129 / 178
129.ミッちゃんのレトケレス探し25
しおりを挟む
「よしっマルトフ、左!」
ダグラスの声で、マルトフが左舷に予備櫓を差して魔力を流すと、港内で試したように夏空号は右に船首を向けた。
「おぉ!フィリ、起動が速いよ」
船尾でフィリが得意気な顔をする。
岸壁でミッちゃんを降ろして、フィリが舟に、よっぽど嬉しかったのか、飛び乗ってきたとき、赤かった目を皆は気付かない事にした。
友達の前で泣くなんて、カッコ悪いから、見て見ないふりだ。
今、小舟は漁港を抜けて入り江を進んでいる。
「この辺りは波があんまシ立たないんだわ。ほら、むこ~に、赤いの浮いてンベ?あっこより先が深くなってんだ」
ダグラスが示す先には確かに、なにやら赤い物がプカっと波間に見える。
時々、見え隠れするということは、あの辺りには波があるのだろう。
「あのブイを回って、港に戻って来るんだ」
「けっこう、遠いね」
そう話すパウパウの肩に、突然、青い小鳥が飛び乗って来た。
「チチチュ!」
「わっアオメちゃん?」
ハイエルフが飛ばしてきた、お守りだ。
「鳥?あれ、その鳥って」フィリが振り向いてパウパウの肩に乗る青い鳥を見た。
ウェスお爺ちゃんの処から帰る時に、周りを飛んでいた鳥に似ている。
「チュィッ」
まるで挨拶をしたように、青い鳥は片羽を上げてフィリを見た。
嘴を少し上に上げている。
何故か、上から目線に見えて、それがフィリには分からないが、多分アオメは「よぉ、オレが守ってやったガキ、元気か?」と思っている。
「おぉ!舟サ、生きモンが乗って来るのは良いキザシってオッチャンが言ってた!」
「じゃ、行くよ!」
フィリが声をあげて櫓をもう1本差し込んだ。
「フィリ、魔力は少しずつな」
頷いたフィリは、両手の櫓に触って魔力を流していく。
ゴボッと白い泡が立ち、舟が動き出した。
試しで動かした時よりも初動が早い。
海上を滑り出した夏空号は、白い帯2本を引きながら勢いを乗せて行く。
「うわっ速ぇぇぞ」
「おわぁ!」
アオメは向かい風を嫌って、パウパウの襟元に逃げ込むと
「ヂッ」と、何か文句を言った。
「フィリ、櫓を上げてくれヤ」ダグラスに従ってフィリが櫓を2本、水から上げる。
錬金符の推進力が無くなっても、惰性で夏空号は赤いブイまで走って行く。
「これラキップの舟より速いな」
しかも重たい舟体のお陰で、スピードを出しても船首が浮かずに安定している。
「ねぇ…フィリ兄ちゃん、そこの杭って、いちいち付け替えなきゃダメ?」
「え?」
「最初っから3本、杭に櫓を付けておけば、今みたい時は真ん中の錬金符で進むとか出来ないかなぁ」
錬金符、最大3枚でターボ仕様だ。
考えていることは所詮、脳筋仕様である。
「でも、パウパウ、そしたらフィリが大変だろ」
「マルトフ兄ちゃんが魔力使えば、櫓3本、使えるじゃない」
そうなると、マルトフは方向転換の時に右左舷での水魔力の放出と、ここぞのターボ出力に大忙しである。
「え、え、え」
「それだ!」嬉々としてフィリが予備の櫓杭を真ん中に差し込んだ。
「……判った。打倒レカベット村だもんな」
船尾の閂板にフィリと二人で座ると左の櫓をマルトフが掴む。
「右と真ん中を僕が操作すれば、マルトフ楽になるよね」
真ん中の櫓に魔力を流して、再び夏空号は速度を上げた。
赤いブイが大きく見えてくる。
「フィリ、緩めてケレ」
ダグラスが立ち上がって櫂を持ち、マルトフが予備の櫓を手にして海水に近づけながら魔力を流す。
赤いブイを右手に過ぎた瞬間、その櫂を海中に差し入れた。
「マルトフ左!」
マルトフが櫓を海中に差す。
くるんと、見事に舟が回った。
海を滑って見事に一周。
「……」
「……え」
「……あれ」
「……今の、なに?」
ぶはっ!
