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【空】空を感じて
第五話
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「うは……凄い人……」
航空祭の当日、基地前は物凄い人だかりになっていた。いわゆるミリオタさん達が多いのかと思いきや、家族連れやカップルさんの姿もたくさんあった。ちょっと意外な発見かな。
「かっこいいよねー制服姿って」
「うんうん、五割倍増しのかっこよさだよねー」
「あんな旦那さんほしぃー」
「娘のお婿さんにほしぃー」
なんとも複雑な顔をして後ろからついて行く旦那さんや彼氏さんの立場ってどうなんだろうとか思ってしまう。
そう考えると、私の彼氏さんになった羽佐間さんってパイロットさんなんだよね、制服着たりしているんだ。ずっと私服ばかりしか見ていないから実感がわかないけれど、ちょっと誇らしいかもしれません、うふふ。
そんな感じで顔が緩みそうになるのをじっと堪えて歩いていくと、前から制服を着たお姉さんが歩いてくる。私とそんなに変わらない年齢っぽいけど、やっぱり大人びて見えるな、これも制服効果? そして明らかに私を見ている? 視線が合うとニッコリと笑いかけてくれた。こちらも釣られて微笑んでしまったけど……どちら様?
「山代風花さんですか?」
「あ、はい」
「羽佐間さんの代わりにお迎えに来ました、藤崎です」
「ああ、羽佐間さんから聞いていたのにうっかりしてました! わざわざすみません!」
慌てて頭を下げる。ここに来たらエスコートしてくれる人が待っているよって言われていたのをすっかり忘れていた。
「いいえ。凄い人でしょ? 初めての場所だしきっと迷子になるだろうからって」
「それで私の写真を撮らせろって……」
「そんなところです。さ、行きましょうか、せっかくだし一通り案内してから羽佐間さんのところにお連れしますね」
「お願いします」
確かに初めての場所で凄い人の数。一人ではかなり不安だったので藤崎さんの存在はとてもありがたかった。
「えっと、藤崎さんは何のお仕事を?」
「私は整備員をしてます。羽佐間さんが乗っている戦闘機ではないんですけど、同じ機体で彼と一緒に飛んでいる人の機体の整備をしているんですよ」
「今日は飛ばさないんですか?」
「羽佐間さんは展示飛行で午前中に飛ぶ予定が入っていますよ。私が整備している機体は今回は地上展示に回されているので事実上お休みでして。その代わり、来場した人達に説明したりおもてなしをする担当になるんです。ま、こちらのパイロットは口が上手い人なので、その辺は適材適所ってやつですね」
羽佐間さんの相棒さんか~一体どんな人だろう。
展示してある戦闘機が並んでいるところに向かうと、そこには自衛隊機たけではなくアメリカ軍のマークがついたモノも展示されていた。
「米軍基地と共有している基地なので航空祭の時はこうやってアメリカ軍の戦闘機も展示に出してもらってるんですよ。こちらには無い機体とかありますから」
「へえ~~。ちょっとした日米交流ですね」
「ですねー」
藤崎さんは整備員だけあって機械にとても詳しくて、私にも分かりやすく色々と説明してくれた。なんだか目から鱗みたいな装備もあって、普段自分が生活している世界とはちょっと違う世界を垣間見た気分。
「ところで、こんな風に付きっ切りで説明してもらっていて良かったんですか? お忙しいのでは?」
人が多いのでエスコートしてもらえるのはとっても助かるんだけど、なんとなく周囲からの視線が気になる。私は別にVIPじゃないですよ、皆さん。
「実は羽佐間さんにカノジョさんができたらしいと聞きまして皆さん興味津々なんですよ。んで、いらぬ虫がついても困るっていうんで私がお目付け役を仰せつかりました」
「え?」
「それと装備の説明をするのも私が一番の適役だって羽佐間さんからの指名でもあるんですよね。きっと同性だから安心っていうのもあるんでしょうけど。あ、そろそろ時間ですね、よく見える場所に移動しましょうか」
腕時計を確認した藤崎さんが私の腕に手を掛けて人ごみを掻き分けていく。
「お、相棒のカノジョ同士で仲良くしてるのか?」
途中で年配の人に声をかけられると、藤崎さんはとっても嫌そうな顔をした。
「榎本さん、こちらは羽佐間さんのカノジョさんですけど、私は社さんのカノジョになった覚えはこれっぽっちもありませんよ」
「またまたー。周知のことなんだから照れるなって」
「照れてません! さっさと行きましょう、風花さん。アホがうつります」
ウヒヒと笑うその人から逃げるように進んでいく。
「あのー……藤崎さんは羽佐間さんの相棒さんのカノジョさんなんですか?」
「違いますよ」
顔が赤いですよ、藤崎さん。
