【R18】夏目さんのご褒美はレッスンの後

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 真っ白い壁に爽やかな海と太陽の大きな写真、シンプルなデスクにイスが二脚。
 そしてここ婦人科かな? と思わせる優しい音のオルゴールがBGMで流れてて、夏目さんはイスを引くと、「ちょっと待ってて下さいね」って出て行ってしまった。

 出て行く時に、「そうだこれ」とゴムとピン渡されて、うっわヤダ!! そうだ私髪モワモワのままじゃん!
 慌てて結わいて鏡もないから感覚で髪型整えてたら、直に夏目さんは戻ってきた。

「はい、多々里さんこれっくり飲んで下さい」
「ありがとう? ございます」

 目の前に置かれたのはペットボトルの水で、ああそっか無料で水くれるって書いてあったな。
 喉乾いてないし持ってかえるか、水なんて飲むかわからんけど、とりあえず頭下げたら夏目さんじっと見てきて。
「? 何でしょうか?」
「ほら、多々里さんお水飲んで下さい」
「……」
 別に喉乾いてないんだけど、夏目さん私の前に座って見てくるから、仕方ない一口飲んどく?
 夏目さんはボトル開けて差し出してくれて、
「喉が乾いたなって思った時には既に体内で水分が不足している状態ですから、先に飲まないと、乾いた時は一気に吸収されるので胃や腎臓に負担がかかりますよ」
「はあ」
「これ硬水なんです、だからゆっくり飲んで? その方がミネラルの吸収もされやすくなります。水道水よりカルシウムとマグネシウムがたくさん入ってるんです、運動の前に飲めば足がつったり筋肉が痙攣したり、様々なトラブルを予防することができます」
「へえ物知りですね」
「こう見えて一応トレーナーなので」
 水なんて何も考えずに飲んでたっていうか、日常生活で水って飲まないよなあ、水分って味が付いてるものでしか摂取してないや。
 一口飲んで、んん……なんかもにゃってする。
「へえ、これが硬水の味……?」
「独特ですよね、でもこれmg/L値はそんなに高くないので、お腹にくることはないと思います」
「エムジー? ……ほぅ」
 水透かして見たけど今一わからん。
「ところで多々里さんは今日、水は飲みましたか?」
 三口位飲んで、味に飽きて止めとく。
「水? んー水は飲んでません。今日、というかここ何年も水って飲んでないと思います買わないし」
「え」
「今日飲んだのは豆乳とさっき出された麦茶とこれ」
「なるほど」
 一瞬大きな目が見開かれたけど、夏目さんは頷いてPCと自分のスマートホンを操作しながら、PCを私の方に向けくれた。

 う! そこには私のモデリングが映し出されてて。
「僕の携帯のアプリと連動してます。見た通り、これがさっき撮影した多々里さんの体ですね」
「は、はい」
 夏目さんがスマホで画面クルクルすればPCの私も360℃色んな角度に動き出して、ヤダ恐い!!!
 画面の真ん中で私は横向きで停止した、夏目さんは落ち着いた声で始める。
「多々里さんが店に入って来た時からずっと思ってたんですが」
「ん? は、はい!」
 夏目さんは首、背中、腰、とチェックを入れて真剣な目でスマホから顔を上げた、な、何言われるの?!!



