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129.ミッちゃんのレトケレス探し25
「よしっマルトフ、左!」
ダグラスの声で、マルトフが左舷に予備櫓を差して魔力を流すと、港内で試したように夏空号は右に船首を向けた。
「おぉ!フィリ、起動が速いよ」
船尾でフィリが得意気な顔をする。
岸壁でミッちゃんを降ろして、代わりにフィリが舟に飛び乗ってきたとき、赤かった目を皆は気付かない事にした。
友達の前で泣くなんて、カッコ悪いから見て見ないふりだ。
今、小舟は漁港を抜けて入り江を進んでいる。
「この辺りは波があんまシ立たネェんだわ。ほら、むこ~に、赤いの浮いてンベ?あっこより先が深くなってんだ」
ダグラスが示す先には、確かになにやら赤い物がプカっと波間に見える。
時々、見え隠れするということは、あの辺りには波があるのだろう。
「あのブイを回って、港に戻って来るんだ」
「けっこう、遠いね」
そう話すパウパウの肩に、突然、青い小鳥が飛び乗って来た。
「チチチュ!」
「わっアオメちゃん?」
ハイエルフが飛ばしてきた、お守りだ。
「鳥?あれ、その鳥って」
フィリが振り向いてパウパウの肩に乗る青い鳥を見た。
ウェスお爺ちゃんの処から帰る時に、周りを飛んでいた鳥に似ている。
「チュィッ」
まるで挨拶をしたように、青い鳥は片羽を上げてフィリを見た。
嘴を少し上に上げている。
何故か、上から目線に見えて、それがフィリには分からないが、多分アオメは『よぉ、オレが守ってやったガキ、元気か?』と、多分思っている。
「おぉ!舟サ、生きモンが乗って来るのは良いキザシってオッチャンが言ってた!」
「じゃ、行くよ!」
フィリが声をあげて櫓をもう1本差し込んだ。
「フィリ、魔力は少しずつな」
頷いたフィリは、両手の櫓を触り魔力を流していく。
ゴボッと白い泡が立ち、舟が動き出した。
試しで動かした時よりも、初動が早い。
海上を滑り出した夏空号は、白い帯2本を引きながら勢いを乗せて行く。
「うわっ速ぇぇぞ」
「おわぁ!」
アオメは向かい風を嫌って、パウパウの襟元に逃げ込むと
「ヂッ」と、何か文句を言った。
「フィリ、櫓を上げてくれヤ」ダグラスに従ってフィリが櫓を2本、水から上げる。
錬金符の推進力が無くなっても、惰性で夏空号は赤いブイまで走って行く。
「これラキップの舟より速ェエな」
しかも重たい舟体のお陰で、スピードを出しても船首が浮かずに安定している。
「ねぇ…フィリ兄ちゃん、そこの杭って、いちいち付け替えなきゃダメ?」
「え?」
「最初っから3本、杭に櫓を付けておけば、今みたい時は真ん中の錬金符で進むとか、出来ないかなぁ」
錬金符、最大3枚でターボ仕様だ。
考えていることは所詮、脳筋仕様である。
「でも、パウパウ、そしたらフィリが大変だろ」
「マルトフ兄ちゃんが魔力使えば、櫓3本、使えるじゃない」
そうなると、マルトフは方向転換の時に右左舷での水魔力の放出と、ここぞのターボ出力に大忙しである。
「え、え、え」
「それだ!」
嬉々としてフィリが予備の櫓杭を真ん中に差し込んだ。
「……判った。打倒レカベット村だもんな」
船尾の閂板にフィリと二人で座ると左の櫓をマルトフが掴む。
「右と真ん中を僕が操作すれば、マルトフ楽になるよね」
真ん中の櫓に魔力を流して、再び夏空号は速度を上げた。
赤いブイが大きく見えてくる。
「フィリ、緩めてケレ」
ダグラスが立ち上がって櫂を持ち、マルトフが予備の櫓を手にして海水に近づけながら魔力を流す。
赤いブイを右手に過ぎた瞬間、その櫂を海中に差し入れた。
「マルトフ左!」
マルトフが櫓を海中に差す。
くるんと、見事に舟が回った。
海を滑って見事に一周。
「……」
「……え」
「……あれ」
「……今の、なに?」
ぶはっ!
