なびく旗と歩く騎士〜追放貴族の英雄譚〜

ふわとろオムライス

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旅立ち編

1話 分かち

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「うーん困ったものだ」
 
 晴々とした空の下で曇天の様な顔で悩み続ける。

「ま、なるようになるか」

 彼はまだ知らない……この冒険の始まりが、終わりつつあるこの国の新しい一歩になることを……。

 ◇◇◇ 

 アルデリア皇国…… 幾千の戦争を勝ちその領土を広げてきた大陸最大国家だ。二十八の貴族でこの国は構成されておりそのひとつトーランド家の長男 『クリス・トーランド』は一風変わっていた。騎士でありながら乗馬が下手であり、おまけに強者の風格もない……そんな風貌のせいで周りの貴族や兵からは『気抜け騎士』なんて言われるようになっていた。
 トーランド家は領地は小さいものの当代の領主『オーハム・トーランド』はこの国随一の騎士と呼ばれていた。剣を振るえば敵は両断、魔法を唱えれば大地が揺れると言われるほどだ。
 そんな彼の長男が気抜け騎士などと揶揄されてる。そんなのでは当家に仕える者達や親族は面子が立たない。早急にクリスを糾弾しようと考える者が大半であった。
 しかし当主はこの事に目を瞑り続けた……案の定周りから非難の声が上がった。『相応しくない』『騎士の誇りがない』『当代も耄碌もうろくしたか』などクリスだけではなくその父にまでも批判の声が掛かったのだ。

 ある晩クリスは父からの呼び出しを受けた。彼は自分の置かれてる状況など知る由もない装いで父の執務室に向かい、ノックもせずに部屋に入る……

「父上。要件とはなんですか?」

 部屋に入ると父の他に執事長と当家が抱える軍の軍団長が険しい顔で立っている。 
 その中でも一際怖張った顔の父が口を開く。

「クリス。お前は騎士の誇りを考えたことがあるか?」
「民の為でしょう……そんな事は聞き飽きましたよ父上」

 軍団長が怒りの混じった声で喋る 

「クリス……貴様は何時も受け身でものを語っているな。自分自身が持つ志は無いのか?」
「この状況で必要ですかそれ?」

 この言葉に三人は呆れる。と同時に納得した様な素振りを見せ、暗い声色で父上が告げる。

「クリス……勘当だ。お前には貴族である事も騎士を名乗る事も許さん。しかし私個人の恩情で家名は奪わないでおこう。明日の正午、お前の十七の誕生日に家を出ていけ!」

 唖然とした顔でクリスは質問する。

「何故そんな事を!ただ家督を継げば貴方たちは満足するんでしょ!そんな当てつけみたいな事……」

 ここで静かに佇んでいた執事長が、諭すように語り始める。

「クリス様。継ぐだけでしたら兄弟の誰でもできます。今必要なのはトーランド家長男としてのですよ……」
「良いように言って……どうせ三人共、厄介払いをしたいだけだろ!」

 クリスはそう叫びながら部屋を飛び出す。長い廊下を走り抜け、突き抜けるように自室に飛び込む。しかしそこにはクリスの物は無く、が取られた剣と着替えや路銀、消耗品などが入った麻袋が置かれていた……

「クソ、前々から準備してたって事かよ!」

 入念な準備をされていたことに苛立ちが抑えきれず、ベットに八つ当たりをする。壊れたベットは傾き、使い物にならなくなった。
 寝れないベットに腰を掛け、熟考する。しかしクリスは、不安や悩みよりも、理不尽な勘当に腹を立て一睡もせずまま朝を迎える……

      ◇

 正午になった。クリスと当主そして兄弟や家に仕える者達が謁見室に集まる。

「今を持ってお前を我が家から追放する。しかし血の繋がった息子だ、騎士の名誉である剣と家名は没収しない…が騎士の象徴である鎧は預かる。貴族とは、騎士とは、そして上に立つ者が何たるかを理解するまでこの家の敷地を跨ぐことは許さん!」

 クリスは悪あがき的に文句を言う。
 
「誇り……ですよね?それならそこら辺にいっぱいありますよ。ほら椅子の下なんかあんな大きいのが……掃除が行き届いて無いようですよ(笑)」

 そう吐き捨て、執事達の方に目線を向ける。
 呆れた顔で見てくる執事長とゴキブリを見るような目で視線を送る執事達……言葉に出さずともこの場いる者全てが彼に対して幻滅をした。
 そして当主は怒りをあらわにして叫ぶ。

「トーランドの名が残ってる内に去れ!さもなくば愚か者の首が天高く飛ぶまでだ!」

 クリスは謁見室の扉を足で開け、さっさと家を出る。敷地を隔てる門までの大きな庭を踏み荒らしながら飛び出す。
 門を飛び出し息を整えると、今までにない開放感がクリスに訪れる。……家の者の冷やかな視線やしがらみから解放されスッキリとする。頭が冷静になり何時の気抜けた感じに戻る。

「うーん困ったものだ」

 (近くの街までは徒歩でも半日はかかる……流石に領主館の麓にある町は顔が割れてて行きずらい……最悪野宿になるが近くの街に行こう)

 開放感のあまり謎の自信がクリスの背中を後押しする。天気も良く、外出するには良い日だ。この先どうなるか分からないが、漠然と上手くいく気がする。

「ま、なるようになるか」

 さっきとは打って変わって、軽い足取りで街を目指す。貴族でなくとも事はできるから……

 
 ◇◇◇ 

 静寂と化した謁見室でオーハムと執事長が悠長に言葉を交わす……。

「良いのですか、オーハム様?」
「あぁ。貴族としてあいつを置いておくことはできない」
「でも優秀である事には変わり無いですよ……むしろ、貴方よりも才覚に恵まれております。戦地を駆けたこの私が、証明致します」
「息子の才に気付けぬほど、老いぼれてはおらん。今のあの子には『出逢い』が必要なのだ……良い意味でも悪い意味でも」
「変われると?」
「あぁ、変われる筈だ。あの子も、この国も……」

 傷だらけのオーハムの手には、クリスの剣の家紋が握られていた……。
 
 
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