パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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133.ミッちゃんのレトケレス探し29

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 いつもは染物の完成品を置いているという場所にミッちゃんが置いたテーブルの席に皆が付いた。

「わぁ!美味しそう~お昼も御馳走だねっ」
 フィリが並んだ料理を見て笑う。
「やった!トマト飯」
 炊き込みご飯好きのダグラスが拳を握りしめて喜んでいる。
「あ、ボニーニョだぁ、僕、これ大好き!嬉しいなぁ」
 マルトフは棒鱈ストッカを使った円い揚げ物を見て声をあげた。

「これ、ペルナさんとミッちゃんとで作ったの?」
「うん。教わりながら一緒に作ったよ」
 新しい料理を覚えたミッちゃんは、嬉しそうに笑う。

 ペルナはウェスの椅子を引いてあげながら、
「ちっと昼には早いけンど、御飯にしよっかね」と、笑った。
「オゥ、シタバ…ヨゥキタナテェシタモンジャネェガクッテケ」
 主のウェスの声で、皆がお辞儀をして口々にお礼の言葉を言い、昼食が始まった。

 マルトフがボニーニョと呼んだのは、丸いコロッケみたいな物だ。
 中にはジャガイモソラヌムと解した棒鱈ストッカ、香草が入っている。
 カリっと噛むと中はモチっとして、魚の旨味が溢れてくる。

「わぁ、美味しい……」
「そっかい。口に合って良かったワ」
「パウパウ、キトリスライムかけると、また美味しいよ」
 マルトフの勧めで、パウパウは付け合わせのライムを…

「ナンダ、テェチッセクテカケレネェカ」
 チタチタとしかしぼれていないのを見たウェスさんが、自分の皿のライムをギュっと絞ってパウパウのボニーニョに掛けてくれた。
「ありがとう!ウェスさん」
「ナンモダ」

「じゃ僕がウェスじいちゃんのに掛~ける!」
 お行儀は無視をしたフィリが自分のキトリスライムを手にして、ウェスに近づいた。
「オゥ」
 言葉少なに頷くウェスの皿に、両手で果汁を絞る。

「あ、じゃあ僕はペルナさんに掛けるよ!」マルトフが真似をして、「美味しいボニーニョ、ありがとうございます!」と言いながら果汁を絞る。
 おやおやと言いながらペルナは嬉しそうだ。

「俺、ンジャ、ウルジェドさんに掛ける番かぁ?」
 ダグラスはキトリスライムを手に立ち上がり、片手で向かいのミッちゃんの皿に果汁を絞った。
「え~っと、では私のキトリスライムが欲しい人?」
 まさかのハイエルフが参戦して、皆がクスクスと笑う。
 お行儀は悪い。けれども楽しい。

 まるで夏休みに実家に遊びに行った子供の気分だ……ふと、パウパウは前世の記憶が掠める。

 和気あいあいと楽しく食べ進めていくうちに、話はウェスの画帳の事になったり、フィリの画伯っぷりの事となったり、舟競争の秘策の話をペルナさんが嬉しそうに聞いたり、大漁旗を子供達に配ると言ったらウェスさんが真っ赤になって照れ臭そうに黙ったり。
 思った以上に楽しい時間を皆が過ごして、パウパウからのデザートの黒蜜だんごも食べ終わってしまう。
 それでも、何となく帰りたくないような、名残惜しい空気が流れた。

「あ、そうだ。ほらパウパウ、お土産を渡さないのかい?」
「あ!そうだ」
 ミッちゃんに言われてパウパウは帝都の土産物を思い出した。
 そうだ。
 ガルデンおじちゃんにも、渡せていなかった!

「あのね、帝都に行ったお土産、これ使ってください」
 ちゃんとミッちゃんに奇麗な紙の袋を用意して貰った、それをウェスさんに差し出した。
「チッセェノニキィツカウコタネェンダ」
「そう言わずに貰ってあげてほしい。パウパウがね、二人のために選んだんだ」
「……ありがとうねぇ」

「お婆ちゃん、僕らも貰ったんだよ…ほら、あのタオルハヴル!」
「あぁ、そっかい」
 ウェスが紙袋を開けて中からランチョンマットを取り出す。
「あのね、御飯のときに敷く布なの。フィリ兄も使って」
 子供の何気ない言葉だ。
 そこには思惑などはない。
 ただ何となく、お爺ちゃん、お婆ちゃんと呼んでいるから、これからも一緒に御飯も食べるだろうと思ったのだ。


「ソダナ、アンガトヨパウパウ」
 くしゃっと笑ったウェスが、パウパウの頭に優しく手を置いた。
「そだねぇ、また皆でおいで」

「うん!お爺ちゃん達、明日、応援に来てくれる?」
 何も知らないフィリ達が笑顔で二人を誘う。
 二人は同じように頷くと、
「俺の弟子の錬金符、活躍すっとこ見ねぇとなァ」
「オゥ、オレノハタァツケンダカラマケネェナ」