誰かが吹き出した。
「ま、回りすぎだってぇ!」
「くるって!くるって!」
「あははは、ごめん強かった」
「くるんって」
「パウパウやめれ、思い出させんなぁ~」
ひぃひぃと皆で笑いながらも、ダグラスが櫂を差して船首を岸に向ける。
「今は中潮の引き潮だから、ちょっと流されんの早ェえわ。フィリ、マルトフ。両方、魔力流してくれ」
満月が近くなれば潮の流れも強くなる。
夏空号は外海へと流されていた。
舟を戻した後、数回ブイを曲がる練習をする。
抵抗が減っている舟底のお陰で、重たいはずの小舟は、くるっと船首を望む方に向けてくれる。
どちらかと言えば、錬金符へ流す魔力の加減が難しい。
それでも何度か繰り返して、タイミングが掴めた所で、ダグラスが頷いた。
「よし、港サ帰っか」
確かに行きよりも波がある。
舟首に当たる波が大きい。
だが、引き波の強さを物ともせずに夏空号は走る。
魔力が作る白い帯が2本、青い海上に棚引いていた。
無事に舟が戻って来るのをウルジェドは、ギルマスのカウダ=タンニナと一緒に、港の外防波堤の先端で見ていた。
「なんだか、すげぇ事やってないか、あいつら」
「そうなのか?船の事は良く分からんが……で?」
「おぉ、フィリの件でな、ベネ様の兵士のお陰で不届き者を、かなり捕縛できているのだが」
「が?」
ウルジェドは頭一つ半は大きい竜人を上目づかいで見る。
「お、おぅ。だいたいが小物の女衒でな、祭りのどさくさで奇麗処を攫おうってのばっかりだ。しかも、何故か人数が多い」
今まで見逃された者が多かったのか、今回、不届き者が増えたのかが分からないのが、腹立たしい所だ。
「ふむ……」
ウルジェドが目を伏せて思案をするのをギルマスは見守った。
エルフ族も美しい者が多い。
ハーフエルフの少年ですら、あれ程に美しいのだ。
だが、ハイエルフ族は次元が違うと、この男を見て実感する。
抜き身の刃のような銀髪に、青月光の美貌。
リヨスアルヴァのエルフ貴族が盲信するのも、分かる気持ちにはなる。
「誰が相手かも、出方も分からん限り、防御一択だが…明後日の前夜祭辺りが要注意って処かな」
「すまないな、迷惑をかける」
今、フィリは親子ともどもハイエルフの屋敷で保護されている。
日中はフッバーが警護に就いてもいるので、対人の守りは心配ないだろう。
「何がだ?フィリくんはパウパウの友達だからな…あぁ、そうだ」
ウルジェドはウェスが大漁旗の見本を、フィリにくれた事を、それを子供達に配ろうとしている事をギルマスに告げた。
「そう…か、ウェスじぃさんが……」
アストル家の確執を気にしていたギルマスは、その変化に金茶色の目を細めた。
「思いついたのだが、それを子供達に配るなら付与魔法を掛けよう。配るのは、そちらに任せる」
「え?」
思わずカウダ=タンニナは聞き返した。
「パウパウが、参加する子供達に配りたいと言っていたからな。子供らに当たるなら、防御魔法でも付けてやれば人攫いから守れるだろう」
「いやウルジェド、近隣から来る子供らと、うちの子ら合わせると五百近くは居るぞ」
「あぁ、そうか……流石に足りないか」
うんうんとギルマスは頷いた。
それ程の付与魔法を掛けたら枯渇して、カサカサになる。
「まぁ、大漁旗が足りない分は、なにか布を用意するというのはどうだ」
「いや……魔力は大丈夫なのかよ」
不思議そうな顔をして、ウルジェドはギルマスを見上げた。
