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9話 約束の地
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かつて、約束された未来があった。
けれどそれは、炎とともに焼き尽くされ、記憶の彼方に消えた。
今、ふたりは過去の約束を探す旅に出る――“約束の地”へ。
* * *
「――帝国旧地へ?」
サシャの驚きは無理もなかった。
ルイが王に請うたのは、イーストラット帝国の廃都・カエサルへの旅だった。
そこは、かつて王族が育った城があり、帝国の血が焼き払われた忌まわしき地。
「記憶が戻っても、まだ抜け落ちた断片がある。……きっと、あの場所に残ってる」
「何を探すの?」
ルイの赤い瞳が、遠くを見つめる。
「約束だ。あの日……俺たちが、交わしたものを」
* * *
数日後、王の許可を得たルイとサシャは、王国の北門を出発した。
エンリオの護衛、そしてギルドからも数名の護衛が同行する特別旅団。
だがそれでも、旧帝国領へと入る瞬間には、空気が変わるのがわかった。
「まるで、誰かに見張られてるみたい……」
「このあたりは、未だに“帝国の再興”を叫ぶ者がいる。用心しろ」
エンリオが警告した通り、廃都カエサルは静寂と荒廃に包まれていた。
――瓦礫の城、崩れた尖塔。
かつてルイとレオンが育ち、帝王学を学んだ帝国の中心地。
サシャは、荒れ果てた庭に咲く一本の花に目を止めた。
「……これは、“銀星草”?」
「覚えてる?」
「ええ。わたし、昔あなたに……この花をあげたの。泣いてたあなたに、慰めるように」
ルイの記憶に、ふと一枚の映像が差し込んだ。
幼いサシャが、微笑んで花を差し出す。
そして――
「大きくなったら、お姫様と結婚するって、言ったんだよ?」
少女の声。
それは紛れもなく、サシャのものだった。
「……覚えてる」
「ルイ……!」
サシャが目を潤ませて微笑む。
「やっぱり、あなたが“あの子”だったんだね」
「そうみたいだ。……やっと、思い出せた」
ふたりの間に、過去が帰ってきた瞬間だった。
* * *
だが、その安堵も束の間。
廃城の地下から響く足音。
現れたのは、黒い装束を纏った集団。
帝国残党の過激派、“紅の影(クリムゾン・シェイド)”。
「灰の皇子と、ヴァイズの姫が戻ったか。ならば、その血をもって、我らの誓いを成就させてもらおう」
「……俺たちは、お前たちに応じるつもりはない」
「ならば力で引きずり出すまで」
刃が抜かれ、地下の聖堂で戦いが始まる。
サシャはエンリオの護衛のもと、魔法を用いて戦場を照らし、ルイは剣を抜いて先頭に立った。
剣閃が闇を裂き、紅の布が舞い散る。
かつての“皇子”ではなく、“今”のルイが、ここにいた。
「……こんな形で過去が追いかけてくるとはな」
「それでも、わたしたちは進むしかない。もう後戻りはできないわ」
* * *
戦いののち、ふたりは帝国の“聖廟”へと辿り着いた。
そこには、失われた王家の記録と、幼きふたりの“記した手紙”が残されていた。
『ぼくは、サシャひめとけっこんする。』
『わたしも、るいとけっこんしたいです。ずっといっしょにいたいです。』
「……これ、わたしの字」
「こっちは……俺のだな」
ルイは微笑む。
「子供の約束って、無邪気で、真っすぐだな。……でも、今読んでも、嬉しいよ」
サシャは、小さく笑い、そして言った。
「わたし、今でも、変わらないよ」
ふたりの手が重なった。
今度こそ、誰にも引き裂かれないように。
* * *
帰路につく途中。
ルイはふと足を止めた。
「ここから先は、少しだけふたりきりになりたい」
エンリオが頷き、警護を下げる。
そして、森の小道。
光が差し込む場所で、ルイはサシャを見つめた。
「……サシャ。俺は、あなたを“姫”としてでなく、ひとりの人として、ずっと……」
言葉に詰まる。
けれどサシャは、その手を取って言った。
「いいよ。わたしも、“ルイ・イーストラット”じゃなくて、“ルイ・マグナー”のことが、好き」
唇が触れ合いそうになる――その瞬間。
「ルイ! 後ろ!」
飛び込む影。
それは、あの男――
「……レオン……!?」
「そう簡単に終わらせない。俺の物語は、まだ終わっていない!」
