好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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15 自覚、そして混乱

 視界の隅にある職員室の掛け時計をちらりと見たら、もう既に一限目が始まっている時刻で静かに驚いた。
 一限目はたしか英語だったはずだ。
 オレが不在のことについては、すずが説明してくれていると思うけど……。
 なんだか少し心が痛い。
 不登校だったのは事実なのに、今さら指摘されて傷つくなんて、我ながら豆腐メンタルだと思う。
 吉永先生の前で泣きださなくてよかった。
 こんな体たらくで本当に執行係なんて務まるのか……。
 不安は尽きないけれど、オレはまだ辞退する気はない。
 しかし、昨日までの「やってやる! オレなら出来る!」という根拠の無い自信はすっかり打ち砕かれてしまった。

 『もう戻っていいぞ』と解放されたけど、なんとなく教室に戻りたくない。
 気分が悪いと嘘をついて、保健室でサボってしまおうか。
 入学して三日目でサボりなんて、まるで不良みたいだ。

「不良仲間と間違えた……か」

 吉永先生の言葉を思い出してふっと乾いた笑いがこみ上げた。
 ダメだなぁ、オレ。
 変わろうと思ってこんな派手な見た目にしたくせに、結局中身はなんにも変わらない……弱虫のまんまだ。

「お、そこにいるのはもしやノンタンか?」
「えっ?」

 ありえない声がして、顔をあげた。
 
「おいおいノンタン、今絶賛授業中だぜ~? こんなとこで何してんだ、サボりか?」

 職員室を出て、外の渡り廊下、向かい校舎の入り口に立っていたのは。
 ちょうど逆光になって、顔ははっきり見えないけど。

「あ……朝比奈先輩!? 先輩こそどうしてこんな時間に」

 その声の主がわからないワケはなかった。

「俺? 俺はサボってる奴を見つけるためにうろついてるだけで、俺自身は別にサボりじゃねェぜ! ……なーんてな」

 こんな時こんなところで、なんとなく会いたいと思っていたひとに偶然会えるとは思っていなくて。

「……ノンタン? どーしたんだ?」

 オレは勝手に感極まって、朝比奈先輩に駆け寄ってその胸にすがりついた。
    朝比奈先輩はさすがに驚いたようだが、オレの意味不明な行動には特に突っ込まず、そのままあやすように背中を撫でてくれた。

「教室に戻らねぇならオレと一緒に見廻りするかァ? なんつってただのサボりだけどな」

 あまり、難しく考える必要はないのかもしれない……。

「……はい」

 たとえ結果がどうなったって、それは自分の選択の結果だ。
 今のところオレは、髪をピンク色にしたことも、この学校に来たことも、何も後悔していない。

「んじゃーどこでヤる!? 生徒会室……はバレたらつばめがうるせェか。保健室は今は先生がいるなァ……。屋上! あーでも今は先客がいるかもな」
「えっ……と、何をやるんですか? 見廻りはしないんですよね?」

 授業をさぼるってただボーっとするんだと思っていたけど、授業に出ない分自主勉強でもするのだろうか。

「ばっかノンタン、授業中にマジでうろうろしてたらさすがの俺様でも怒られるだろ~? 俺は適当にサボれる空き教室を捜してただけだっつーの。で、ノンタンがその気になったみてェだから真剣に場所探してんの。お分かり?」
「その気、とは?」

『オレがその気になった』の意味が分からない。

「え? 抱いて欲しいんだろ?」
「は!?」

 なっ、なっ、だっ、抱っ……!?

「だァって今誘ってきたのはノンタンじゃねェか。こないだは拒否ったけど、とうとう俺に抱かれる気になったんだろ?」
「さっ、さそっ、さそさっ、誘ってませぇぇん!! ただちょっと吉永先生と色々あってそしたらちょうど朝比奈先輩がいたからなんか感極まって抱きついちゃっただけです!! 勘違いさせてすみません!!」

 なんつー思考回路だ朝比奈先輩!!
 いや、軽率な行動を取ったオレが悪いといえば悪いんだけどもぉ!!

「そなの? そりゃ残念……別に謝ンなくていいからいつでも抱きついてくれ。ノンタンならいっつでもウェルカムだからよ。勢い余って抱いてしまうかもしんねェけどな!」

 陽気な外人さんみたいに手を広げて、ウェルカム! なジェスチャーをする朝比奈先輩。
 思わず反射的に抱きつきそうになったけど、今度はグッと耐えた。

「そ、そういうこと冗談でも言うのやめてください……だ、抱くとか」
「なんで?」
「な、なんでって……」

 なんでと聞かれたら、なんでだろう。
 ……自分でもよく分からない。
 まだ高校生だからとか、別に恋人同士じゃないからとか、理由は色々とあるのに。
 どれもなんとなく、今の自分には適切な理由じゃない気がして……。
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