「私はハイエルフだぞ?」
…ならば、言い伝えは本当なのかと、竜人は思う。
ハイエルフの魔力は枯渇しない。
無尽蔵に魔法が使えるのだと。
「そりゃ白金級だよなぁ」
カウダ=タンニナのため息交じりの言葉を無視して、ウルジェドは戻って来る小舟に手を振った。
先に気が付いて手を振るパウパウに答える為だ。
「「「「~~~」」」」
子供達が何かを言いながら大きく手を振る。
ギルマスと一緒に、それを見降しハイエルフは大きく、また手を振った。
引き潮で沖に強く戻る海を物ともせずに、力強く夏空号が戻って来る。
「……なんで2本、軌跡が付いてんだ」ポツリと呟いた声を子供達の風魔法が掻き消した。
マルトフ得意の風魔法だ。
「ミッちゃ~ん!ダグ兄が腹ヘッタってぇ」
「パウパウ、おめっ」
「あはははダグラスが言えって言ったんだよ!」
「マルトフ!風使うなヤ!」
わぁわぁと仲間モメの声をまき散らしながら、小舟が戻って来た。
器用に船首を左に向けて港内に入ると、白い帯を消して惰性で船揚場まで進む。
いつもより、滑るように進むため速度が中々落ちず、ダグラスが風魔法を使った。
待っていたフッバーが小さく手を上げる。
転移魔法で船揚げ場にミッちゃんと戻って来たギルマスまで手伝ってくれて、夏空号は船揚場に引き上げられた。
「……なるほど、櫓を2本使ったのか」船尾を覗き込んでギルマスが頷いた。
「予備の方向変えに1本使うんだワ」
ギルマスの言葉に得意気にダグラスが答えながら、大きな保護布を舟に被せていく。
大事な櫓はパウパウのナイナイ袋の中だ。
「で、舟底にナンダ、防水と防汚の錬金符?」
何て事を考えるんだ。コイツラ……ギルマスが内心で唸る。
「あ!それで、ギルマスに相談なんだ…ですけれど」
マルトフが真顔で、大きなギルマスを見上げた。
「ペルナさんって、舟底の塗料も作ってますよね?それに防水と防汚の錬金術って組み込めたら、ここの船って、もっと速くならないかなって」
フィリが、はっとした顔でマルトフを見る。
そして、少し悔しそうに形の良い眉を顰めた。
「しったらよぅ、舟底掃除も楽になるなっ!」
「フジツボ、ぴかぴか」
「うん。パウパウは黙ろうね」
ミッちゃんはパウパウのホッペを両手でムニュっとした。
「さぁ、少し遅くなったが、お昼にしようか。網元達がいるなら誘おう、ギルマスもどうだい?」
胡麻化すように、ハイエルフが明るい声を上げる。
手触りが良いので、思わずパウパウのホッペをムニュムニュしたままだ。
「なんだ、そのピカピカフジツボって」
怪訝そうな顔のギルマスを、まぁまぁとフッバーが──若干ニヤ付きながら──倉庫へと誘導した。
両手でミッちゃんの手をペチペチして外し、パウパウはダグラスに尋ねる。
「ねぇ、ダグ兄。舟競争のときって、引き潮?満ち潮?」
「あ~、明後日かぁ…んっと満ち潮だな。潮が込んでくるから進むのに苦労スルベヤ」
「そっかぁ」
「でもよ、満ち潮ンときは魚が沖から来っカラな。上げ参、下げ漆ってな、魚釣れる時合いってんだぞ」
「へぇ~」
どうやら魚の活性が上がるのも、潮の満ち欠けも前世の記憶と同じらしい。
そんな事を頭の片隅に置いて、パウパウは皆と一緒に倉庫へと歩き出した。
ダグラスの声で、マルトフが左舷に予備櫓を差して魔力を流すと、港内で試したように夏空号は右に船首を向けた。
「おぉ!フィリ、起動が速いよ」
船尾でフィリが得意気な顔をする。