誰かが吹き出した。
「ま、回りすぎだってぇ!」
「くるって!くるって!」
「あははは、ごめん強かった」
「くるんって」
「パウパウやめれ、思い出させんなぁ~」
ひぃひぃと皆で笑いながらも、ダグラスが櫂を差して船首を岸に向ける。
「今は中潮の引き潮だから、ちょっと流されんの早ェえわ。フィリ、マルトフ。両方、魔力流してくれ」
満月が近くなれば潮の流れも強くなる。
夏空号は外海へと流されていた。
舟を戻した後、数回ブイを曲がる練習をする。
抵抗が減っている舟底のお陰で、重たいはずの小舟は、くるっと船首を望む方に向けてくれる。
どちらかと言えば、錬金符へ流す魔力の加減が難しい。
それでも何度か繰り返して、タイミングが掴めた所で、ダグラスが頷いた。
「よし、港サ帰っか」
確かに行きよりも波がある。
舟首に当たる波が大きい。
だが、引き波の強さを物ともせずに夏空号は走る。
魔力が作る白い帯が2本、青い海上に棚引いていた。
無事に舟が戻って来るのをウルジェドは、ギルマスのカウダ=タンニナと一緒に港の外防波堤の先端で見ていた。
「なんだか、すげぇ事やってないか、あいつら」
「そうなのか?船の事は良く分からんが……で?」
「おぉ、フィリの件でな、ベネ様の兵士のお陰で不届き者を、かなり捕縛できているのだが」
「が?」
ウルジェドは頭一つ半は大きい竜人を上目づかいで見る。
「お、おぅ。だいたいが小物の女衒でな、祭りのどさくさで奇麗処を攫おうってのばっかりだ。しかも、何故か人数が多い」
今まで見逃された者が多かったのか、今回、不届き者が増えたのかが分からないのが、腹立たしい所だ。
「ふむ……」
ウルジェドが目を伏せて思案をするのをギルマスは見守った。
エルフ族も美しい者が多い。
ハーフエルフの少年ですら、あれ程に美しいのだ。
だが、ハイエルフ族は次元が違うと、この男を見て実感する。
抜き身の刃のような銀髪に、青月光の美貌。
リヨスアルヴァのエルフ貴族が盲信するのも、分かる気持ちにはなる。
「誰が相手かも、出方も分からん限り、防御一択だが…明後日の前夜祭辺りが要注意って処かな」
「すまないな、迷惑をかける」
今、フィリは親子ともどもハイエルフの屋敷で保護されている。
日中はフッバーが警護に就いてもいるので、対人の守りは心配ないだろう。
「何がだ?フィリくんはパウパウの友達だからな…あぁ、そうだ」
ウルジェドはウェスが大漁旗の見本を、フィリにくれた事を、それを子供達に配ろうとしている事をギルマスに告げた。
「そう…か、ウェスじぃさんが……」
アストル家の確執を気にしていたギルマスは、その変化に金茶色の目を細めた。
「思いついたのだが、それを子供達に配るなら付与魔法を掛けよう。配るのは、そちらに任せる」
「え?」
思わずカウダ=タンニナは聞き返した。
「パウパウが、参加する子供達に配りたいと言っていたからな。子供らに当たるなら、防御魔法でも付けてやれば人攫いから守れるだろう」
「いやウルジェド、近隣から来る子供らと、うちの子ら合わせると五百近くは居るぞ」
「あぁ、そうか……流石に足りないか」
うんうんとギルマスは頷いた。
それ程の付与魔法を掛けたら枯渇して、カサカサになる。
「まぁ、大漁旗が足りない分は、なにか布を用意するというのはどうだ」
「いや……魔力は大丈夫なのかよ」
不思議そうな顔をして、ウルジェドはギルマスを見上げた。
「私はハイエルフだぞ?」
