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A Midsummer Night's Dream

避けることができないことは、抱擁すればよい

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エナメルの赤い靴を欲しがった少女は、両脚を切断された。

そして魂が天に召されるまで赦されないvanity、罪を犯した。

一方で、有名な説話である「富んでいる者が神の国にはいるよりはらくだが針の穴を通る方がもっとやさしい」という話には続きがある。

バチカンを作った偉そうなおじ様は、イエス様に問いかけた。「ごらんなさい、わたしたちはいっさいを捨てて、あなたに従いました。ついては、何がいただけるでしょうか」と。

エナメルの赤い靴も、この聖ペトロの台詞も、人の心そのものではないのか?にも関わらず、一方にしか罰はなかったのは、何故?

これは、俺への罰で。それは、俺が気がつかないふりをし続けた虚栄心への罰なのか。

相変わらずクソッタレな午前中を相変わらず仕事だけは真面目にやって、外へ出る。

気が乗らない。

しかも、どうも今日は雨らしい。
今にも降り出しそうな、なんだか人の気分に合わせた天候に更にムカつきながら、自転車で駅に向かう。

ぼんやり駅に向かう途中に、いつも愚痴を聞いてもらっている妙齢なエスティシャンに出会った。珍しい。

エステティシャンはいう。
「顔色もいいし、特に顔が笑っているから、誰だかわからなかった」と。

彼女に言われて、そう言えば笑うこともなかったなと思い出す。仕事中の愛想笑いならまだしも、基本的に俺は笑う必要すら感じたことはない。

休息は次の仕事のためであり、他に意味はない。

エステに通っているのは、顔が少しでも綺麗な方が男社会ではいくら専門職でも仕事がしやすい、というだけである。実にくだらない。

彼女は言う。
「元気そうで会えて嬉しいわ」。

どこか、優しげな目で。
マスクで見えないのに、柔らかな笑顔で。
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