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25 朝比奈家の母と妹、登場する
「ただいま帰りました」
飯澤さんの話の途中でそっとリビングのドアが開かれて、着物姿のとっても上品な感じの女の人が入ってきた。貴婦人っていうのかな、そんな感じの人。
もしかして、この人……
「あっ紅緒様! お帰りなせーやす!! 玄関開いたの気づきませんでした! 出迎えに行けなくてすみません!!」
「そんなこといいのよ重松。あら……お客様?」
オレはその人と目が合うと、反射的にガバッとソファーから立ち上がった。すると、トーマ先輩がのほほんと言った。
「ノンタン、あれ俺のお袋なー」
やっぱりーっ!? まぁそんな気はしたんです。『様』って呼ばれたし! そしてシゲさんは重松さんっていうんですね。
「さっ斉賀希と申します、先程からお邪魔しています、えっと、トーマ先輩にはいつもお世話になっていま……」
「お袋、俺の恋人のノンタン! 夜は歓迎の宴会すっから、よろしくなー!」
「まあ……!」
「え?」
一瞬、耳を疑った。え……今トーマ先輩、オレのこと恋人って言った? 言ったな。間違いなく言った。
トーマ先輩のお母さんは荷物を重松さんに預けると、高速なすり足でオレのほうへと近付いて来た。なんか距離近ッッ!!
「もう、どうして今朝の内に言わないの!?
柊馬!! 聞いてたらお茶のお稽古なんていかずに一緒にお出迎えしたのに! あら?
… …っていうかあなた、男の子?」
うわあああああ!! 光の速さでバレた!! 別に変装も何もしてないんだけど、最近当たり前のように間違われるから自分でもそれが当たり前になりかけてた!!ていうかすごいな、お母さん! さすがトーマ先輩の母だよ!!
「おう、ノンタンは男だぜ。お袋、よく一目で分かったな?」
「うふふ、女の勘よ。それにしても可愛い男の子ねぇ~! 希ちゃんって呼んでもいいかしら? 私のことは紅緒ママって呼んでくれる?」
あ、あれ? オレが男でトーマ先輩の恋人なことは、あんまり問題視されてない?
っていうか!
「ま、ママとか呼べませんよ、そんな恐れ多いというか……それよりあの、オレが男なことは何も思わないんですか? こ、恋人とか……」
「ええ、別に? それにしても本当に可愛いわねぇ~、こんな可愛いムスメが欲しかったのよ! でかしたわね柊馬!」
「だろォ? 激カワだからな、俺のノンタンは!」
いやあの、オレ娘じゃないんですけど。なんか色々と矛盾したこと言ってない? お母さん。天然……? 天然なのかな?
しかもトーマ先輩には妹さんがいるんじゃなかったっけ? そう言ってたよね!?
こんな娘が欲しかったってどういうこと?
妹さんの立場ないじゃん!!
「紅緒様、そんなことを言ったら由真さんが可哀想ですよ……」
俺と同じ疑問を抱いたのか、飯澤さんが突っ込んだ。よかった、よそ様の複雑な事情に首突っ込めないもん。
「だってあの子、可愛くないんだもの」
「!?」
ええええええ!!? 母親が自分の娘を可愛くないってはっきり言うのぉ!? その言葉にトーマ先輩は同意するようにウンウンと頷き、飯澤さんは困った顔でため息をついている。重松さんや、その他のお兄さんは苦笑気味だ。
なにこれ、いつもこんなこと言ってるんだろうか。オレが娘だとしたら、実の母親にハッキリ可愛くないとか言われたら絶対グレるよ!? ていうか既にグレてるんじゃないのか!?
「ねえ希ちゃん、お料理は好き? お菓子作りとかする?」
何事もなかったかのように話しかけられた。怖い。
「あ、はい……。一応自炊してますし、お菓子作りはたまに寮の同室の友達とクッキー焼いたりします」
プリン作ったりとか。まあオレっていうか、ほとんどすず主導で作るんだけど。
「まあぁ、なんて理想的な娘なのー!?
私、娘ができたら一緒にお菓子作りしたいと思ってたの! それでお庭でお花を眺めながら女子会したりして……素敵! ねえ希ちゃん、いつお嫁に来る? 明日来てもいいのよ。そうする?」
「え!? お、お嫁ってあの、オレ男なんですけどっ!?」
「だからなぁに? 柊馬の恋人なんでしょ、
ならどっちでもいいわ」
おーざっぱぁぁ!! いや、おおらかっていうのか!? 叩き出されるよりかはマシだけど、なんか話が通じなくて怖い!!