「なんていうか……お前に拒否権なんて無いとか言われ続けてどうしたもんかと」
ボソリと藤崎さんが呟いた。
「拒否権?」
「そうなんですよ、酷いんですよ。何か反論すると姫のくせに生意気だーって言ってこっちの言い分なんて聞きやしないんですから。私は社さんの下僕じゃないっつーの」
ブツブツ言いながら建物の屋上へと出る。関係者以外は立ち入り禁止なのか、あまり人の姿は無い。本当に特等席だ。
「でも姫って呼ばれてるのって凄いですよ? 職場でお姫様あつかいだなんて凄いじゃないですか」
「あ、名前に姫の字がつくのでそう呼ばれているだけで別にお姫様扱いとか無いですから」
姫なんて上等な扱いじゃなくて下僕ですよ下僕とぼやいている藤崎さんはとても可愛いくて微笑ましい。
「拒否権も与えたくないぐらいに、ものすごーく愛されちゃってるとか?」
「げ」
私の言葉にこの世の終わりを宣告された人のような顔をするので思わず噴き出してしまった。そんな不吉なことを言わないでほしいですと呟いている。
「藤崎さんを見ていて自衛官のイメージが変わりました」
「そうなんですか? 良い方に変わってくれると嬉しいんですが」
「はい、間違いなく良い方です。だから、相棒さんにも優しくしてあげてくださいね」
「なんだか外堀が勝手に埋まっていく感じが否めませんよ……」
溜め息をつきながらフェンスの方へと進む。
「羽佐間さんの搭乗機、あれですね」
滑走路の戦闘機。かなり離れているので顔は分からないけど片手を上げたのは分かった。
「今の、風花さんに気がついて手を上げたんですよ。ここに連れて来るって言っておきましたから」
「こんな離れているのに分かるんですか?」
「そりゃもう」
「羽佐間さん、本当にパイロットさんなんですね」
離陸した機体を目で追いながらしみじみと呟いた私に首を傾げる藤崎さん。
「今更ですか?」
「私、私服の羽佐間さんしか知らないのでまだ実感が無いです」
「なるほど」
それから少し迷ったけれどどうしても尋ねてみたい質問があったのでしてみることにした。
「ところで藤崎さんは心配じゃないんですか?」
「何がです?」
私の問い掛けにこっちに体を向けた。
「えっと、いま飛んだのはここに来ている人に見てもらうためのものだけど、ほら、訓練じゃない時もあるわけでしょ? 自分の彼氏さんがそれで飛んだ時とか心配じゃないんですか?」
藤崎さんはその問い掛けにしばらく考え込んでいた。そして「社さんは彼氏じゃありませんけどね」と前置きをしてから言葉を続ける。
「ここだけの話、心配ですよ。それが例え訓練であっても展示飛行であっても100%無事に帰ってくるっていう保証はないわけですしね。スクランブルした時なら尚更のこと」
頭上を通過していく機影を眺めながら今日もエンジンの音はいい感じだと満足げに頷いている。
「だから私達は自分が整備を受け持つ機体を万全の状態にして送り出すんですよ。それが私達に出来る精一杯のことですからね。羽佐間さんの機体整備を任されている整備員もきっと同じ気持ちだと思います」
そして少しだけ真面目な顔になって私のことを見詰めた。
「これから風花さんが羽佐間さんとお付き合いを続けていくうちにそういった不安を覚えることがたくさんあると思います。でもね、羽佐間さんは技術面でも精神面でも素晴らしいパイロットですから心配ないですよ。あ、もちろん相棒の社さんもですけどね」
「それって惚気ですか?」
私の言葉に顔を真っ赤にする藤崎さん。
「ち、違いますよ! 羽佐間さんの相棒も凄いパイロットだから心配ありませんよって言いたかっただけですから! それにですね、そう簡単に落ちてもらっちゃ困るんです、私が大事に大事に整備しているタロウちゃんなんですから! 国家の財産なんですよ、財産! 一万円札が何枚だと思います?! あ、もちろんパイロットも手間暇かけて育成しているんですから大事なんですけどね!!」
あたふたと動揺した様子で言葉を並べ立てている藤崎さん。これは絶対に羽佐間さんの相棒さんは脈ありってやつだよね? 今度ゆっくり羽佐間さんから二人の話を聞いてみよう。
「あの」
「は、はい?」
顔を赤くしたままに藤崎さんが私の方に顔を向けた。
「藤崎さん、下のお名前はなんていうんですか?」
「……ミズキっていいます。飲み水の水にお姫様の姫で、水姫」
それが何か?と首を傾げる。
「じゃあこれから、水姫さんって呼んで良いですか? きっとカノジョさん同士として会う機会も増えると思いますし」
「カノジョ同士かどうかは分かりませんけど、良いですよ。私もすでに風花さんって呼ばせてもらってますから」
「これからもよろしくお願いします、水姫さん」
「……こちらこそ」
水姫さんはまだ足掻くつもりなのかな……。やっぱり羽佐間さんに詳しく聞いてみなくちゃ!
