好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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80、ひとつの恋の結末

「ねえ千春くん、私といるのは楽しくない……?」

 突然田上さんが立ち止まり、泣きそうな顔でそう言った。
 それを見て、俺はうっと怯んでしまった。
 好きな人じゃないとはいえ、一緒にいる女の子にこんな顔をさせるなんて。
 でも、どうすればいいのか分からないし……。

「そういえば千春くん、どうして今日も竹刀を持ってるの? 毎朝持ってるのは部活のためだと思ってたけど」
「あ、ああそれはですね」

 やっと突っ込んでくれた。
 決してツッコミ待ちしてたワケじゃないが、聞かれないのも具合が悪いというか……。
 そして俺は、田上さんに自分が極度の人見知りであることを説明した。
 竹刀を持っていれば、少しはマトモに人と話せるということも。

「そうなんだ。私と話すのもまだ緊張するの?」
「は、はい。女性と二人で遊ぶのはその、初めてなので……」

 そう話したら、田上さんは嬉しそうに笑った。

「そうなんだ、嬉しい! 千春くん可愛い」
「え!?」
「あんまり楽しそうじゃないなぁと思ってたけど、緊張してたからなんだよね? よかったぁ」
「す、すいません……」

『人見知りなとこだって、可愛くてたまんないと思うんだよね、ホントに好きだったらさ』

 すずはそう言っていた。
 じゃあ田上さんは、本当に俺のことが好きなのか……。

「でも……普段から竹刀を持ち歩くのは、ちょっとカッコ悪いから辞めた方がいいかもね」
「え?」
「だって……今日はデートでしょう? せっかくかっこいい服着てるのに、竹刀があるとちょっと……」

 竹刀を持ち歩くのがカッコ悪いと言われたのは初めてだった。
 もちろん自分でも格好悪い自覚はあったけど、他人から言われるのはわりと衝撃だった。
 すずやのんさんは、俺にそんなことは一度も言わなかったから。

「でも大切な人が目の前で危険な目にあっているとき、すぐに助けることができますよ……」
「え、そんなことがあったの?」

 コクンと頷いた。
 田上さんはしばらく納得がいかないような顔をしていたが、やがてニコッとして言った。

「そういうこともあるんなら、竹刀大事かも。それにしても千春くんってやっぱり正義感が強いんだね、もしかして私の前にも誰かを助けたことがあるの?」
「あ、まあ……ハイ」

 田上さんは自分が痴漢に遭ったことを思い出して言っていると思うけど、俺が助けたのはすずだ。

「その助けられた子は……千春くんに何か言ってないの? 好きになっちゃったとか、そういう告白」
「え……特にはないです」

 なんか、どこかで聞いたような内容だな……。
 どこだっただろう。

「そう、よかった!」
「え?」
「だって千春くんみたいなカッコイイ子に助けられたら好きになっちゃうのは無理ないでしょう? それでその子が先に告白してたら、私は今頃千春くんとデートできなかったかもしれないもの」
「……え、あ。そんなものですか……?」

 なんて返したらいいのか分からず、キョドってしまった。
 女の子との会話、さっきからハードルが高すぎる……気がする。

「ちょっと休憩しない? ノド乾いちゃった」
「あ……じゃあ飲み物買ってきますね。何がいいですか?」
「いいの? じゃあ、ミルクティーで」
「はい」

 田上さんをベンチに残して、俺は遠くに見える自販機に向かった。
 一人になれたことで、急に気が楽になって思いっきり深呼吸をした。
 どうやら本当に俺はずっと緊張していたらしい。
 田上さんにミルクティー、自分にはブラックコーヒーを買ってベンチに戻った。
 遠くから見ても、田上さんは可愛いかった。
 こんな子とデートできて、俺は多分すごくツイていると思う。
 付き合ったらすごく楽しいだろうな、とも思う。
 でも。
 でも、俺は……


「ありがとう、千春くんはブラックなの? 甘いもの嫌い?」
「あ、はい……少し苦手です」
「そうなんだ。男の子って感じだね」
「はあ」

 俺の周りは朝比奈先輩以外甘いものが好きな人が多いので、曖昧な返事しかできなかった。

「ねえ、千春くん」
「はい?」
「私と付き合ってもらえませんか」

 急に言われたので、俺は思わず缶コーヒーを地面に落としそうになった。
 そういう話は帰り際にして別れると思っていたから、まさかこんな早い段階で……いや、お昼も過ぎたし、早くはないか。

「私、千春くんのこと本当に好きなの」
「あ、あの……」
「きっかけは痴漢から助けられたことだけど、今日デートしてますます好きになっちゃったの。私と付き合ってください、おねがいします」

 田上さんは顔を真っ赤にして、こんな俺に必死で頼んでいる。
 どうして俺なんかに、そこまで……。

「俺は、田上さんが思ってるような人間じゃありません。田上さんには俺よりもっといい人がいると思います」
「千春くんが好きだからいいの! そんな先の見えない曖昧な理由で断らないでほしい」
「……!」

 確かに、失礼な断り方だった。
 卑怯だと分かっているけど、自分が悪者にならないよう穏便にお断りしたかった。
 が、そうはいかないらしい。
 そして「俺、好きな人がいるんです」と言った。
 田上さんは顔を上げない。

「告白する前に振られましたけど……でも、俺はまだ好きなんです。すごく。こんな気持ちのまま田上さんとは付き合うことはできません」
「待ってたらだめ!? 千春くんがその子のことを忘れるのを!」
「……無理、です」

 いつも一緒にいるのに、忘れられるわけがない。
 ただの友達としか思われていない。
 残酷なことだって笑って言われる。
 それでも俺は、すずが好きなんだ。

「分かった……。今日は好きでもない私とデートしてくれてありがとう。それと、痴漢から助けてくれたことも本当にありがとう」

 俺は何も言わなかった。
 田上さんは顔面を覆ってシクシク泣いていたけど、慰めることもしなかった。
 そんな資格はない。
 ただ彼女が俺の前からゆっくりと去って行くのを、ぼうっと眺めていた。
 ……俺は馬鹿だな。
 彼女が出来る千載一遇のチャンスだったかもしれないのに、叶うハズの無い恋を懲りずにまだ続けようなんて、本当に馬鹿すぎる。

「ハァ……」

 さっさと帰って、素振りでもしよう。
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