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85、朝比奈先輩の気合い入れ
校門までのんちゃんと一緒に行くと、朝比奈先輩が待っていた。
ぼくも今から晩御飯の買い物をしようと思っているので、この先は二人の邪魔をするつもりはない。
ただ、土曜日に食事を奢ってくれたお礼を言うつもりなのだ。
「よォノンタン、こけしっち」
「こんにちは、朝比奈先輩! 土曜日はごちそうさまでした!」
「オウ、またメシ行こーぜ。あ、あン時は変なこと言って悪かったな」
ホントだよ。
しつこいからもう何も言わないけどさ。
「いーえー」
するとその時、朝比奈先輩の目が一瞬ギラリと光った。
その鋭い視線にビクッと身体が自然に震えたかと思ったら、いきなり額に弾かれるような衝撃を感じた。
「いったぁぁぁあ!? いきなり何すんですか、朝比奈先輩!?」
どうやらデコピンをされたようだった。
しかもけっこう強めに。
「いや、なんかお前がシケたツラしてっから……気合い入れ?」
「いきなりはやめてください! ていうか誰も頼んでないでしょー!!」
気合い入れって頼まれてするもんじゃないの!?
こんなの理不尽な暴力じゃん!! もはや当たり屋だよ!!
「すず、大丈夫!? もー、トーマ先輩いきなりすずに何するんですか」
のんちゃんがぼくの心配をしてくれた。
痛がり方がやや大げさだったかな……いや、痛かったんだって。
朝比奈先輩は、そんなぼくとのんちゃんの様子を黙って見ている。
いや……ぼくを見てる?
「こけしっちよォ、あの日俺が言ったこと、本当は間違ってねェだろ」
「はい?」
「付き合ってはねェかもしれねーけど、お前はチハルのことが好きだろ?」
「な、何言って……!」
のんちゃんが聞いているのに!!
「この俺様にヘタな嘘が付けると思うなよ? そんな思いつめるぐらいなら好きだって言っちまえばいいだろォが! お前はアイツとどーにかなりたくねェのか? お前がそんなシケたツラしてっからノンタンまで暗い顔になっちまってんだよ、ここ最近ずっとな!」
「えっ?」
驚いて、隣にいるのんちゃんの顔を見た。
のんちゃんはぼくに視線を寄越されると少しだけ身体を震わせたが、しばらくして意を決したように言った。
「オレ……すずのこともハルのことも大好きだから、二人がずっとぎくしゃくしてるの、いやだ……」
ぎくしゃくしてる? そんなハズない。
ぼくもちーちゃんも、普段と何も変わらなかったはずだ。
ただの仲のイイ、男友達。
誰の目から見ても、絶対に……
のんちゃんは、気付いていた?
「あの……あのさすず、ハルはね、」
何かを伝えようとしたのんちゃんの口を、朝比奈先輩が手で塞いだ。
「むぐっ!?」
「言うなノンタン。ったくしっかりしろよスズシロ、男だろーが!」
「……」
朝比奈先輩、今ぼくのこと『すずしろ』って呼んだ……?
うわ、レアっていうか……ぼくの名前知ってたのか。
「じゃ、ノンタンは貰って行くぜェ」
「むぐ~っっ!」
はあ? 最初からアンタのもんでしょーが。
結局のんちゃんがぼくに何を伝えたかったのかいまいち分からない。
ほぼ地に足が付いていないような体勢で抱きかかえられて行ってしまったから。
ごちそうさまです、と軽く頭を下げた。
別に朝比奈先輩に言われなくたって、どうしようもないくらい自分は男だ。
だからこんなに悩んでいるのに。
もちろん、単に性別のことを言われたんじゃないことは分かってるけど。
とどのつまり、「男を見せろ」って言われたんだ。自分の気持ちをはっきりちーちゃんに伝えろって。
……簡単に言ってくれるけどね。
でものんちゃんは、確実にぼくの気持ちに気付いている。
それは、これからはもう今まで通りにはいかないという証明にもなっている。
ちーちゃんが白百合女子と付き合ったら、ぼくの気持ちを知っているのんちゃんはぼくを見る度に辛い思いをするだろう。
そしてそんなぼくたちの様子に、敏感なちーちゃんが気付かないハズが無いのだ。
「どうせ壊れるなら、自分から壊した方がいいのかな……」
そんなやけっぱちな独り言をポツリと漏らした。
そのとき。
「あれー? すずちんじゃん。今からどっか行くのかー?」
「テッちゃん……」
ぼくに声をかけてきたのはテッちゃんだった。
先週の土曜日、他でもないテッちゃんとその姉の佳織さんが、ぼくとのんちゃんに女装を施してくれた。
そこで、考えていたことをふと思い出した。
明日も女装して、ちーちゃんのデートに突撃する──じゃなくて。
女装して告白すれば、多少の違和感は払拭できるんじゃないか? と。
女装してる時点で違和感Hあるけど、何せぼくはメンタルの強さだけじゃなくて女装にも定評がある。
この間も周囲の誰にも男だとバレなかった。
それにぼくは、白百合女子よりも可愛いんだ。女装すれば。
「テッちゃん、お願いがあるんだけど!」
「?」
明日再び女装させてほしいと頼んだ。
テッちゃんは少し怪訝な顔をしたが、今度ぼくがテッちゃんの望むコスプレをするという条件で承諾してくれた。
条件なんて付けなくても、この優しい友人は願いを聞いてくれたと思うけど、理由を聞かれなかったのは素直に有り難かった。
そして、翌日。
また朝から森家にお邪魔して、佳織さんに着飾ってもらった。
「すぐにぼくだとはバレたくないので、今度は茶髪にしてください! のんちゃんが被ってたウィッグで! あ、あと本物の女の子に負けないくらいうんと可愛くしてください!」
「そのままでも十分可愛いんだけど、向上心が高いわねぇ~、今度何のコスプレしてもらおうかしら」
「なんでもしますんで、お願いします!」
この間はピンクの服だったので、今日はブルーのワンピースにした。
つけまつげやチークなど、この間よりも気合いの入ったメイクを施してもらった。
「すずちゃん可愛い~!! またいつでも言ってね!! えっと、コスプレは今度のイベントの時でよろしく! できたら希ちゃんにも声かけてくれる!?」
「あ、あと朝比奈先輩にも! 頼むすずちん! 俺あの人にめっちゃ着てもらいたい服が沢山あるんだよー!!」
「わ、わかった」
こっちよりも必死な森姉弟に若干引きつつ、お礼を言って駅に向かった。
前に聞いたことがある、ちーちゃんの最寄駅。
家の住所は分からないけど、きっと駅にはくるだろうから。
そこで何時になるかわからないけど、ぼくはいつまでもちーちゃんの帰りを待っていようと思った。
ぼくも今から晩御飯の買い物をしようと思っているので、この先は二人の邪魔をするつもりはない。
ただ、土曜日に食事を奢ってくれたお礼を言うつもりなのだ。
「よォノンタン、こけしっち」
「こんにちは、朝比奈先輩! 土曜日はごちそうさまでした!」
「オウ、またメシ行こーぜ。あ、あン時は変なこと言って悪かったな」
ホントだよ。
しつこいからもう何も言わないけどさ。
「いーえー」
するとその時、朝比奈先輩の目が一瞬ギラリと光った。
その鋭い視線にビクッと身体が自然に震えたかと思ったら、いきなり額に弾かれるような衝撃を感じた。
「いったぁぁぁあ!? いきなり何すんですか、朝比奈先輩!?」
どうやらデコピンをされたようだった。
しかもけっこう強めに。
「いや、なんかお前がシケたツラしてっから……気合い入れ?」
「いきなりはやめてください! ていうか誰も頼んでないでしょー!!」
気合い入れって頼まれてするもんじゃないの!?
こんなの理不尽な暴力じゃん!! もはや当たり屋だよ!!
「すず、大丈夫!? もー、トーマ先輩いきなりすずに何するんですか」
のんちゃんがぼくの心配をしてくれた。
痛がり方がやや大げさだったかな……いや、痛かったんだって。
朝比奈先輩は、そんなぼくとのんちゃんの様子を黙って見ている。
いや……ぼくを見てる?
「こけしっちよォ、あの日俺が言ったこと、本当は間違ってねェだろ」
「はい?」
「付き合ってはねェかもしれねーけど、お前はチハルのことが好きだろ?」
「な、何言って……!」
のんちゃんが聞いているのに!!