でもまだ見ぬ妹さんにはおおいに同情してしまう……トーマ先輩もさっきから頷いてないで妹さんをフォローしてあげてよぉ!!
他人のオレが切なくなるじゃん!!
「ついに親公認だぜノンタン! やったなー!! 結婚出来るぜ!!」
「いや、あの……良かったですけど、その……」
その時だ。
ドカァッ!!
「可愛くなくて、悪かったわね……」
リビングのドアが思いっきり蹴破られて、オレは思わずびっくりして反射的にトーマ先輩に抱きついた。
開いたドアの向こうには、見たことのある制服を着た女子高生が、しゅうううと全身から蒸気のようなものを発しながら、恐ろしい形相で臨戦態勢に入っていた……。
あ、あれ? あの子、どこかで見たような気がする。あの制服は、白百合女子高校の制服だ。
「なんで柊馬が昼間っからウチにいんのよ!! あたしの前には二度と顔出すなっつってたでしょ!! 飯澤ァ!! アンタが柊馬連れてきたワケぇ!?」
「ゆ、由真さんお帰りなさい、落ち着いてください」
うわぁ、予想してたけど予想以上に仲悪い! 飯澤さんもタジタジだ。
「ぎゃんぎゃんうるっせぇなクソアマァ!
朝比奈家の後継ぎが実家に帰って来て何が悪ィんだよ! 俺の顔が見たくなきゃーてめーが消えればいいだけだろーが!」
「はあ!? 後継ぎとかあたしは認めてねーし! 死ねよ!!」
「ふざけんな、てめーが先に死ね!!」
な、なんて口汚い兄妹ゲンカなんだ……普段あんまり挑発に乗らないトーマ先輩がマジ切れだし。ていうかあの子どこかで会った?
……どこで?
「もーアンタたちは毎回毎回顔合わすとケンカしてェ! 希ちゃんが怖がってるでしょ? やめなさいっ!」
「元はと言えば紅緒様が由真さんを可愛くないって言ったことにキレてるんじゃ……」
「あら飯澤、何か言った?」
「いいえ」
あっ……!!
『それにしても、ホンット男って最低な生き物! うるさいし汚いしガキだし自分勝手だし。成長したら最低限の種だけ残して、全員死ねばいいのに。あなたもそう思うでしょう?』
あの時、オレをナンパ男たちから助けてくれた子だ……! ええええ!? あの子がトーマ先輩の妹だったのか──!? 世間せっっま!!
成人男性4人をボッコボコにしてる光景は、どこかで見たことあるかもって思ったけど、まさかの……!
「かかってきなさいよ! 今日こそボロ雑巾にしてやるわ、このクズ男!!」
「やれるもんならやってみろや、このクソ女! 返り討ちにしてやんぜ!!」
トーマ先輩はオレを飯澤さんに押し付けると直ぐに臨戦態勢に入り、妹さん──由真さんはそんなトーマ先輩の一瞬の隙をついて、あの時男どもをのしたときのような綺麗な足技を繰り出した。
「ハアッ!!」
シュバッ!
バキィッ!!
「──ッてぇなコラァ!!」
風を切る音が聞こえるほどの、恐ろしい脚力の由真さんの攻撃を、トーマ先輩は両腕をクロスしてガードした。ものすごい音がしてトーマ先輩は一瞬態勢を崩したけど、そのまま降り下ろされた由真さんの足をつかむと「うりゃあッ!」と由真さんをぶん投げた!
「きゃあぁ!!」
「由真さんん!!」
ガッシャーン!!
由真さんがダイニングテーブルに投げ飛ばされた!! と思ったら重松さんが由真さんを受け止めていて(というか下敷き?)、衝撃に耐えれなかった重松さんがひっくり返ってる! そして由真さんはなんでもないような顔ですくっと立ち上がった。
トーマ先輩、相手が女の子(妹)でも容赦なさすぎる……(引)
「ふん、なかなかやるわね……!」
「おめーこそな……!」
ちょちょちょちょっと!! 『やるわね』『おめーこそな』じゃないよ!! ここ、思いっきり家の中ですけど!? 朝比奈家の兄妹ゲンカ、激しすぎだろ!!
まさかどこの家もそうなのか? オレは一人っ子だからその辺の事情はよくわかんないけど……!
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