…ならば、言い伝えは本当なのかと、竜人は思う。
ハイエルフの魔力は枯渇しない。
無尽蔵に魔法が使えるのだと。
「そりゃ白金級だよなぁ」
カウダ=タンニナのため息交じりの言葉を無視して、ウルジェドは戻って来る小舟に手を振った。
先に気が付いて手を振るパウパウに答える為だ。
「「「「~~~」」」」
子供達が何かを言いながら大きく手を振る。
ギルマスと一緒に、それを見降しハイエルフは大きく、また手を振った。
引き潮で沖に強く戻る海を物ともせずに、力強く夏空号が戻って来る。
「……なんで2本、軌跡が付いてんだ」ポツリと呟いた声を子供達の風魔法が掻き消した。
マルトフ得意の風魔法だ。
「ミッちゃ~ん!ダグ兄が腹ヘッタってぇ」
「パウパウ、おめっ」
「あはははダグラスが言えって言ったんだよ!」
「マルトフ!風使うなヤ!」
わぁわぁと仲間モメの声をまき散らしながら、小舟が戻って来た。
器用に船首を左に向けて港内に入ると、白い帯を消して惰性で船揚場まで進む。
いつもより、滑るように進むため速度が中々落ちず、ダグラスが風魔法を使った。
待っていたフッバーが小さく手を上げる。
転移魔法で船揚げ場にミッちゃんと戻って来たギルマスまで手伝ってくれて、夏空号は船揚場に引き上げられた。
「……なるほど、櫓を2本使ったのか」船尾を覗き込んでギルマスが頷いた。
「予備の方向変えに1本使うんだワ」
ギルマスの言葉に得意気にダグラスが答えながら、大きな保護布を舟に被せていく。
大事な櫓はパウパウのナイナイ袋の中だ。
「で、舟底にナンダ、防水と防汚の錬金符?」
何て事を考えるんだ。コイツラ……ギルマスが内心で唸る。
「あ!それで、ギルマスに相談なんだ…ですけれど」
マルトフが真顔で大きなギルマスを見上げた。
「ペルナさんって、舟底の塗料も作ってますよね?それに防水と防汚の錬金術って組み込めたら、ここの船って、もっと速くならないかなって」
フィリが、はっとした顔でマルトフを見る。
そして、少し悔しそうに形の良い眉を顰めた。
「しったらよぅ、舟底掃除も楽になるなっ!」
「フジツボ、ぴかぴか」
「うん。パウパウは黙ろうね」
ミッちゃんはパウパウのホッペを両手でムニュっとした。
「さぁ、少し遅くなったが、お昼にしようか。網元達がいるなら誘おう、ギルマスもどうだい?」
胡麻化すように、ハイエルフが明るい声を上げる。
手触りが良いので、思わずパウパウのホッペをムニュムニュしたままだ。
「なんだ、そのピカピカフジツボって」
怪訝そうな顔のギルマスを、まぁまぁとフッバーが──若干ニヤ付きながら──倉庫へと誘導した。
両手でミッちゃんの手をペチペチして外し、パウパウはダグラスに尋ねる。
「ねぇ、ダグ兄。舟競争のときって、引き潮?満ち潮?」
「あ~、明後日かぁ…んっと満ち潮だな。潮が込んでくるから進むのに苦労すんな」
「そっかぁ」
「でもよ、満ち潮ンときは魚が沖から来っからな。上げ参、下げ漆ってな、魚釣れる時合いってんだぞ」
「へぇ~」
どうやら魚の活性が上がるのも、潮の満ち欠けも前世の記憶と同じらしい。
そんな事を頭の片隅に置いて、パウパウは皆と一緒に倉庫へと歩き出した。
ダグラスの声で、マルトフが左舷に予備櫓を差して魔力を流すと、港内で試したように夏空号は右に船首を向けた。
「おぉ!フィリ、起動が速いよ」
船尾でフィリが得意気な顔をする。
