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出会い
しおりを挟む夜の闇にギラギラとネオンが輝く街。その一角で、ひときわ豪奢なカジノは夜な夜な多くの客で賑わっていた。 そのカジノで、流れるような手つきでカードを捌く一人のディーラーがいた。彼の名はレイ。明るい笑顔と親しみやすい接客で人気のディーラーだ。
しかしその正体は、このカジノを取り仕切るマフィア「Diavolo(ディアヴォロ)」の若き幹部、アルト・ナイトだった。表の顔と裏の顔。彼はそれを器用に使い分けていた。
「やあ!今夜も君の笑顔に会いに来たよ、レイ~♡」
ココ最近、アルトが立つブラックジャックのテーブルに毎晩のように現れる男がいた。甘いマスクで微笑むナチュラルブロンドの髪の男は、惜しげもなくチップを積み上げ、必ずアルトに声をかける。
「…また、来たんですか。ジル様」
「もちろん。君がいるからね。さあ、今夜はどんな勝負をしようか。…君のハートを賭けた勝負なんてどうかな?」
「はは、面白いこと言いますね。残念ながら、ここではチップしか賭けられませんよ」
アルトは慣れた様子で軽口を返しつつ、カードを配る。ジルと名乗るこの男、相当な金持ちであることは間違いないが、職業は全く不明。掴みどころがなく、いつもふわりとした態度で甘い言葉を囁いてくる。お金を落としてくれているのもあって、口説かれること自体に悪い気はしていないが、彼の正体が見えないことに、アルトは警戒心を抱いていた。
そんなある日、アルトは組織のボスから厄介な仕事を命じられた。対立する組織の情報を掴むこと。それも簡単には手に入らない深い内部情報が必要だった。
「…仕方ない。彼に頼んでみるか」
裏社会では『王子』の名で知られている凄腕の情報屋。本名も顔も知られていないが、その情報の精度は随一と言われている。
同時にその人気から莫大な依頼料を用意しても、なかなか依頼を引き受けてもらえないとの噂だったが、アルトが直接連絡すると簡単にコンタクトが取れて、依頼も快諾。若干拍子抜けした部分はあったが、スムーズな分には構わないと、アルトは直々に情報屋の指定した取引場所に向かった。
指定されたのは街外れの古びた倉庫街。人気のない湿った空気の漂う一角だった。
本当にこんな場所にいるのだろうかとアルトが警戒しながら倉庫の奥へ進むと、月明かりに照らされた人影が一つ、こちらに背を向けて立っていた。
「……お前が『王子』か?」
アルトが声をかけると、その人影はゆっくりと振り返った。
「やあ、レイ!会いたかったよ!」
そこに立っていたのは、見慣れたブロンドの髪、甘いマスク。しかしどこかミステリアスな雰囲気を纏った、ジルだった。
「…………は?…お前が、情報屋…?」
「ふふ、驚いたかい?僕の本当の顔だよ。君がこの情報を探してるって聞いて、実は依頼されるよりも先に動いてたんだ!」
優雅に微笑むその顔は紛れもなく、いつもカジノで見ていたのと同じ笑顔。自分の素性がバレていたことや、当たり前のように情報が漏れていたことに、やや混乱しながらも、アルトは気を取り直して本題に入る。それほどまでにこの男が握る情報が必要だった。
「……今は仕事の話をしよう。例の情報は手に入ったんだな?」
「ああ、もちろん。完璧に用意したよ」
ジルはUSBメモリをアルトに差し出しながら、アルトの顔をじっと見つめ、悪戯っぽく笑った。
「代金はそうだなぁ…君とのデート一回でどうかな?」
「…………はい?」
予想外の提案にアルトは再び固まる。情報屋との取引でデートを要求されるなんて前代未聞だ。しかも相手は大人気の凄腕情報屋。依頼料が本当に不要ならば経費がかなり浮くところではあるが、裏があるに違いない、とアルトは数秒悩み、そして、首を横に振った。
「…気持ちは嬉しいですけど、正規の料金を支払わせてください」
少しだけ揺れた心を見せないようにしながらアルトは小切手を手渡した。それ聞いたジルは、一瞬だけ残念そうな顔をしたが、すぐにいつもの甘い笑顔に戻る。
「つれないなあ。でも、そういうガードの固いところもまた魅力的だね♡」
彼はポケットから小さなメモ帳を取り出し、何かを書きつけた。
「今回はこれで手を打とう。だけど、諦めたわけじゃないからね?君が僕に振り向いてくれるまで、何度だってアプローチするよ、僕の愛しいレイ」
ジルはそう言うと、ウインクを残して闇の中へと消えていった。 残されたアルトは、手の中のUSBメモリと、メモに記された電話番号を交互に見つめ、大きなため息をついた。
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