恋人に浮気された私は、辺境伯に見初められる

MOMO-tank

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35話 ウィリアム

『アバディーン地方に大将って呼ばれてる傭兵がいるんだけど、これがすごいのなんのって』

少し前から、あちこちで耳にする。

『殺気で敵兵も野盗も動けなくなる』

『熊みたいな風貌で、俊敏で、眼光鋭いアバディーンの大将』


幼い頃に魔力制御をエルドウッド伯爵家で学び、その後王宮へ戻ってからは、ローブのフードを深く被り人目を避けて生きてきた。

でも、18歳になり表舞台に戻った。
魔法騎士の育成、治療師の育成、魔道具の開発に力を入れたかったから。
それには第二王子という肩書きが必要だった。
そうなると、今までのように1人で行動するわけにもいかず、やむを得ずデイビッド・クルーズ伯爵令息を侍従兼護衛騎士として側においた。

5年あれば理想の形に近づくんじゃないか。
そう思っていた。
しかし、学園の魔法科だけならまだしも、騎士団の在り方を変えるとなると話はそう簡単ではなかった。

有力者の娘を婚約者にする道を選べば、かなり近道になっただろう。
でも、僕は結婚するつもりは全くをもってない。

実際には第二王子という肩書きに頼る考えは甘く、いつの間にか10年が経とうとしていた。

しかも、あともう少しという時に問題が起きた。
王太子妃が3人目となる王女を出産してから、ここぞばかりに貴族達が娘を連れて僕に群がりだした。
中立派を装っていた侍従兼護衛騎士のクルーズ伯爵家も本性を見せた。

切らなくては。

そこで思い出したのが、アバディーンの大将だった。
周りが殺気を感じる眼光鋭い、腕の立つ男。

裏切り行為にも近いクルーズ伯爵家には見切りをつけ、アバディーンの大将を側において、目的が達成されれば臣籍降下する予定だ。


だから、アバディーンに直接出向いて驚いた。
大将とは僕の知る人物だったから。

もう10年以上前になるか。
忘れもしない、ルル先輩を最低な形で傷つけた男、ハリー・ロックウェル。
 
でも、目の前の男は見た目と雰囲気が以前とは別人のように変わっていた。

身体は一回り、いや、もっと大きくなり、背中まであるブロンドの髪はくすんで絡まり、顔は伸び放題の髭で覆われて、確かに熊に似ていなくもない。
ただブルーの目は、眼光鋭いというよりは生気を失ったものに見えた。

まぁ、そんなことは、どうでももいい。
この男が大将なんだから、来てもらうまでだ。
予想とは違い貴族だが、ロックウェル侯爵家なら問題ない。




王城へ来たロックウェル侯爵令息は伸び放題だった髭を短く整え、髪も革紐で結んで、かなり身綺麗になっていた。
先日は髭で隠れていたのか、左頬には深い傷が目立っている。

普段は生気のない目をしているが仕事中は別人のようで、周りの連中も近寄ってこられない。
そして、物静かで気配も消せるこの男は、側においても全く気にならなかった。

魔法が使えないこの男を、転移魔法であちこち連れ回した。
魔力酔いをして多少気の毒だったが、魔獣の気配をを感じると殺気で魔獣を後退りさせたのには驚いた。
剣の腕も申し分なく、アバディーンの荒くれ者を纏めて大将と慕われているのが腑に落ちた。


気になるといえば、この男の左頬を触る癖だろう。
本人は無意識みたいだが、1日に何度も触っている。

気にしてるんだなーー

この男を見ていれば、ほぼ人と関わらずに朝早くから鍛錬、夜も鍛錬。
女の影なんかは、ない。

まぁ、どうだっていい。
関係ない。



ロックウェル侯爵令息を呼び出して半年後には全てが整い、臣籍降下して僕はミラー公爵となった。

当初の予定では、大将の役割はここまでのはずだった。
でも、手放さずにそのまま側においている。
この男と居ると、周りが関係を誤解して縁談話が減ったから?
夫である伯爵を亡くした従姉のクリスティが王都に戻り、その息子の剣の相手をこの男がしてるから? 

相変わらず、この男は左頬を触っている。


ルル先輩は10年前にクリス兄さんと結婚した。
あの時に僕が第二王子と知ったルル先輩は傑作だった。
クリス兄さんはルル先輩にベタ惚れで、見ているこっちが恥ずかしいくらいにイチャイチャしている。
ルル先輩も幸せいっぱいで、現在は7歳になるクリス兄さんそっくりの男の子と、ルル先輩に似た3歳の女の子の母親でもある。

7歳のマシューは魔力も魔法もすでに大人顔負けで、性格も大人びていて将来が末恐ろしい。
3歳のリースは愛らしい自分を理解していて、なぜか僕に懐き、『ビリー!』といつも飛んで来る姿は、年上の従姉に共通するものがある。

基本的に社交は弟夫妻に任せて、滅多に王都に姿を見せない辺境夫妻と子ども達に会いに、僕は数ヶ月に一度は辺境に顔を出す。


今回、家族全員で王城へ来ると聞いて驚いた。
子ども達が転移魔法でここへ来たいと言い続け、クリス兄さんが根負けしたらしい。


今時期、王城の庭園は美しい。
王城にある部屋からも、よく見える。

ほんの気まぐれに過ぎない。

「ルル先輩、ずっと前に“貸しが一つ”あったの覚えてますか?」

見頃を迎えた花が見られる庭園で、幻影魔法を見せてほしい。
そうお願いした。


チラッと庭園を見ると、美しい魔法が目に入った。



そういえばーー

何年前だろう。
この庭園に、クリス兄さんが転移魔法で現れた時があったっけ。

滅多に魔法を使わない、少し慌てたその手には見覚えのあるピンバッジが握られていて。

ビルがルルにに好意を抱いているなら俺は・・・

あんなクリス兄さんは初めてだった。

懐かしいな。



王家の魔法に関する文献で以前見た。


幼い頃から先見の明がある、他の魔力が見え感じられる者が数百年に一度現れる。
光を身に纏い、白金の髪に金色の瞳の聖女は国を光に照らす。




さぁ、そろそろ部屋に戻ろうか。

寡黙な護衛騎士に、お茶でも淹れようか。
年上の従姉も来るかもしれない。


そんなことを考える僕の足どりは軽かった。



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