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24 実感
仁の初恋は中学の時の担任教諭だった。
その先生は当時親と弟を一気に交通事故で亡くし、引き取り先の親戚にも歓迎されず孤独を感じていた仁に一番に寄り添ってくれたひとだった。
あの先生がいなければ、今自分は生きてさえいなかっただろう、と思う。
先生は当時40歳前後で既に妻子もある身だったので、仁は迷惑だろうと思い告白したりはしなかった。それと、仁が卒業すると同時に他の中学校に異動してしまったので、卒業後に会ったり連絡を取ったこともない。
今でも先生が好きだとか、そういう気持ちは残っていないけれど。それでも――いまの自分が年上の優しそうなノンケしか好きになれないのは、先生の影響が色濃く残っているからだ、と仁は思っている。
*
「仁、どうした? ぼーっとして」
「あ、ごめん」
今は安藤と週に一度のデート中で、外資系チェーンのカフェで2人して限定新作のメニューを飲んでいた。
別に話し合って週一でデートをしようと決めたわけではないけれど、自然とお互い仕事がない週末に会って、そのままどちらかの家に泊まるという流れになっていた。
「ちょっと、ある人のことを思い出してて……」
「ある人?」
「中学の時の担任の先生。凄く優しくてさ、ちょっと優介さんに似てるかも」
「ふうん……顔が?」
「顔は優介さんの方がカッコイイよ。似てるのは……雰囲気かな」
「へえ」
仁は、安藤がその担任教諭が自分にとってどんな存在だったのかをなんとなく感じ取っている気がした。
「いい先生だったんだな」
「……うん」
その上で、あまり深くは突っ込んでこないのだと。
仁は、安藤のこういうところを凄く好ましく思っている。自分が何も言わなくとも、なんとなく表情や雰囲気で察して分かってくれる、まるで父のような、兄のような、先生のような――
「この新作ラテ、美味しいね」
「ちょっと甘すぎやしないか? 俺はやっぱり普通のがいいかなあ……」
「優介さん、全部飲むの無理そうなら俺が飲むよ?」
「いや、大丈夫」
安藤は仁の申し出を断ってまた一口飲んだ。
別に苦手ならば無理に飲まなくてもいいのに、少し強情にも見える安藤の態度が可笑しくて仁はふふっと笑った。
(さっきまでは凄く大人っぽかったのになぁ……)
「な、何で笑ってるんだ? 仁」
「いや、別になんでもないよ。ただ優介さんが可愛いなあって思って」
「さっきはかっこいいって言ったのに」
「かっこよくて可愛いんだよ」
安藤は仁に向かって思い切り下唇を突きだし、変顔をしてみせた。
「そういう顔されると俺、キスしたくなっちゃうな」
「仁ってさ、時々趣味悪いよな……」
「何? 時々って」
(少し先生に似てるけど、やっぱり優介さんは優介さんだな)
仁は改めて、自分は安藤のことが好きだと思った。
年上だけど、少し子どもっぽいところがあって可愛くて、でも普段はかっこいい大人の男。
彼はたまに(どうして仁が自分と付き合ってるのだろう)と不思議がっている顔をするけど、それは仁の方が抱いている疑問でもあった。
(……どうして優介さんは、まだ俺のことを振らないんだろう)
最初は男と付き合うことが新鮮で楽しかったかもしれないが、そろそろ焦り始め出す頃だ。完全にのめり込む前に、まだ女性に戻れる内に、仁とは別れなければいけないと。
安藤と出逢う前に仁が付き合った、ノンケの男達のように。
『仁、おまえもうノンケと付き合うのはやめろ』
仁が何度もフラれるのを見かねた友人にも忠告されたけれど。
(恋愛くらいしてないと、生きてる実感が湧かないだろ……)
「仁、」
「あ、何? 優介さん」
無意識に吐き出しそうになったため息をゴクリと飲み込んで、仁は安藤に向き合った。
態度が不自然でなかったか少し焦ったが、安藤が気付いたような様子はなかった。
「今日も俺の家に泊まるか? お前の家でもいいけど」
「優介さんちがいいな。俺んち壁薄いからさ、声が……」
「あーあー分かった、分かった!」
安藤は思わず仁の声を遮るような大声を出してしまい、逆に他の客から注目を浴びていた。
(優介さんは、気付いてないのかな)
「晩御飯は俺が作るから、材料買って帰ろ」
「うん」
「優介さん、何が食べたいとかある?」
「んー、寒いから鍋とか?」
「先週も鍋だったよね」
「別にいいだろ、身体あったまるし」
「……だね」
(それならやっぱり、俺の方から離れないと……)
付き合いが長くなればなるほど、きっと別れるときは辛いのだろう。もう既に想像するだけで辛いのだけど。
――でもまだ、今なら。