 二人に見送られて家を出て、何度も振り返って手を振りながら街の広場へ向かう。
「いいなぁ~ペルナさん、料理上手だよなぁ!俺のかぁちゃんと大違いダワ」
「作って貰えるだけ有難いって!僕のトコなんて兄ちゃんが作ってるよ……」
 マルトフの家は、両方ともが働きに出ているため忙しいそうだ。

「へぇ、どんな御飯?」
 興味を惹かれたパウパウが尋ねると、マルトフは光を無くした目をして
「焼く」
「ん?」
「兄ちゃんは何でも焼く。得意の魔法が火だから」
「……」
 得意魔法の属性と料理が、何故に結びつくのか。意味が分からずに、皆が黙った。

「でもよ!なんでも美味しく感じられて良いんじゃネェカ?」
 ダグラスにしては精一杯の慰めだったのだろう。
 全くフォローにはなっていないけれど。

「うん……ソダネ、このごろパウパウんとこの御飯を食べちゃったから、帰ってからが怖い」
「あ~うん……」ダグラスも黙った。

「自分達では作らないのか?」ミッちゃんが問いかけた。
「ぼくねぇ、コーンミールマフィン、作れるよっ」
 パウパウが自慢そうにダグラスに言う。
「え?」
「冒険者したらヤエーするでしょ?御飯の練習してるの」
「え?」
「パウパウは大きくなったら冒険者になるの?」
 フィリが何故か本人ではなくハイエルフに聞いた。

「ぼくねぇ、ミッちゃんと色々な所に旅をするの。だから冒険者になるの」
「そういう事らしいよ」
「すげぇなパウパウ、もう将来のこと考えてンのかぁ」

 やがて街の賑やかな方に近づくにつれて、人の流れが多くなってきた。
 警備の兵士も目に付く。

 丸い広場の中心には椅子とテーブルが並び、皆が相席をしながら飲食が出来るようにされている。
 出店は広場の周りを取り囲むように出ていた。

 まだ空間が空いているのは、これから店が出るのかもしれない。
 棒を差して布を渡した簡易天幕に、木箱や魚箱ガンバコを品台にした露店が並んでいた。
 天幕が色とりどりなのは、大漁旗の端切れ等を利用しているからだ。

「あ!ギルドの店も出ているよ」
 パウパウが指を差した先には、木の看板に【ギルマス屋】と殴り書きされた露店。
 他と違って、店先に客が居ない。

「……今年も出してるのか」マルトフの眼から光が無くなった。
「懲りないよねぇ」
「パウパウぅ、ありゃギルドの店じゃなくて、ギルマスの店だから見なくて……あ!」
 言っているそばからパウパウはハイエルフの手を引いて、【ギルマス屋】へ近寄って行く。

「……いらっしゃいませ」
 簡易天幕の下、引っくり返した魚箱ガンバコに座っていたのはギルドの受付にいた人だ。

 そして、並んでいる商品は……
「?」
「……なんだろうね、これ」

 木だ。
 並んでいる売り物は木。

 なんだか奇麗に皮を取った、のみの彫り後?も荒々しい木。
「ゼンエーゲージツ?」
 芸術は爆発だーって頭の中で、誰かが言っている。
 しくもミッちゃんが言ったような「なんだこれは!」である。

「薪の皮、はがしたヤツ」
「だよねぇ……」

「ウルジェドさん、パウパウ、行こうぜ」
 ダグラスが声を掛けてきたのを幸いに、その場を離れた。
「あれギルマスの趣味の店なんだワ。高い材料使って、アレ。誰も買わねぇの」ニヒヒヒと笑う。

 ギルマス屋以外の露店は盛況だ。
 棘のある巻貝トゥルボの壺焼きや、干物を焼いている店からは、食べたばかりなのに鼻をくすぐる匂いがしてくる。
 甘いパンを売っている店やパイの店も出ていて、食べ歩きに丁度良さそうだ。

 麦汁の硬飴バーリィシュガーの棒飴や、風魔法の魔道具で作るコットンキャンディには子供達が並んでいた。
 大漁旗を頭に飾っているから、地元の子供だろう。
 約束どおりにギルマスは子供達に配布してくれたようだ。

 パンにソーセージを挟んだもの。
 トウモロコシが焼ける匂いがするので覗くと、串に刺した小さなトウキビだった。
 芯まで食べられるらしい。タレは魚醤イシルだったが、パウパウは買ってもらった。
 実のコーン部分と芯がシャキシャキしていて、これはこれで美味しいけれど、流石に昼食を食べて直ぐだったので、残りはダグラスのお腹の中だ。