岸壁でミッちゃんを降ろして、フィリが舟に、よっぽど嬉しかったのか、飛び乗ってきたとき、赤かった目を皆は気付かない事にした。
友達の前で泣くなんて、カッコ悪いから、見て見ないふりだ。
今、小舟は漁港を抜けて入り江を進んでいる。
「この辺りは波があんまシ立たないんだわ。ほら、むこ~に、赤いの浮いてンベ?あっこより先が深くなってんだ」
ダグラスが示す先には確かに、なにやら赤い物がプカっと波間に見える。
時々、見え隠れするということは、あの辺りには波があるのだろう。
「あのブイを回って、港に戻って来るんだ」
「けっこう、遠いね」
そう話すパウパウの肩に、突然、青い小鳥が飛び乗って来た。
「チチチュ!」
「わっアオメちゃん?」
ハイエルフが飛ばしてきた、お守りだ。
「鳥?あれ、その鳥って」フィリが振り向いてパウパウの肩に乗る青い鳥を見た。
ウェスお爺ちゃんの処から帰る時に、周りを飛んでいた鳥に似ている。
「チュィッ」
まるで挨拶をしたように、青い鳥は片羽を上げてフィリを見た。
嘴を少し上に上げている。
何故か、上から目線に見えて、それがフィリには分からないが、多分アオメは「よぉ、オレが守ってやったガキ、元気か?」と思っている。
「おぉ!舟サ、生きモンが乗って来るのは良いキザシってオッチャンが言ってた!」
「じゃ、行くよ!」
フィリが声をあげて櫓をもう1本差し込んだ。
「フィリ、魔力は少しずつな」
頷いたフィリは、両手の櫓に触って魔力を流していく。
ゴボッと白い泡が立ち、舟が動き出した。
試しで動かした時よりも初動が早い。
海上を滑り出した夏空号は、白い帯2本を引きながら勢いを乗せて行く。
「うわっ速ぇぇぞ」
「おわぁ!」
アオメは向かい風を嫌って、パウパウの襟元に逃げ込むと
「ヂッ」と、何か文句を言った。
「フィリ、櫓を上げてくれヤ」ダグラスに従ってフィリが櫓を2本、水から上げる。
錬金符の推進力が無くなっても、惰性で夏空号は赤いブイまで走って行く。
「これラキップの舟より速いな」
しかも重たい舟体のお陰で、スピードを出しても船首が浮かずに安定している。
「ねぇ…フィリ兄ちゃん、そこの杭って、いちいち付け替えなきゃダメ?」
「え?」
「最初っから3本、杭に櫓を付けておけば、今みたい時は真ん中の錬金符で進むとか出来ないかなぁ」
錬金符、最大3枚でターボ仕様だ。
考えていることは所詮、脳筋仕様である。
「でも、パウパウ、そしたらフィリが大変だろ」
「マルトフ兄ちゃんが魔力使えば、櫓3本、使えるじゃない」
そうなると、マルトフは方向転換の時に右左舷での水魔力の放出と、ここぞのターボ出力に大忙しである。
「え、え、え」
「それだ!」嬉々としてフィリが予備の櫓杭を真ん中に差し込んだ。
「……判った。打倒レカベット村だもんな」
船尾の閂板にフィリと二人で座ると左の櫓をマルトフが掴む。
「右と真ん中を僕が操作すれば、マルトフ楽になるよね」
真ん中の櫓に魔力を流して、再び夏空号は速度を上げた。
赤いブイが大きく見えてくる。
「フィリ、緩めてケレ」
ダグラスが立ち上がって櫂を持ち、マルトフが予備の櫓を手にして海水に近づけながら魔力を流す。
赤いブイを右手に過ぎた瞬間、その櫂を海中に差し入れた。
「マルトフ左!」
マルトフが櫓を海中に差す。
くるんと、見事に舟が回った。
海を滑って見事に一周。
「……」
「……え」
「……あれ」
「……今の、なに?」
ぶはっ!
