り込む。混ぜながら、あまりの梅梅しい香りに、入れすぎたかなと思いつつ、あれだけ梅が体に良いって薀蓄を並べたんだもの、きっと喜んで食べてるに違いないと、ちょっとだけ意地悪な気分になりながら、そのままケーキを焼いた。
粗熱が取れて、一切れずつ切っていたとこころで、お隣のドアの開く音がした。どうやら御帰還のご様子だ。
「……」
だけど、ドアの開け閉めの音の合間に、派手なクシャミが何度か聞こえたのは、気のせいじゃないと思う。もしかして、風邪をもらってしまったとか? 診察の時はマスクをしているとは言え、うつる時はうつるし、お隣さんのよしみで、ケーキを届けがてら様子を見てみよう。そう決めると、紙ナプキンを敷き詰めたタッパーにケーキを詰め込んで、お隣さんの部屋を訪問することにした。
インターホンを鳴らすと、ドアの向こうで再び派手なクシャミが聞こえ、マスクをした先生が顔を出した。
「こんばんは、先生。すごいクシャミですね、大丈夫ですか?」
「うん、今のところはね。何か用? その前に、寒いから中に入ったら?」
玄関に入れてもらうと、ドアを閉めてからタッパーを差し出す。
「梅の実を入れたパウンドケーキなんですけどね、甘い物が好きだって言ってたから、どうかなって。だけど今の先生に必要なのは、どちらかと言うと玉子酒かも」
鼻をグズグズさせている先生を見上げながら言った。
「あいにくと、うちには日本酒が無いから、玉子酒は無理だなあ……」
「卵はあるんですか?」
「何個かはまだ残っていると思うよ。今朝も朝飯に、卵かけご飯を食べて出たから」
「先生の食生活って……」
お医者さんすべてが、健康に気を遣った食事をしているわけではないらしい。
「日本酒が無いなら……あ、うちにケーキ用に買ったラム酒があるから、それで玉子酒作りましょうか。伝統的な玉子酒じゃなくて、エッグノッグになっちゃうけど」
「わざわざ作ってもらうなんて、申し訳ないよ」
「なに言ってるんですか、次のお休みには梅園に行くんでしょ? 風邪をひいたままだと、梅を見損ねちゃいますよ。先生が出掛けられなくなって、梅園をホームページを見るだけで満足するって言うなら、別にかまいませんけど」
せっかく勧めてくれた土井さんが、ガッカリするじゃないですかと言うと、それもそうだねとうなづいた。
「天森さんに案内も頼んだことだしね」
「そうですよ。案内を頼んできたのは、先生なんですからね。じゃあ、ラム酒持ってきますから、待っててください」
部屋に取りに戻ってから、こっちで作って持って行ったほうが良いのかしら?と考える。だけど卵はあるって言っていたし、ミルクパンは無くても、お鍋ぐらいはあるわよねと思い直す。他の材料は大丈夫かな? シナモンなんて、絶対にないよね?
「……牛乳とお砂糖も持っていこう」
レジ袋にシナモンパウダーと牛乳、そしてお砂糖が入った瓶を入れると、先生の部屋に戻る。ドアを開けたところで、再び盛大なクシャミが聞こえた。やっぱり玉子酒を飲んで、温かくして早く寝たほうが良いような気がしてきた。
先生の部屋は角部屋ということもあってか、私の部屋よりも広くて、ベランダに面している窓がたくさんあって、日当たりが良さそうな間取りだった。ロフトはうちと同じような広さであるみたい。少し興味があって、つま先立ちをして上を見ようとしたら、先生が前に立ちはだかった。
「天森さんが来るから、慌てて散らかっていたものを放り上げたところなんだから、覗かないでくれる?」
随分と片づいているから感心していたら、見えないところに無理やり片づけたらしい。だけどそれも謙遜な可能性もあるわけで、何を放り上げたのか物凄く気になる。この前の本屋さんで買ったような、分厚い本ばかりという可能性もあるわけだし。
「見るなと言われると、余計見たくなるのが人の心理というもので……」
「じゃあ今すぐ、天森さんちのロフトも、俺に覗かせてくれる?」
その言葉に、枕元に散らばった恋愛もののコミックと小説が脳裏に浮かんだ。
「イヤです」
「だったら、見ないで欲しい俺の気持も分かるよね」
「まさかとは思いますけど」
「高校生みたいに、エロい雑誌を隠しているわけじゃないから、その点は心配しないでください」
「はい……」
ざんねーんと呟きながら、キッチンを借りることにする。幸いなことにミルクパンがある。なんでも、結花ちゃんが持って行けと、引っ越しの際に、段ボール箱にねじ込んだものなんだとか。さすが女の子だ、結花ちゃんありがとう。さっそくミルクパンに卵と砂糖を入れて丁寧にかき混ぜ、トロトロになってきたところに、牛乳を注ぎ込んで、ゆっくりと温めていく。
