好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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45 奴の名は清原翠人

「ふっふっふ……よく来たな、斉賀希!!」

 屋上のドアを開けると、オレを待ち構えてたように一人の男子生徒が仁王立ちで立っていた。
 セリフはバカっぽいけど、見た目はごく普通の男子生徒。
 染めているのか、焦げ茶の短髪で身長はオレよりは高く、体格はややがっしり系だ。
 何かスポーツでもしているんだろうか。
 制服は少し着崩しており、一見あの時代錯誤な手紙の送り主とは思えないくらいだ。
 ドアを開けたのがオレじゃなかったら、いったいこの人はどうしてたんだろう。
 すごく気になる、その辺。
 彼の向こう側には先客のグループが数組、わいわいと楽しそうに昼食を食べているのが見えた。

「えーと、手紙をくれた清原君ですか?」
「そうだ! ……って、なんだよその後ろの奴らは!! 他言無用って、絶対一人で来いって書いてただろぉ!?」

 ぷんすかと怒る清原君に対し、オレの後ろに立っていたすずは『どーも~』とにこやかに手を振り、ハルはぺこりと会釈した。お笑い芸人の登壇のときの挨拶みたいだ。

「いや、一人で来るわけないし。一人で来なかったからって何がどうなるとか書いてなかったから、別にいいかなって」
「普通お願いされたらそうするだろーが!!」
「え、あれお願いだったの?」

 なーんか少し苦手だな、この清原君って。
 小学校の頃のいじめっ子っぽくて、あまり積極的には関わりたくない。
 すずたちには悪いけどさっさと話しを終わらせて、別の場所へ移動したい。

「ぼくたちのことは気にしないでいいよ! ただのギャラリーだから! ねっ、ちーちゃん」
「ああ」
「ギャラリー邪魔すぎだろぉ!!」

 すずとハルは金網の方へ行き、腰をおろしてパンを食べ始めた。
 どうやらこのまま昼食を摂るつもりらしい。
 それならばオレもただでさえ食べるのが遅いので、すずたちに遅れないよう立ったままパンを取り出して食べ始めた。

「で、話って何? 出来れば早めに終わらせて欲しいんだけど……」
「……ってめぇ、のんきにメシ食ってんじゃ」
「あ、清原君も食べたら? 昼休みがもったいないし……ていうか落ち着かないから座って話してもいい?」
 
 立ったままでもパンは食べられるけど、手が塞がって飲み物が飲めない。
 その状態を見かねてか、そっとハルがオレのペットボトルの蓋を開けに来てくれた。優しい。
 すると、清原君はぷるぷると震えだした。

「なんで朝比奈先輩は、ペットボトルの蓋も開けられない軟弱ヤローを側に置いてんだよ……!!」
「え?」

 今、朝比奈先輩って言った?

「俺は朝比奈先輩の中学の後輩だ!! お前なんかより俺のほうが先に朝比奈先輩のことを知ってたし、憧れてたんだ!! 朝比奈先輩が柔道部だから柔道部にも入ったんだぞ!! 俺はずっと空手やってたのに!! なのに朝比奈先輩は全然部活に来ねぇし、挙句の果てにオマエみたいなひょろくて女みてーな奴が朝比奈先輩に遠慮なくひっついててよぉ!!  ふざけんなよ!! 俺のほうがずっとずっとず――っと朝比奈先輩に憧れて舎弟になりたかったのに、なんでお前なんかが――」

 パァン!!

「!?」

 いったい何が起こったのか――……。 
 清原君の剣幕に声も出せないオレのそばにいつの間にかすずが立っていて、叫ぶように文句を垂れる清原君の顔をいきなり平手打ちして黙らせたのだ。

「なっ……いきなり何すんだテメー、このチビ!!」
「キミの朝比奈先輩への気持ちは分かった。けどさぁ、それをこの子に言うのはお門違いじゃない? 文句があんなら直接朝比奈先輩に言えよ」

 すずのこんな低い声、初めて聞いた。
 オレへの悪口に対して怒ってくれてるんだと思うと感動して、涙が出そうになった。
 暴力はいけないけど(小声)

「はぁ!? 尊敬する朝比奈先輩に文句なんて言うわけねーだろ!! ていうかてめーは一体なんなんだよクソチビ、関係ねー奴はスッコんでろ!!」

 スパコーン!!  

 今度はハルが、竹刀で清原くんの頭をいい音を立てて打った。
 え、打っていいの!? またも驚きすぎて涙は引っ込んだ。

「痛ってぇぇぇ!! てめーも誰だか知らねぇがいきなり何しやがる!! なんだよその凶器は!! こっちは丸腰だぞオイ!!」
「竹刀は凶器じゃない。――これ以上のんさんやすずの悪口を言うならこの俺が容赦しないぞ」
「ちーちゃんカッコイイ~!!」

 すずがチャラ男みたいな相槌を入れた。
 そして竹刀は凶器には入らない、っと……。

「どっ……どいつもこいつも邪魔すんなァ!! 果たし状を出したからにはサシで決闘するんだって分かるだろうが!! 俺はお前が朝比奈先輩の舎弟なんて認めねェぞ、斉賀希!! 決闘を申し込む!!」
「お、お断りします」

 間髪入れずに返事をしたら、清原君はコントみたいに前のめりにずっこけた。

「な、なんだとぉ……!?」
「決闘は法律で禁止されてるし……、オレは執行部だからどうしても決闘したいなら理事長に報告して即刻君を退学に追い込むけど、それでもいい……?」
「はあ!?  い、いいわけねぇだろ!」
「さっすがのんちゃん、可愛い顔して言うことがえげつない!」

 な、何だって。初めて言われたぞ、そんなこと。
 まあいいか、すずだし。

「オレは武道の心得とか無いし、ケンカもしたことないから力で負けるのは目に見えてるよ。もし怪我をしたらトーマ先輩に心配かけるし……。それにオレはトーマ先輩の舎弟じゃ――」
「朝比奈先輩が弱い奴なんかを舎弟にするかよォ!!」

 だめだ、清原君は完全に頭に血が上ってる。(多分すずとハルのせいだ)
 全然オレの話を聞いてくれない。

「だからオレは舎弟じゃなくて――」
「のんちゃん、あぶない!!」

 そういえばこの人、空手やってたって言ってたな。
 いつの間にか、ストレートの拳がオレの目前に迫っていた。
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