 パン生地を揚げて粉糖を塗した物が、甘い匂いをさせている。
 ダグラスが2つも買って、皆に少しずつ分けてくれた。
 革製品の店ではベルトなども売っていたし、その隣のナイフなどの刃物屋さんは砥ぎもしているようだ。
 鍋、釜の金物屋があると思えば、布地を売る店もある。

 ミードやワインウィノスを量り売りする店は、漁師のオッチャン達が並んでいて賑やかだ。
 「お!おぉウルジェドぉ、飲まねぇかぁ」とミッちゃんに声を掛けてくるオッチャンも居る。

 錫の小さな人形は錫細工の職人の出店。
 隣は木製の独楽や人形も置いてある木工芸屋さん。
 「お店、いっぱいあって楽しい!」

 帝都の市とはまた違う、祭りの雰囲気もあってパウパウは御機嫌だ。
 なんだか、雑多な感じがして祭りっぽくて良いのだ。
 「ふふ、そうか。楽しいなら良かったよ」

 そうやって皆で広場の店を冷かしていると、
「フィリ!マルトフ!ダグラス~」声を掛けられた。
 見ると同じように大漁旗で頭を隠した子供達だ。
「あ!パウパウも、ウルジェドさんも、こんにちは!」

 肉祭りで一緒に漁港で遊んだ子供達だ。
「よぅ舟の準備はいいのか?」
「おぅ、そりゃバッチシよ。今年はダグラス達には負けねぇかんな!」

 そろそろ他の村の船が付くらしいので、皆で広場を外れて住宅地の中小路なかこじで転移をして港の防潮堤の角辺りに来た。
 プタフォタンの港に停泊していた討伐船は全て外海の入り江に出されている。
「もともとは、あっちの入り江を船着き場に使ってたんだってさ。それを整備して、漁港も作ったんだって、オッチャン達が言ってた」
 
 もしも大時化おおしけになったとき、他の町村の船でも逃げ込める、緊急避難場所に指定されているのだという。
「あぁ!あれだろ、パレオフィスオオウミヘビの時にポリジアストナの船が避難して来たって」
「そうそう。ここってさ、時化ても波が死ぬし、そこそこ深さもあるからよ、んで、昔っから帝国の避難場所に指定されてんだってさ」 
「へぇ~。ダグ、結構もの知りじゃん」
 そんな話をしながら、沖に伸びる防潮堤を歩いて行く。

 港内は祭りの準備でなのか賑やかだ。
 休憩場所にしている倉庫も、今日はオッチャン達が出入りしていた。
 魚箱ガンバコを滑らせて、何やら運んでいるが、仕事ではなさそうだ。 

「おぉ、丁度いい時間だったなぁ」
 防潮堤の先端に辿り着いたダグラスが沖を見ながら言う。

 確かに沖の左右から船が漁港を目指して進んできていた。
 後ろには小舟が曳船されているのが波の間に見え隠れする。

 速度がそれほど出ていないのは、後ろの小舟に配慮しているのだろう。
「レカベットの2艇と、サコッタの2艇だなぁ……」
「あと来ていないのはグリモブから2,3艇かぁ」

「ねぇ!なんで判るの?」
「舟体がレカベットは赤いんだ。サコッタは塗料が黒い。ほれ、あっちから来るの、赤いベ?」
 そうダグラスに言われたが、海が反射する光の中では小舟の色はパウパウには見えなかった。
「え~、ミッちゃん。見える?」
「いや、普通では見えないよ。ダグラス君は凄いね」
「いやぁ、……あ」

 どうしたんだろうと、皆がダグラスを伺った。
「レカベットの後ろの舟がもやい綱を外した」
「え?あんな沖で?」マルトフの言葉に、ダグラスが頷く。

 見ていると小さな舟は沖の波頭を飛び跳ねるようにして、近づいて来る。
船体が軽いのか、船首が浮き上がっているようだ。
「あれ、普通の船用の推進符を使ってんぞ。ワヤだわ」
「え~、乱暴だなぁ」
 自分を引いてきた親船を置いて、波の上をバンバンと飛びながらやって来た舟は、赤いブイを通り越して入り江に入ると、もの凄い勢いで左に船首を向けて、風の魔力を使って急制動をかけた。

 後ろの波が白く泡立ち、船首側は風波が立つ。
 なんだか、やること全てが乱暴だとパウパウは思った。

 舟に乗っていた子供が舳先に立つと、防潮堤のサリレに向かって怒鳴るように
「出迎えご苦労だナ!ダグラス」

「うっせぇラキップ、オメのデムカエなんてしてねぇわ、ばぁか」
 ダグラスの言葉はマルトフが風魔法で拡声したので、ちゃんと相手に届いたのだった。
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