「そのままでも美味しそうだね」
甘党の先生らしい言葉だ。ラム酒を入れておいたマグカップに、温まったものをおたまでそっと注いだ。
「甘さはお好みなんですけど、どうですか?」
そう言って、スプーンに少しだけ入れて差し出した。先生はそれを口に含んで、うーんと考える。
「お酒の風味を、もう少し増やして欲しいかなあ」
そう言いながら、ラム酒を注いでいく。甘いのも良いよねと、さらにお砂糖まで追加投入。
「ちょっと先生、それ入れすぎじゃ……」
いくらお好みでと言っても、好きにさせておいたら別物が出来上がってしまいそうなので、慌ててお砂糖とラム酒を遠ざけた。だけど時すでに遅しで、エッグノッグが出来上がるはずが、玉子風味のラム酒になってしまった。しかも量が倍増で、マグカップから溢れそう……。
「そうだ。梅酒もそうだけど、玉子酒の効能も、ちゃんと科学的な説明が出来るんだよ、知ってた?」
「だからと言って、こんなにお酒を増やして、良いわけがないじゃないですか。絶対に二日酔いになっちゃう」
「明日は夜間診療の当番だから、二日酔いになっても大丈夫だよ」
ニコニコしながらマグカップを手にすると、一口飲んで美味しいよとニッコリと笑った。本当に? 普段、私が作るのとは、比べ物にならないぐらいお酒とお砂糖が入ったものだけど。試しにスプーンですくって味見をしてみる。……わお、もうほとんど、甘いだけのお酒になってるよ。
「……先生、玉子がどこかに行っちゃってますよ、これ」
「大丈夫、ちゃんと色は玉子色だから」
そういう問題じゃないと思う。
「天森さんも、ここで飲んでいきなよ。俺一人じゃ飲みきれないし」
「それって、お酒をダバダバ入れた先生のせいじゃないですか」
平日にお酒は飲まないと決めている私に、なんてことを言うんですかと軽く睨んだけど、先生は怯むことなくニコニコしている。
「ほら、一人で飲むより二人で飲んだほうが楽しいし。それに、天森さんが差し入れてくれたケーキも、一緒に食べたいし」
「こんな時間から食べたら、太っちゃいます」
「じゃあ、俺が食べるのを見てるだけでも」
「それは拷問です酷すぎる」
私の言葉にアハハと笑った先生だったけど、そこで立て続けに派手なくしゃみをした。
「もう、本当に大丈夫ですか? お酒より、お薬飲んだほう良いんじゃ?」
「せっかくのエッグノッグだから、これを飲んで大人しく寝ることにするよ。一緒にケーキも食べたいけど、それはまたの機会にしようか。万が一、俺を介して天森さんが風邪をひいたりしたら、それこそ大変だし」
「本当に大丈夫ですか? お薬、市販のだったら持ってますよ?」
「大丈夫。自分の体調がどんな状態かは分ってるから。だけど、心配してくれてありがとう」
ちゃんと温かくして寝てくださいねと言いながら、牛乳とお砂糖そしてシナモンをレジ袋に入れると、玄関へと向かった。後ろからついてきた先生は、少しだけ首をかしげて、私のことを見下ろしている。
「なにか?」
「うん。風邪、うつす可能性があるから、本当はやめておいたほうが良いのは、分かってるんだけどさ」
そう言いながら先生は、私の腕をとって自分のほうへと引き寄せた。
「お休みのキス、してもらっても良いかな?」
「え、また?」
声がひっくり返ってしまった。
「俺、昔から体調が悪いと、嫌な夢を見て飛び起きちゃうんだ。こないだ天森さんにキスしてもらったら、いい夢どころか熟睡できたからさ、嫌な夢を見ないようにおまじない」
「えー……」
「病人になりかけている俺のこと、可哀想だと思うならお願いします」
「……先生、もう酔っぱらっちゃったんですか?」
「かもね」
ニッコリと微笑んで、期待していますという感じで見詰めてくる。他意は無い?と尋ねたいけど、キスしてくれだなんて、他意ありまくりに決まっている。
「この前と同じ、お休みのキスですよね」
「うん」
もうすでにキスされちゃってるんだから、2回も3回も同じだよと、頭の隅でもう一人私がささやいた。
「もし風邪がうつったら、責任とってくださいね?」
「任せてください、こう見えても俺、医者だから」
「じゃあ……」
つま先立ちして、先生の唇に自分の唇をくっつけるとすぐに離れた。
「それで終わり?」
「だってこの前と同じような感じですよ、わ……っ」
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