「この俺様にヘタな嘘が付けると思うなよ? そんな思いつめるぐらいなら好きだって言っちまえばいいだろォが! お前はアイツとどーにかなりたくねェのか? お前がそんなシケたツラしてっからノンタンまで暗い顔になっちまってんだよ、ここ最近ずっとな!」
「えっ?」
驚いて、隣にいるのんちゃんの顔を見た。
のんちゃんはぼくに視線を寄越されると少しだけ身体を震わせたが、しばらくして意を決したように言った。
「オレ……すずのこともハルのことも大好きだから、二人がずっとぎくしゃくしてるの、いやだ……」
ぎくしゃくしてる? そんなハズない。
ぼくもちーちゃんも、普段と何も変わらなかったはずだ。
ただの仲のイイ、男友達。
誰の目から見ても、絶対に……
のんちゃんは、気付いていた?
「あの……あのさすず、ハルはね、」
何かを伝えようとしたのんちゃんの口を、朝比奈先輩が手で塞いだ。
「むぐっ!?」
「言うなノンタン。ったくしっかりしろよスズシロ、男だろーが!」
「……」
朝比奈先輩、今ぼくのこと『すずしろ』って呼んだ……?
うわ、レアっていうか……ぼくの名前知ってたのか。
「じゃ、ノンタンは貰って行くぜェ」
「むぐ~っっ!」
はあ? 最初からアンタのもんでしょーが。
結局のんちゃんがぼくに何を伝えたかったのかいまいち分からない。
ほぼ地に足が付いていないような体勢で抱きかかえられて行ってしまったから。
ごちそうさまです、と軽く頭を下げた。
別に朝比奈先輩に言われなくたって、どうしようもないくらい自分は男だ。
だからこんなに悩んでいるのに。
もちろん、単に性別のことを言われたんじゃないことは分かってるけど。
とどのつまり、「男を見せろ」って言われたんだ。自分の気持ちをはっきりちーちゃんに伝えろって。
……簡単に言ってくれるけどね。
でものんちゃんは、確実にぼくの気持ちに気付いている。
それは、これからはもう今まで通りにはいかないという証明にもなっている。
ちーちゃんが白百合女子と付き合ったら、ぼくの気持ちを知っているのんちゃんはぼくを見る度に辛い思いをするだろう。
そしてそんなぼくたちの様子に、敏感なちーちゃんが気付かないハズが無いのだ。
「どうせ壊れるなら、自分から壊した方がいいのかな……」
そんなやけっぱちな独り言をポツリと漏らした。
そのとき。
「あれー? すずちんじゃん。今からどっか行くのかー?」
「テッちゃん……」
ぼくに声をかけてきたのはテッちゃんだった。
先週の土曜日、他でもないテッちゃんとその姉の佳織さんが、ぼくとのんちゃんに女装を施してくれた。
そこで、考えていたことをふと思い出した。
明日も女装して、ちーちゃんのデートに突撃する──じゃなくて。
女装して告白すれば、多少の違和感は払拭できるんじゃないか? と。
女装してる時点で違和感Hあるけど、何せぼくはメンタルの強さだけじゃなくて女装にも定評がある。
この間も周囲の誰にも男だとバレなかった。
それにぼくは、白百合女子よりも可愛いんだ。女装すれば。
「テッちゃん、お願いがあるんだけど!」
「?」
明日再び女装させてほしいと頼んだ。
テッちゃんは少し怪訝な顔をしたが、今度ぼくがテッちゃんの望むコスプレをするという条件で承諾してくれた。
条件なんて付けなくても、この優しい友人は願いを聞いてくれたと思うけど、理由を聞かれなかったのは素直に有り難かった。
そして、翌日。
また朝から森家にお邪魔して、佳織さんに着飾ってもらった。
「すぐにぼくだとはバレたくないので、今度は茶髪にしてください! のんちゃんが被ってたウィッグで! あ、あと本物の女の子に負けないくらいうんと可愛くしてください!」
「そのままでも十分可愛いんだけど、向上心が高いわねぇ~、今度何のコスプレしてもらおうかしら」
「なんでもしますんで、お願いします!」
この間はピンクの服だったので、今日はブルーのワンピースにした。
つけまつげやチークなど、この間よりも気合いの入ったメイクを施してもらった。
「すずちゃん可愛い~!! またいつでも言ってね!! えっと、コスプレは今度のイベントの時でよろしく! できたら希ちゃんにも声かけてくれる!?」
「あ、あと朝比奈先輩にも! 頼むすずちん! 俺あの人にめっちゃ着てもらいたい服が沢山あるんだよー!!」
「わ、わかった」
こっちよりも必死な森姉弟に若干引きつつ、お礼を言って駅に向かった。
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