岸壁でミッちゃんを降ろして、代わりにフィリが舟に飛び乗ってきたとき、赤かった目を皆は気付かない事にした。
友達の前で泣くなんて、カッコ悪いから見て見ないふりだ。
今、小舟は漁港を抜けて入り江を進んでいる。
「この辺りは波があんまシ立たネェんだわ。ほら、むこ~に、赤いの浮いてンベ?あっこより先が深くなってんだ」
ダグラスが示す先には、確かになにやら赤い物がプカっと波間に見える。
時々、見え隠れするということは、あの辺りには波があるのだろう。
「あのブイを回って、港に戻って来るんだ」
「けっこう、遠いね」
そう話すパウパウの肩に、突然、青い小鳥が飛び乗って来た。
「チチチュ!」
「わっアオメちゃん?」
ハイエルフが飛ばしてきた、お守りだ。
「鳥?あれ、その鳥って」
フィリが振り向いてパウパウの肩に乗る青い鳥を見た。
ウェスお爺ちゃんの処から帰る時に、周りを飛んでいた鳥に似ている。
「チュィッ」
まるで挨拶をしたように、青い鳥は片羽を上げてフィリを見た。
嘴を少し上に上げている。
何故か、上から目線に見えて、それがフィリには分からないが、多分アオメは『よぉ、オレが守ってやったガキ、元気か?』と、多分思っている。
「おぉ!舟サ、生きモンが乗って来るのは良いキザシってオッチャンが言ってた!」
「じゃ、行くよ!」
フィリが声をあげて櫓をもう1本差し込んだ。
「フィリ、魔力は少しずつな」
頷いたフィリは、両手の櫓を触り魔力を流していく。
ゴボッと白い泡が立ち、舟が動き出した。
試しで動かした時よりも、初動が早い。
海上を滑り出した夏空号は、白い帯2本を引きながら勢いを乗せて行く。
「うわっ速ぇぇぞ」
「おわぁ!」
アオメは向かい風を嫌って、パウパウの襟元に逃げ込むと
「ヂッ」と、何か文句を言った。
「フィリ、櫓を上げてくれヤ」ダグラスに従ってフィリが櫓を2本、水から上げる。
錬金符の推進力が無くなっても、惰性で夏空号は赤いブイまで走って行く。
「これラキップの舟より速ェエな」
しかも重たい舟体のお陰で、スピードを出しても船首が浮かずに安定している。
「ねぇ…フィリ兄ちゃん、そこの杭って、いちいち付け替えなきゃダメ?」
「え?」
「最初っから3本、杭に櫓を付けておけば、今みたい時は真ん中の錬金符で進むとか、出来ないかなぁ」
錬金符、最大3枚でターボ仕様だ。
考えていることは所詮、脳筋仕様である。
「でも、パウパウ、そしたらフィリが大変だろ」
「マルトフ兄ちゃんが魔力使えば、櫓3本、使えるじゃない」
そうなると、マルトフは方向転換の時に右左舷での水魔力の放出と、ここぞのターボ出力に大忙しである。
「え、え、え」
「それだ!」
嬉々としてフィリが予備の櫓杭を真ん中に差し込んだ。
「……判った。打倒レカベット村だもんな」
船尾の閂板にフィリと二人で座ると左の櫓をマルトフが掴む。
「右と真ん中を僕が操作すれば、マルトフ楽になるよね」
真ん中の櫓に魔力を流して、再び夏空号は速度を上げた。
赤いブイが大きく見えてくる。
「フィリ、緩めてケレ」
ダグラスが立ち上がって櫂を持ち、マルトフが予備の櫓を手にして海水に近づけながら魔力を流す。
赤いブイを右手に過ぎた瞬間、その櫂を海中に差し入れた。
「マルトフ左!」
マルトフが櫓を海中に差す。
くるんと、見事に舟が回った。
海を滑って見事に一周。
「……」
「……え」
「……あれ」
「……今の、なに?」
ぶはっ!
