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78、千春、希に心配される
昼休み。
そっとC組の教室を覗くと、いつものようにすずとのんさんが楽しそうに話していた。
今日はもちろん男子の格好をしているが、やはりあの一角だけは花が咲いたように華やかに見える。(のんさんの髪色効果もあるが)
二人は、他のクラスメイトにちらちらと見られている。
クラスでやや浮いているらしいが、別の意味で浮いているな、と思った。
俺の見る限りでは、すずとのんさんはお互いと、上妻君、一之瀬君、てつさん以外に友達はいないようだし。
「あ、ちーちゃんいらっしゃ~い」
すずに気付かれたので、俺はサッと右手を挙げていそいそと近寄って行く。
最初は『なんだおまえ』的な周りの視線が痛かったが、今は少し慣れた。
「土曜日はありがとう! デート、すっごい楽しかった~」
「俺も楽しかった。……ありがとう」
まだ『デート』と言ってくれるんだな。それはやっぱり嬉しい。
すずの顔を見ると、まだチクリと胸は痛むけど……。
デートという単語に周りが少しザワついたが、無視することにした。
「ちょっとちーちゃん聞いてよ~、のんちゃんってば、今の体型気にしてダイエットするとか言ってるんだけど! そんな必要はないよねぇ!? ちーちゃんからも言ってやって」
「え、ダイエット? のんさん本気か? それ以上痩せたら身体を壊してしまうんじゃ……朝比奈先輩はどう言ってるんだ」
「いやいや、ダイエットっていうか筋肉を付けたいなぁって! そしたらこのプニプニ感が取れるかなって……」
のんさんが腕を出し、自分でつまみながら説明した。
なんて綺麗な腕だろうか。
どう見ても長所なのにわざわざ無くしたいなんて、本気で意味が分からない。
「オレは不登校で運動経験無いし、おまけに甘いモノが大好きだから、今はいいかもしれないけど将来はデブまっしぐらかなぁって……。あ、トーマ先輩には何も言われてないよっ」
「じゃなんでダイエットするのさ? 今がいいならいいじゃん!」
「だ、だって脱いだときに太ってたら恥ずかし……あっ」
「ふ~ん、なるほどねぇ~」
のんさんは失言をしたという顔で真っ赤になり、それを見てすずはニヤニヤしていた。
もしや……朝比奈先輩とナニかあったんだろうか。気になる……。
でも俺ものんさんも照れ屋だし、こういうことは本人が言いたくなるまで待つしかない、うん。
「あ、そうだちーちゃん。返事は返したの?」
「え?」
い、いきなりその話題を振るか……?
今朝のこともあって、俺は慌てふためいてしまった。
すると、意外なことにのんさんまでも参加してきた。
「ハル、すずに聞いたよ。他校の女子に告白されたんだって?」
「だ、黙っててすまない、のんさん……」
「それは別に構わないんだけど」
多分のんさんには、俺がすずを好きなことがバレている。
何故俺がのんさんに話せなかったのか、その理由も分かっているだろう。
とりあえず、これ以上この件を秘密にするのはこりごりだと思って、俺は今朝の出来事も包み隠さず話した。
「へー、じゃあちーちゃんは今週もデートなんだぁ」
「う、うん」
「ふうーん」
何でだろう。すず、少し怒ってないか?
普段より少し声が冷たいような気がする……気のせいだろうか。
「ぷっ」
え?
「こないだちーちゃんとカレカノごっこしたせいか、なんか浮気される彼女の心境になっちゃったよ~、ごめんね、わざとだよ。わ、ざ、と!」
「すずってば性格悪いよ……オレもちょっと恐かったし」
「ごめんって」
わ、わざとか。なんだ……。
もしかして嫉妬してくれたのかと、ホンの少しでも思った俺は馬鹿だ。
「ぼくトイレ行ってくるね!」
「うん、行ってらっしゃーい」
すずがトイレに行き、のんさんと俺の二人だけになった。(勿論、他のクラスメイトが周りにはいるが)
そしてのんさんは少し遠慮がちに、周囲には聞こえないくらいの声で俺に言った。
「ハルは、すずのことが好き……なんだよね?」
やはりバレていた。
朝比奈先輩にバレてるくらいだから当たり前か。
俺はもう隠す必要はないかなと思って目だけで返事した。
「好きだって、伝えないの? すずは別に拒絶しないと思うけど……」
のんさんの言葉に、俺は軽く首を振った。
「すずは俺のこと友達としか見てないから、告白なんてしたら今までのようにはいられなくなる。俺はそれが一番嫌なんだ」
「振り向いてくれるまで、アタックする気はない……?」
のんさんは朝比奈先輩に何か言われたんだろうか。
絶対に諦めなさそうだもんな、あのひとは。
「俺はそんなに強くないんだ。……期待に応えられなくて、すまない」
「そんな……オレのほうこそゴメン。ハルの気持ち、分かるよ……」
俺たちはそう言って、黙りこくった。
すずがいないと軽快に会話が続かないが、俺はのんさんとこうやってポツポツと本音を語り合うような会話もけっこう好きだ。
のんさんは本当に優しくて、繊細で、時に大胆だ。
でもかなり危ういところもあって、朝比奈先輩は心配でたまらないだろうなぁ、と勝手に同情している。
のんさん本人は全く自覚がないけれど。
でも、そこものんさんの魅力のひとつだ。
「しかし……朝比奈先輩にバレていたなんて、びっくりした」
「トーマ先輩は凄くカンが鋭いからね、本能で生きてるから」
「なるほど、わかる気がする」
好きな人の話をして、楽しそうに笑うのんさんはやっぱり可愛い。
でも、すずを前にしたときのようにドキドキすることはない。
「てかごめんね、ハル。オレに相談しても、恋愛弱者すぎてどうすればいいかわからないんだぁ……」
「俺も同じだから気にするな、のんさん」
青春活動、しているなぁ。
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