誰かが吹き出した。
「ま、回りすぎだってぇ!」
「くるって!くるって!」
「あははは、ごめん強かった」
「くるんって」
「パウパウやめれ、思い出させんなぁ~」
ひぃひぃと皆で笑いながらも、ダグラスが櫂を差して船首を岸に向ける。
「今は中潮の引き潮だから、ちょっと流されんの早ェえわ。フィリ、マルトフ。両方、魔力流してくれ」
満月が近くなれば潮の流れも強くなる。
夏空号は外海へと流されていた。
舟を戻した後、数回ブイを曲がる練習をする。
抵抗が減っている舟底のお陰で、重たいはずの小舟は、くるっと船首を望む方に向けてくれる。
どちらかと言えば、錬金符へ流す魔力の加減が難しい。
それでも何度か繰り返して、タイミングが掴めた所で、ダグラスが頷いた。
「よし、港サ帰っか」
確かに行きよりも波がある。
舟首に当たる波が大きい。
だが、引き波の強さを物ともせずに夏空号は走る。
魔力が作る白い帯が2本、青い海上に棚引いていた。
無事に舟が戻って来るのをウルジェドは、ギルマスのカウダ=タンニナと一緒に港の外防波堤の先端で見ていた。
「なんだか、すげぇ事やってないか、あいつら」
「そうなのか?船の事は良く分からんが……で?」
「おぉ、フィリの件でな、ベネ様の兵士のお陰で不届き者を、かなり捕縛できているのだが」
「が?」
ウルジェドは頭一つ半は大きい竜人を上目づかいで見る。
「お、おぅ。だいたいが小物の女衒でな、祭りのどさくさで奇麗処を攫おうってのばっかりだ。しかも、何故か人数が多い」
今まで見逃された者が多かったのか、今回、不届き者が増えたのかが分からないのが、腹立たしい所だ。
「ふむ……」
ウルジェドが目を伏せて思案をするのをギルマスは見守った。
エルフ族も美しい者が多い。
ハーフエルフの少年ですら、あれ程に美しいのだ。
だが、ハイエルフ族は次元が違うと、この男を見て実感する。
抜き身の刃のような銀髪に、青月光の美貌。
リヨスアルヴァのエルフ貴族が盲信するのも、分かる気持ちにはなる。
「誰が相手かも、出方も分からん限り、防御一択だが…明後日の前夜祭辺りが要注意って処かな」
「すまないな、迷惑をかける」
今、フィリは親子ともどもハイエルフの屋敷で保護されている。
日中はフッバーが警護に就いてもいるので、対人の守りは心配ないだろう。
「何がだ?フィリくんはパウパウの友達だからな…あぁ、そうだ」
ウルジェドはウェスが大漁旗の見本を、フィリにくれた事を、それを子供達に配ろうとしている事をギルマスに告げた。
「そう…か、ウェスじぃさんが……」
アストル家の確執を気にしていたギルマスは、その変化に金茶色の目を細めた。
「思いついたのだが、それを子供達に配るなら付与魔法を掛けよう。配るのは、そちらに任せる」
「え?」
思わずカウダ=タンニナは聞き返した。
「パウパウが、参加する子供達に配りたいと言っていたからな。子供らに当たるなら、防御魔法でも付けてやれば人攫いから守れるだろう」
「いやウルジェド、近隣から来る子供らと、うちの子ら合わせると五百近くは居るぞ」
「あぁ、そうか……流石に足りないか」
うんうんとギルマスは頷いた。
それ程の付与魔法を掛けたら枯渇して、カサカサになる。
「まぁ、大漁旗が足りない分は、なにか布を用意するというのはどうだ」
「いや……魔力は大丈夫なのかよ」
不思議そうな顔をして、ウルジェドはギルマスを見上げた。