彼の眼は、もはや兄を見てはいなかった。
それは“奪う”者の眼だった。
けれどそれは、炎とともに焼き尽くされ、記憶の彼方に消えた。
今、ふたりは過去の約束を探す旅に出る――“約束の地”へ。
* * *
「――帝国旧地へ?」
サシャの驚きは無理もなかった。
ルイが王に請うたのは、イーストラット帝国の廃都・カエサルへの旅だった。
そこは、かつて王族が育った城があり、帝国の血が焼き払われた忌まわしき地。
「記憶が戻っても、まだ抜け落ちた断片がある。……きっと、あの場所に残ってる」
「何を探すの?」
ルイの赤い瞳が、遠くを見つめる。
「約束だ。あの日……俺たちが、交わしたものを」
* * *
数日後、王の許可を得たルイとサシャは、王国の北門を出発した。
エンリオの護衛、そしてギルドからも数名の護衛が同行する特別旅団。
だがそれでも、旧帝国領へと入る瞬間には、空気が変わるのがわかった。
「まるで、誰かに見張られてるみたい……」
「このあたりは、未だに“帝国の再興”を叫ぶ者がいる。用心しろ」
エンリオが警告した通り、廃都カエサルは静寂と荒廃に包まれていた。
――瓦礫の城、崩れた尖塔。
かつてルイとレオンが育ち、帝王学を学んだ帝国の中心地。
サシャは、荒れ果てた庭に咲く一本の花に目を止めた。
「……これは、“銀星草”?」
「覚えてる?」
「ええ。わたし、昔あなたに……この花をあげたの。泣いてたあなたに、慰めるように」
ルイの記憶に、ふと一枚の映像が差し込んだ。
幼いサシャが、微笑んで花を差し出す。
そして――
「大きくなったら、お姫様と結婚するって、言ったんだよ?」
少女の声。
それは紛れもなく、サシャのものだった。
「……覚えてる」
「ルイ……!」
サシャが目を潤ませて微笑む。
「やっぱり、あなたが“あの子”だったんだね」
「そうみたいだ。……やっと、思い出せた」
ふたりの間に、過去が帰ってきた瞬間だった。
* * *
だが、その安堵も束の間。
廃城の地下から響く足音。
現れたのは、黒い装束を纏った集団。
帝国残党の過激派、“紅の影(クリムゾン・シェイド)”。
「灰の皇子と、ヴァイズの姫が戻ったか。ならば、その血をもって、我らの誓いを成就させてもらおう」
「……俺たちは、お前たちに応じるつもりはない」
「ならば力で引きずり出すまで」
刃が抜かれ、地下の聖堂で戦いが始まる。
サシャはエンリオの護衛のもと、魔法を用いて戦場を照らし、ルイは剣を抜いて先頭に立った。
剣閃が闇を裂き、紅の布が舞い散る。
かつての“皇子”ではなく、“今”のルイが、ここにいた。
「……こんな形で過去が追いかけてくるとはな」
「それでも、わたしたちは進むしかない。もう後戻りはできないわ」
* * *
戦いののち、ふたりは帝国の“聖廟”へと辿り着いた。
そこには、失われた王家の記録と、幼きふたりの“記した手紙”が残されていた。
『ぼくは、サシャひめとけっこんする。』
『わたしも、るいとけっこんしたいです。ずっといっしょにいたいです。』
「……これ、わたしの字」
「こっちは……俺のだな」
ルイは微笑む。
「子供の約束って、無邪気で、真っすぐだな。……でも、今読んでも、嬉しいよ」
サシャは、小さく笑い、そして言った。
「わたし、今でも、変わらないよ」
ふたりの手が重なった。
今度こそ、誰にも引き裂かれないように。
* * *
帰路につく途中。
ルイはふと足を止めた。
「ここから先は、少しだけふたりきりになりたい」
エンリオが頷き、警護を下げる。
そして、森の小道。
光が差し込む場所で、ルイはサシャを見つめた。
「……サシャ。俺は、あなたを“姫”としてでなく、ひとりの人として、ずっと……」
言葉に詰まる。
けれどサシャは、その手を取って言った。
「いいよ。わたしも、“ルイ・イーストラット”じゃなくて、“ルイ・マグナー”のことが、好き」
唇が触れ合いそうになる――その瞬間。
「ルイ! 後ろ!」
飛び込む影。
それは、あの男――
「……レオン……!?」
「そう簡単に終わらせない。俺の物語は、まだ終わっていない!」
彼の眼は、もはや兄を見てはいなかった。
それは“奪う”者の眼だった。
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