+++
それからしばらくして展示飛行を終えた地上に戻ってきた羽佐間さん達を出迎える為にと、水姫さんは私のことを「ハンガー」と呼ばれる場所に連れて行ってくれた。平たく言えば飛行機の格納庫ってやつ。
「じゃあ五割増しの驚きってやつ、じっくり楽しんで下さい」
少し離れた場所で羽佐間さんがコックピットから降りてくるのを眺めていた時に水姫さんがコソッと私に囁きかける。
「え?」
「ほら、制服効果五割増しってよく言われているでしょ?」
「ああ、そう言えばここに来た時もそんな話をしている人がいました」
「人の好みはそれぞれですけど、パイロットスーツ姿もなかなか素敵に見えると思いますよ」
「それって経験からの発言ですか?」
「ち、違いますから! 一般論です一般論!!」
今回は何故か羽佐間さんの相棒さんとお会いする機会は無かったけれど、いずれ皆で会ってみたいなと思った。きっとその日はそう遠くはないような気がするんだけどな。
え、それで制服効果はどうだったかって? うん、パイロットスーツ姿の羽佐間さんはとてもカッコ良かった。だけど私としては後日ツーリングに行った時の羽佐間さんの方がカッコ良かったかな。これって制服効果って言うより風効果ってやつなのかもね。
航空祭の当日、基地前は物凄い人だかりになっていた。いわゆるミリオタさん達が多いのかと思いきや、家族連れやカップルさんの姿もたくさんあった。ちょっと意外な発見かな。
「かっこいいよねー制服姿って」
「うんうん、五割倍増しのかっこよさだよねー」
「あんな旦那さんほしぃー」
「娘のお婿さんにほしぃー」
なんとも複雑な顔をして後ろからついて行く旦那さんや彼氏さんの立場ってどうなんだろうとか思ってしまう。
そう考えると、私の彼氏さんになった羽佐間さんってパイロットさんなんだよね、制服着たりしているんだ。ずっと私服ばかりしか見ていないから実感がわかないけれど、ちょっと誇らしいかもしれません、うふふ。
そんな感じで顔が緩みそうになるのをじっと堪えて歩いていくと、前から制服を着たお姉さんが歩いてくる。私とそんなに変わらない年齢っぽいけど、やっぱり大人びて見えるな、これも制服効果? そして明らかに私を見ている? 視線が合うとニッコリと笑いかけてくれた。こちらも釣られて微笑んでしまったけど……どちら様?