「私はハイエルフだぞ?」
…ならば、言い伝えは本当なのかと、竜人は思う。
ハイエルフの魔力は枯渇しない。
無尽蔵に魔法が使えるのだと。
「そりゃ白金級だよなぁ」
カウダ=タンニナのため息交じりの言葉を無視して、ウルジェドは戻って来る小舟に手を振った。
先に気が付いて手を振るパウパウに答える為だ。
「「「「~~~」」」」
子供達が何かを言いながら大きく手を振る。
ギルマスと一緒に、それを見降しハイエルフは大きく、また手を振った。
引き潮で沖に強く戻る海を物ともせずに、力強く夏空号が戻って来る。
「……なんで2本、軌跡が付いてんだ」ポツリと呟いた声を子供達の風魔法が掻き消した。
マルトフ得意の風魔法だ。
「ミッちゃ~ん!ダグ兄が腹ヘッタってぇ」
「パウパウ、おめっ」
「あはははダグラスが言えって言ったんだよ!」
「マルトフ!風使うなヤ!」
わぁわぁと仲間モメの声をまき散らしながら、小舟が戻って来た。
器用に船首を左に向けて港内に入ると、白い帯を消して惰性で船揚場まで進む。
いつもより、滑るように進むため速度が中々落ちず、ダグラスが風魔法を使った。
待っていたフッバーが小さく手を上げる。
転移魔法で船揚げ場にミッちゃんと戻って来たギルマスまで手伝ってくれて、夏空号は船揚場に引き上げられた。
「……なるほど、櫓を2本使ったのか」船尾を覗き込んでギルマスが頷いた。
「予備の方向変えに1本使うんだワ」
ギルマスの言葉に得意気にダグラスが答えながら、大きな保護布を舟に被せていく。
大事な櫓はパウパウのナイナイ袋の中だ。
「で、舟底にナンダ、防水と防汚の錬金符?」
何て事を考えるんだ。コイツラ……ギルマスが内心で唸る。
「あ!それで、ギルマスに相談なんだ…ですけれど」
マルトフが真顔で大きなギルマスを見上げた。
「ペルナさんって、舟底の塗料も作ってますよね?それに防水と防汚の錬金術って組み込めたら、ここの船って、もっと速くならないかなって」
フィリが、はっとした顔でマルトフを見る。
そして、少し悔しそうに形の良い眉を顰めた。
「しったらよぅ、舟底掃除も楽になるなっ!」
「フジツボ、ぴかぴか」
「うん。パウパウは黙ろうね」
ミッちゃんはパウパウのホッペを両手でムニュっとした。
「さぁ、少し遅くなったが、お昼にしようか。網元達がいるなら誘おう、ギルマスもどうだい?」
胡麻化すように、ハイエルフが明るい声を上げる。
手触りが良いので、思わずパウパウのホッペをムニュムニュしたままだ。
「なんだ、そのピカピカフジツボって」
怪訝そうな顔のギルマスを、まぁまぁとフッバーが──若干ニヤ付きながら──倉庫へと誘導した。
両手でミッちゃんの手をペチペチして外し、パウパウはダグラスに尋ねる。
「ねぇ、ダグ兄。舟競争のときって、引き潮?満ち潮?」
「あ~、明後日かぁ…んっと満ち潮だな。潮が込んでくるから進むのに苦労すんな」
「そっかぁ」
「でもよ、満ち潮ンときは魚が沖から来っからな。上げ参、下げ漆ってな、魚釣れる時合いってんだぞ」
「へぇ~」
どうやら魚の活性が上がるのも、潮の満ち欠けも前世の記憶と同じらしい。
そんな事を頭の片隅に置いて、パウパウは皆と一緒に倉庫へと歩き出した。
23
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる