好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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83、山田清白の憂鬱


 恋なんかじゃない、と思ってた。
 ちーちゃんに対するこの気持ちは。
 危ないところを助けてもらって、これからも自分が守ると言われて嬉しくて、それで他の友達よりも懐いてしまっただけなんだって……。

 でも、同じ友達であるのんちゃんにもぼくは多いに懐いている。
 だけどのんちゃんに対する気持ちは、ちーちゃんに対するものとは違っていた。
 慎重派に見えて無鉄砲かつ無防備なのんちゃんに対しては、ぼくが守らなくちゃ! という使命感があった。
 でも、のんちゃんにわりと頼りになる年上の恋人が出来てからは、その使命感は少し軽減した。
 それでも、大好きな友達に変わりは無い。
 ちーちゃんだって同じなのに。

 どんどんぼくの中で大きくなっていく、ちーちゃんの存在。
 彼の姿を、気付いたらいつも探してる。
 毒舌で腹黒なぼくを優しく受け止める包容力を持っているちーちゃん。
 寡黙だけど、目が合うと穏やかにほほ笑んでくれる。
 そばにいると、意味もなく安心した。

 いつしか『懐いている』という言葉だけでは済まされなくなった。
 ぼくは、ちーちゃんのことが特別に『好き』なんだって……。
 でも、気持ちを伝える気は毛頭なかった。
 男同士だし、何がどうなるわけでもない。

 のんちゃんの恋人だって男の人だから同性愛を否定するつもりはないけど、彼らは両想いだから成り立っているんだ。
 片方が好きなだけでは恋人になどなり得ないし、友人関係が壊れるリスクの方がはるかに高い。
 ちーちゃんの側は心地いいから、この場所を自分から無くすのは嫌だった。
 自分があざとくて狡猾であることはかなり自覚している。
 だから周囲にバレるようなヘマもしない、と思った。
 絶対に大丈夫、隠し通せる。
 そんなぼくの自信が揺さぶられたのは、友達であるてっちゃんの一言だった。

『そーいやハルちん、こないだの白百合の女子に返事したのかー!?』

 白百合の女子?
 最初は意味が分からなかったが、てっちゃんの説明によるとトーガクの近くにある白百合女子高校のことらしかった。
 ぼくは寮に住んでるし、電車通でもないから女子校が近くにあることすら知らなかった。
 そしてちーちゃんは、そこの生徒を痴漢から助けたことがきっかけで、ラブレターを貰っていたらしい。

 知らなかった。
 どうして教えてくれなかったんだろう……。
 ぼくにからかわれると思ったんだろうか。
 ちーちゃんの照れ屋な性格は分かってるから、そんな嫌がるようなことはしないのに。
 無理矢理話を逸らしてその場はやり過ごしたけど、内心はかなり複雑な気持ちだった。

 関係者以外立ち入り禁止の学校、その敷地内にある寮。
 外に出るのは近所のスーパーや駅前の本屋に行くくらい。
 そんな箱庭のような環境で、外敵──女に彼を奪われるなど、想像もしていなかった。
 ちーちゃんは顔を赤くしていて、満更でもないようだ。
 せっかくぼくもなかなかどうして可愛い格好をしているのに、他の女がそんな顔をさせていると思うと腹が立った。
 理不尽なのは分かっているけど。

 ねえ、ぼくを見て。
 ちーちゃん、今だけはぼくを見てよ……。

 彼の気を引きたくてわざと人前で手を繋いだり、自分のフォークで『あーん』したりした。
 これが結構緊張したけど、ちーちゃんは拒否しなかった。
 街行く人にも『可愛いカップル』だって言われてぼくは御満悦だ。
 かりそめのカップルだって分かっているけど。
 だから……忘れないように時々、自分で釘を刺した。

『ま、ちーちゃんには近々本物のカノジョができるかもしれないんだし、ぼくのことは予行演習とでも思ってよ』

 しかしこれが、思った以上にしんどい。
 メンタルの強さには定評のあるぼくでもしんどい。
 だから願望のようなことも織り交ぜて言った。

『ぼくが女の子だったらさ、絶対ちーちゃんカレシにしたいもん』

 乗りたくもない恋愛相談を自分から振ったりして、ぼくって案外マゾじゃないのか。ライバルの恋を応援をしてどーすんだ。
 デート中、偶然のんちゃん達と会った。
 そして朝比奈先輩の粋な計らいで、一緒に晩御飯を食べることになった。
 そこで朝比奈先輩に、とんでもないことを言われたんだ。

『え、だってお前らホントは付き合ってンだろ~? もう分かってっからさ、照れんなって!』

 ……は?

 思わず耳を疑った。
 そして、すかさず否定する。
 今日一日頑張ったのに、ここでバレるわけにはいかないんだ。

『や……やだなー朝比奈先輩! ぼくたちは本当にただの友達で、付き合ってなんかいませんよ! さっきから何言ってるんですか? え、まさか本当にそんな風に見えます? ああ、今日ぼくがこんな格好だからか……』

 お願い、誤魔化されてください。

『いや、今日は特にそう見えっけど、普段からだぞ?』

 こ、この……もう……黙れやぁぁぁ!!!
 そう言いたかったけど、言えるはずもなく。
 そして朝比奈先輩は、矛先をぼくじゃなくてちーちゃんに変えた。

『そーなのかァ? チハル。俺、お前はてっきりこけしっちに惚れてンだと思ってたけど……』

 この先輩、マジで絶望的にうざい。
 のんちゃんが止めてくれて良かった。
 ちーちゃんはどんな反応を……

『すずはただの友達ですよ』

 ……だよねぇ。
 
 必死で否定したのは自分なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
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