「山代風花さんですか?」
「あ、はい」
「羽佐間さんの代わりにお迎えに来ました、藤崎です」
「ああ、羽佐間さんから聞いていたのにうっかりしてました! わざわざすみません!」
慌てて頭を下げる。ここに来たらエスコートしてくれる人が待っているよって言われていたのをすっかり忘れていた。
「いいえ。凄い人でしょ? 初めての場所だしきっと迷子になるだろうからって」
「それで私の写真を撮らせろって……」
「そんなところです。さ、行きましょうか、せっかくだし一通り案内してから羽佐間さんのところにお連れしますね」
「お願いします」
確かに初めての場所で凄い人の数。一人ではかなり不安だったので藤崎さんの存在はとてもありがたかった。
「えっと、藤崎さんは何のお仕事を?」
「私は整備員をしてます。羽佐間さんが乗っている戦闘機ではないんですけど、同じ機体で彼と一緒に飛んでいる人の機体の整備をしているんですよ」
「今日は飛ばさないんですか?」
「羽佐間さんは展示飛行で午前中に飛ぶ予定が入っていますよ。私が整備している機体は今回は地上展示に回されているので事実上お休みでして。その代わり、来場した人達に説明したりおもてなしをする担当になるんです。ま、こちらのパイロットは口が上手い人なので、その辺は適材適所ってやつですね」
羽佐間さんの相棒さんか~一体どんな人だろう。
展示してある戦闘機が並んでいるところに向かうと、そこには自衛隊機たけではなくアメリカ軍のマークがついたモノも展示されていた。
「米軍基地と共有している基地なので航空祭の時はこうやってアメリカ軍の戦闘機も展示に出してもらってるんですよ。こちらには無い機体とかありますから」
「へえ~~。ちょっとした日米交流ですね」
「ですねー」
藤崎さんは整備員だけあって機械にとても詳しくて、私にも分かりやすく色々と説明してくれた。なんだか目から鱗みたいな装備もあって、普段自分が生活している世界とはちょっと違う世界を垣間見た気分。
「ところで、こんな風に付きっ切りで説明してもらっていて良かったんですか? お忙しいのでは?」
人が多いのでエスコートしてもらえるのはとっても助かるんだけど、なんとなく周囲からの視線が気になる。私は別にVIPじゃないですよ、皆さん。
「実は羽佐間さんにカノジョさんができたらしいと聞きまして皆さん興味津々なんですよ。んで、いらぬ虫がついても困るっていうんで私がお目付け役を仰せつかりました」
「え?」
「それと装備の説明をするのも私が一番の適役だって羽佐間さんからの指名でもあるんですよね。きっと同性だから安心っていうのもあるんでしょうけど。あ、そろそろ時間ですね、よく見える場所に移動しましょうか」
腕時計を確認した藤崎さんが私の腕に手を掛けて人ごみを掻き分けていく。
「お、相棒のカノジョ同士で仲良くしてるのか?」
途中で年配の人に声をかけられると、藤崎さんはとっても嫌そうな顔をした。
「榎本さん、こちらは羽佐間さんのカノジョさんですけど、私は社さんのカノジョになった覚えはこれっぽっちもありませんよ」
「またまたー。周知のことなんだから照れるなって」
「照れてません! さっさと行きましょう、風花さん。アホがうつります」
ウヒヒと笑うその人から逃げるように進んでいく。
「あのー……藤崎さんは羽佐間さんの相棒さんのカノジョさんなんですか?」
「違いますよ」
顔が赤いですよ、藤崎さん。
「なんていうか……お前に拒否権なんて無いとか言われ続けてどうしたもんかと」
ボソリと藤崎さんが呟いた。
「拒否権?」
「そうなんですよ、酷いんですよ。何か反論すると姫のくせに生意気だーって言ってこっちの言い分なんて聞きやしないんですから。私は社さんの下僕じゃないっつーの」
ブツブツ言いながら建物の屋上へと出る。関係者以外は立ち入り禁止なのか、あまり人の姿は無い。本当に特等席だ。
「でも姫って呼ばれてるのって凄いですよ? 職場でお姫様あつかいだなんて凄いじゃないですか」
「あ、名前に姫の字がつくのでそう呼ばれているだけで別にお姫様扱いとか無いですから」
姫なんて上等な扱いじゃなくて下僕ですよ下僕とぼやいている藤崎さんはとても可愛いくて微笑ましい。
「拒否権も与えたくないぐらいに、ものすごーく愛されちゃってるとか?」
「げ」
私の言葉にこの世の終わりを宣告された人のような顔をするので思わず噴き出してしまった。そんな不吉なことを言わないでほしいですと呟いている。
「藤崎さんを見ていて自衛官のイメージが変わりました」
「そうなんですか? 良い方に変わってくれると嬉しいんですが」
「はい、間違いなく良い方です。だから、相棒さんにも優しくしてあげてくださいね」
「なんだか外堀が勝手に埋まっていく感じが否めませんよ……」
溜め息をつきながらフェンスの方へと進む。
