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75、清白、千春をべた褒めする
すずが久しぶりに歌いたいと言ったので、カラオケに行った。
俺は祖母の趣味がカラオケなので、よく一緒に近所のカラオケに行く。(祖父は自分が歌わされるのがイヤだからついてこない)
ずっと聞いているのも暇だし祖母も気にするから、俺もそれなりに最近の歌を覚えて一緒に歌うようにしている。
母と祖母は普通に褒めてくれるので、音痴ではないと思っていた……が。
「ちーちゃん、歌うっまぁぁ!!」
「いや、そこまで褒められたものでも……普通だ」
「何言ってんの、プロ並みじゃない!? どっからその声出してんの!?」
「せ、声帯から……」
すずは手放しで褒めてくれた。まさかこんなに褒められるとは。
俺は嬉しくて、調子に乗ってすずのリクエストにどんどん答えた。
もちろんすずとは交代で歌うし、すずだって普通に上手い。
チョイスがアイドルソングばかりなのがなんとなくすずらしい、と思った。
「ちーちゃん、人見知りじゃなかったら絶対モテてたよね」
「え?」
狭い部屋でソファに並んで座り、ずっとカルピスソーダを飲んでいるすずが妙なことを言いだした。
「優しいし勉強できるし、運動もできるし顔だって悪くないじゃん。しかも超歌うまいとかズルくない!? スペック高すぎ! これで少しチャラかったら信じられないくらいモテてたと思うね。――あ、もしかして中学の時モテてた? それはそれは失礼しましたぁ」
ぶんぶんと激しく首を振って否定した。
「ふふ。でも人見知りで謙虚なところがちーちゃんのイイトコロだよね~!」
「俺は人見知りだけど、別に謙虚じゃあない……」
噂だけで会ったこともない人を悪だと判断するような一面だってある。
すずの話を聞いていると自分が物凄く出来る人間のように聞こえるが、全然そんなことはない。
「そうかなぁ? 首席だってことも全然自慢したりしないし、剣道が強いのをひけらかしたりもしないし、十分謙虚だと思うけどなぁ。それにちーちゃん、すごく優しいじゃん!」
「な、なんで今日はそんなに俺を褒めてくれるんだ? 嬉しいけど、正直反応に困る……」
俺がそういうと、すずはキョトンとした顔をした。
そして俺から視線を外すと、つぶやくように言った。
「うらやましいから、かな?」
「う、羨ましい? 俺はよっぽどすずの方が羨ましいと思うけど……」
「あ、違う違う、ちーちゃんじゃなくってさ」
俺も負けじとすずを褒め殺ししようと思ったのに、遮られてしまった。
それに羨ましいのは俺じゃないって……じゃあ、誰が?
「白百合女子のコが、だよ。もしちーちゃんが付き合うことにしたら、その子がうらやましいなーって思って。ぼくが女の子だったら、絶対ちーちゃんのこと彼氏にしたいもん」
「え……」
な、んだって……?
「あ、ごめん引いた!? でもあくまでぼくが女の子だったら、だから! ……人見知りなところも可愛いと思うんだよね、好きだったらさ。ちーちゃん、返事をためらってるのはきっとそこが引っかかってるんでしょ? うまく話せないんじゃないか、とかさぁ」
すずは、ずっと俺があの人のことで悩んでいると思っていたのだろうか。
だからこうやってデートの予行演習をしたり、俺を褒めてくれたり、あまつさえ恋愛相談にも乗ってくれようとしているのか……?
――ああ。
「大丈夫だよちーちゃん。ちーちゃんは自分で思ってるよりもずーっとカッコイイから! ぼくみたいに男のくせにオシャベリな奴より、寡黙なほうが絶対にかっこいいし! ちーちゃんの良さはぼくが保障する。きっとのんちゃんだって同じこと言うと思うよ」
すずを、ただの男友達だと思えたら良かったのに……。
なんでそんな可愛い顔で、残酷なことばかり言うんだ。
「……ありがとう、すず」
「どういたしまして! あ、でも女装したぼくより可愛くないんじゃ、もしかして好みじゃないとか? 別に無理して付き合わなくてもいいんだよ。その方がぼくは構ってもらえるから嬉しいし~」
「ん……」
こんなに心のこもってない『ありがとう』を言ったのは、生まれて初めてだ。
心も体も、何もかもが重たい。
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両想いになれないことなんて、最初から分かっていたのに……。
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