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第1章 ファスティアの冒険者
第37話 決断の時
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ナナシの部屋を出て、夫妻の寝室を抜け――再びリビングへと戻ってきた、エルスとアリサ。部屋の中央にある大きなテーブルにはカルミドが着き、マイナがお茶の準備をしていた。エルスたちに気づいたマイナは、食器類をテーブルに置く。
「あら、おかえりなさい。あの子と仲良くなってくれたのね?」
「ずいぶんと、楽しそうな声が聞こえていたな」
カルミド夫妻は、まるで我が子の友人に話しかけるように言い、二人揃って嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「はいッ! なんかナナシと話してると楽しくてさ、つい長居しちまったぜ」
「えっ、ナナシ? あの子、名前を思い出したのね?」
「いえ、違うんですマイナさん。実は……」
アリサは二人に、ナナシとのやり取りを簡潔に説明する――。
「そうだったの。ふふっ、本人が喜んでいるなら、それも良いかもね」
「本当の名前、思い出せるといいんですけどね」
「まぁ、そうだけどなッ! 焦っても仕方ねェさ」
エルスの言葉に、カルミドもゆっくりと頷く。心なしか夫妻の表情も、以前よりも明るくなったように感じる。
「それじゃ、俺たちはそろそろ帰るぜッ! 外で仲間が待ってるんで!」
「あら、そうだったの? 引き留めてごめんなさいね?」
「こちらこそ、長い間お邪魔してすみません」
アリサは夫妻に、深々とお辞儀をする。
エルスは既に、玄関の方へ向かってしまったようだ。
「今度はゆっくり遊びにいらしてね。みんなで食事でも」
「そうだな。またおいで」
「わぁ、ありがとうございますっ! それでは失礼しますね」
笑顔で礼を言い、アリサは彼の後を追う。扉の前で待っていたエルスは彼女に微笑み、ドアノブに手をかけた。
「よしッ、行くか――ッ!」
二人が外へ出ると、もう霧が間近に迫っていた。街中と違い、ここは広々とした農地のせいか、霧の境界線がよく判る。
「すっかり待たせちまった。ニセルに謝らねェとな」
「そうだね。エルスが怒られないといいけど……」
「――なんで俺だけなんだよッ!」
アリサと軽口を叩きあい、エルスは周囲を見渡す。家の正面に開けた農道には、ニセルの姿はない。左手側は自分たちがここまで歩いてきた長い農道。右手側にはさらに伸びる農道の他、途中で奥の林へ続く林道に分かれているのが見える。
それらを観察していると、不意に斜め後ろ――家の裏手側から声がした。
「よう、おかえり」
「おッ、ニセル!――すまねェ、つい長居しちまった。待たせたな」
「ごめんなさい、ニセルさん。エルスが『すぐ戻る』って言ったのに、ずっと待たせちゃって」
「ふっ、かまわんさ。オレも片づけたい用事があったんでな。頃合いも丁度いい」
天上の太陽には薄い靄が掛かり、その光が遮られようとしている。ニセルは真っ直ぐに、右手側の林道をさした。
「あの林道――目的地は、その先だ。おそらく間違いないだろう」
「わざわざ調べてきてくれたのか? 何から何まで、すまねェな……」
「なぁに、それがオレの得意分野なんでね。――さっ、行くか」
「あッ……、ああ……。そうだ、俺たちの本当の依頼は、これからなんだ……」
さきほどまでの和やかなひと時で忘れかけていたが――本来の依頼内容は、盗賊団の討伐。魔物相手ではない、戦う相手は自分たちと同じ人類だ。
殺し合いになる。人を斬る覚悟はあるか?
エルスは、ニセルの言葉を思い出す――。
「……覚悟は……。ああ、出来てるさ……」
「あら、おかえりなさい。あの子と仲良くなってくれたのね?」
「ずいぶんと、楽しそうな声が聞こえていたな」
カルミド夫妻は、まるで我が子の友人に話しかけるように言い、二人揃って嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「はいッ! なんかナナシと話してると楽しくてさ、つい長居しちまったぜ」
「えっ、ナナシ? あの子、名前を思い出したのね?」
「いえ、違うんですマイナさん。実は……」
アリサは二人に、ナナシとのやり取りを簡潔に説明する――。
「そうだったの。ふふっ、本人が喜んでいるなら、それも良いかもね」
「本当の名前、思い出せるといいんですけどね」
「まぁ、そうだけどなッ! 焦っても仕方ねェさ」
エルスの言葉に、カルミドもゆっくりと頷く。心なしか夫妻の表情も、以前よりも明るくなったように感じる。
「それじゃ、俺たちはそろそろ帰るぜッ! 外で仲間が待ってるんで!」
「あら、そうだったの? 引き留めてごめんなさいね?」
「こちらこそ、長い間お邪魔してすみません」
アリサは夫妻に、深々とお辞儀をする。
エルスは既に、玄関の方へ向かってしまったようだ。
「今度はゆっくり遊びにいらしてね。みんなで食事でも」
「そうだな。またおいで」
「わぁ、ありがとうございますっ! それでは失礼しますね」
笑顔で礼を言い、アリサは彼の後を追う。扉の前で待っていたエルスは彼女に微笑み、ドアノブに手をかけた。
「よしッ、行くか――ッ!」
二人が外へ出ると、もう霧が間近に迫っていた。街中と違い、ここは広々とした農地のせいか、霧の境界線がよく判る。
「すっかり待たせちまった。ニセルに謝らねェとな」
「そうだね。エルスが怒られないといいけど……」
「――なんで俺だけなんだよッ!」
アリサと軽口を叩きあい、エルスは周囲を見渡す。家の正面に開けた農道には、ニセルの姿はない。左手側は自分たちがここまで歩いてきた長い農道。右手側にはさらに伸びる農道の他、途中で奥の林へ続く林道に分かれているのが見える。
それらを観察していると、不意に斜め後ろ――家の裏手側から声がした。
「よう、おかえり」
「おッ、ニセル!――すまねェ、つい長居しちまった。待たせたな」
「ごめんなさい、ニセルさん。エルスが『すぐ戻る』って言ったのに、ずっと待たせちゃって」
「ふっ、かまわんさ。オレも片づけたい用事があったんでな。頃合いも丁度いい」
天上の太陽には薄い靄が掛かり、その光が遮られようとしている。ニセルは真っ直ぐに、右手側の林道をさした。
「あの林道――目的地は、その先だ。おそらく間違いないだろう」
「わざわざ調べてきてくれたのか? 何から何まで、すまねェな……」
「なぁに、それがオレの得意分野なんでね。――さっ、行くか」
「あッ……、ああ……。そうだ、俺たちの本当の依頼は、これからなんだ……」
さきほどまでの和やかなひと時で忘れかけていたが――本来の依頼内容は、盗賊団の討伐。魔物相手ではない、戦う相手は自分たちと同じ人類だ。
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「……覚悟は……。ああ、出来てるさ……」
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