誰かが吹き出した。
「ま、回りすぎだってぇ!」
「くるって!くるって!」
「あははは、ごめん強かった」
「くるんって」
「パウパウやめれ、思い出させんなぁ~」
ひぃひぃと皆で笑いながらも、ダグラスが櫂を差して船首を岸に向ける。
「今は中潮の引き潮だから、ちょっと流されんの早ェえわ。フィリ、マルトフ。両方、魔力流してくれ」
満月が近くなれば潮の流れも強くなる。
夏空号は外海へと流されていた。
舟を戻した後、数回ブイを曲がる練習をする。
抵抗が減っている舟底のお陰で、重たいはずの小舟は、くるっと船首を望む方に向けてくれる。
どちらかと言えば、錬金符へ流す魔力の加減が難しい。
それでも何度か繰り返して、タイミングが掴めた所で、ダグラスが頷いた。
「よし、港サ帰っか」
確かに行きよりも波がある。
舟首に当たる波が大きい。
だが、引き波の強さを物ともせずに夏空号は走る。
魔力が作る白い帯が2本、青い海上に棚引いていた。
無事に舟が戻って来るのをウルジェドは、ギルマスのカウダ=タンニナと一緒に、港の外防波堤の先端で見ていた。
「なんだか、すげぇ事やってないか、あいつら」
「そうなのか?船の事は良く分からんが……で?」
「おぉ、フィリの件でな、ベネ様の兵士のお陰で不届き者を、かなり捕縛できているのだが」
「が?」
ウルジェドは頭一つ半は大きい竜人を上目づかいで見る。
「お、おぅ。だいたいが小物の女衒でな、祭りのどさくさで奇麗処を攫おうってのばっかりだ。しかも、何故か人数が多い」
今まで見逃された者が多かったのか、今回、不届き者が増えたのかが分からないのが、腹立たしい所だ。
「ふむ……」
ウルジェドが目を伏せて思案をするのをギルマスは見守った。
エルフ族も美しい者が多い。
ハーフエルフの少年ですら、あれ程に美しいのだ。
だが、ハイエルフ族は次元が違うと、この男を見て実感する。
抜き身の刃のような銀髪に、青月光の美貌。
リヨスアルヴァのエルフ貴族が盲信するのも、分かる気持ちにはなる。
「誰が相手かも、出方も分からん限り、防御一択だが…明後日の前夜祭辺りが要注意って処かな」
「すまないな、迷惑をかける」
今、フィリは親子ともどもハイエルフの屋敷で保護されている。
日中はフッバーが警護に就いてもいるので、対人の守りは心配ないだろう。
「何がだ?フィリくんはパウパウの友達だからな…あぁ、そうだ」
ウルジェドはウェスが大漁旗の見本を、フィリにくれた事を、それを子供達に配ろうとしている事をギルマスに告げた。
「そう…か、ウェスじぃさんが……」
アストル家の確執を気にしていたギルマスは、その変化に金茶色の目を細めた。
「思いついたのだが、それを子供達に配るなら付与魔法を掛けよう。配るのは、そちらに任せる」
「え?」
思わずカウダ=タンニナは聞き返した。
「パウパウが、参加する子供達に配りたいと言っていたからな。子供らに当たるなら、防御魔法でも付けてやれば人攫いから守れるだろう」
「いやウルジェド、近隣から来る子供らと、うちの子ら合わせると五百近くは居るぞ」
「あぁ、そうか……流石に足りないか」
うんうんとギルマスは頷いた。
それ程の付与魔法を掛けたら枯渇して、カサカサになる。
「まぁ、大漁旗が足りない分は、なにか布を用意するというのはどうだ」