「姿勢が悪すぎます」



「う」
「こう、前屈みですよね常に。画面見てもらっていいですか、全て細かな数値ででてるんですが、基本的に体が重心軸よりも1.3センチ右に傾いてます。なぜかというとこの右の大腿が骨左に比べ1.4センチ短いのでそのせいですね。足の長さも違いますし、膝が外反角度の正常値より11.3度内側に傾いてます。外反膝って状態で一般的に言うX脚です」
「うう」
「自覚はあるでしょうけど、頸部後屈って首が後ろに後弯してます、それと胸椎後弯、いわゆる猫背も強いです。骨盤の位置も後ろに傾いてますね」
「ううう」
「ここ、正常な位置から何度傾いてるかって分かるのでもっと細かく見て行きましょうか」
「ぐ、はい」
 その後も夏目さんは淡々と具体的な数値と共に色々言ってきて、もう返事するだけの民ですよ、あの、なんかあの……想像してた無料体験と違うな? なんかこう私は「うち! こんな最新鋭のダイエットマシーンあるで!」な感じで色んな器具やらせてくれるのかと思ってたら、これ座学じゃね?
 夏目さんがポンポンっと指先で画面をタッチしたら、ややややややだ!!
 私の横に細かいサイズが詳細に出てきてしまったんですけど!!!
 身長体重股下バストウエストヒップ二の腕太腿ふくらはぎっていつ測ったのぉ?! 
「身長に対しての体重比率は問題なさそうですけど、全体的にサイズがオーバー気味ですね」
「すみません!!!」
「次にこれが体組成ですね」
「体組成?」
 指をスライドさせたら、また色々数値が出てきて。
「体脂肪率や筋肉量、基礎代謝量、内臓脂肪レベル、推定骨量、体水分率の数値です。なるほど、基礎代謝が低めです。うん体脂肪がかなりあって筋肉量が少ないのでそのせいですね」
「でしょうね」
 うん、だって運動なんてしたことないし。
 色んな現実を見せられて、こっちはげんなりしているんだけど、夏目さんってばどんどん目が輝いていってるような?
「ちなみに、うちのジムは体を鍛えるだけではなくて、食事指導も三食しますから」
「え? 食事指導?」
「はい、そうだ多々里さん昨日は何食べました?」
「昨日?」
「はい、朝は何食べました?」
「朝は……えっとカントリーマアムとメロン豆乳ですかね。あ、後グミ」
「…………はい、昼は?」
「昼……んっと、チョコクロワッサンとカフェラテ……とグミ」
「よ、夜……は?」
「ビールとちょっとおかず摘まんで…………ああ、後グミ食べました」
「そのグミってなんですか」
「何となく……袋にビタミンCとかコラーゲンって書いてあったから体にいいかなって」
「ああ良さそうですね……水分は?」
「ん? だから豆乳とカフェラテとビール」
「ぶん殴りたくなる食生活ですね!!!」
「夏目さん怒ってますか」
「いいえ! 最高に気分がいいです!」
 夏目さん謎のガッツポーズだし、ってゆうかあの……私的にはこの夏目さんがイケショタなのは置いといて、こうやって色々不安や弱味を煽って焦らせて高額な料金のトレーニング結ばせる悪徳商法なのでは?! と心の中で思ってるのですが。
 いや、この数値は現実なんだけどさ。
 黙っていたら、夏目さんは立ち上がって目の前からイスを横に移動させてきたんですけど! 何で?!!
「え? ええ?」
「だって多々里さん声小さいから」
「あ、すみません」
「の声が小さいです」
「すみません!」
 恐い! だって夏目さん座高私より低いんだもん! 隣こられたら恥ずかしい!
「ほら、姿勢悪いですよ多々里さん」
「ヒッ」
 丸まってる背摩られて、仕方ないじゃないか座ってる時くらい小さめ装っていたいんです。
「僕が喜んでるのは他でもない、多々里さん伸び代がありまくりで素晴らしいなって思ったからです」
「伸び代?」
「はい、だって少し食生活変えただけでも、体系変わってきますし、運動経験0ってそれだけ鍛えられる場所があるって事じゃないですか、ほら楽しみしかないですよ!」
「ああ……あのポ、ポジティブですね?」
「自分の体ですよ? 本人がネガティブに捉えたら逃げ場がないじゃないですか。大丈夫、多々里さんは長所しかないです」
 だって僕だって昔はそんな感じでしたし、でもその性格を変えてくれたのが、長年続けていたこの酵素水とか言い出しそうなんですど、もう目合わせて会話しなほうが良くないか?!
 夏目さん目キラキラすぎて、不足しがちな栄養を一杯で補える青汁とか進められたら定期購入してしまうそうよ! え? 大丈夫?? お高いんでしょう???
「僕がついてますから! 安心して下さい」
「ひょ!」
 膝に置かれていた手に夏目さんの手が重なって、ちょっ!! 何で?!!
「ああ、ごめんなさい何だか多々里さん不安そうだったから元気づけたくて」
「こここここここれするとげ元気に?!!」
 うん、なってるけど!
「そうですよね、すみませんセクハラじゃないですからね」
「セクハラ……」
「ああ、使い方間違ってました」
 夏目さんはパッと手を離して立ち上がった、アニメばりのショタウィンクで。

「じゃあ少し僕と一緒に体動かしてみましょうか、手取り足取り教えます」
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