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しおりを挟む今度はニコラスが固まる番だった。今彼女は何と言った?
「ティリアーナ………?」
「何度も言わせないで下さらない………?!」
ティリアーナもティリアーナで、顔は熱く耳まで真っ赤になり、そっぽを向いてキーキーと反論する。
「ティリアーナ」
「何ですのっ」
ニコラスは更に繋いである手を深く握り、ティリアーナにずいと近寄る。ティリアーナは仰け反るが、背もたれとこの恋人繋ぎが邪魔をしてあまり動けない。
「俺を好きか?」
「っ~~~~!!!」
至極真面目に、本気で言うものだからタチが悪い。ニコラスの真っ直ぐな所に惚れたが、こういう所は困ってしまう。特に素直じゃないティリアーナにとっては。それでも、これを逃せばチャンスは無いかもしれないから。
「………す、きよ」
俯いて言ったその声はか細く、しかしこの静かな空間では不思議と良く通った。ティリアーナはこれをきっかけに自分の想いが溢れ出す。………弄れた言葉と共に。
「だっ、大体、貴方は私がどんなに言っても今まで靡かなかったわ」
「………」
「知らないわよっ、わたくし、鈍いニコラスなんてもう知らないわっ」
「………」
「それでもっ、わたくしはっ―――――」
空ぶるティリアーナを愛おしそうに見ていたニコラスは、耐えきれず彼女を抱き寄せる。シトラスの爽やかな香りが鼻を掠め、ティリアーナは突然の抱擁に固まるしかなかった。
「ティリアーナ………」
ぎゅうっと強く抱き締めるニコラス。ティリアーナがおずおずと彼の背中に手を回せば、ニコラスは更に彼女を欲するようにかき抱いた。
トクトクと速く波打つ心臓に、お互い恥ずかしくて、それでも目の前の存在が苦しい程愛しくて、相手の体温が酷く心地よい。
「今まで、すまなかった。謝って済む問題ではないが………」
「もういいわよ、関係ないわ」
それよりも―――――。
「………もうティリとは呼んでくれないの?」
「え?」
「~~っ!……ティ、ティリって呼びなさいよ……!」
ニコラスは目を見張って、不貞腐れたようにそっぽを向くティリアーナを見た。
そう言えば、昔は彼女を「ティリ」と呼んでいたような気がする。それがいつの間にか、「ティリアーナ」と呼ぶようになり、彼女も自分を「ニカ」ではなく「ニコラス」と呼ぶようになった。
今考えれば分かる。単純に、勝手に線引きをしていた。自分はティリアーナには恋をしてはいけない、伯爵家の次男が、公爵令嬢に恋慕等ご法度だと、そう思っていた故だった。
あの頃から、ティリアーナはジークフリードの婚約者候補だと噂され、更には2人は仲が良いものだから、最有力候補だとか、もう既に婚約していて、正式な発表は控えているだとか、様々に言われていた。
そんな彼らを一番近くで見ていた側近のニコラスは、並ぶ2人を見て自然に諦めたのだ。まだ本人も気が付かない微かな芽を摘み取って、無かったことにした。どうせ時間が経てば誰かをまた好きになるだろうと踏んで。
でも、違った。恋に落ちるのはいつもティリアーナだった。
何度も何度も虜にさせるのはティリアーナだったのだ。
「………ティリ。好きだ」
「…………っ」
零れ落ちる涙。しかし彼女の口元は緩んでいた。
「ニカ」
見上げたティリアーナは、挑戦的な笑みをニコラスに向ける。
「これからは容赦致しませんわよ」
ニコラスはそれに破顔した。
「―――望むところだ」
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