「いや……魔力は大丈夫なのかよ」
不思議そうな顔をして、ウルジェドはギルマスを見上げた。
「私はハイエルフだぞ?」
…ならば、言い伝えは本当なのかと、竜人は思う。
ハイエルフの魔力は枯渇しない。
無尽蔵に魔法が使えるのだと。
「そりゃ白金級だよなぁ」
カウダ=タンニナのため息交じりの言葉を無視して、ウルジェドは戻って来る小舟に手を振った。
先に気が付いて手を振るパウパウに答える為だ。
「「「「~~~」」」」
子供達が何かを言いながら大きく手を振る。
ギルマスと一緒に、それを見降しハイエルフは大きく、また手を振った。
引き潮で沖に強く戻る海を物ともせずに、力強く夏空号が戻って来る。
「……なんで2本、軌跡が付いてんだ」ポツリと呟いた声を子供達の風魔法が掻き消した。
マルトフ得意の風魔法だ。
「ミッちゃ~ん!ダグ兄が腹ヘッタってぇ」
「パウパウ、おめっ」
「あはははダグラスが言えって言ったんだよ!」
「マルトフ!風使うなヤ!」
わぁわぁと仲間モメの声をまき散らしながら、小舟が戻って来た。
器用に船首を左に向けて港内に入ると、白い帯を消して惰性で船揚場まで進む。
いつもより、滑るように進むため速度が中々落ちず、ダグラスが風魔法を使った。
待っていたフッバーが小さく手を上げる。
転移魔法で船揚げ場にミッちゃんと戻って来たギルマスまで手伝ってくれて、夏空号は船揚場に引き上げられた。
「……なるほど、櫓を2本使ったのか」船尾を覗き込んでギルマスが頷いた。
「予備の方向変えに1本使うんだワ」
ギルマスの言葉に得意気にダグラスが答えながら、大きな保護布を舟に被せていく。
大事な櫓はパウパウのナイナイ袋の中だ。
「で、舟底にナンダ、防水と防汚の錬金符?」
何て事を考えるんだ。コイツラ……ギルマスが内心で唸る。
「あ!それで、ギルマスに相談なんだ…ですけれど」
マルトフが真顔で、大きなギルマスを見上げた。
「ペルナさんって、舟底の塗料も作ってますよね?それに防水と防汚の錬金術って組み込めたら、ここの船って、もっと速くならないかなって」
フィリが、はっとした顔でマルトフを見る。
そして、少し悔しそうに形の良い眉を顰めた。
「しったらよぅ、舟底掃除も楽になるなっ!」
「フジツボ、ぴかぴか」
「うん。パウパウは黙ろうね」
ミッちゃんはパウパウのホッペを両手でムニュっとした。
「さぁ、少し遅くなったが、お昼にしようか。網元達がいるなら誘おう、ギルマスもどうだい?」
胡麻化すように、ハイエルフが明るい声を上げる。
手触りが良いので、思わずパウパウのホッペをムニュムニュしたままだ。
「なんだ、そのピカピカフジツボって」
怪訝そうな顔のギルマスを、まぁまぁとフッバーが──若干ニヤ付きながら──倉庫へと誘導した。
両手でミッちゃんの手をペチペチして外し、パウパウはダグラスに尋ねる。
「ねぇ、ダグ兄。舟競争のときって、引き潮?満ち潮?」
「あ~、明後日かぁ…んっと満ち潮だな。潮が込んでくるから進むのに苦労スルベヤ」
「そっかぁ」
「でもよ、満ち潮ンときは魚が沖から来っカラな。上げ参、下げ漆ってな、魚釣れる時合いってんだぞ」
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