その先生は当時親と弟を一気に交通事故で亡くし、引き取り先の親戚にも歓迎されず孤独を感じていた仁に一番に寄り添ってくれたひとだった。
あの先生がいなければ、今自分は生きてさえいなかっただろう、と思う。
先生は当時40歳前後で既に妻子もある身だったので、仁は迷惑だろうと思い告白したりはしなかった。それと、仁が卒業すると同時に他の中学校に異動してしまったので、卒業後に会ったり連絡を取ったこともない。
今でも先生が好きだとか、そういう気持ちは残っていないけれど。それでも――いまの自分が年上の優しそうなノンケしか好きになれないのは、先生の影響が色濃く残っているからだ、と仁は思っている。
*
「仁、どうした? ぼーっとして」
「あ、ごめん」
今は安藤と週に一度のデート中で、外資系チェーンのカフェで2人して限定新作のメニューを飲んでいた。
別に話し合って週一でデートをしようと決めたわけではないけれど、自然とお互い仕事がない週末に会って、そのままどちらかの家に泊まるという流れになっていた。
「ちょっと、ある人のことを思い出してて……」
「ある人?」
「中学の時の担任の先生。凄く優しくてさ、ちょっと優介さんに似てるかも」
「ふうん……顔が?」
「顔は優介さんの方がカッコイイよ。似てるのは……雰囲気かな」
「へえ」
仁は、安藤がその担任教諭が自分にとってどんな存在だったのかをなんとなく感じ取っている気がした。
「いい先生だったんだな」
「……うん」
その上で、あまり深くは突っ込んでこないのだと。
仁は、安藤のこういうところを凄く好ましく思っている。自分が何も言わなくとも、なんとなく表情や雰囲気で察して分かってくれる、まるで父のような、兄のような、先生のような――
「この新作ラテ、美味しいね」
「ちょっと甘すぎやしないか? 俺はやっぱり普通のがいいかなあ……」
「優介さん、全部飲むの無理そうなら俺が飲むよ?」
「いや、大丈夫」
安藤は仁の申し出を断ってまた一口飲んだ。
別に苦手ならば無理に飲まなくてもいいのに、少し強情にも見える安藤の態度が可笑しくて仁はふふっと笑った。
(さっきまでは凄く大人っぽかったのになぁ……)
「な、何で笑ってるんだ? 仁」
「いや、別になんでもないよ。ただ優介さんが可愛いなあって思って」
「さっきはかっこいいって言ったのに」
「かっこよくて可愛いんだよ」
安藤は仁に向かって思い切り下唇を突きだし、変顔をしてみせた。
「そういう顔されると俺、キスしたくなっちゃうな」
「仁ってさ、時々趣味悪いよな……」
「何? 時々って」
(少し先生に似てるけど、やっぱり優介さんは優介さんだな)
仁は改めて、自分は安藤のことが好きだと思った。
年上だけど、少し子どもっぽいところがあって可愛くて、でも普段はかっこいい大人の男。
彼はたまに(どうして仁が自分と付き合ってるのだろう)と不思議がっている顔をするけど、それは仁の方が抱いている疑問でもあった。
(……どうして優介さんは、まだ俺のことを振らないんだろう)
最初は男と付き合うことが新鮮で楽しかったかもしれないが、そろそろ焦り始め出す頃だ。完全にのめり込む前に、まだ女性に戻れる内に、仁とは別れなければいけないと。
安藤と出逢う前に仁が付き合った、ノンケの男達のように。
『仁、おまえもうノンケと付き合うのはやめろ』
仁が何度もフラれるのを見かねた友人にも忠告されたけれど。
(恋愛くらいしてないと、生きてる実感が湧かないだろ……)
「仁、」
「あ、何? 優介さん」
無意識に吐き出しそうになったため息をゴクリと飲み込んで、仁は安藤に向き合った。
態度が不自然でなかったか少し焦ったが、安藤が気付いたような様子はなかった。
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「優介さんちがいいな。俺んち壁薄いからさ、声が……」
「あーあー分かった、分かった!」
安藤は思わず仁の声を遮るような大声を出してしまい、逆に他の客から注目を浴びていた。
(優介さんは、気付いてないのかな)
「晩御飯は俺が作るから、材料買って帰ろ」
「うん」
「優介さん、何が食べたいとかある?」
「んー、寒いから鍋とか?」
「先週も鍋だったよね」
「別にいいだろ、身体あったまるし」
「……だね」
(それならやっぱり、俺の方から離れないと……)
付き合いが長くなればなるほど、きっと別れるときは辛いのだろう。もう既に想像するだけで辛いのだけど。
――でもまだ、今なら。
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