好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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5、朝比奈柊馬という男

 寮の備え付けのベッドは大きくてふかふかで寝心地がよかった。
 きっと実家の自分のベッドよりも高級品だろう。この分厚いマットレスとか、いかにも高そうで……この学校の理事長はどんだけ金持ちなんだ。
 
 ドアがノックされて、山田君――すずの声が聞こえた。

「おはようのんちゃん、起きてるー? シャワー先に借りていーい?」
「あ、うん! おはよう。シャワー先使っていいよ」
「ありがとーう」

 交代で洗面所を使って登校の準備をする。
 大体終わったら、次は一階にある食堂で朝食タイムだ。

「おいっし! え? 朝食でこのレベルなの!?」
「やばぁ……」

 食堂は普通のおばちゃんパートさんが毎日寮生の食事を作りに来てくれるらしいが、どこぞの高級レストランのような味がした。

「夕食のメニューはもっとヤバそう……」
「毎晩ここで食べる人がちょっとうらやましいかも……。まあ、オレは料理嫌いじゃないから自炊でもいいんだけど」
「今夜はのんちゃんが作ってくれるんだよね? 楽しみだなー」
「過度な期待はしないで……」

 オレが夕食は自炊をすることを伝えたら、すずは自分もそうすると言った。別にオレに合わせなくていいと言ったのだけど、仕送りを節約したいらしい。なかなかの倹約家だ。
 それと実家から毎月米や野菜を送ると言われているので、案に自炊を強要されているのだとか……。
 ちなみにオレは不登校タイムが長かったため、自分なりに親に負担をかけまいと、料理や家事はひととおりマスターしている。(もし受験に落ちて中卒になったら、将来は家事代行の仕事でもしようかと思っていた)
 そんなわけで、夕食は毎日すずと交代で作ることになった。

「おい、アレ……」
「うわ、朝比奈の奴またケンカしてきたのかな……」

 オレが朝食を食べ終えそうな頃――すずはオレよりもだいぶ先に食べ終わっていたが、オレが食べ終わるのを待っていてくれた――突然食堂内がざわつき始めた。

「え、なになに? 誰?」

 オレとすずは同時に、視線が集中しているドア付近に目を向けた。
 そこには。
 あ……! あの人は……

「また朝帰りか……つーかシャツに血ぃついてね?」
「コワッ。そういえばあいつ、闇のバイトしてるとか前に聞いたぞ」
「おい目を合わすな、殺されるぞ」

 アサヒナセンパイだ……!
 不登校タイムが長くてコミュ障のオレは、どうやら周りの空気を読むのが少し不得手らしい。必死で気配を消そうとしている周りの先輩方の態度など意にも介さず、オレは彼のもとへと駆け寄った。

「あの、あ、アサヒナセンパイ!」
「あん?」
「お、おはようございます。オレ、新入生の斉賀っていいます! お……おとといは、危ないところを助けてくださってどうもありがとうございました。お、お礼が遅くなってすみません……」

 アサヒナセンパイはオレの容姿――多分、髪の色だ――や言動にぽかんと口を開け、数秒間固まっていた。
 そして、オレからは目線を外さずにボサボサ頭を右手でぼりぼりと掻き始めた。

「え~と? ……おとつい……?」

 三人を相手にあれだけ暴れていたのに、どうやら覚えていないらしい。
 ああいうことは彼にとっては日常茶飯事なのだろうか。

「……っと、その、寮の廊下で助けていただいたんですけど……」

 記憶を掘り返すのを手伝ってみたが、アサヒナセンパイはその間もオレの顔をジ――ッと穴が開きそうなくらい見つめるばかりで、本当に思い出そうとしているのかよく分からない。
 オレの顔に何か付いているのだろうか……? ご飯粒とか?

「あのピンク頭、朝比奈に向かっていくとか無謀すぎる……」
「確実に殺されるな……」

 背後から恐ろしい内容が耳に入ってきて、一瞬ゾクッと寒気がした。

「……あんま覚えてねーけど、まあいっか!」
「へ?」

 突然、ふわりと身体が宙に浮かんだ。

「の、のんちゃんッ!?」

 えっと……一体何が起きてるんだ?
 オレは何故か今、アサヒナセンパイの肩に担がれている。
 え、何で……? わけが分からない。
 こんな米俵みたいな担がれ方、今まで一度もされたこともないし――いや、むしろ一度もされないで人生を終える人の方が多いと思うけど。

「あ、あのー。どなたか存じませんが、のんちゃ……その子をどこへ連れて行かれるのでしょうか?」

 すずもオレ達の近くに来て、アサヒナセンパイに尋ねてくれた。
うん、オレもそれが聞きたい! また驚きすぎて声が出ないから、すずが聞いてくれて助かった!

「あん? 俺は二年の朝比奈あさひなだ。今から行くのは俺の部屋で、場所は三階の307号室。授業が始まる前には返すからよ、コイツちょっくら借りてくわ」
「あ、そーですか。どうもご丁寧に……じゃあのんちゃん、いってらっしゃーい」
「ウン、イッテキマス……」

 そのままの体勢で、食堂を出た。

 って、ちが―――う!!
 アサヒナセンパイにもすずにも当たり前のように言われたから、つい行ってきますって出ちゃったけど!!
 この状況、普通におかしくない!?
 そりゃあ他の人もいる食堂よりも、部屋のほうがゆっくりとお礼を言えるかもしれないけど、その場合はアサヒナセンパイにオレとすずの部屋へ来てもらう方がお茶とか出せていいと思うんだ。
 そういうの気にしない人なのかな!?

「えーとお前、名前はなんつったっけ?」
「サイガノゾミデス……」

 何故こんな体勢で自己紹介を……思わずカタコトになっちゃう。

「なーんかちょっと見覚えあるわ、そのピンク頭」
「え!?」

 少しでも覚えていてくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。 
 この人の行動はちっとも理解できないけど、これは仲良くなるチャンスだと思おう。

「ふうーん、それで俺をね、へーえ……」

 オレはマグロのように担がれながら――マグロがこんな担ぎ方をされるのか知らないけど――アサヒナセンパイの部屋へとお邪魔した。
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