「羽佐間さんの搭乗機、あれですね」
滑走路の戦闘機。かなり離れているので顔は分からないけど片手を上げたのは分かった。
「今の、風花さんに気がついて手を上げたんですよ。ここに連れて来るって言っておきましたから」
「こんな離れているのに分かるんですか?」
「そりゃもう」
「羽佐間さん、本当にパイロットさんなんですね」
離陸した機体を目で追いながらしみじみと呟いた私に首を傾げる藤崎さん。
「今更ですか?」
「私、私服の羽佐間さんしか知らないのでまだ実感が無いです」
「なるほど」
それから少し迷ったけれどどうしても尋ねてみたい質問があったのでしてみることにした。
「ところで藤崎さんは心配じゃないんですか?」
「何がです?」
私の問い掛けにこっちに体を向けた。
「えっと、いま飛んだのはここに来ている人に見てもらうためのものだけど、ほら、訓練じゃない時もあるわけでしょ? 自分の彼氏さんがそれで飛んだ時とか心配じゃないんですか?」
藤崎さんはその問い掛けにしばらく考え込んでいた。そして「社さんは彼氏じゃありませんけどね」と前置きをしてから言葉を続ける。
「ここだけの話、心配ですよ。それが例え訓練であっても展示飛行であっても100%無事に帰ってくるっていう保証はないわけですしね。スクランブルした時なら尚更のこと」
頭上を通過していく機影を眺めながら今日もエンジンの音はいい感じだと満足げに頷いている。
「だから私達は自分が整備を受け持つ機体を万全の状態にして送り出すんですよ。それが私達に出来る精一杯のことですからね。羽佐間さんの機体整備を任されている整備員もきっと同じ気持ちだと思います」
そして少しだけ真面目な顔になって私のことを見詰めた。
「これから風花さんが羽佐間さんとお付き合いを続けていくうちにそういった不安を覚えることがたくさんあると思います。でもね、羽佐間さんは技術面でも精神面でも素晴らしいパイロットですから心配ないですよ。あ、もちろん相棒の社さんもですけどね」
「それって惚気ですか?」
私の言葉に顔を真っ赤にする藤崎さん。
「ち、違いますよ! 羽佐間さんの相棒も凄いパイロットだから心配ありませんよって言いたかっただけですから! それにですね、そう簡単に落ちてもらっちゃ困るんです、私が大事に大事に整備しているタロウちゃんなんですから! 国家の財産なんですよ、財産! 一万円札が何枚だと思います?! あ、もちろんパイロットも手間暇かけて育成しているんですから大事なんですけどね!!」
あたふたと動揺した様子で言葉を並べ立てている藤崎さん。これは絶対に羽佐間さんの相棒さんは脈ありってやつだよね? 今度ゆっくり羽佐間さんから二人の話を聞いてみよう。
「あの」
「は、はい?」
顔を赤くしたままに藤崎さんが私の方に顔を向けた。
「藤崎さん、下のお名前はなんていうんですか?」
「……ミズキっていいます。飲み水の水にお姫様の姫で、水姫」
それが何か?と首を傾げる。
「じゃあこれから、水姫さんって呼んで良いですか? きっとカノジョさん同士として会う機会も増えると思いますし」
「カノジョ同士かどうかは分かりませんけど、良いですよ。私もすでに風花さんって呼ばせてもらってますから」
「これからもよろしくお願いします、水姫さん」
「……こちらこそ」
水姫さんはまだ足掻くつもりなのかな……。やっぱり羽佐間さんに詳しく聞いてみなくちゃ!
+++
それからしばらくして展示飛行を終えた地上に戻ってきた羽佐間さん達を出迎える為にと、水姫さんは私のことを「ハンガー」と呼ばれる場所に連れて行ってくれた。平たく言えば飛行機の格納庫ってやつ。
「じゃあ五割増しの驚きってやつ、じっくり楽しんで下さい」
少し離れた場所で羽佐間さんがコックピットから降りてくるのを眺めていた時に水姫さんがコソッと私に囁きかける。
「え?」
「ほら、制服効果五割増しってよく言われているでしょ?」
「ああ、そう言えばここに来た時もそんな話をしている人がいました」
「人の好みはそれぞれですけど、パイロットスーツ姿もなかなか素敵に見えると思いますよ」
「それって経験からの発言ですか?」
「ち、違いますから! 一般論です一般論!!」
今回は何故か羽佐間さんの相棒さんとお会いする機会は無かったけれど、いずれ皆で会ってみたいなと思った。きっとその日はそう遠くはないような気がするんだけどな。
え、それで制服効果はどうだったかって? うん、パイロットスーツ姿の羽佐間さんはとてもカッコ良かった。だけど私としては後日ツーリングに行った時の羽佐間さんの方がカッコ良かったかな。これって制服効果って言うより風効果ってやつなのかもね。
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