祈りの花は、王城に咲く(完結)

もちもち

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番外 あなたに、触れたくて

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その夜、ナトリアは決めていた。

今までずっと、受け身だった。
恥ずかしがって、彼に甘えることすらできなかった。
でも今夜は――ほんの少しだけ、自分から彼に触れてみたいと思った。

「――アルフォンス様。今夜、お時間をいただけますか」

ふいにそう告げたとき、彼の目がわずかに驚きで揺れた。

「もちろん。何か……あったのか?」

「いえ。……ただ、少しだけ……お側にいたくて」

彼は静かに微笑んで、手を差し出してくれた。


夜の書斎。火を落としたランプが、琥珀色の光で空間を包む。

ソファに並んで座ったナトリアは、少しずつ距離を詰め、彼の肩に自ら頭を預けた。

「……今日は、ナトリアの方から、来てくれたんだな」

「……はい。……わたし……」

彼女は言葉を探すように、ゆっくりと彼の胸元に触れる。
くすぐったいような動きで、襟のあたりをそっと指先でなぞった。

「……触れてみたくて……どうしても、あなたに……」

その言葉に、アルフォンスの全身が微かにこわばる。

「ナトリア、君……」

ナトリアの目は、潤んでいた。
けれどその瞳には、震えながらも確かな意志が宿っている。

彼女はさらに近づき、そっと自ら唇を重ねた。

深くはない。けれど、それは明らかに“求めるキス”だった。

「……もう、我慢できないかもしれない」

アルフォンスの囁きは低く、いつもより掠れていた。

「……しても、いいんです」

その一言が、最後の鍵を外した。

彼は彼女を抱きしめ、そっと背を撫で、耳元へ唇を落とす。

「ナトリア……君がそう言うと、本当に……」

そのまま彼は、彼女の頬から首筋へ、布の上から背へと、優しく手を滑らせていく。

息が熱を帯び、体温が上がる。
ナトリアの指が、彼の服の前合わせにかかる。
外しはしない。けれど、震える指で布の皺をなぞるだけで、彼は堪えきれないほどの熱を覚える。

「……ナトリア……もう……」

そのときだった。

「…………っす……ぅ…………」

彼女の体が、ふわりと力を抜いた。

「……え?」

アルフォンスが驚いて見下ろすと、ナトリアは――

――すやすやと、完全に寝息を立てていた。

「……」

時が止まったような静寂。

目を閉じ、頬をほんのり染め、安心しきった表情で、アルフォンスの腕の中に収まっている。

「…………え?」

アルフォンス、二度見。

「……寝た……?」

彼女の額に手をあててみても、熱はない。ただ、完全に気を許しきった心地よい眠りの中だった。

「……さっきまで……あんなに……」

まさかの急転直下。

彼は天を仰ぎ、静かに目を閉じた。

「……可愛すぎて、怒る気にもなれない……っ」

腕の中のナトリアは、にこりと微笑んで寝返りを打った。
まるで「甘えてもいいですか?」の続きを夢の中でしているように。

アルフォンスは、そっと彼女の髪にキスを落とし、ため息をひとつ。

「――この続きは、夢の中か……それとも、次の夜か」

静かな夜が、ふたりを優しく包み込んでいた。
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